悪役令嬢の悪行とやらって正直何も悪くなくない?ってお話
悪役令嬢って可愛いですよね
私は別に愛妾の一人や二人構いませんわよ?でももう少し我慢出来ませんの?
私は公爵令嬢、ルビー・コンストレイション。婚約者はサファイヤ・コンクエスト王太子殿下。私達はお互い幼い頃から今まで、穏やかな信頼関係を築いてきました。周りからもお互いに美しく優秀な婚約者同士として有名でした。
私はこの生まれながらの美貌を更に磨き上げ、毒に耐性をつけるため毎日死なない程度にさまざまな毒を飲み、厳しい王太子妃教育にも耐え、それを隠すように常に微笑みを絶やさずにいました。
そして、私と同じく、いえ、もっと辛い思いをしながら王太子として常に微笑みを浮かべる王太子殿下。私はいつしか、サフィー様に恋をしていました。そしてそれはきっと、サフィー様も同じだと思い込んでいました。とある平民の女性とサフィー様が恋に落ちたと学園中で噂になるまでは。
ペリドットさん。平民なので姓はない。大して美しくもなく、…いえ、そうね。顔は可愛らしい方だとは思うわ。グラマラスな私とは違って、華奢な方だけれど、それもまた男性の庇護欲をそそるのでしょうね。特待生として学園に入学しただけあって、とても優秀。王太子妃教育を受けてきた私にはさすがに届かないものの、なかなか教養がある…とも、思う。
さて、そんなペリドットさんとサフィー様の噂を鎮火させるため、私はペリドットさんをそっと取り巻き達を使ってサフィー様から遠ざけて、常日頃からサフィー様の側にいることにした。ペリドットさんを愛妾として迎えるくらい、私は許容できる。でも、今はまだその時ではない。サフィー様とペリドットさんには学園卒業まで待ってもらわなければ。
…いえ、本当は平民風情が私の完璧な婚約者にちょっかいをかけてきたこと、それにサフィー様が応じたことは腹が立ちます。でも、そのうち飽きる可能性もあるし、平民の愛人なんてせいぜい側妃にすらなれない愛妾止まり。許して差し上げましょう。
…でも。サフィー様は私を露骨に嫌がり始めた。一体なぜ?私は、私とサフィー様…癪だけど、ペリドットさんのことまで考えてこうしているのに。この方が後々私とサフィー様だけでなくペリドットさんのためにもなるのに。そう考えていた時、サフィー様が私の元を訪れた。
「ルル、いい加減にしてくれ」
「なんのことでしょう?」
「とぼけるな。お前リリーを虐めているだろう」
「あら?なんのことでしょう?」
私はただ、ペリドットさんを取り巻き達を使ってサフィー様から遠ざけただけなのですが。それも、お二人の将来を考えてのことですのに。
「この間、リリーが亡き母の形見のネックレスを奪われてゴミ箱に捨てられたと泣いていた。もういい加減にしろよ」
あら、口調が乱れている。サフィー様ともあろう方が、珍しい。
「では、もっと穏便な方法でサフィー様から引き離すように取り巻き達には言っておきますわ」
「そういう問題じゃない!そもそも何故私達が引き離されなければならないんだ!」
「だって、学園中で噂になっていますわ。サフィー様がペリドットさんにお熱だと」
「だったらなんだ?」
「私とサフィー様は政略結婚故の婚約者。結婚しないなんて選択肢はありませんわ。そしてペリドットさんは平民。側妃にすらなれませんわ。まあ、サフィー様次第ですけれどおそらく愛妾止まりかと」
「な…!?」
「あら、もしかして『真実の愛』とやらに溺れて、それくらいのことすらわからなくなってしまいまして?」
「…私は」
「とりあえず今日はお帰りください。少し冷たい風にあたって頭を冷やされるといいでしょう」
私はサフィー様を追い出した。サフィー様がペリドットさんと出会って以来初めて私の元を訪れてくれたため、期待、してたのになぁ。もしかして、私の元へ戻ってきてくれたんじゃないかって。…仕方がない。取り巻き達にはもう少し辛くペリドットさんに当たれと言っておきましょう。穏便な方法で?甘い。甘すぎますわ。ただの虚言です。
ー…
時は過ぎて、学園の卒業パーティー。私ももう卒業なのね。サフィー様は当たり前のようにペリドットさんをエスコートするから、私は兄にエスコートされている。まあ、何はともあれ王太子妃として気を引き締めなければ。私がそう思ったその時、突然サフィー様が私の目の前に現れた。会場がざわざわとする。一体何かしら?
「ルル!君を殺人教唆の疑いで断罪させてもらう!」
「…あら、まあ」
殺人教唆なんて、何事かしら?
「サファイヤ殿下、どういうことです?」
兄は努めて冷静に聞く。
「リリーが昨日、お前の取り巻きに階段から突き落とされた!」
しーん…とする会場。もう、サフィー様ったら。
「サフィー様、私の取り巻き、と言われた私のお友達は、貴族…それも伯爵令嬢ですわよね?」
「あ?ああ、そうだ!」
「伯爵令嬢が、しかも公爵令嬢である私からのお願いでたかが平民を突き落としたくらいで、なんの罪に問えるのです?」
「…は?」
「だって、そうでしょう?この国は貴族の治める階級社会ですのよ?私もお友達も、なんの罪にも問えませんわ」
「…!」
サフィー様とペリドットさんは途端に顔色が悪くなる。もう、サフィー様ったらペリドットさんと出会ってから変な方向に変わってしまわれて…ペリドットさんったら何をサフィー様に吹き込んだのかしら?
「そもそも、平民風情が公爵令嬢の婚約者、それも王太子に手を出すのが間違いですわ」
「そ、それは…」
ぷるぷると震えるペリドットさん。怖いなら、最初からやるべきではないですわ。
「サフィー様も、たかが平民風情からのアプローチに絆されるものではありませんわ」
「…くっ!うまくいけばリリーを王太子妃に出来たはずなのに!」
?
何をおっしゃっているのかしら?
「無理ですわよ?」
「え?」
「だって、相手は平民ですわ。例え私を嵌められたとしても、代わりに他のご令嬢が婚約者になるだけ。ペリドットさんは愛妾止まりですわよ?」
「な…!?」
もう。サフィー様、どこまでバカになってしまいましたの?
「とにかく、悪いのは婚約者がいるのに浮気をして変な噂を流してしまったサフィー様と、婚約者がいる王太子をカモにしようとしたペリドットさんですわ。私はただ、変な噂を沈静化して、サフィー様の名誉を守り、行く行くはサフィー様の愛妾となられるペリドットさんを庇うつもりで動いただけですもの。学園を卒業して、私と正式に政略結婚してから…私との間に男の子が出来てから、ペリドットさんを改めて愛妾として迎えればよかったのに。…でも、これで、サフィー様…いえ、王太子殿下の評価は地に落ちましたわね」
「な、なにを言って…」
「ルビー嬢の言う通りじゃわい」
「父上!?」
本来いるはずのない国王陛下の姿を見て、腰を抜かすサフィー様。あらやだ、可愛らしい。
「お前にはほとほと失望した。王太子位を剥奪する。王族籍も剥奪するから、そこの平民と望み通り結婚するがよい」
「…は?」
「くっ…すまないリリー。何もなくなってしまった俺だが、俺と結婚…」
「いやよ!だったら別の貴族と結婚する!」
「え…」
「王妃様になれれば贅沢できると思って粉かけたのに、意味がないじゃない!もう!」
「サファイア。これがお前の惚れた女の本性じゃ。じゃが王命は絶対。娘、お前は平民のサファイアと結婚せよ。一生離婚や浮気は許さん」
「なっ…」
「そんな…」
「ルビー嬢よ、第二王子のエメラルドを王太子にするのじゃが、あいつにはまだ婚約者がいない。是非婚約者になってやってくれぬか?」
「もちろんです。国王陛下」
ー…
そうして時は過ぎて、三年後。
サフィー様とペリドットさんは離婚も浮気も出来ず、お互い貧乏でギスギスとした家庭に疲れ、やつれている姿を見た方がいるそう。あらまあ。
私とエル様は、エル様の猛烈なアプローチで私が陥落。なんでも私がサフィー様の婚約者だった頃から私が好きだったらしい。
「ルル、愛してる」
ちゅっと触れるだけのキスをするエル様。
「もう、エル様ったら。私もです」
私はエル様の頬にキスをする。終始この調子です。
そして今日、エル様と私の結婚式。
「ルル、幸せにする」
「ありがとうございます、エル様。私もエル様を支えてみせますわ」
「ルルー!」
がばっとウェディングドレスを着た私を抱きしめてくるエル様。もう、困ったお方。でも、幸せです。
もっと増えないかなぁ