「022」過去と
「おねーちゃんたち、こいびと?」
俺たちを見て幼女が首を傾げる。今までの会話を聞けば初対面だってわかるだろ。……いや、子供にはちょっと無理かな。
「ち、ちが――」
「そうかもね」
俺が言う前にギャルが楽しそうに肯定する。
「ふわぁ、すごいねー」
やめて、ヒーローみたいな目で見ないで。けがれた気分になるから。
居心地を悪そうにしていると、
「みあちゃん!」
道の向こうから母親らしき女性が走ってきた。
「ママ!」
みあちゃんが駆け出す。って、おいおい。
「急に走ると転ぶぞ!」
「あ」
みあちゃんが足を踏み外して前のめりに倒れそうになる。
言わんこっちゃない!
俺は慌ててみあちゃんの体をキャッチした。
「大丈夫かい?」
最大級のイケメン風スマイル。
「ありがとー」
だが、幼女には効果が薄かった。ま、いいけどさ。ロリコンじゃないからな。
「す、すみません! あ、ありがとうございます!」
土下座でもするんじゃないかって勢いで母親が謝る。
「本当になんとお礼を言っていいか」
「ははは、気にしないでください」
正直、見知らぬ他人から感謝され慣れてないからこういう雰囲気は苦手だ。真央ならはいはいですませるんだけどな。
しきりにお礼を言ってくる母親をなんとか宥める。
…………。
……。
「ばいばーい!」
帰路に立つ母親とみあちゃんを俺とギャルは並んで見送る。
「ばいばい」
眉間に皺をよせていたギャルもみあちゃんの笑顔でいつの間にか険が取れている。
笑った顔もかわいい。だが、どこか寂しそうだ。
見ているのはみあちゃん……ではなく、母親みたいだ。
「さっきのもちょっときゅんしちゃった」
ぱっと切り替えるようにギャルが俺のほうに向きなおった。
「なんでそんなに偉そうなんだよ」
「だって、あんた同じ高校一年でしょ?」
「いや、ピッカピカの高校二年だよ」
え、このギャル俺より年下!? この胸で!? おっぱいは超高校生レベルすぎないか?
「え? 年上なの? マジで?」
「……むしろなんで同学年だって思ったんだよ」
俺自身に年下要素なんてないと思っていた。……実は俺はショタだった?
「えー、年上なのに女の子に対して免疫なさすぎでしょ。触られただけで顔赤くなるなんて小学生ですか?」
全く持ってその通りだよ!
「し、仕方ないだろ。女子と接する機会なんてあんまりないんだから」
真央は家族みたいなもんだからノーカンだ。
「だったら、今度あたしと練習してみませんか?」
そっとギャルが耳元で囁く。
「は、はぁ!?」
予想外の誘惑に声が跳ね上がった。出会ったばかりなのにこの積極性はなんなの?
これがギャルの性能というやつか。
「冗談です」
……ちょっと本気にしちゃったよ。
「ちょっとだけですけど」
それってほぼ本気じゃないか?
え、マジで? いきなりなんでこんなに懐いてくるんだ?
「ね、先輩の名前はなんていうんですか?」
「伊藤園悠だけど」
「うーん、悠先輩かー。なんかしっくりこないし。んじゃ、先輩ってことで」
あっけらかんと言い放ち、軽やかに離れていくギャル。美しい金髪が日の光に映えて宙に舞っていた。
「じゃあね。先輩。ちょっと楽しかったですよ」
「ちょっと待った」
俺が呼び止めると、ギャルは足を止めた。
「俺だけ名前言うのは不公平だろ? そっちの名前は?」
「あー、そっか。自己紹介とか久しぶりだしつい忘れてた。……あたしの名前は亜里沙です。一年の教室で待ってますから必ず来てくださいね」
いたずら猫のような甘えた笑みを残して亜里沙は去っていく。でも、俺にはそんな笑みよりもみあちゃんの母親を寂しそうに見つめる眼差しのほうが心に残った。
そのときはわからなかった。でも、今はわかる。亜里沙は家族を求めている。……だから、料理が失敗したとき思った以上に悔しかった。誰かが作ってくれた手作り料理の感動を亜里沙にも味合わせたかったからだ。
俺と同じように――。
それなら、俺は――。
俺がやるべきことは――。
「面白い!」
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