81)貴族のお屋敷へお宅訪問
夏休みに入って数日。
寮生はほとんど帰省して寮全体が静かになった。
私達のような地元が遠い人も長期休暇を利用して帰って行ったので、残っている人は私達平民で交通費が嵩む人や家庭事情で敢えて帰宅しないような貴族位のものだ。
ミサキも護衛に付き添われて王宮に行った。
彼女と顔を合わさずに済むのは気が楽だ!
私達が食堂に移動中に寮を出ていくミサキとバッタリ遭遇してしまった。
ミサキは勝ち誇った顔をしてみせた。
「ねぇねぇ聞いて!エクレアからお泊まりの招待状が届いたよ!皆で来てだって!」
「オレら平民が貴族の家に行っても良いの?」
「手紙には私達全員で大丈夫って書いてあるよ!将来有望な奨学生だって説明したら、家族も歓迎してるって!」
「将来有望とかってプレッシャーだよ…」
「貴族様からのお誘いじゃ断れないよな」
「こんな機会がないと貴族のお屋敷なんて一生ご縁が無いもんね!」
「プリナに負担がかからなければオレは何でも良いよ」
「ふふ、やっぱりカロは私のお母さん目線だね!」
「どこがだよ」
「カロ、頑張れ」
「メリザ!しつこい!」
という訳で。
エクレアが用意してくれた馬車で皆でお泊まりに行くことになりました!
馬車2台で迎えに来てくれて、女子と男子に別れて乗って、学園から30分位馬車に揺られて着いた先には大豪邸!
「うわぁ~お城だぁ!」
「エクレアはお嬢様だったんだよなぁ…」
「ホテルやれるよね?」
「スタッフ何人位雇ってるんだろう…」
応接間まで何人もの従者さんやメイドさんに案内された。
「お嬢様がお見えになりました」
「みんな、いらっしゃい!!」
「お嬢様?」
「!…失礼しました。皆さまようこそいらっしゃいました」
「あ、えっと、お招きありがとうございます!ご厄介になります!」
「よろしくお願いします」
召使い達がお茶を置いて退室すると緊張が溶けた。
「エクレア!すっごいお家だね!」
「領地の本宅の方がもっと大きいよ。でも家より大きな家はいくらでもあるよ?」
「さすが貴族…」
「ご両親は?」
「今日は夫婦で外出中なの。夕食には帰って来るからその時に紹介するよ。じゃあ、部屋に案内するね!」
私達はそれぞれ客間を用意されていた。
「みんなと一緒で良いのに…」
「そういう訳にもいかないのよ」
どこも寮のエクレアの部屋よりも更に豪華で超一流ホテルみたいだ(泊まった事ないけど)。
荷物は従者さんに既に運び込まれていて特に何かする必要もなく、皆でお庭でお茶会をした。
『エクレアはご兄弟はいるの?』
『今は領地に行ってる兄が1人。だから気楽に過ごしてね!』
口調こそ雑だけれど、こうしてお屋敷で優雅にお茶を楽しむ姿は貴族令嬢そのもの。
『あ、そうだ。エクレアにやっと紹介出来るよ!はい、この子がシロップです!シロップ、エクレアだよ!』
私はポケットからシロップを出して紹介した。
シロップは翼を広げてカーテシーのようにお辞儀して挨拶した。何て可愛いの!!
『………シロップってヘビって言ってなかった?どう見ても竜だよね?』
『うん!こないだ脱皮したんだ!』
『ヘビが脱皮して竜になるかっつーのっ!!』
エクレアにこれまでの経緯を全部話した。エクレアは森に入った事がなかったから森の住民とは初対面だ。
『…私、爬虫類は苦手なんだけど』
『ドラゴンは爬虫類なの?』
『おお~ざっぱに言えばトカゲの仲間なんじゃね?』
『タツノオトシゴは爬虫類だった?』
『タツノオトシゴは違うね…』
『もう!シロップはシロップ!分類なんてする必要ないんだから!』
私はシロップを胸に抱き締めた。
『…ま、いいや!シロップね、私はエクレアよ!プリナの友達。よろしくね!』
2人は友達になった。
『…オレ、エクレアのその大雑把なところ好きだよ』
『あら?イルク、ありがとう。誉め言葉として受け取っておく』
それからロベルト様から聞いた話をした。
『うわっ!何、あの性悪女、ウィル様とシャルル様をご指名とか図々しいにも程がある!!』
『2人とも断ったよ?』
『ざまぁ!!』
『でも何かご機嫌損ねたみたいで、ウィル様達で相談して5人日替わりでミサキの相手を務めるみたいだよ』
『うわぁ~気の毒に!』
『ロベルト様の話だと、シャルル様がメッチャ嫌がったらしいよ?』
『あ~そりゃそーだ!唯一同じクラスで性悪女の日頃の行いを見てきてるからね!』
『何かロベルト様もさらっとミサキの悪口言ってなかった?』
『言ってたかも』
『攻略キャラ全員に嫌われる主人公か!!マジでウケる!!』
『…でもこれで誰のルートにも入らなかった事になるね』
『逆ハーレムエンドなんてゲームにあった?』
『無いね』
『だよね?これからどうなるんだろう?』
『ミサキは攻略キャラ全員と修業する訳なんだよね?』
『ロベルト様がそう言ってたよ。ミサキは国の重要人物かも知れないから彼女の意向を汲まないとって。こないだ王宮に行ったの。夏休み中はずっと王宮で調査するらしいよ』
『ゲームだとどんな修業するか知ってる?』
『細かくは知らないなぁ。「辛いレッスンも大好きな彼と一緒だから大丈夫☆」って感じで、いかにキャラの好感度を上げるか?ってシナリオだったもの』
『好感度、上がるかねぇ………』
『王子様達に勇者になってもらうには、私達はこれから何をしたら良いと思う?』
『性悪女と一緒に修業して彼ら自身にも精霊の力を借りる感覚を身に付けてもらうしかないんじゃないの?』
『なるほど…』
『性悪女が少しでも性格の歪みを無くして立派な「精霊の御遣い」になってくれれば良いけどな』
皆で溜め息を着いた。
「お嬢様。旦那様がお帰りになられました」
メイドさんが声を掛けて知らせてくれた。
「分かったわ。ありがとう。では皆さん、室内に戻りましょうか」
「その必要はないよ」
「!お父様!お母様!」
「!!!」
私達のところに立派な身なりをした男性とエクレアによく似た貴婦人が近付いて来た。
「ようこそ。娘が世話になってるようだね。私がこの家の主人、ローレンガルム伯爵だ、こちらは妻のローレンガルム伯爵夫人」
「ようこそ。ご挨拶が遅れてごめんなさいね。エクレアの母ショコラですわ。エクレアと仲良くしてくれてありがとう」
「こちらこそ!いつもエクレア様には本当にお世話になってます!エクレア様は本当にお優しくて私達をいつも助けてくれて、皆の憧れなんです!」
ローレンガルム伯爵ご夫妻はとても優しい笑顔を見せた。
「エクレアが自宅に戻ってきたら驚いたよ。明るくなって堂々として。以前は内気で控え目でいつもシルバードレット公爵令嬢の影に隠れているような娘だったのだが」
「ふふふ、本当に。先日お茶会でシルバードレット公爵夫人とお会いしたのですけれど、公爵令嬢も寮から帰宅されたら雰囲気がとても穏やかに変わっていて大変驚かれたそうよ。何でも平民の子にとても良くしてもらったと話していらしたそうですわ」
「この方達は成績優秀で、とても努力家で、とても気持ちの温かい方々ばかりですの」
「あの公爵令嬢を変えた者達だ。会えるのをとても楽しみにしていたんだよ」
「お…畏れ多い事にございます…」
「はは、そんなに緊張しなくても良いよ。娘の大切な友人なんだ、どうぞ寛いでくれ」
「…は、はい!」
それから全員自己紹介して、ご夫妻は邸に戻って行った。
『とても優しそうなご両親だね!』
『まあね。家は平民教育に力をいれてるし、割りとフランクな人達だから』
『エクレアの家族が良い人達で良かった!』
『ありがとう。前世よりも家族に恵まれたかもね』
『私達も部屋に戻ろうか。食事の時間になったら呼ぶから、それまでユックリ過ごしてね』
『エクレア、プリナが怪我してるんだけど部屋までオレが運んじゃダメかな?』
『カロったら、多少動くのは問題ないってば!人前で抱っこするのは禁止!』
『侍従を呼ぼうか?』
『ううん!大丈夫!肋骨にひびが入ってるだけだから!』
『ひび!?それを早く言いなさいよ!!』
『今日はコルセット着けてきたし本当に大丈夫だから!』
『プリナは私達が支えるから大丈夫だよ、エクレア』
『本当?何かあったら言いなさいよ?』
『うん!ありがとう』
エクレアが両親に愛されているのが伝わった。
親子でいる姿を見て、私もちょっとだけ家族に会いたい気持ちが強くなった。




