62)学生生活満喫中
ガブリエラと和解してから環境は更に良くなった。ガブリエラは会えば「ごきげんよう」と挨拶してくれるようになって、取り巻き達もボスの態度の変わりようにオロオロして私に悪態をつかなくなった。
私を罠に嵌めた女の子は慇懃無礼に接してくるけれど直接的な行動はなかったし、ミサキは宣言通り私に関わって来なかった。
最近は5人揃って過ごす時間は減ってきた。
メリザは浴衣作りに励んで自室に籠る事が増えたし、イルクは授業で出会ったサックスが楽しくて仕方ないらしく暇さえあれば練習している。
ポリーとカロは出来るだけ私といるようにしてくれているけれど、もし他にやりたい事が見付かったなら私を気にせず打ち込んで欲しいと思う。
「じゃーん!これが私の傑作でーす!」
ダニエル様と私の絵がようやく完成したので今日は皆にお披露目。
「わぁ!綺麗な絵だね!」
「プリナ…。すごく素敵だよ」
「…良い絵だな」
「うん、とっても!プリナは絵の才能があったんだね!」
「素晴らしい絵だ」
「エヘヘ、皆さんありがとう」
「これは森の木々を描いたの?」
「カエルだよ」
「…………………………は?」
「だから、カエル。前に緑の聖樹の側でキレイな緑色のカエルを見付けたの」
「……カエル?」
「だからそうだって」
「………カエル」
「……じゃ、じゃあ、こっちの絵は?夕焼け空かなって思ったんだけど…」
「てんとう虫」
「……………………………………はぁ?」
「うふふ、こっちはね、こないだ窓からてんとう虫が入ってきてね、キレイなオレンジ色の水玉だったから描いてみたの」
「……えーと、じゃこっちの幻想的なやつは?」
「それはね、トンボ!」
「………………」
「こないだ森でトンボが沢山飛んでて、指でグルグルしたら私の目が回っちゃって。トンボの瞳と私の気持ちをモチーフにしました!モチーフよ、モチーフ!えへん!」
「………………」
「………………題材さえ聞かなければどれも名画だと思えるのに…」
「なんて残念な思考なんだ…!!」
「プリナ…。絵にタイトルは付けるなよ?」
「どうして?」
「タイトル付けるなら敢えて「無題」にしろ。見た人間に想像させるんだ。良いか?」
「何それ!ステキ!大昔の映画スターも「考えるな、感じろ」って言ってたもんね!」
「前世の教師の苦労が手に取るように分かる…」
「ダニエル様の絵は…えーと、ライオン?」
「前に馬だと言っただろーが!」
「えぇ!?だって立て髪がありますよ!?」
「馬にもあるだろ!?…どーせオレは絵がヘタだよ!!チクショーめ!!」
「ダニエル様ぁ、拗ねないで!私が悪かったです!ごめんなさい!」
「どーせオレの絵なんてゴミですよ!タイトルは「駄作」ですよ~だ!!」
「もぉ~ダニエル様!いじけないで!!」
「…どっちもどっちだな」
音楽の授業中。
最近は合奏が増えてきた。秋の学園創立祭で演奏するんだとか。出番が2回しかない銅鑼の私は暇でしょうがない。かといって個人練習中も周りから「うるさい」と言われてしまって銅鑼を鳴らす事が出来ず、手持ち無沙汰だ。
「つまんな~い。私も練習した~い…」
「プリナ、これやってみる?」
横でトランペットの練習中のカロが何かを差し出して来た。
「これなあに?」
「マッピ」
「えっと…ネズミのおまわりさん?」
「…これがネズミに見えるならそうかもな」
「何だろう?ネズミには見えないね…」
「マウスピースだよ。これだけで音が出せるようになれば吹けるようになるから。持ち歩けるから練習してみ」
私は教えられた通りマウスピースを吹いてみた。
「……音が出ないよ?」
「だから練習するんだよ。貸して」
カロがマウスピースを吹くとちゃんとメロディが聴こえる!
「何で!?これボタンも何も無いのに!!」
「練習すれば出来るようになるんだよ。これが吹けるようになったらプリナも一緒にトランペットやろう」
「!うん!!」
私も楽器が出来るようになりたい!!
いつかカロと一緒にトランペットが演奏出来るように頑張ろう!
個人練習時間は1人でマウスピースで練習するようになった。
今日はポリー、カロと一緒に森へお散歩。
最近はボディーガードのネズミ達が一緒なので沼までなら1人で行っても良いと皆が許可してくれているので誰かと行くのは久々だ。
「シロップ!クロール!遊びに来たよ~!」
「カアカア」
私が呼ぶといつもと同じようにシロップが沼から出てきてくれる。クロールも直ぐに飛んできてくれた。
「今日はね、シロップの新しいリボンを持ってきたんだよ!クロールの分もあるよ!」
「カア!」
「クロールも綺麗な色のリボンが欲しいって言ってるね」
「そうなの!シロップもクロールもどんな色でも似合うから迷っちゃって!」
あれからポリーもイルクも森の住民の言いたい事が何となく分かるようになっていた。カロだけは未だ分からないらしくて凄く悔しそうだ。
私が沼の畔でマウスピースを取り出して練習を始めると音を聞き付けてミドリーノがやって来た。
「あ、ミドリーノ!こんにちは!…あら?」
ミドリーノは側に一回り小さなイグアナを連れてきていた。
「あらあらあら、ミドリーノの彼女さん?ふふ、ミドリーノも隅に置けないわね~!彼女さん、こんにちは!」
小さなイグアナは小さくお辞儀してくれた。
「ミドリーノのお友達ならあなたにもお名前付けたいなって思うんだけど…良いかな?」
彼女は今度は大きく頷いてくれた。
「ありがとう!…じゃあね…あなたはミドリーノより肌の色が薄いから…キミドリーナはどう?」
彼女はさっきよりも大きく頷いてくれた!
「ホント?気に入ってくれたの?良かった!」
「うふふ、プリナに名付けてもらえて嬉しいって言ってるね!」
「なんで直ぐにメスだと分かるんだよ…」
「…どうしてオレだけ皆の言葉が分からないんだ…」
カロがシロップに抱き着いて愚痴ってる。1人置いてけぼりで寂しいらしい。
「カロは一番リアリストなんだよ」
「え?」
「カロはさ、心のどこかで「あり得ない」とか「こんなこと起こる訳がない」とか否定してるんだと思うよ?だから皆の気持ちを理解出来ないの。私やプリナみたいに素直に受け入れたらきっと分かるようになるよ」
「……悔しいけどポリーの言う通りかもな」
カロはシロップに巻き付かれながら
「オレもシロップやクロール、ミドリーノ達と友達になりたいと思ってるよ。ちゃんと理解してやれなくてごめんな」
シロップがカロをぎゅうぎゅう抱き締めた。
「!そうか!ありがとう!オレもシロップが大好きだよ!」
「…カロ。今ちゃんとシロップの言葉が理解出来たんだね!」
「え?…ああ!本当だ…何となく伝わった…!」
「うふふふふ。カロもシロップも良かったねぇ」
私はシロップの頭を撫でる。
「ん?シロップの頭のコブが大きくなってる!?…よく見ると肌もガサガサ!!シロップの玉の肌が…!!どうしよう!!病気かも!!」
「…プリナ、落ち着け。シロップは元気だって言ってるだろ?病気じゃない」
「でも前はこんなことなかったのに…!」
ポリーもシロップの側にやって来てシロップの身体を撫でる。
「…これ、鱗じゃない?」
「鱗?シロップは出会った時からツヤツヤもち肌だよ!?鱗なんてあるわけないよ!!」
「手足だってなかっただろ?」
「う…そうだけど」
「…頭のこれも絶対角だって」
「ヘビに角なんてないでしょ!?」
「ヘビには手足もありません」
「む……」
私はカロに巻き付いてるシロップに抱き着いた。
「シロップが病気じゃないなら何でも良いよ…。どんな姿だろうがシロップはシロップ。私の友達だよ!」
シロップは嬉しそうに私に頬擦りしてくれた。
もしかしたらシロップはまた脱皮するのかも。だから肌がガサガサなのかも!今度はどのくらい大きく成長するのかな…。
「プリナ、そろそろ寮に帰ろうか。ナナが留守番させてる子ども達が心配だってさ。ニーナが体調悪いんだって」
「そうだね、分かった。帰ろう」
「プリナ、ミドリーノがキミドリーナとペアでリボンを付けて欲しいって!」
「ふふ、りょーかい!」
「お?プリナ、クロールも今度ガールフレンド連れてきたいと言ってるぞ?」
「うふふ、大歓迎だよ!」
今日もカロとポリーと手を繋いで寮に帰る。
「…エクレアも森に来てくれれば良いのになぁ。皆を紹介したいよ」
「プリナが何度誘っても「かの子なら喜んで着いて行くけどエクレアは貴族令嬢だから馬車も使わず森に入るなんて無理!」だもんね」
「こないだ久々のウィル様達との食事会に誘った時も「エクレアは脇役だから!攻略キャラと親しくなるなんてムリー!!」って言って断られちゃったよ」
「エクレアはどんどん「かの子」に侵食されてるよな」
「生きてる人間に主役も脇役もないのにね」
もうすぐ森の出口に着く。
「…カロも皆とお話し出来るようになって良かったね」
「ああ!本当に良かったよ!!」
カロのものすごく嬉しそうな笑顔を見て私も嬉しくなる。
カロは笑顔が似合うね。
これからもずっと笑っていてね。
今日も幸せな1日が暮れていく。




