「024」登校と
「お、おい、あれ」
「西園寺さんが男と歩いてる……」
「相手の男は誰だ?」
「見たことないやつだな」
学校に着いた途端、めちゃくちゃ注目される。亜里沙と歩いてるだけなのに。
下級生から上級生まで男子は全て俺たちの一挙手一投足を凝視している。
正直居心地が悪い。つい体が小さくなってしまう。
だが、横の亜里沙は堂々としたもので周囲の視線もなんのそのだ。
「西園寺じゃん。はよー」
陽キャっぽい男子が声をかけてきた。無論、俺には一瞥もくれない。
「ああ、同じクラスの田中じゃん、おはよー」
「いや、田中じゃなくて斎藤だって」
名前覚えてもらえないのは早雲だけじゃなかったか。
「どったの?」
「あんさ。最近、プールできたじゃん。亜里沙ってそこ行きたいって言ってたよな? 半額チケット貰ったんだけど――」
「ごめーん。他の子と行く約束したから」
食い気味で断る。すると、明らかに斎藤が機嫌の悪くなった。
「あんさ。そいつ誰?」
憮然とした斎藤が俺を指さす。
「つか、一緒に来たよな? 付き合ってんの?」
斎藤の質問にますます視線が集まる。その場にいた全員が気になっていたようだ。
「それあんたに関係あんの?」
亜里沙の目が鋭くなる。斎藤は怖気づいたように一歩後ろに下がる。
亜里沙WIN。
「いや、関係ないけど」
「じゃあ、話終わりで」
敗北者はおずおずとその場から立ち去るのみだ。
ますます周囲の視線が俺に向かう。針のむしろすぎて居心地最悪なんだけど。公衆の面前で全裸になっていたほうがマシだ。
「あ、先輩、一年の教室向こうだから。またね」
そんな雰囲気をものともせず、最後にウィンクを残し、亜里沙は去っていった。
後には俺と殺気立った男子のみ。
いやいや、せめてこの雰囲気をなんとかしていって。
こっそり逃げようとしたが、
「悠! てめー!」
いつの間にか背後に回った早雲が羽交い絞めしてきた。
「い、いつのまにか亜里沙ちゃんまで毒牙にかけやがって!」
「そ、早雲!?」
「いつからだ!? いつから俺をあざ笑っていた!?」
「落ち着けって!」
「くそ! お前だけは真の友だと思ってたのに」
うそつけ。
「こうなったら心中してやる! でも、俺は生きたい! だから、お前を殺して俺は生きる!」
「めちゃくちゃすぎる! それはただの殺人だ!」
「それでもいい!」
やばい! 早雲のやつ、目が本気だ!
「だから聞けって。あり――西園寺とはたまたま会っただけだって! それ以上でもそれ以下でもない!」
俺が強く言うと、
「ま、そうだよな。信じてたぜ。友よ」
白々しいセリフだ。ちょっとむかついてきた。本当は一緒に暮らしてますとでも言おうかな。……そんなこといったら逆恨みで刺されるかもしれないから言わないけどさ。
でも、亜里沙が学校中の男子に注目されているなんて思わなかった。
こんなに注目度が高いと偶然会ったなんて方法は何度も使うと怪しまれる。
次から朝の登校は少し時間帯をずらすか。
「ゆう、早雲くん、おはよう」
真央が声をかけてきて俺たちの横に並ぶ。
「おはよう、真央ちゃん」
「げ、真央」
さっきの光景を見てたかな?
「そんなに驚いてどうしたの? ふふ、変なゆう」
くすりと笑う真央。よかった。どうやらさっきの光景は見てなかったようだ。
「真央ちゃん! 聞いてくれよ! さっきこいつさ――むぐ!?」
慌てて俺は早雲の口を手で塞ぐ。
早雲め、亜里沙のことを言えばどうなるかわかってるはずだろが!
「い、いや、別に」
なんでもないと言おうとしたが、
「――もしかして、さっきの子と何か関係あったりして」
目が怖い。思いっきり見られてるよおい。
「ゆう、あの子とどんな関係なの?」
「そりゃもちろん、ただの他人だって。悠に興味を持つやつなんか宗教関係か犯罪関係か陰謀論者くらいだって」
「お前に俺の何がわかるの?」
マジでお前なんか友達以下だかんな?
「ゆうはゆうでいいところ一杯ある」
さすがは幼馴染だ。しっかりとフォローしてくれる。
「悠よりもむしろ俺のほうがモテる可能性があるでしょ。趣味だって読書だし」
「いや、それ漫画好きなだけだろ。むしろ趣味が読書って無難すぎてつまらないだろ。もっと上品な趣味のほうがモテるだろ」
「それもそうか。んじゃ、趣味は断食で」
「上品ってよりも徳が高い!」
そんな仏陀みたいな高校生はいないだろ。
「とにかく、俺のほうがモテるはずだ。どう? 真央ちゃん? この際、俺に乗り換えるってことで――」
「早雲くん」
う、なんか寒気が来た。この冷たい気は……真央からだ!
すげぇ気だ。肌にぴりぴりくっぞ!
「は、はい」
さすがの早雲も激しい波動に気づいたらしく、敬語になってしまった。
「うるさい」
たった一言。それだけで早雲はひぃっと声を上げた。
「……じゃ、じゃあ、先に行くからな! またな親友!」
逃げるように早雲が立ち去る。……仮にも親友を置いてくなよ。
「で、ゆう」
氷の刃と化した眼光がこちらに向けられる。
「は、はい」
くしくも早雲と似たような反応をしてしまった。
「さっきの子とはどういう関係?」
「た、ただの知り合いだって」
許嫁ですなんて言ったら絶対騒がしくなる。
「……ほんとに?」
真央は信じられないというように半眼で見つめてくる。
「ほ、ほんとだって」
「私は姉としてゆうを管理する必要があるの。具体的にはおはようからおやすみまで」
それなんてディストピア?
「……ゆうはああいうギャルっぽい子が好きなの?」
「い、いや、好きっていうか。ま、まぁ、嫌いではない、よ」
おっぱいおっきいし。
俺の反応が真央は不満のようでますます無表情になった。
やばい。マジで不機嫌だな。
真央は機嫌が悪くなればなるほど表情が消える。今回はかなり怒っているようで冷たい空気すら感じる。
うぅ、ちょっと居心地が悪い。
「……ゆう」
意を決したように真央が俺に向き直る。
「……ま、マジやばいし~」
「は?」
意味がわからず聞き返すと真央がかぁーと顔を赤くした。
「……な、なんでもない」
「もしかして、あの子の真似?」
「……」
真央は無言でそっぽを向いた。
どうやら当たりみたいだ。
「あのさ。真央は一つ勘違いしてる」
「……何が?」
「俺は別にギャルっぽい子が好みってわけじゃないって」
「……じゃあ、たとえば」
決意を感じさせるような口調で真央は向き合った。
「……私みたいな子も好き?」
「それって」
「ゆう、これ……」
突然、真央が俺に弁当を押し付けてくる。
「どうせまたパンだと思ったから作ったの」
「あ、ありがとう、それより――」
「……またあとでね」
真央が歩く速度を上げた。
「お、おい、真央」
「……先に行くから」
それだけ言うとさっさと先に行ってしまった。
「おはよー、真央」
「……おはよう」
「って、めっちゃ顔赤いじゃん! 風邪!?」
「いつも通り」
「いやいや、顔赤いじゃん! それいつも通りだったら病気だって! あと手と足が一緒に動いてるじゃん!」
「気のせい」
クラスメイトの女子と会話しながら真央が離れていく。
さっきの言葉は……・
い、いやいや、深い意味なんてないだろ。多分。
――真央視点――
「先に行ってて。ちょっとお手洗い行ってくる」
「うん、いいけど。ちゃんと保健室にも行ってよ」
「……わかってる」
クラスメイトから離れると私は赤くなった頬を両手で押さえる。
「……ゆう」
ゆうが他の女子と一緒にいた姿を見たとき、心がばくばくした。
私は姉なのに。
心が抑えられない。
――視点終了――
――ラ・イン内――
『先輩。さっきはマジで注目されてましたね』
『亜里沙は目立つからな』
『それほどでも~あるかも』
『そういや先輩、シオンちゃんの曲聞いているんですね』
『ああ、大ファンだからな』
『実は……あたしも好きだったりしまーす。声めっちゃかわいーですよね』
『でも、弱いところもあるんだよ。シオンちゃんは頑張り屋さんだけど頑張りすぎて一人で泣くタイプだから支えてやんないとさ』
『彼氏面……(笑)』
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