「015」過去と耳フーと
――過去――
「父さん、母さんと離婚するってマジなのか!?」
「ああ、そうだ」
「母さんを止めないのか!」
「……お前には関係ないことだ」
「関係あるだろ! 家族なんだから!」
そう叫んでも、親父はただ無機質な目を向けただけだった。
――現在――
「あいつは家族を見捨てたんだ」
憎しみで頭がどうにかなりそうだ。でも、亜里沙の手前、怒りにかられた醜い姿を見られたくない。つまらない男の意地だけど。
「わかるよ」
万感の思いが込められた一言。たったそれだけなのにわかってくれたという共感で胸が一杯になった。
てっきりからかわれるかと思ったのに。亜里沙は受け止めてくれた。
年下なのに大した包容力だ。小悪魔的な側面だけじゃなくて誰かを支える強さもある。正直見直した。
「あたしも昔は親を振り向かせようと思ったこともあったしさ」
「そっか」
「うん」
それきり言葉はない。でも、思いは確実に通じ合ってる。
「……だから、俺は父さん抜きでもう一度家族を始めたい」
だからだろうか。つい真央にしか言ってないこともさらけ出してしまった。
「そのために俺はバイトしてるんだ」
俺はもう親父に何も期待してない。
「いつか自立するんだ。そうしたら、母さんと妹を呼んでみんなで暮らす。それが俺の目的なんだ」
元はと言えば父さんが『勝手に』家族をバラバラにした。今度は俺が母さんと妹を『勝手に』集めるんだ。
父さんが勝手にやるなら俺も勝手にする。
「……マジすごいじゃん。先輩」
目をキラキラさせて真央が顔を近づけてくる。
「じゃあ、お金溜まったらアパート借りたりするんですか?」
「……理想は一軒家を買うことかな」
「やばい! ちょーやべー」
やばいやばい連呼されてちょっと気恥ずかしくなる。
ちょっと見栄を張りすぎた。一軒家を買う金なんてバイトで貯まるはずない。今は家を出る資金にして社会人になったら一軒家を買うつもりだ。
「でも、先輩、今は家ないんですよね?」
今までは父さんの家に住んでたから家賃がかからなかった。でも、ここから出てアパートを借りる金なんてない。
「……そうだな」
「だったら、許嫁やっといたほうがいいんじゃないですか? 他人だと問題ですけど許嫁だと一緒の家に住んでても問題ないじゃないですか」
「いやいや問題あるだろ。許嫁っていっても親が勝手に決めたもんだし。そ、それに年頃の男女が一緒の住むなんて」
しかも、あの市長の娘だぞ!
美人グラビアモデル、実家は金持ち。
そんな子が俺の許嫁で同居って……。夢でもありえない。
むしろなんかの罠? って思うだろ。
「じゃあ、先輩、今日からどうやって暮らすんですか?」
「漫画喫茶にでも泊るよ」
亜里沙はつまらなそうに『ぶーぶー』と言い始めた。
「体壊しちゃいますよー! 考え直してくださいよー。今ならこーんな可愛い女の子と一緒に暮らせるんですよ」
「近寄ってくるな」
「いいでしょ? 先輩」
「耳をふーってするな!」
「ね? 先輩」
「胸に手を這わせるな!」
蠱惑的な亜里沙を俺ははねのけることができない。
だって、そうじゃん! しな垂れながら胸に『の』の字を書いてくるんだぞ! 男の理想そのものじゃん!
「面白い!」
「続きが気になる!」
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