「001」序章
春の日差しが降り注ぐ校庭。
ここ最近、俺たちはベンチに座って昼飯を食べていた。
「先輩。はい、あーんしてください」
右隣に座っていた亜里沙がから揚げを口元に差し出した。
「い、いや、一人で食べれるから」
「えー、あたしたち許嫁なんですからいいじゃないですか。それともあたしのから揚げが食べられないんですか? 悲しいですよぉ。えーん」
わざとらしく泣くな。ちょっと心が痛くなってくる。
「わ、わかったよ」
っていうか、その弁当俺が作ったんだけどな。
仕方なく口を開けた。
「はい、あ~ん。――なんちゃって」
口に放り込まれる瞬間、亜里沙が自分でから揚げを食べてしまった。
「……おい」
「先輩ってば、あま~いシチュエーションを期待してたんですね。かわいい~」
にやにやと笑いながら亜里沙が頬をつつく。ギャルだからボディタッチにためらいがない。
ちょっとドキドキする。
「ごめんね。先輩」
謝罪が雑! でも、可愛いから許す!
そのとき、俺と亜里沙の間にたこさんウィンナーが割り込んできた。
「な、なんだ!?」
「ゆう、こっちも。から揚げばっかりじゃ栄養が偏るでしょ」
左隣にいた真央が僅かに頬を赤く染めて迫ってきた。冷静そうな外見とは裏腹に面倒見は非常にいいんだよな。
「食べなさい」
ずいっと顔を近づけてくる真央。端正な顔立ちにドキドキが止まらない。
「い、いや、でも」
「大丈夫。私は亜里沙みたいなことはしないから」
「だけど」
「姉の言うことが聞けないの?」
「いや、姉じゃないだろ」
ちょっと誕生日が早いだけで俺と同年代の幼馴染だ。
「ゆうは育ち盛りだからもっと食べなさい」
ウィンナーを口に押し付けてくる真央。いやいやまだ食べてる途中だって!
「もがもが!」
「美味しい?」
「もがもがもが!」
「ちゃんと食べてから喋りなさい」
真央がウィンナーを押し付けてくるからだろうが!
「もが!!!!」
し、しまった! 慌てて飲み込んだから喉につまった!
「もー、先輩が苦しんでるじゃないですか。はい、先輩。水です」
亜里沙がペットボトルを俺に手渡してくれた。
た、助かったぁ。
「ごくごくごく」
「先輩。間接キス、ですね」
亜里沙はニヤニヤと小悪魔っぽく笑った。
「ぶーーーーー!」
思わず水を吹き出してしまった。
「先輩! マジ汚いし!」
「亜里沙が変なこと言うからだろが!」
「えー、あんなのでビックリするなんて先輩ってばマジ童貞だし」
ぐ、図星なだけに言い返せない。
けたけたと笑う亜里沙に俺が憮然としていると――。
「ゆう」
真央がいきなり体を密着させてきた。
「口元が汚れてる」
そう言って、真央が俺の顔にハンカチを当てる。
「い、いや、いいって」
いくら幼馴染とはいえ恥ずかしい。
「もー、制服にも水がかかってるじゃない」
真央は薄っすら顔を赤らめて俺の服を脱がそうとする。
「こ、こんなのすぐ乾くって!」
「風邪を引けば大変だから。ほら、早く脱ぎなさい」
相変わらずの過保護ぶりだ。
どうしてこうなったのか。なぜ幼馴染と後輩に迫られているのか。
数日前の出来事がきっかけだった。
「面白い!」
「続きが気になる!」
という方は、ブックマーク・評価していただけると幸いです。
評価は広告下にある☆☆☆☆☆からよろしくお願いします。