86)王子様達の課外授業(3)
寮へ戻って数日。
ポリーが実家に帰省することになった。
お米を渡す条件として婚約者とお茶するように親に命令されてしまい、嫌々帰って行った。
本人は日帰りで寮に戻ると言っていたけれど逃げられるかな…。
「お米に合うおかずってなあに?」
「やっぱりTMGだな!」
「オレは納豆があれば良いや」
「私は海苔が欲しい」
「…どれにしてもお醤油が欲しいね…」
ラウンジでジェンガをやりながらポリーのお土産について話していると、ダニエル様とロベルト様がやって来た。
ロベルト様の窶れ様は酷かった。
「よっ!元気か?今日はロベルトを連れて来たぞ」
「皆さん、こんにちは」
「ダニエル様、ロベルト様、こんにちは。ロベルト様の顔色も更に悪化しましたね…」
「ええ、お陰さまで。男爵令嬢の能力について日々研究を重ねていまして」
「ロベルトは歴史とか伝承とかに詳しいから調査団の首席扱いなんだよ」
「ご令嬢の飼育…じゃなかった観察日記も付けております」
飼育って。観察でもアレだけど。
「今日はご令嬢の強いご要望により王宮でお茶会を開いていまして、私は生徒会の仕事があると抜けて来ました」
「あの令嬢は今度は第一王子と近付きたがっててな~。第一王子殿下に未だ婚約者がいないと聞き付けて取り持てってさ!ウィルには一応婚約者殿がいるわけだし」
「それはまぁ…なんて浅ましいと言うか厚かましいと言うか厚顔無恥と言うか図々しいと言うかなんと言うか」
「本当だよ!第一王子殿下は恋愛結婚を希望してるからと言ったら「私と会えば見初めてくれるはず!」だとやたら自信持っててさ」
「確かにミサキ…様はとても可愛い容姿をしてますからね」
「顔だけはな~。でも所詮男爵令嬢だし。オレは見た目も中身もプリナやメリザ嬢やポリー嬢の方がずっと可愛いと思うぜ?…ん?そういやポリー嬢がいないな」
「ポリーは今日は王都の実家に帰省してるんですよ」
「そっか。そりゃ残念」
それから皆で外に出て緑の聖樹のところに移動した。
「そうそう、今日はウィル様からお手紙を預かって来ましたよ」
「あ、ありがとうございます」
ウィル様とはあれから毎日クロールの協力で手紙のやり取りをしている。達筆で小さな文字で延々とミサキへの愚痴や周囲への不満が書いてある…。私は皆で寄せ書きみたいに手紙を書いて励ましている。昨日はシロップとクロールの足形付きで送った。
「どれどれ…。…ふむ、今日のお茶会への不満が書かれてますね!今では公務が入るとホッとするそうです」
「ああ、でしょうね…」
今日はボディーガード達とクロール、クロールのガールフレンドのクロエがサポートだ。
「んじゃオレが手本を見せてやるよ」
ダニエル様は私と手を繋ぐと聖樹に抱き着き、両手を掲げて、手に力を注ぐ。ゴルフボール位の光の球が出来た。
「どうだ?ロベルト」
「!聞いてはいましたが、本当に精霊の力を借りられるのですね…!」
「じゃ、ロベルト様もやってみましょうか」
「はい!お願いします!」
今度はロベルト様と手を繋いで同じように力を込めてもらう。そうして出来た球は、光の強さは及ばないもののウィル様と同じ位のテニスボール程の大きさだった。
「!!私にも精霊の力を借りる事が出来たのですね…!」
「ふふ、成功して良かったです」
ロベルト様は私の手を両手でグッと掴んだ。
「プリナ様!あなたのお陰です!プリナ様のお力で私も精霊の力を感じる事が出来ました!ああ、何て素晴らしい!!」
「えっと、私は何もしてませんよ?私のお友達が協力してくれたからです。それから様は止めて下さい」
「何を言うんです!プリナ様がいて下さるからこそ、精霊も力を貸してくれるのです!プリナ様こそ聖女の名に相応しい!!」
「イエ、だから私の力じゃないです。ネズミさん達やクロール達の力ですって。それから様は止めて下さいってば!それとロベルト様、お顔が近いです!」
ロベルト様がグングン寄ってきてちょっと困っていると、ポケットに隠していたシロップが出てきてロベルト様の顔に向かって火を吹いた。いつものライターより二回り位の大きさで。
「うわぁぁ!!ひ、火が、火が!!!えっ!?な、何だこれは……ドラゴン…!?」
「あちゃー、シロップってば!隠れてなさいって言ったのに…。でも私を守ろうとしてくれたのね?本当に優しい子ね!」
私は肩に止まったシロップを撫でた。シロップは褒められてご機嫌だ!
「……………シロップ?」
「あ~あ、さっそくバラしちまってんの」
ダニエル様がボソッと呟いた。
「……そうです。シロップは自分で歩けるように、また脱皮してあんよを作ったんです」
「……羽もありますけど」
「今、ロベルト様に火を吹きましたよね?シロップは私がロベルト様に苛められてると思って助けてくれたんですよ」
「私がプリナ様を苛めるなど!!」
「この子は私が大好きなんです!私もシロップが大好きです!離ればなれにしないで下さい!どうかお願いします!!」
私は前屈姿勢まで深々と頭を垂れた。そんな私を見てネズミ達もクロールもシロップも深々と頭を垂れた。
「オレからもお願いします!プリナ達を引き離さないでやって下さい!」
「そうです!シロップはプリナを守るため以外は決して危害を加えません!いつも一緒の私達が保証します!」
「お願いします!シロップをプリナから離したら、それこそ何をするか分かりません!」
皆も一緒に頭を下げてくれた。
「………………」
「………………」
ロベルト様は迷っているようだった。
小さくてもシロップはドラゴンなんだから当たり前だろう。
でもこれは絶対に譲れない!!!
「………………分かりました」
「えっ」
顔を上げるとロベルト様は苦笑いをしていた。
「私の判断が正しいのかは分かりませんが、確かにお二人の仲を引き裂くような真似は出来ませんし、したくありません」
「ロベルト様…!」
「私もプリナ様やシロップ殿に嫌われたくありませんしね」
「ありがとうございます!!」
「…ただ、公になってしまったら私では庇い切れません。伝説上の希少生物の出現に国も見逃す事はしないでしょう。分かりますね?」
「……はい」
私はシロップをギュッと胸に抱いた。
「私が学園にいる間は何とかします。ですが、もし国の上層部に知れ渡る事になった場合は覚悟を決めて下さい」
「…………分かりました」
その時は村に帰ってシロップにタツノオトシゴに戻ってもらおう!
リボンを我慢してもらってヘビに戻ってもらうんでも良い。
私がシロップを守るんだ!!
「…それにしても、例え身体が小さくなっても、ドラゴンはとても美しいですね」
「はい!とっても優しくて大人しくてとっても良い子です!私の可愛い大切なお友達です!」
「…プリナ様はやはり特別な存在ですね。もしかしたら男爵令嬢よりも」
「はい?」
ロベルト様、私を様呼びするのをいい加減本当に止めて下さい。
「私は普通の平凡な女の子ですよ?」
「プリナ様が平凡な訳がありませんよ!?」
ムム!!聞き捨てならん!!
「実はあれから何度か調査団を派遣して森の聖樹を探しているのですが、一向に辿り着けません」
「!そうなんですか?」
「はい。プリナ様が仰る森の住民にも会えませんでした」
「……………」
「プリナ様がいなければ聖樹を見付ける事が出来ないようです」
「…森の住民達と仲良くなれたら聖樹まで案内してくれるかも知れませんよ?」
「その森の住民がプリナ様以外の人間が近付く事を拒んでいるのでしょう」
「…………」
いつでも私を助けてくれる皆が現れないなら聖樹には辿り着けないだろうな。私も森の住民がいなければ聖樹に出会えないもの。
私は緑の聖樹に近付いて抱き着いた。
「聖樹にも森にも何か意思があるのかも知れませんね」
「…そうですね。恐らく」
「みんなが協力してくれるという事は私は聖樹や精霊の意向に沿ってるのかも知れないですね」
「私もそう思います」
「私達はウィル様、ダニエル様、ロベルト様、シャルル様、セルゲイ様の力になりたいと思います。これからもみんなと一緒に修業を続けましょう」
「はい!勿論です!」
「オレも毎日ここで一緒に修業したいよ」
「うふふ!ウィル様からダニエル様への恨み辛みが手紙に書いてありましたよ!」
「えっ?何で!!?」
「ダニエルばっか学園に行けて狡い、だそうです」
「う…仕方無いじゃんか!ウィルとシャルルは令嬢のお気に入りだし、セルゲイはウィルの護衛だし、ロベルトは忙しいし、オレが一番逃げやすいんだよ!」
「ウィル様とシャルル様2人に世話役を押し付けようとしたと未だに根に持たれてますよ?」
「…それはまぁ…言い訳出来ないけどさ」
そして2人の自由時間ギリギリまで修業を続けて、2人は帰って行った。
2人と別れて寮に戻ると実家のポリーから手紙が届いていた。クロールの仲間が届けてくれたらしい。
「…うわぁ…婚約者との強制的デートの不満がビッチリ書いてある………」
「えーと…「早く結婚して子作りしたい」って言われた!?ゲッ、気持ち悪い!!!」
「ミサキのセクハラよりキツいな…」
「一応親同士が認めた「婚約者」だからなぁ…」
「卒業までにポリーがこの変態ロリコンキモ男から逃げられるように私達も協力しよう!」
「オーッ!!!」
手紙の最後には「王都まで迎えに来て連れ出して!」とポリーからのSOSが書いてあった。
明日は皆でポリーを迎えに王都に行く事に決めた。




