94)主人公は独裁者
新学期が始まって数日。
クラスの派閥が大きく変わってしまっていた。
「エクレア様。私あなたのピアノが聴きたいの。私のために演奏して頂ける?」
「……畏まりました」
音楽室でミサキがエクレアにおねだりした。エクレアが一瞬顔をしかめたけれど、ミサキに応えてピアノの前に座った。
「シャルル様。エクレア様とシャルル様の共演が見たいわ!お願いします!」
「………分かりました」
シャルル様も一瞬眉を潜めたけれどバイオリンを手にエクレアの横に立って、2人は演奏を始めた。
とってもステキだけれど………。
「平民に聴かせるなんて勿体ないこと!」
「ミサキ様はお優しいから平民にも素晴らしい演奏をお聞かせしたのね!」
「……………」
今は音楽の授業中ですよ。
私は思いっきり銅鑼を打ちまくりたい衝動を我慢した。
また教室でも。
「シャルル様!私お茶を楽しみたいわ!庭園でお茶会を開きません?」
「………分かりました。用意させます」
「まぁ!ありがとうございます!皆様もご一緒にいかが?」
「まぁよろしいのですか!?」
「ミサキ様、ゼヒ私もご一緒させて下さい!」
「フフフ、クラスのほとんどの方がご出席されますわね!……良かったらそちらの平民の皆さんもどうかしら?」
「ミサキ様は平民にもお声掛けを…!」
「お優しいミサキ様ならではだな」
「…オレ達は結構です」
「!ミサキ様からのお誘いを断るのか!?」
「およしなさいな。平民にはお茶会なんて機会に恵まれませんもの。恥をかくことを恐れたのでしょう。…平民にはご迷惑でしたわね?」
「……………いえ」
「エクレア様。私お腹が空きましたの。食堂へ行って何か軽食を持ってきて下さる?」
「…………畏まりました」
「ウフフ、エクレア様お願いね!」
ミサキがエクレアを下っ端の子分のようにこき使うようになった。エクレアのストレスは日増しに溜まっていった。
ミサキは言いなりになるエクレアを見て勝ち誇った顔を見せた。私達に好意的に接してくれていた貴族達も遠巻きになってしまった。
シャルル様は私達を辛そうに眺める。
私達は…平民と蔑まれるのはある意味慣れているから平気だけれど。
気分の良いものではなかった。
「プリナさん、こんにちは」
「!ケルルート様!こんにちは!」
ミサキが寮生活になったことでケルルート様は頻繁に学園を訪れるようになった。いつも真っ先に私に声を掛けてくれる。
「まぁケルルート様!ごきげんよう!」
「おや?精霊の御遣いサマじゃないですか。あなたもいらしたんですね」
「!……ええ」
ミサキが側にいても必ずケルルートは私に声を掛けてくる。それが面白くないらしくミサキが睨み付けて来る…。
「プリナさん。良かったら森へ案内してもらえますか?」
「はい……」
ミサキの目が怖いけれど、私達の修業も大切だしケルルート様からの申し出をそもそも断れないので、皆で森へ行くことになった。
「ケルルート様!私もご一緒してよろしいですか?」
「あなたはこれからお茶会なのでしょう?ご友人を大切になさった方が良いですよ」
「…そう、ですわね。…残念ですわ」
ケルルート様は笑顔でミサキの同行を断った。
ミサキの後ろにどす黒いオーラが見えるよ…!
「はぁ~~~っ」
「すごいため息ですね」
「!…すみません」
私が白い聖樹に辿り着いて樹に凭れて溜め息を吐くとケルルート様が苦笑した。
「ケルルート様がミサキ様を蔑ろにするからですよ…」
「私のせいですか?」
「…そうです」
逆恨みだと分かっているけれど怨み言の1つも言いたくなった。
「あの少女の能力は誰かに対する憎悪が源ですからね。これでも彼女の能力を引き伸ばしているのですよ」
「!!」
「!?だからってプリナが危険な目に遭ったらどうしてくれるんですか!?」
「そうですよ!!元からプリナに敵愾心を持ってるのに!!」
「プリナがとばっちりを喰らうじゃないですか!!!」
皆が私のために怒りを露にした。
「プリナさんの修業にもなってますよね?あの少女の能力を跳ね返せるように頑張って下さいね」
「………………はい」
「プリナ!?」
「こんなのって…あんまりです!!」
「酷い!!プリナを何だと思ってるんですか!!」
「…皆、ありがとう。私は大丈夫」
「プリナ…」
皆に笑顔を見せたけれど、皆の顔は晴れない。
私を心配するように森の住民のキツネやリス、パンダが側に来て寄り添ってくれた。
「……ちょっと待て」
「?」
「何でパンダがここにいるんだよ…!」
「あ、ホントだ。パンダさん初めまして!」
「………この森にはパンダもいたんだね…」
「怒りで気付かなかったよ……」
私はパンダを撫でた。キツネがヤキモチを焼くのでキツネを膝に載せて抱っこした。リスは肩に載ってきた。
「…プリナは動物王国を作れそうだな」
「ふふ、そうかな?」
可愛い森の住民に癒されながら今日の修業を終えた。
そんな毎日が続くなか、ある日私の部屋にエクレアが訪ねてきた。
「あ~っっ!!もう、やってらんない!!!」
「エクレアが一番辛そうだもんね…。お疲れさま」
「あの性悪女!!!私を目の敵にしやがって!!!マジコロス!!!」
「エクレア!それはさすがにまずい!!」
エクレアが部屋のクッションを相手に空手の正拳突きを繰り出した。
そりゃあストレスも溜まるよね………。
「表だって庇えなくて本当にごめんね…。実家からも精霊の御遣いを敬えとか何とか言われててさ…」
「貴族にそう言うお達しがあったのは知ってるから大丈夫だよ?私こそ、私達を庇ってくれてたせいでエクレアが冷遇されちゃってごめんね…」
「プリナ達のせいじゃないから!!!そもそも私は性悪女の間違いを正しただけだし!!!」
エクレアが実家からコッソリくすねてきたワインをラッパ飲みした。一応未だ未成年だよ?
「呑まなきゃやってらんないの!!」
「…前世で急性アルコール中毒で死んじゃったのに…」
「それはそれ!!あの時は勢いでテキーラをショットで何杯か飲んじゃっただけ!!」
「うわぁ………」
「ワインなんて水みたいなもんよ!!こんなんで酔わないから大丈夫!」
「…………」
エクレアの気持ちも分かるので誰も止められなかった。
「…シャルル様はどうしてる?」
「シャルル様はねー。やっぱりダンスのパートナーを断ったのを未だ根に持たれてるよね。ネチネチして本当に器のちっちゃい人間だよ!!!」
「…………」
「でもシャルル様は皆の憧れだし侍らせたいんでしょうよ!!他の女生徒に優越感持ちたいだけ!!!」
「シャルル様が可哀想………」
「本当だよ!他のキャラが同じクラスじゃないからシャルル様に集中攻撃してる感じ!!!」
「…シャルル様が気の毒過ぎる………」
エクレアはおつまみにと出したチーズをパクパク食べた。やけ酒やけ食いで身体を壊さないと良いけれど…。
「何だっけ?神官がたまに来るけど、あのイケメン露骨にミサキを避けて拒んでるよね?ミサキの教育担当なんでしょ?」
「ああ、ケルルート様のことか」
私はケルルート様に言われた事を伝えるとエクレアからも怒りのオーラが立ち昇った。
「何それ!!!マジムカつく!!!プリナを人身御供にすんじゃねーよ!!!」
「エクレア…落ち着いて?」
「マジ許せん!!!先ずはアイツにヤキ入れる!!!」
「エクレア~!!!落ち着けって!!!」
暴れたエクレアにまたしてもイルクは肘鉄を喰らった。
「…いいの。私は生涯ケルルート様のお側にいるかも知れないから」
「はぁ!?……………待って…。え、プリナ、まさか……!!?」
私は小さく頷いた。顔がホンノリ熱い。
「ウソでしょ!?プリナは何だって男の趣味がそう悪いのよ!!?」
「エクレア、酷い…」
「だってそうじゃん!!自分を利用しようとするクズじゃん!!最低な男じゃん!!!」
「…ケルルート様には深いお考えがあるのよ」
「ぐわぁぁぁ!!私もシロップみたいに火を吐きたい!!!」
「エクレアったら…」
「プリナ、私達も同じ気持ちだよ?」
「そうだよ!シロップがマジ羨ましい」
「うふふ!シロップ、皆がシロップが羨ましいって!」
「ガオー!」
シロップは機嫌良く炎を吐き出した。
「ミサキの天下になっちゃってどうなるんだろうね…」
「これから学園祭の準備も始まるのに、このクラスの状態でやっていけるかな…」
「プリナがさ、ミサキと同等の立場の聖女になることは出来ないの?」
「何それ?私は普通の平凡なただの女の子だもん。天に選ばれし者と対等になれる訳がないじゃない!」
「…そうかなぁ」
「プリナが下克上するしかないと思うんだよね?私達を助けると思ってさ!考えてみてよ」
「無理だよ……」
私は何の力も無い普通の人間だもの。
…とは言え現状の突破口も見付けられずストレスがどんどん溜まっていく皆の事を考えると今のままで良いとも思えなかった。
「今度はビール持ってくる」
「ビールがあるの!?」
「あるよ。実家から持ってきた」
「未成年なのに…」
「バレなきゃ平気だって!ここ位しか気が休まる場所が無いのよ!また酒盛りしよ!」
エクレアは全く酔いを見せない顔で自室に帰って行った。
「…何があっても私達はプリナを守るからね」
「オレ達はプリナの味方だから」
「うん!ありがとう」
皆も私を励ましてくれてから、それぞれの部屋に帰って行った。
そして翌日。
私はワインの空きボトルを処分しようとしているところを見付かって寮母さんにこっぴどく説教されたのだった。
誤字報告をありがとうございました!
投稿が不定期になりましてすみません。




