63)ターゲットは誰か
「…うん、とても優雅になったね。姿勢も良いよ」
「ありがとうございます!シャルル様の教え方が上手なお陰です」
「違うよ。プリナが頑張ったからだよ。こうしてプリナと踊っているとダンスはとても楽しいものなんだと分かるよ」
「私もダンスが楽しくなりました!」
「フフ、僕がプリナのパートナーになってウィル達には毎回ヤキモチ焼かれてるんだ。同じクラスだったら自分もパートナーに立候補出来たのに、ってね」
「うふふ、私ってばモテモテですね!皆から嫉妬されちゃいますね!」
「プリナは可愛くて良い子だからね、僕の方が周りから妬かれてると思うよ?」
「もう、何言ってるんですか~!シャルル様は皆の憧れなんですよ?」
今ではダンスしながらお喋り出来るようにまで上達した。何と言ってもシャルル様がとても上手にリードしてくれるから!事前のキャラ情報ではオレ様だと聞いてたのに全然違うよ!?
「僕は今でもトレーニングを続けてるんだ。もうプリナを抱き上げて歩けるよ。筋力が付いた事で自分に自信が持てたし体力も増えて疲れにくくなったんだ。これも全部プリナのお陰だ」
「シャルル様が頑張ったからですよ!では今度森に行った時はシャルル様に運んでもらおうかな?なんて」
「任せて!僕が前と違うところを見せてあげるよ」
「はい、そこまでです。皆さんとても上達されましたね」
音楽が終わり皆が動きを止めた。
私は礼をしてシャルル様から離れた。
「プリナ、お疲れ~」
「本当にキレイだったよ!最初は1人その場で踏み台昇降してるみたいだったのに」
「そうそう!足の運びに気を取られて1人で軍隊の行進練習してるみたいだったもんね!」
「……うん、頑張ったの」
2人の比喩は酷い。褒めてくれてるハズなんだけど嬉しくない。
ダンスの授業が終わってシャワールームへ向かう。汗の臭いを嫌う令嬢達は湯浴みの時間だ。私達平民はシャワー浴びて済ませちゃうけれど。この世界にはデオドラント剤なんてモノは無いのだ。ま、汗を流しちゃうのが一番だしね。
「はぁ~サッパリした!フルーツ牛乳飲みたいなぁ」
「フルーツ牛乳?何それ?」
「銭湯に行くと売ってるんだよ。メリザとポリーは前世で行かなかった?」
「銭湯?スーパー銭湯なら行ったことあるよ!でもフルーツ牛乳なんてあったかなぁ」
「私は一度もないよ。他人と一緒にお風呂に入るなんて出来ないよ!!」
「温泉も無理なの?修学旅行とかはどうしてたの?」
「温泉は部屋に付いてるお風呂に入ったよ。修学旅行は先生に頼んで部屋のシャワー使わせてもらったな」
「………私達と一緒でも無理そう?」
「え、プリナ達と!?…良いな、楽しそう!!」
「前にイルクの地元には温泉があるって聞いたんだ!皆で押し掛けて一緒に入ろうよ!」
「えぇ!男子と!?いきなりハードル高いよ!!」
「この国は水着で皆で温泉に入るみたいだよ。プールだと思えば良いよ」
「プールか…水着なんて恥ずかしい…」
「今度イルクに詳しく聞いてみよう!男女別風呂があるかも知れないし」
着替えが終わってロッカーの片付けをしていると
「!!プリナ!!背中!!」
「!?プリナ!!直ぐに制服脱いで!!」
「どうしたの?」
「早く早く!!」
私は2人に言われてジャケットを脱ぐと、背中にベッタリと泥が付いていた。
「うわぁ~やられた!……良かった、乾いてる」
泥が乾いていたお陰で髪にはほとんど付着しなかったみたい。シャワーを浴びるのに髪をアップに纏めといて良かった!頭を振ると毛先からほんの少しパラパラと土が落ちた。
「…誰がこんなゲスじみた事やったんだろう…」
「ずっと嫌がらせは落ち着いてたのにね」
「プリナ?もっと怒って良いんだよ!?」
「うーん。まぁ土なら落とせるし。ペンキとかじゃなくて良かったよ」
今の時間にシャワールームを使用したのは平民の私達3人だけ。貴重品もないのでロッカーに鍵は付いていない。
「皆ダンスの授業だったんだから少なくともクラスメートには出来ないよね?でもこのジャケットが私のだと分かってやったのかな?」
「…私達の誰でも良かったのかも知れないってこと?」
「…うん。今回は私がっていうよりも平民女子が嫌いな人なのかも知れないと思って」
「…そっか。今はダンスの授業だったし、私達全員が高位貴族の男子とペア組んでるから、その事を妬んだ人間がやったのかも知れないってことね?」
「…その可能性もあるかなって」
「超ムカつく」
「だね」
気温が高くなって来たのでジャケット無しでも大丈夫だけれど、やっぱり気分の良いものではない。
私は2人を見た。2人とも怒りを露にしてる。私は何度も悪意を向けられて来たけれど2人は初めてだ。
被害が私だけで本当に良かった。
「せっかく夏休みの計画を立てようと思ってたのに…」
私は重い足取りでクリーニングへと向かった。
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