91)新しいトキメキ
その男性は前世の法王様のような衣装を纏い腰まである銀髪を揺らして優雅に挨拶をした。
「私は神殿に勤めるケルルートと申します」
「この方は王弟殿下で私の師範でもあります」
「ロベルト、私はもう王籍を離脱していますよ。殿下はお止めなさい」
「失礼しました。ケルルート様」
王弟殿下?ウィル様の叔父さんってことか。
道理で美形のはずだわ…。
私達もそれぞれ自己紹介をした。
「…それで、神殿に勤める神官様が私達に何のご用ですか?」
「ロベルトからあなた方の話を聞いて興味深くて一度お会いしてみたかったのです」
「はぁ…」
「私を森に案内して頂けませんか?」
「森に…」
「ええ。あなた方と一緒ですと聖樹の元へ行けるとロベルトが言ってましたので」
ロベルト様…余計な事を!!
私達は顔を見合わせたが、当然断れるはずもなく、皆で森に行く事になった。
「精霊の御遣いについてはご存知でしょう?」
「はい。ロベルト様やウィル様達から聞いてます」
「最近は特訓も順調だそうですよ?周りのサポートのお陰だとか」
「…そうですか」
沼に着くとシロップがポケットから顔を出した。やっぱり懐かしいのかな?
「おや?…これは珍しい。ドラゴンですか」
「!!?」
早速シロップが見付かりました!
「あの……この子は………」
「ああ、心配しなくても誰かに言い触らしたりしませんよ」
「ガウ」
「ふふ、とても可愛らしくて良い子ですね」
「はい!可愛くてとっても優しい良い子です!」
「あなたにとても懐いているようですね」
「はい!私の大切なお友達です!」
ケルルート様は特段驚いた様子を見せなかった。
私は安心してシロップを自由にした。
「ケルルート様って優しいね!それにとってもステキ!」
「プリナ…ちょろすぎる……」
「単純過ぎて心配になるよ」
「皆して失礼ね!」
ケルルート様は率先して森の中をどんどん進んで行く。
「この森はとても穏やかで気持ちが良いですね」
「はい。あの…ケルルート様は…森の中をよくご存知なんですか?」
「どうしてそう思われたのですか?」
「どんどん歩いて行かれるので…何処か目的地があるのかと思って」
「…そうですね」
ケルルート様は微笑んで、それ以上は何も話してくれなかった。ミステリアスな大人の男って感じ!笑顔を向けられるとドキドキする…!
「…プリナにフラグ立ってる気がする…」
「プリナは年上好きだからね」
「シロップを褒められただけで…はぁ…」
「カロ、頑張れ」
「うるさい」
ケルルート様は木々が無い、何も無い場所で立ち止まった。
「あなた方はいつも何処に向かわれるんでしょうか」
「私達は…いつも森の住民が案内してくれるので…。毎回違う場所に連れて行ってもらってます」
話していて気付いた。今日は誰にも会ってない。
ミドリーノ達にもホワイトタイガーにもクロールにも象にも。
「ふむ…。私は森に拒まれているのでしょうか」
「…………」
何とも答え辛かった。
「ここで休憩しましょう」
「…はい」
皆で輪になってその場に腰掛けた。ピクニック用にレジャーシートを持ってきていて良かった。
「精霊の御遣いの力をご存知でしょうか?」
「…精霊の力を纏めて使える、と聞いた事があります」
「そうですね…」
私達が知っている事と言えばそれ位だ。
「プリナ・リンカさん」
「!はい」
「あなた方がウィル達を指導していると伺っています。あなた方のお陰で精霊も纏まりつつあると」
「指導なんて…畏れ多いですけど…」
ケルルート様はニッコリ微笑まれた。
笑顔の破壊力は凄まじい!!
「精霊の御遣いの力とは、精霊を支配する力なのです」
「精霊を支配する…」
「ですが、あなた方の教えは精霊に力を借りるというものです」
「同じことじゃないですか…?」
「いいえ。支配する力が強ければ精霊は拒めません。言わば精霊に言うことを聞かせる強さです」
「…命令する、という事ですか?」
「そうですね。ですが、あなた方は精霊に協力を求めてあくまで力を借りる訳です。…この違いが分かりますか?」
「…すみません。よく分かりません」
私が正直に答えるとケルルート様は楽しそうに笑った。
「精霊を支配する力と精霊を味方に着けて協力を求めようとするあなた。もしもあなた方と精霊の御遣いの少女が敵対する事になれば、精霊同士の争いが生まれる可能性があります」
「……!」
「…プリナさんの修業の成果を私にも見せて下さいますか?」
「それは大丈夫ですけど…聖樹の助けが無いと。ここには聖樹がありません」
「そうですか?あなたなら既にご自分で見付けられると思いますよ」
「え?」
「探してみて下さい」
「?…分かりました」
私は立ち上がってグルッと辺りを見渡す。
聖樹…聖樹…
何となくの感覚だけを頼りに歩き出した。
皆も後を着いてくる。
再び木々が繁る森の中に入ってぐんぐん歩く。
皆も無言で追い掛けて来てる。
「ありました…!」
「…!!また別の聖樹だね…!」
「これは見事ですね」
そこには葉も幹も全てが水色の聖樹があった。
「これは空の聖樹ですね」
「!?名前があるんですか?っていうか、ケルルート様はご存知だったんですか!?」
「いいえ。古い文献に記載があっただけです」
私は空の聖樹に触れる。深呼吸したみたいに綺麗な空気が身体中に行き渡る感じがした。聖樹はどんな樹も気持ちが良いな…。
「ではプリナさん、始めて下さい」
「分かりました!…えーっと…」
いつも通り、辺りに向かって声をあげる。
「誰か~!私のお手伝いしてくれる人はいませんか~!?」
…しばらくすると、ミドリーノとキミドリーナ、クロールとクロエ、近くに止まっていた綺麗な鳥達、鹿や猪が現れた。
「皆さん、集まってくれてありがとう!では、よろしくお願いします!!」
「カアカア」
クロール達は声で、他の住民達は頷いてくれた。
私は気持ちを落ち着けて、空の聖樹に抱き着いてパワー充電。全身に行き渡ったのを感じたらそっと樹から離れて両手を天に向かって掲げた。
すると大地が揺れて、一面に白くて小さな花が咲いた。木々にも一斉に白い花が咲き乱れた。
「……!!」
「わぁ………!!」
「…………マジか」
「…さすがプリナ様…!!一生お仕え致します!!」
「これは素晴らしいね」
私も見渡す限り花に囲まれた風景を見て満足感でいっぱいだ!!
「さすが、森のパワーはすごいね!!」
「…すごいのはプリナだよ」
「プリナ様ぁぁぁ!!私は一生あなた様のお側に!!!」
ロベルト様、重いって。
「プリナさん」
「はい!」
「あなたは精霊の御遣いではありません」
「?はい」
「それでも…これだけの精霊があなたに力を貸すのです」
「それは森の住民達が助けてくれたからですよ。私の力じゃありません」
ケルルート様が私の手を取った。
「!!」
微笑んで見詰められて顔に熱が集まる。
「あなたは有りのままに受け止められる。あなたの言う森の住民達もあなたに受け入れられて、あなたを受け入れる。あなたの真っ直ぐな心が住民達の心を掴むのです」
「…私だけじゃないです。ここにいる皆も、ウィル様やロベルト様達も、みんな特訓して力を貸してくれましたよ?」
「プリナさんがいてくれるからこそ、です」
ケルルート様は側にいたミドリーノの頭を撫でた。ミドリーノも嬉しそうに目を細めた。
「この子はプリナさんのお友達ですね?」
「はい、そうです!」
「プリナさんを大好きな気持ちが伝わって来ますよ」
「うふふ!私も大好きです!」
私もミドリーノの身体を撫でた。ミドリーノとキミドリーナが私にすり寄って甘えてきた。
「あなたは精霊の御遣いの少女とは真逆の才能をお持ちです」
「?」
「王宮で少女の指導をしていますが…彼女は強い能力がありますが、精霊は抵抗しています。ウィル達が精霊を宥めていますが無理矢理言うことを聞かせているので、精霊達に嫌われてしまいました」
「……男爵令嬢は自分の感情に任せて支配しようとしてますからね。プリナ様とは大違いです!」
ロベルト様…。様呼びはどうしたら止めてくれるんですか。
「それでも少女の能力は無視出来ませんからね。何とか精霊と上手く力を合わせられるように教育しているのですが…」
ケルルート様は一面に咲いている花に触れた。
「…これは珍しい薬草ですね。貴重な花ですよ」
「そうなんですか?」
「この森はプリナさんが好きで、あなたの役に立ちたいと願っているのでしょうね」
「…それはとても嬉しいです」
私が照れ笑いすると、笑みを深くして私の頬を撫でた。
「!!」
「私もあなたが好きです」
「!!?」
生まれて初めて告白された!!!
顔から火が出た!!
「また会いに来ても良いですか?」
「…………はい」
そして私達は手伝ってくれた住民達にお礼を言ってから森を後にした。
私が隣を歩くケルルート様を見詰めると私の視線に気付いて笑顔を向けてくれる。
それだけで、とても幸せな気持ちになる。
シロップもケルルート様の肩に止まってご機嫌だ。シロップが懐くんだから絶対に良い人!!
話が突然変わるし自由気ままな感じがするけれど、とても穏やかで優しくて、とっても素敵な人。
ケルルート様と次はいつ会えるのかな…。
かりんとう先生とは違う、ドキドキと胸の温かさを感じた。
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