95)友達の新たな力
夏休み気分もスッカリ抜けて学園祭の準備も本格的に始まり出した。
貴族が集まる学園では生徒の発表会がメインで演劇だったり演奏会だったり作品展示だったりする。私はかりんとう先生に絵の展示を薦められた。
「…よし。これで良いかな」
「おっ、完成したのか?」
「はい、ダニエル様!…どうですか?」
「…オレみたいな凡人には分かんねーな」
私は美術室でダニエル様と2人で絵を描いていた。ダニエル様も絵を展示するのだ。ウィル様達には「上手く逃げたな」とぼやかれたらしい。
「…この渦巻きは何の絵だ?」
「カタツムリです」
「………聞いてもやっぱ分かんねーわ」
「ダニエル様の絵は…恐竜ですか?」
「ちげーよ!これは湖を描いたんだよ!」
「!すみません!写生でしたか!」
「湖と周りの木々だろうが!…どうしたら恐竜に見えるんだよ…」
「…見たまんまで…」
久しぶりに静かな時間を過ごせていた。
「…プリナ、ごめんな。オレ達が力になれなくて。嫌な思いをさせてるよな」
「ダニエル様が謝る必要はありませんよ」
ケルルート様の思惑通りミサキの私に対する憎悪は日毎に増すばかりで、ある意味修業は順調だった。
ミサキは平民と貶めるだけでは私が堪えないと分かると私達を分断させようとしてきた。
先ずは公爵子息の覚えもめでたく平民でもお金持ちで王都出身者のポリーを取巻きに加えようと画策するようになった。ポリーが商会の名前を出すと断りきれないことを知っていて、今日も貴族達の御用聞きをさせられている。
メリザは実家が衣料品店なので演劇発表する貴族達に衣装担当を任された。
イルクはサックス演奏する予定で、エクレア様との共演を強制されて2人で練習を続けている。
カロもトランペット奏者としてオーケストラに勧誘されたけれど頑なに断った。演劇への出演依頼も断った。貴族達から逃げているために発表する物が未だ決まらない。
「オレ達が学園の聖樹で修業してるからプリナ達の修業は進んでないんじゃないか?」
「私達は森の聖樹を見付けられるようになったから大丈夫ですよ?ダニエル様やウィル様、セルゲイ様は順調ですか?」
「うーん…。ケルルート様が男爵令嬢を袖にした日の特訓はすごいよ?鬱憤晴らしてます!って感じ」
「…ケルルート様の予定通りですね…」
「プリナの名前を出そうモンなら凄まじいオーラを出して手が付けられないよ…。何であのご令嬢はプリナをそう目の敵にしてんだ?」
今までの経緯を知らないダニエル様には当然の疑問だろう。初対面から難癖を付けられたとは言わない方が良いかな。
「プリナ!…ここにいたのか」
「カロ?」
カロが息を切らして美術室にやって来た。
また貴族達から逃げてきたみたい。
「よっ、色男!今日はどんな誘いを受けたんだ?」
「ダニエル様、茶化さないで下さいよ…」
「悪かった!…でもカロもそろそろ発表内容決めないとヤバいだろ?どうすんだ?」
「………1人でトランペットやろうと思ってたんですけど……練習に毎回邪魔が入って」
カロは自分だけでも私の側にいようとしてくれてるのを知ってる。私のせいで皆にも負担を掛けてしまってるんだよね…。
「ねぇカロ、私達と合作で展示しない?」
「えっ!?」
「はぁ?プリナとオレも!?オレにはプリナみたいな閃きはないぞ!?」
「…オレも絵心は無いよ?」
私は石膏を持ってきた。
「皆で巨大オブジェを作ろう!」
「………は?」
「オブジェ…?」
私は強引に3人で合作する事に決めた!
「石膏って人間の胸像とかだっけ?」
「あ~美術館に展示ある人間像とか」
「オブジェって言ったじゃん!」
それから放課後は3人で製作に専念した。
何だかんだ言っても2人も楽しそうに作業をしている。
カロに笑顔が戻って良かった!
「プリナ!酒盛りするよ!」
エクレアがビールケースを侍女に持たせて私の部屋にやって来た。
「今日はケースか!」
「足りなくなったら困るでしょ!」
前にカロが見付けたアタリメを買っておいて良かった。私は枝豆を茹でる事にした。
ポリーは未だ貴族達に捕まっていて不在なので、一応この場には前世で成人していた人間ばかりだ。…とは言ってもメリザは闘病中で飲酒経験はほぼ無かったけれど。
「毎日毎日性悪女にイビられてやってらんない!!あ~っっ、もうストレス溜まる!!!」
「エクレアは学園祭の練習は捗ってる?」
「イルクとはジャズだって言い切って毎回適当にやってるよ!息はそこそこ合ってるよ!ねっ?」
「そうだな!オレはセッションは初めてだけど面白いよ!」
2人の組み合わせは上手く行ってるみたいだ。
それはミサキのお陰かもね。
「カロは?何するか決まったの?」
「ああ、お陰さまで」
「なになに!?」
「…秘密」
カロが嬉しそうに笑った。
出し物がやっと決まって嬉しいんだろうな。
私はポテトフライを揚げて振る舞った。
「おお!おつまみが豪勢じゃん!」
「庶民の居酒屋定番メニューだな!」
「…そうなの?私居酒屋なんて行ったこと無かったから分かんないけど」
「あとはタコワサがあれば完璧!」
「いや、漬物だろ?」
「ホッケが欲しい」
「私は軟骨の唐揚げが食べたいな」
好きな居酒屋メニューで盛り上がった。
「…それにしても。あの性悪女はあの手この手でプリナをハブろうとしてきて本気で殺意が湧く!!」
エクレアは私の寝室に置いてあった巨大なぬいぐるみを持ってくるとサンドバッグにした。
腕がもげそうだよ…。
「シャルル様も今のままじゃストレスで身体を壊しそうだよ!プリナ、本気で性悪女と対等になって私達を助けてよ!!」
「…………そんなこと言われても」
私だって現状打破出来るならそうしたい。
日に日に疲れていく皆の顔を見るたび私も胸が詰まる。
「何度も言ってるけど、私は何の力も無い普通の平凡な女の子なんだよ…?ミサキに勝てる訳がないよ……」
ビールが無くなるまで飲み会は続いた。
今日はいつもよりビールが苦く感じた。
ある日。
美術室にダニエル様とカロと3人で入ろうとしたらドアの鍵が壊されていた。
「…あれ?鍵が…」
「!!……先にオレが入るよ」
カロが先に美術室に入った。焦げ臭い。
「…!!?」
「うわぁぁぁ!!オレの絵がぁぁぁ!!!」
美術室に置いてあった絵が全て燃やされていた。
私のもダニエル様のも。
展示前でどの作品にも未だネームプレートを付けていなかったから…。
「!!オブジェは!?」
「…こっちは何ともないよ」
「…………そう」
「オレの…オレの絵が……」
ダニエル様の嘆き声が室内に響く。
私のせいでダニエル様まで傷付けられてしまった…。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
私が只管謝り続けるとカロが抱き締めてくれた。
「プリナのせいじゃない」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「……ごめん。プリナも被害者なのに……。プリナが謝ることじゃないよ」
「ダニエル様……ごめんなさい……ごめんなさい…」
カロが腕の力を籠めた。
「…絵なんてまた書けば良いさ!先ずは換気しようぜ!焦げ臭くてたまんねー!」
ダニエル様が無理に明るく振る舞って場の雰囲気を変えようとしてくれた。
大事な絵を燃やされて許せないだろうに…
ダニエル様も優しいね…。
オブジェはまだただ大きいだけの状態だったのと上から全体が見えないようなカバーを掛けてあったので手を出されなかったようだ。
「こっちも全力で作るけど!今の怒りを絵に籠めたい!!プリナ、同時進行で絵を描いても良いか!?」
「もちろんですよ…」
「キーキー」
私のボディーガード達が私の周りに集まった。他のチームもやって来て室内がネズミだらけになった。
「?私を慰めるためにみんなで来てくれたの…?」
「チーチー」
「キーキー」
ネズミ達は円を作るように丸くなると小さなおててを天に翳した。
…すると、部屋中に風が流れて、あっという間に焦げ臭さが消えた。
「…!!すごい…!!みんなで空気清浄してくれたの!?」
「…えぇ!?ネズミにそんな力があるのか!?ウソだろ!?」
「…ここには聖樹もないのに…?」
私はしゃがんで皆にお礼を言った。
「ありがとう…本当にありがとう…!」
「キーキー」
「キューキュー」
ネズミ達は私の周りに集まって優しい目を向けてきた。みんなの暖かさにまた涙が溢れた。
みんな本当に優しいね…。
「プリナのためになら力を集められるようになったんだな…」
「…プリナ、すげーな………」
その後はネズミ達に見守られながら遅れてしまった創作活動に没頭した。
「こんな嫌がらせに負けない…!」
「おおーっっ!オレもやってやる!!」
「オレも全身全霊こめてやる!!」
先生に鍵をつけ直してもらってボディーガード達が当番で美術室の見張りをして絵も守ってくれることになった。
2人は私と手を繋いで寮まで一緒に帰ってくれた。
学園祭では皆をアッと言わせてやる!!!
3人の心が一つになった。
誤字・脱字報告をいつもありがとうございます!!




