「017」風呂でビデオ通話と
真央からの電話は久しぶりだ。なにせ家に帰って部屋の窓を開ければ真央がいるからな。
話したいときはいつでも話せた。
今はもう違うのか。……なんかちょっと寂しいな。
「もしもし」
「もしもし、ゆう」
電話の向こうから真央の声が聞こえてくる。なぜか知らないけど若干籠った声だな。
お互い電話は慣れていないためどこかよそよそしい。だが、それが新鮮に感じた。沈んだ心を慰めてくれる。
「こんな時間にどうかした?」
「ゆう、今日家にいないみたいだから心配になって」
「……ちょっと友達のところに泊まっててさ」
亜里沙の家に泊まってるなんて言えない。
「友達? ……まさか女子じゃないよね? お姉ちゃんに黙って不純異性交遊は駄目よ」
電話越しからツンドラに吹く風のような冷気が漂ってきた。
「そ、そんなわけないだろ。早雲のところだよ」
「そう、ならいいけど」
俺の言うことは素直にとらえる真央は真に受けてしまった。……心が痛い。今日はよくメンタルにダメージが来る日だな。精神よりは体に傷を負うほうがマシだ。ライフで受ける!
「ちゃんとご飯食べた?」
田舎のお母さんみたいな言い方だ。
そういえば、もう七時を過ぎている。
「あ、ああ、まぁな」
大失敗したけど。料理なんて俺でも出来ると思ってた。根拠のない自信。それが呆気なく打ち砕かれてしまった。
「何か落ちこんでない?」
心配そうな真央の声。
「いや、そ、そんなことないって」
「嘘」
なんでわかったんだ。エスパーかよ。
「い、いや、それは」
「ゆう、詳しく言いなさい」
有無を言わせない口調。ぐぅ、こうなった真央はちょっとやそっとじゃ機嫌が治らない。
「あ、あー! 悪い真央! なんか声が遠くてさぁ!」
ここは聞こえないふりをして誤魔化そう。
「ほんとに? 携帯の調子が悪いのかも。待ってて。スピーカーモードにしてみる」
「あ、ああ」
「あれ? これどうするんだろ。ゆう、やり方わかる?」
「悪い、俺アンドロイドだから」
「ゆうは人間でしょ?」
「そういう意味じゃない!」
スマホのOSもわかんないのか。
「あ、これかな。……でも、湯気でちょっと見えづらい。ゆうを待たせるわけにはいかないのに。……ここ?」
ぶつりと会話が途切れる。どうやら間違って切ってしまったようだ。
しばらく待っていると、ブブブとスマホが震えだす。
相変わらず機械に弱いな。ラ・インもスタンプの使い方わからないみたいだし。
通話ボタンを押す。すると、画面には、
「もしもし。ゆう。ごめん。間違えたみたい」
裸の真央が映っていた。
「!?」
え、あ!? おいおい、間違えてビデオ通話モードになってるよ!
白色の湯気とお湯で肝心なところは見えない。しかし、かろうじて見える浴槽といい、何をどう見ても風呂場だった。
そうか、籠った声は風呂場だったからか。謎が解けた! 今更過ぎるけど。
「ゆう、これで聞こえる?」
真央が何か言っているが頭に入ってこない。
お湯を弾く、大きめの胸。
きゅっと引き締まった腰のくびれと浮き出た鎖骨。
そして、卵のようにつるつるしたお腹。
「ゆう?」
真央は返事がない俺を不審に思ったのだろう。画面に近づいてくる。
あ、まずい。
そうう思ったときには遅かった。
「…………これビデオ通話になってない?」
「なってるな」
「見た?」
「見た」
俺が言うと、
「~~~~~っ!」
真央が風呂の中にぶくぶくと沈んでいった。
さすがにちょっと気の毒だ。
やがて、ビデオ通話が切られて普通の電話にかかってくる。
それを取ると、
「……お、弟に見られるのなんてお姉ちゃんなら当たり前だから」
気にしていないというような真央の声。いや、めっちゃ声震えてるじゃん。
さすがにすまなかったとしか言いようがない。でも、もとはといえば真央の不注意だよな?
気づいたけど言わなかった俺にも責任はあるが。
「面白い!」
「続きが気になる!」
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