7)いざ、王都へ
領主様が用意してくれた馬車は豪華な二頭立てだった。前世で一度生で見たサラブレッドとは違い足は太く短くドッシリした体格だった。サラブレッドは見た目重視で人間が品種改良したんだったっけ…。でも目の前の馬が美しさで劣るとは思わなかった。
「はじめまして。こんな重い荷物引っ張って遠くまで運ぶのはしんどいだろうけど、どうぞよろしくね」
馬に近寄って挨拶すると二頭とも頭を下げて撫でさせてくれた。可愛い。間近で見るとやっぱり大きいけれど怖くはなかった。馬って睫毛が長くて優しい顔をしてるのね。御者のおじさんがリンゴを持って話し掛けて来てくれた。
「お嬢ちゃんは馬を見るのは初めて?」
「うん、近くで見るのは初めて。馬ってこんなに綺麗なんだね。この子達名前は何て言うの?」
「栗毛がウルで雄、黒毛がスアで牝だよ」
「この子達は恋人同士だったりする?」
私が言うとおじさんはガハハ、と大笑いして
「馬が恋人って、お嬢ちゃん面白いね~!スアはウチの馬の中で一番の力持ちで近寄る雄馬を後ろ足で蹴り飛ばしちまうとんだじゃじゃ馬だけど人間の言うことはよく聞く良い子だ。でも馬の後ろに立つのは危険だから気を付けてな」
私は頷いておじさんからリンゴを受け取りウルにあげると美味しそうに食べた。
「ウルは気が優しくて力持ちって感じね!仲良くしてね!」
首辺りを撫でると犬のように長い尻尾を振ってくれた。それからスアにもリンゴをあげると同じように喜んで食べてくれた。
「スアは女の子なんだね!女の子なのに力仕事なんて強くてカッコいいね!女の子同士よろしくね!」
スアはリンゴを食べ終わると頭を私の肩に寄せてスリスリ甘える仕草をしてくれる。近くで様子を見守っていたおじさんが
「スアが懐くなんて珍しい事もあるもんだな。お嬢ちゃんは馬に好かれる性質なのかもな」
「えっホント?そうだったら嬉しいな」
馬への挨拶を済ませて馬車に乗る。テガーさんが先に乗って手を差し伸べてくれて(まるで貴族のお嬢様みたい~!)とエスコート慣れしてない私はメッチャときめいた。姉の婚約者でなかったら恋に落ちてたかも☆
馬車が動き出して王都までの旅が始まった。最初こそ快適だったけれど、舗装されていない道を走るので振動がとにかく凄い。夕方最初の宿屋に着く頃にはお尻が痛くて歩くのも辛かった。これがあと4日も続くのか…。3日目以降は大きな街道に入るからマシになるそうだけれど馬車での長距離移動はマジキツい。最初は村から出る事にワクワクして窓から外を眺めていたけれど黄金色に輝く麦畑の景色がひたすら続くので途中で飽きたし。大人達の会話を邪魔するのは気が引けたし女の子の私は1人部屋なので食事後は馬小屋で過ごすことにした。馬番の人に教わりながらブラッシングしたりしているとテガーさんが呼びに来てくれたので部屋に戻りベッドに入ったら直ぐに眠りに落ちた。
3日目にもなると移動にも慣れてきて車内でうたた寝出来るようになった。毎晩馬達と過ごす事で更に仲良くなれたのだが、ここの宿で馬を交代する予定がスアが嫌がり暴れて取止めになってしまった。
「スアはお嬢ちゃんが大好きで最後まで走りたいんだって。ペースは落ちるけどそれでも良いかい?」
宥めるのを諦めたおじさんに聞かれたので私は勿論了承した。他の人達は早く王都に着きたかったみたいだけれどスアを諌めるのは難しかったし一緒にいたいと言ってくれる可愛い子のお願いを誰が嫌がると言うのか!!拒むことなんて出来るか!!私のマントを咥えて離さないスアの意思を受け入れて王都まで走らせる事になった。ウルは疲労が見えたので交代させる事にした。
それ以降は街道に入ったから快適になったし景色も建物が並び行き交う馬車も増えてきたので道中も楽しめるようになってきた。ちなみにどの宿屋の馬小屋でもスアが嫉妬する位他の馬達にも懐かれた。私ってば本当に馬に好かれる才能があるのかも!動物に懐かれるのって凄く嬉しい!!
そしてヒルド村を出て7日目。予定より日数をかけてついに学校のある王都エラドニールに到着した。
さすがに国一番の街は立派な建物が建ち並んでいて前世でテレビで見たビバリーヒルズみたいな感じ?1つ1つの豪華な建物があり、高級そうなお店が並ぶ。更に進むと城下町らしく人も多く村人とは違って色鮮やかでオシャレな装いにビックリした。学校は制服があるのでごまかせるけれど私が持ってきた普段着じゃ出歩けそうにないわ…。とかどうでもいい心配をしていると、ようやく王立学校に着いた。車窓から(あれが王様のいるお城かな?)と思っていた建物が学校だったらしい。テガーさんは保護者として、領都の世話役の人が手続きをするためにここまで付き合って下さっていたのだ。お二人は王都の宿屋で2泊してから帰るらしい。本当は王都でもっと長く過ごす予定だったそうだけれど到着が大幅に遅れたためだ。もっとスアを休ませてあげたいけれど世話役の方の仕事の都合もあり余裕があまり無いとの事で私のワガママのせいで本当に申し訳ない…。
事務棟の玄関でお二人とはお別れした。本当に良い人達で道中も不安なく過ごせた。スアにお礼を言って別れの挨拶を済ませて、お二人に心から感謝の気持ちを伝えて握手した後お二人は馬車に乗って去って行った。お二人とも最後は笑顔で私の頭を撫でて「頑張ってね」と励ましてくれた。
馬車が見えなくなるまで見送っていると手続きしてくれた学校の職員さんから声がかかった。
「それではこれから生活する寮までご案内します」
「はい。よろしくお願いします」
いよいよ学校生活スタートだ!!