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そこそこな幸せで十分です  作者: 蒼川りこ
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79)シロップと私の願い

その日の午後、約束通り森へ向かった。


「ロベルト様、その日の内によく調整がつきましたね」

「今日を逃すとかえって都合が付けられなかったんですよ。これから学園に来るのも難しくなりますから」

「そうなんですか…」


沼に着いていつものようにシロップを呼んだ。


「シロップ!会いに来たよ~!いる~?」


声を掛けて直ぐにシロップが水面から顔を出してくれた。


「やっぱりちっちゃいね~体がキツキツでしょう?」


大きくなったシロップには沼はお風呂位の広さでしかない。泳ぐのは無理そうだ。


「ね?ロベルト様。シロップには小さすぎて」

「…本当にドラゴンだ!!!本物だ…!!!」


ロベルト様はシロップに感動していた。

この世界でもドラゴンは伝説上の生物だって言ってたもんね。そりゃそうか。


「シロップ、沼から上がってこれる?」


私がシロップの頭を撫でながらお願いすると、シロップは沼から出てきて私に抱き着いてきた。


「あのね、シロップの体だと沼は狭くて辛いでしょ?だからもっと広い場所にお引っ越ししようね!」

「シロップもノビノビ泳ぎたいよな?」

「ここじゃ手狭だもんな」


皆もシロップの体を撫でながら説得する。


「ロベルト様。シロップの良い引っ越し先はありますか?」


ようやく感動が落ち着いた様子のロベルト様に聞いてみた。


「…そうですね…。あるにはあるのですが、この大きさですと学園から離れた湖がよろしいかと」

「えっ!?この森にはないんですか!?」


シロップと離ればなれになっちゃうの!?

直ぐに会いに行けなくなるの!?


私の動揺が伝わってしまったみたいでシロップは震えて私にしがみついて来た。


「ドラゴンは伝説の生き物だと言いましたよね?シロップは大変貴重なんです。今後は王国で管理していくことになるでしょう」

「!!?」


会いに行けなくなるだけじゃないの!?

国で管理なんてシロップを何処かに閉じ込める事になるんじゃないの!?


「…嫌です」

「プリナさんのお気持ちは分かります。ですが伝説上にしか存在しないはずのドラゴンがこの国に現れたのです。国として放っておけるはずがありません」

「……………」

「プリナさん、このドラゴンが危険ではないと言い切れますか?」

「……シロップは大人しくてとっても良い子です。悪い事なんかしません」

「それは大蛇だった時の話でしょう?今は歴史上にも存在しなかったドラゴンですよ?ドラゴンの生態など誰も知らないんです」

「………嫌です。離れたくありません」

「プリナさん…」

「プリナ…」


ロベルト様の言いたい事は分かる。わかるけど。


…嫌だ!!!


シロップはただリボンを失くさないように、おててが欲しかっただけ。

私のために手足と角を手に入れてくれただけなのに。


「シロップ…離れたくないよぉ…!ずっとずっと一緒にいたいよぉ…!!」


私はシロップと抱き合ってワンワン泣いた。


離れたくない。


シロップが前みたくちっちゃくなれば良いのに。

そしたら誰にも見せないで、ずっと私の側において、ずっとずっと一緒にいるのに。


シロップがちっちゃかったら…!!!



私の腕の中でシロップがまた震え出した。


「!?シロップ!?どうしたの!?怖いの!?痛いの!?」


シロップは昨日のように暴れ出した。

大きな身体で地面をのたうち回ると地響きがして森全体が揺れる。立っていられなかった。


「また地震…!」

「プリナ!!またシロップは脱皮するのか!?」

「!!分からない!!」


大暴れするシロップに必死にしがみつく。私も地面に何度も叩き付けられた!!


「…っ!!」

「プリナ!?シロップから離れて!!」

「プリナ!!逃げろ!!」


嫌だ!!離れるもんか!!!


何度も体が宙に浮いては地面に叩き付けられるのを繰り返していると、シロップの身体が光り出した。


「…シロップ…」


また大きくなっちゃうの…?

どんな大きさだって良いけれど、シロップと一緒にいられなくなるのは嫌だよ…!



辺り一面が眩しい光に包まれた。




しばらくして光が収まったので、恐る恐る目を開けると…


ドラゴンは居なくなっていた。



「シロップ……?シロップ!?」


居ない!何処にも!!

辺りを見渡すけれど、何処にも居ない!!


「プリナ…大丈夫か…?」


カロに抱き起こされる。

身体中が痛い。

でもそれどころじゃない!!


「シロップ!!シロップ!!シロップ!!!」


必死に叫んでシロップを探した。


シロップ!!

シロップ!!

シロップ!!!





居た!!!


良かったぁ……………



「えっ、これがシロップ…?」

「マジか………」

「シロップ………これならずっと一緒にいられるね………!」




私は首にリボンを巻いた真っ白なタツノオトシゴをそっと手のひらに乗せて胸に抱き締めた。








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