62)悪役令嬢の懺悔
テストが終わって平穏な日常に戻った。
私が事件に巻き込まれてからエクレアやシャルル様もガードしてくれるようになって嫌がらせも無くなった!
エクレアは私を皆の前で庇って友達宣言した事で人望が集まり、更に私達と話してるうちに前世のかの子の性格に引き摺られてハッキリ物を言うようになって姐御キャラに変貌してしまった。「エクレア」はこんなキャラじゃないのに…、と本人はブツブツ言ってるけど。以前はガブリエラの陰に隠れてオドオドして印象の薄いコだった(貴族令嬢の証言)のが今は性別問わず慕われている。
ウィル様は社交界デビューを控えていて益々忙しくなってしまい食事会もご無沙汰だ。会えば笑顔で必ず声を掛けてくれるけれど少し窶れた気がする。
貴族の子達も社交界デビューする人も出てきてダンスの授業が始まった。ペアを組む際に「平民となんか組めるか!」と貴族から不満が上がった時にエクレアとシャルル様が真っ先に名乗り出てくれた。
私はシャルル様、メリザは侯爵子息、ポリーは何と公爵子息とペアが決まった。さすが高位貴族は器の大きさが違うね!ちなみにカロはエクレア、イルクはエクレアと仲の良い伯爵令嬢とペアになった。
貴族は子どもの頃からダンスの練習をしてるけど私達平民は初心者だからね!ダンスの上手い人と組むように言ったのはかりんとう先生。高位貴族とペアを組みたかった他の生徒達はキーキー文句を言っていたけれど。
「プリナ、ダンスしてる時はちゃんと顔を上げて」
「はい…!」
今日もシャルル様にダンスを教わる。ダンスって顔が近くて恥ずかしい!間近にキラキラしたシャルル様の笑顔があって真っ赤になってしまう…。皆はどうして平気なの?慣れるモンなのかな?
カロはエクレアに超スパルタ指導をされているけれど、他のメンバーは良いパートナーに恵まれて練習も楽しそう!
イルクは家業で鍛えた体と小麦色の顔が貴族子息にはない精悍さがあって実は密かに女の子達に人気があったみたいだ。カロは今じゃ私のお母さんキャラだからなぁ…。面倒見が良くてリーダータイプだから男子からの人気はあるけれど。
そんな感じで身分の差を越えた友達も増えて充実した日々を過ごしていたある日。
「プリナ・リンカさん、2人でお話ししたいのですけれど、少しお時間頂けますか?」
私達がラウンジでお茶しているところにガブリエラが声を掛けて来た。ガブリエラとは私が説教?して以来で、向こうはずっと私を避けてる様子だったのに。
「すみません。プリナと2人きりにすることは出来ません」
即座にカロが断った。
「…問題があったことはお聞きしております。あなた方は隣のテーブルに移動して頂けますか?私に付き添う者達は下がらせますので」
私は彼女の申し出を受け入れて、皆に隣のテーブルに移動してもらった。
「…えーと、お話と言うのは…」
キレられるのかな?ガブリエラは思い詰めたような表情に見える。緊張する…。
「…以前あなたに言われました事を私なりに考えてみましたわ」
「…」
「あなたが仰った遠い異国の昔話は貴族の身としてとても身につまされるものでした」
「……そうです、か」
「ですが、あなたに言われて初めて貴族があるべき姿を省みる事が出来たのです」
「………え?」
「あなたの仰る通り、私達貴族は領民によって支えられているのですね」
「…………」
「領民…いえ国民が豊かだからこそ国が栄える。あなたのお話は尊い真実であると感じました」
「…………」
「私は貴族であることを驕っていたのですわ」
「!」
「私は未来の王妃となるために生まれた時から厳しく教育されて参りました」
「…………」
「ですが国を支えるという事の本当の意味はあなたに教わったのだと思います」
「…そ、そんな大層ことは…!」
してないって言おうとしたけれどガブリエラは頚を小さく振った。
「あなたには感謝しておりますわ。私は自分がいかに傲慢だったかを痛感いたしましたの」
「…………」
「私はウィリアム殿下をお支えするべく殿下に相応しい人間であろうと努めて参りましたが、私はただ自分の理想を殿下に押し付けていただけなのだと今なら分かります」
「………ガブリエラ様」
「殿下があなたと共にいる時の笑顔は私が今まで見たことがないものでした。…ですから嫉妬してしまいましたの」
「……ガブリエラ様はウィル様の事はお好きですか…?」
ガブリエラは柔らかい笑顔を見せて頷いた。
「私は10歳で第一王子殿下に婚約を解消され同時にウィリアム殿下と婚約いたしました。その時から私は殿下のためだけに生きて参りました」
「…………」
「王家との政略結婚なのは事実ですけれど…私は10歳で初めて殿下とお会いしてからずっとお慕いしております」
「…………そうなんですね」
「ですが殿下は…私のことなど興味がなく目を向けて下さる事はございませんでしたわ」
「……………」
「殿下にしてみれば私など兄君から押し付けられた婚約者に過ぎないのでしょうね」
「……………」
私は何も言えなくて沈黙が流れる。
「あなたはエクレア様と親しくされているのですか?」
「えっ?あ…はい。エクレア様とは仲良くさせて頂いてます…」
「エクレア様はいつもご自分の意見を言わず、ただ私に着いてくるだけの方だと思っておりましたが…違ったのですね」
「エクレア様は身分に拘らず皆に優しくて思いやりのある方ですよ」
「えぇ、そうなんでしょうね…。私はエクレア様のお人柄に気付けませんでしたわ」
悪役令嬢だとずっと思っていたけれど、ガブリエラはこんなに優しい表情が出来る人だったんだね。エクレアにも教えてあげたい。
「…あなたは以前誘拐され監禁された事があると耳にいたしました。…あなたは私が仕組んだ事だと思っていらっしゃるのかしら?」
「……いいえ。ガブリエラ様は高潔な方だと思います。そんな悪事に手を染めるような事はなさらないと思います」
「……そう」
「はい。それに…私はウィル様の友人です。私に何かあったらウィル様はきっとガブリエラ様を許さない。ガブリエラ様はそんなウィル様に嫌われるような事はしないと思います」
「………そう、ですか」
ガブリエラは少しの間目を閉じて俯いて、それからゆっくり顔を上げた。
「信じて下さってありがとうございます。あなたの仰る通り、私はたとえあなたがどんなに憎くても人を陥れるような真似はいたしません。私の貴族としてのプライドが許しませんわ」
「はい。私はガブリエラ様を信じます」
「…殿下があなたに心を開かれた理由が分かる気がいたしますわ」
「あなたには沢山の暴言を吐きました事をお詫び申し上げます」
「…はい」
「ですがこれ以上の謝罪はいたしません。私は公爵家の娘です。私の言動により左右される者達がいるのです。私は高位貴族の家に生まれた者として配下となる貴族の者達の指針とならなくてはなりません」
「………はい」
「私が平民に頭を下げたと広まれば他の貴族の間に動揺が広がります。私は貴族を守る立場にもあるのです。これは私の貴族としての矜持ですわ」
「…ガブリエラ様の誠意は伝わりました。もう気にしません」
「私は貴族として生まれ貴族としてしか生きられません。これはあなたに理解して頂けるとは思いませんけれど。今日はあなたに私の気持ちをお伝えしたかったのです」
「…十分伝わりましたよ?」
ガブリエラは一番の笑顔を見せた。そして気高く優雅に立ち上がりその場を去って行った。
「プリナ、あれで良かったの?あの人結局ちゃんと謝ってないじゃない」
「いいよ、あれで。ガブリエラの精一杯が伝わったから」
「…まあな」
「でも悪役令嬢から脱却出来そうじゃない!?私のお陰で!!」
「あ~ハイハイ、ソウデスネ~」
「もう!!」
「ガブリエラとちゃんと話せて良かった!きっと根は良い人なんだよ!多分嫉妬とかで歯車が狂って悪役街道に走っちゃったんだね。1つ間違えると引き返せなくなっちゃうのかもね。…間に合って良かった」
「プリナって本当にポジティブだよね…」
彼女は過ちを犯す前に気付けた。きっとこれからも間違わないと思う。
今のガブリエラならウィル様とも仲良くなれる気がするけれど…
「恋って難しいね…」
「何?唐突にどうしたの?」
「ガブリエラのこと」
「ああ、そうだね…。こればっかりはどうすることも出来ないよね」
ガブリエラは本当にウィル様が好きなんだね。
皆が好きな人と結ばれる訳じゃないけれど、
それでも皆に幸せになって欲しいと思った。




