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Psychic Pavilion R.P.G.  作者: 金島 宗治
1/6

序章:さだめ

<序章:さだめ>


「こっ! こらっ! 剣士! おめえも闘え!」

 ぼひゅぼひゅぼひゅ!

 庄左衛門は攻撃用の火弾放出の魔法を使って、襲いかかって来るブタ型モンスターたちを追い払っていた。剣士と呼ばれた少年は、細身で銀色の剣身を持つソードを構えてはいたが、敵に斬りかかる様子はなかった。

「大丈夫です、庄左衛門さん! あなたならきっとできますよ」

「な、何言ってやんだ! いいからその剣を使えってんだっ『火の弾飛んでけ』っ!」ぼひゅぼひゅぼひゅ!

 庄左衛門は分不相応に動き回るのと、自分の出す火の弾の熱で汗だくになっている。「だいたい、なんなんだ、いきなり現れやがって、こいつらっ!」

「モンスターでしょ?」

 ひょいっ、と剣士は身を翻して敵の攻撃を避けた。

「モンスターだと? ブタじゃねえのか?」

 庄左衛門も相手の攻撃をかわした。

「確かにブタにしちゃ二本足で立ってやがる。おまけに、」ぼひゅぼひゅぼひゅ! 「斧みてえなもん持ってやがる! 危ねえなっ! おっと!」

「殺しちゃだめですよ!」

「ばっ! ばかやろっ! こっちが殺されちまうかも知れねえんだぞ!」

「話し合えばきっとわかってくれるはずです!」

「あ、あほかっ!」庄左衛門は少年を説得するのをやめにした。そうして息を大きく吸い込むと別の魔法の呪文を叫んだ。「『突風』っ!」

 ごおおおっ!

 うぎゃー!

 モンスターたちは悲鳴とともに彼方の山まで飛んで行った。

 うぎゃー、うぎゃー、うぎゃー……。

 悲鳴がこだまとしてしばらく残った。

「やったじゃないですか! 庄左衛門さん! さすが世界一の魔術師」

 はあはあはあ……。息を切らしながら庄左衛門はサングラスの奥から剣士を睨みつけた。

「おい、剣士」

「なんですか?」剣士は涼しい顔で応えた。

「な、なんで俺ばかりがこんな苦労をしなきゃいけねえんだ?」

「は?」

「『は?』じゃねえ! おめえ『剣士』っていう名前持ってて、そんな斬れ味のよさそうな剣まで持っていながら、なんでその、モンスターと闘わねえんだ!」

「僕は殺生が嫌いなんです」

「ばっ!……」庄左衛門は言葉を失い、拳を震わせた。頭から少し湯気が立ち昇っている。

「きっと、この世界にこんな凶暴なモンスターがいる理由があるはずなんです。その謎を突き止めれば無益な殺生もしなくて済む。ね? そう思いませんか? 庄左衛門さん」

「無益な殺生だと? おめえは一匹も殺しちゃいねえだろ?」

「それより、なぜ僕たちはこんな世界にいるんでしょう……」剣士は目を閉じ、腕をこまぬいた。

 庄左衛門はぶっきらぼうに答えた。

「知らねえよ」

 すぐに剣士は目を上げ、右手の拳で左の手のひらを叩いた。

「そうだ! 庄左衛門さん、僕たちの旅の目的をそれにしましょう。庄左衛門さん、モンスターの謎を解くと同時に僕らがどうしてこんな世界にいるのかを突き止めること。ね? 庄左衛門さん。そうしましょう庄左衛門さん」

「その名を不必要に何度も呼ぶな」

「だってあなたの名前でしょ?『筑前屋庄左衛門(ちくぜんやしょうざえもん)』って」

「大っ嫌いなんだよ。その名前」

「どうして? 素敵な名前じゃないですか。『筑前屋庄左衛門』なんて」

「取り替えてやろうか? おめえの『馬飼野剣士(まかいのけんし)』ってのと」

「僕はこの名前、これはこれで気に入ってるんです。僕が言ってるのはあなたには『筑前屋庄左衛門』っていう名前がぴったりだ、ってこと、」

「もういい! 黙れ」

 剣士は黙らなかった。「とにかく誰かに聞いて、ここがどこなのかを確認しましょう。ね、庄左衛門さん」

 無神経なのか、にぶいのか、それとも嫌がらせなのかは庄左衛門には皆目わからなかった。


 二人が今立っているのは広い草原である。空はよく晴れている。少し風がある。あと数時間もすれば沈んでしまう太陽の位置から方位を読みとると、今彼らが立っている場所からみて北の方角から西の方にかけて長い山脈がだらだらと連なっている。目立って高い峰が一つだけ丁度北の方角にある。その山頂付近には万年雪が残っているのが見える。東の果ては緑の地平線だ。おそらくこんな草原がずっと続いているのだろう。南にはすぐ近くに緑豊かな森がこんもりと繁り、その先の視界を遮っていた。

「ややっ!」

「どうした? 剣士」

「道しるべがありますよ。庄左衛門さん」

「なに? 道しるべ?」

 剣士は南の森に向かって駆け出した。

「お、おい、待てよ」庄左衛門も重そうな皮袋を肩に担ぐと、剣士の後を追った。

 その朽ちかけて傾いた木の立て札は、森の中に伸びる一本道の傍らにあった。

「庄左衛門さん、大丈夫ですか?」

「そ、それが相棒をほったらかして全速力で走ってきてから言う台詞かよ」

「走るの苦手なんですか?」

「好きじゃないね。それにしてもおめえ、息切れてねえな」

「はい。まだ若いですから」

「どうせ俺は三十過ぎのおっさんですよ」

「その歳でひねてもかわいくないですよ」

「かわいいなんて言われたかないね」ふんっ。庄左衛門はすねた。そして続けた。「これから緊急の時以外は俺を走らせんな。わかったな。剣士」

「なになに?」剣士はその道標に目を近づけた。

「こら、シカトすんじゃねえ! わかったのかよ!」

「庄左衛門さん! この森を抜けた所に村があるって書いてありますよ!」

「こいつ、全然人の話を聞いてねえ……」

「森を抜けるとすぐですって」

「ほー。そうかいそうかい。早いとこその村にたどり着いてメシでもかっくらって休みてえもんだな」

 剣士はにこやかな表情で威勢良く言った。「行きましょう、庄左衛門さん」

「へえへえ……」

 二人は森に踏み込んだ。


「ふむ、なかなかの勇者たちじゃ」

 白い口髭を生やした怪しげな老人が木の陰から二人を見て呟いた。その老人はいつからそこにいたのか、剣士たちのこれからの行動をまるで予見しているかのように、不吉な笑いを浮かべてまた呟いた。「じゃが、果たしてエンディングが拝めるかのう……」


 突然、二人の頭上に巨大なコウモリが数匹舞い降りてきた。

「うわわっ!」剣士は反射的に身を屈めた。

「こ、こいつは、で、でかい!」庄左衛門も剣士の横にうずくまった。「おい、剣士、その剣の出番だ。早いとこやっつけちまえよ!」

「わ、わかりましたっ!」剣士は剣を持ってすっくと立ち上がった。

「よ、よしっ! いけいけーっ!」庄左衛門はうずくまったまま拳を振り上げた。

 剣士は剣を構えて、ばたばたと襲いかかってくるコウモリたちをきっと見据えた。

「僕らは怪しいものではありません!」

「な、何言ってやんだ!」庄左衛門は呆れて大声を出した。なんと剣士はコウモリに向かって真面目な顔で叫んでいる。

「あなたたちは何者ですか? ただのコウモリではありませんね。普通のコウモリなら人を襲ったりはしないはず」

「あほか、おめえ!」庄左衛門は立ち上がった。「コウモリ相手に何やってんだ! そんなことやってる場合じゃ、」

「黙って!」剣士は庄左衛門の悪態を制止した。「僕たちはこの森の先にある村に行きたいのです。邪魔しないでください」

 キイキイ!

 コウモリはただ耳障りな声を上げるだけである。

「どうしても邪魔すると言うのなら!」

「よしっ! ついに怒ったか、剣士、やれやれっ!」

「逃げましょう! 庄左衛門さんっ!」

「逃げるんかいっ!」

 剣士は、庄左衛門の腕を強引にひっつかんで走り出した。

「お、おい! 剣士」庄左衛門は足をもつらせながら、それでも剣士と一緒に走り続けた。好運なことにコウモリは追ってこなかった。

「はあはあ……」庄左衛門は膝に手を突き、肩で大きく息をしている。

「庄左衛門さん、大丈夫ですか?」

「そ、それが相棒を無理やり引きずって全速力で走ってきてから言う台詞かよ」

「走るの苦手なんですか?」

「怒るぞ!」

「ややっ!」

「どうしたんだ?」

「森を抜けたようですね」

「それくらい見りゃわかるわい!」

「ということは、村があるってこと……」

「目の前に民家があるじゃねえかっ!」

「さっそく村の人にコンタクトをとりましょう」

 二人は目の前の民家の扉を叩いた。中から若い娘が顔を出した。

「どちらさま?」

「僕たち旅の者です。ここはどこですか?」

「まあ、旅のお方。それはさぞお疲れのことでしょう」

「確かに疲れた」庄左衛門が剣士の背後でぶつぶつ言った。

「それで、どちらへ行かれるのですか?」

「いえ、あの、ここはどこですか?」

「ああ、失礼しました。ここは村です」

 ずるっ!

 庄左衛門が堪りかねて剣士を押し退け、ずいと前に出た。「だから、なんていう名前の村で、近くに何があって、何でモンスターなんかがこの辺には多いのか、なんてことが知りてえんだよ、お嬢さん」

「ここはプリマの村と言いますわ」

「それで?」

「詳しくは長老にお聞きください。それではごきげんよう」

 ばたん。扉は一方的に閉められた。

「こ、こらっ! その長老ってのは、いったいどこに、」どんどんどん! 庄左衛門が激しく扉をノックした。

 ばんっ!

 再び勢いよく開いた扉に、庄左衛門はしこたま鼻をぶつけてしまった。「いててて……」

「長老という表札がかかっておりますわ」

「あ、ありがとう」剣士は微笑みを返した。

「庄左衛門さん、だめですよ、人と接する時はもっとソフトに……」

「ほっとけ! これが俺の流儀なんだよ」庄左衛門は赤くなった鼻をさすった。


 二人は村の中を歩いた。井戸があったり倉庫があったり、畑があったり、牛がいたりと、さして特別に目を引くものの少ない村だった。

「にしても、みんな同じような家だなー」

「そうですね」

「しかも、出歩いている村人、みんな若い娘じゃねえか」

「確かに……。男の人、見あたりませんねえ」

「妙な村だな……」

 いくらも歩かずに、二人は長老の家を突き止めた。

「お、ここだぜ」

「特別大きな家というわけでもないんですね」

「にしても、なんだかずいぶんかわいらしい表札だな」

「確かに、なかなかラブリーですね」

「というより悪趣味だな」

 唐草模様にアレンジされた金属製のモニュメントに楕円形の陶器製のプレートが下がっていて、それにピンクの字体で『長老』と書いてある。

「意外と長老ってのも若い娘だったりしてな」

「いやらしい」

「ど、どこがいやらしいんだ!」

「顔つき」

「あんだと?!」

「庄左衛門さん、うれしそうですよ」

「ひ、人をエロおやじみたいに言うんじゃねえっ!」

「とにかく入りましょうよ」

 剣士は扉をノックした。

 コンコン。「誰じゃ?」

 思いがけなく素早い対応である。

「あ、あの……」あまりに扉が開くのが早かったので、剣士は言葉に詰まった。

「遠慮せずに入りなさい」その白い髭の老人は二人を中に招き入れた。「おぬしらが来るのはわかっておった」そう言いながらカップに茶を注いだ。ペパーミントの香りがした。テーブルに勧められた二人は、素直に椅子に腰掛けた。

「あ、あの、どうして僕たちがここに来ることが……」

「おぬしら、自分たちの旅の目的が何であるか、まだ知らんじゃろう?」

「え?」

「どこから来たのじゃ? 何を持って歩いとるのじゃ? なぜ二人で旅をしとる?」

「そ、そう言われれば……」

 実際思い出せないのだった。剣士も庄左衛門も旅の目的どころか、自分がどこで生まれたのか、どうしてお互いが一緒に行動することになったのか、さらに今持っている荷物が何であるかさえわからないのだった。

「お、思い出せない……」

「わしは導きの主じゃ。よく聞くがよい」

「導きの主だ?」庄左衛門があからさまに怪訝な顔をした。

「そうじゃ。よいか、おぬしらは自分の素性やお互いの関係を詮索する必要はない。ただ旅を続ければよい。そうすれば必ずその目的や過去なども明らかになる」

「し、しかし、じいさん、ただ旅を続けろったってな、」

「進路は自分たちで定めるのじゃ。この世界がどういう所であれ、おぬしたちが実際ここに生きておるのに違いはない。信念を貫き通せば、必ず光が見えるじゃろう」

「抽象的すぎるぜ。じいさんよ。それじゃ導きにも何にもなりゃしねえ。第一、この世界にゃモンスターもうようよいるんだろ? 命を落とすかも知れねえじゃねえか」

「そうなったらそうなったまでじゃ。それでおぬしらのこの世界は終わる」

「何だよその回りくどい言い方。要するに死ぬってことなんだろ?」

「心配せんでもよい。死ねば真実の世界に行くことができるのじゃからな」

「なんじゃそりゃ。じいさん、何かの新興宗教やってんのか?」

「死後の世界を知っているのですか?」剣士が身を乗り出した。

「それも詮索せん方がよい。死を覚悟するのは危険じゃ。じゃが、真実の世界を早く見たいのであればさっさと命を捨てればよい」老人は白い口髭をいじりながら独り言のように呟いた。「わしとしてはできるだけ生き長らえてほしいと思っておるがの。なにしろ、あの森がおぬしらをここまで導いたのじゃからな」

「よくわからんな。それはそうとじいさん、この村にゃ若い娘しかいねえのか?」

「ぎくり!」

「なんだよ、そのあからさまな驚きようは」

「そ、それも詮索せん方がよい」

 長老は明らかに少し動揺していた。

「なんだか怪しいな」

「今日は疲れたじゃろう、丁度向かいの家が宿屋じゃ。ゆっくり休むがよい」

「何が丁度だ。いよいよ怪しいぜ。俺たちを追い出しにかかりやがった」

「ま、いいじゃないですか。人には知られたくないこともたくさんあるでしょうし」剣士は楽観的である。

 二人が家を出る時、長老はまた不可解なことを言った。「言い忘れておったが、おぬしらはもう一人、大切な者を得ることになるじゃろう。旅は三人で続けるのじゃ。よいな」そしてそそくさとその自称導きの主は扉を閉めた。

 扉を背にして、彼は独り言を呟いた。「今の二人で最後か。今日は客が多いのう。疲れた疲れた」

 そしてやれやれと腰を伸ばし部屋の奥に消えた。


 庄左衛門と剣士は、長老の家の前に立って宿屋を捜した。

「もう一人仲間が加わるって、おっしゃってましたねえ」

「三人パーティになるってか? そりゃありがてえな。剣士とずっと一緒だと色気も何もありゃしねえ」

「いやらしい」

「言ってろ」

「若い女の子だといいな、って思ってるでしょ」

「当り前だ。少なくとも今のようなじいさんや魔女みてえなばあさんは願い下げだぜ」

 長老の言った宿屋はすぐに見つかった。本当に長老の家のまん前だった。樫のドアを開けた二人は、粗末だが居心地の良さそうなその佇まいに思わずため息をついた。そしてそこの女将も若かった。右の目元に小さなホクロがある。

「いらっしゃいませ。お疲れでしょう、どうぞこちらへ」

 女将は愛想もよく親切で、二人はすぐに快適な夕食を手に入れることができた。

「ここにゃいるな。男がいっぱい」庄左衛門が少し残念そうに言った。「しっかし、なんでこんなに旅人が……」

「この村、旅行センターみたいなものじゃないですか?」

「あほ」

 特に必要も感じなかったので、二人は他の旅人との会話を試みはしなかったが、庄左衛門は、そのいずれの表情にも不安と焦燥が混じり合ったような奇妙な不自然さがひそんでいるのを見逃しはしなかった。


 次の朝、宿屋を出た庄左衛門と剣士は一軒の民家の壁に人だかりができているのに気づいた。

「なんだあ?」

「どうしたんでしょうねえ」

 一枚の張紙がしてあった。昨夜同じ宿に止まった旅人たちが、その紙に書いてあることを見ては悪態をついたり気合いを入れ直したりしているのだった。

「『真の勇者よ、森を抜け北の山を目指せ』ですって」

「それだけか? 剣士」

「はい。いったい何なんでしょうねえ」

 数人の旅人たちがその嘘とも冗談ともつかない言葉に乗せられて村を出て行くのを二人は横目で見た。

「どう思う? 剣士」

「どうったって……」

「俺たちが勇者であるかどうかはともかくだ、昨日はなかったあの張紙の正体を突き止めたいとは思わんか?」

「おそらく長老だと思います」

「俺もそう思ってた所だ」


 ドンドンドン!

「おい、長老、長老さんよ!」庄左衛門はやはり人当たりが悪い。

「留守じゃ」中から声が聞こえた。

「何言ってんだ! いるなら開けろよ」

「やかましい!」突然扉が開いて、庄左衛門の鼻を強打した。

「いてててて……」

「あ、あの、張紙について、質問が……」

「わしは知らん。知らんが、おぬしたちのそのペンダントについては説明できる」

「ペンダント?」

 いつの間にか二人の首にペンダントが下げられている。

「な、なんだこりゃ? さっきまでついてなかったぞ、こんなもん」庄左衛門は下がった石を手にとった。「俺には、こんな趣味ねえぞ!」

「落ちつけ。おぬしたちは選ばれし勇者というわけじゃよ」

「俺たちが?」

「さよう。真の剣士には青き石、真の魔術師には赤き石が授けられるのじゃ」

 なるほど、剣士の首には青い石、庄左衛門には赤い石が下がっている。

「中心に輝く結晶が見えるじゃろう?」

「お、確かに光ってやがるぜ」

「回りに無数の小さな星のようなつぶつぶがありますね」

「そうじゃ、それも今は光を放っておるはずじゃ」

「今は?」

「さよう。おぬしたちがその光の失われる前に旅の目的を見事達成すれば、間違いなく本物の真の勇者として認められることになるのじゃ」

「何だよ、その『間違いなく本物の真の勇者』ってえのは。くどい言い方しやがって」

「光が失われる、というのは?」石を手に持ったまま剣士が訊いた。

「世の定めに反することをする度に、回りの小さな星が消えていく。最後の星が消えれば中心の結晶も光をなくす」

「定めだと?」

「世界は一つの真理を中心に回っておる。真理に背くことが人間の原罪であり、それを克服する者が間違いなく本物の真の勇者なのじゃ」

「で、結局俺たちが勇者で、それを克服するとでも?」

「それはこれからの旅次第。本物の真の勇者を目指して、さあ、行くがよい」

「めんどくせえ。誰がそんなことするか。俺たちゃただこの世界がどんな所で、俺たち自身が何者なのかを突き止めるために旅をするんだ。第一他人に旅の目的をどうこう言われる筋合いはねえんだよ。定めだかなんだか知らねえが、少なくとも俺にゃ関係ないね。勇者なんぞお断りだ」庄左衛門はペンダントを引きちぎろうとした。しかしその皮の紐はむちゃくちゃ頑丈で簡単に切れそうになかった。「こっ、このやろっ!」

「やめんか!」長老は叫んだ。「それを手放した時、おぬしの命も終わる」

「な、何だと!」庄左衛門の手の動作が凍り付いた。「そ、そんな危険なもん、勝手に人の首に下げるんじゃねえ! なんとかしろっ!」

「どうすることもできん。選ばれし勇者よ、定めにしたがい旅を続けるがよい」

 剣士が困ったような顔をして庄左衛門の袖を引いた。

「行きましょう、庄左衛門さん。どっちみち僕たちにはそうするしかないんですから」

「おい剣士、旅の目的、変更だ」

「え?」

「このじいさんを締め上げる!」

「や、やめてくださいよ! 庄左衛門さん」剣士は庄左衛門を羽交い締めにした。

「ええい、止めるな剣士。こいつが何かとてつもないこと企んでるのは間違いねえ! 人をコケにしやがって!」

 長老は悲鳴を上げて扉を閉めた。ガチャリ。鍵のかかる音が聞こえた。「わしは留守じゃ」

「ふっ、ふっ、ふざけやがって!」どかどかどか! 庄左衛門は扉を蹴り始めた。

「行きましょう、ね、庄左衛門さん」


 剣士はなんとか庄左衛門をなだめすかして村から連れ出した。彼らの後からぞろぞろと旅人が出て来る。身なりはそれぞれ違っていて、剣を手に持つ者、弓を背中に担ぐ者、黒いマントで身を覆う者、手甲、脚袢で身を固めた者などさまざまだった。ところが、

「なにい?!」

 庄左衛門が大声を出したのは言うまでもない。その全ての旅人の首に二人と同じようなペンダントが下がっているからなのだった。

「一杯食わせやがった!」

「ゆ、勇者がこんなに……」

「どついたる!」

 村に駆け戻ろうとする庄左衛門を、やっとのことで剣士は引き留めた。

「落ちついて。とにかく行きましょう」

 剣士は庄左衛門を半ば引きずるようにして、村に来る時に通った森へと再び入って行った。

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