6)予想外な留学先
学校入学の話し合いは姉が私の部屋を訪れてから10日後、我が家で行われた。テガー商会は商品の仕入れや納品もあるので領都と定期的に馬車で行き来があるそうで展開が思ってたよりも早かった。私が見掛けた事がなかっただけで商会にも馬はいたんだね。村人が馬が必要な時はいつも村長さん家に借りる事になってたから知らなかった。
「もしもプリナちゃんが大商会に採用されたらヒルド村一番の出世ですよ!」
「はぁ…。でもうちの娘がそんなに優秀だとはとても…」
「何を言ってるの!コレッタ商会の会長さんが認めてくれてるのよ!?プリナには将来性があるんだから!!」
「そうだよ父さん。それに農家だとこの村に嫁ぐ相手はいなさそうだし遠くに嫁に出す事考えたら手に職付けといた方が良いって」
「う、うーむ…」
代々農家な家系だし父は想定外過ぎてピンと来ないようだった。母は「プリナが学校に行きたいのなら」と私の意思を尊重してくれているみたい。同じ村の農家に嫁ぐ以外の選択肢がなかった母には思うところがあったらしい。
結局、入学試験に受かってから細かい事は考えよう、と取り敢えず受験は認めてもらえた。試験は1ヶ月後。教科書も参考書も無いのでどんな勉強すれば良いのかも分からないけれど、まぁ何とかなるでしょ、と気構えないことにした。
そして話し合いから2ヶ月、試験からは1ヶ月後。コレッタ商会の方々と知らない人達が我が家にやって来た。
「はぁ!?王立学校!?」
「そうです。プリナさんの試験結果は大変優秀で是非とも王立学校で学んで頂きたいと推薦させて頂きました」
知らない人は領都の学校の偉い人だった。領都越えて王都とか!!前世で言えば公立受験したつもりが国立に受かっちゃったって事か!?…ってその前に王都って何処にあるんだろう。
「えっとあの~。王都って何処だっけ?ここからどの位?」
コソッと側のテガーさんに聞いたら偉い人が代わりに教えてくれた。
「エラドニールだよ。ここからだと馬車で5日かかるから帰省は年に2回出来れば良いかな。ゆっくり出来るのは夏休み位だね」
あ、王都の名前は聞き覚えがあるわ。馬車で5日!!そりゃ遠い!!って言うか私馬車に乗った事も無いんですけど!!領都なら姉夫婦がいるけれど王都なんて何処に住むの?急転直下な話にさすがに家族全員ポカーンとしてしまった。
「学校の敷地内に学生寮があるのでそこで生活する事になります。元々貴族のための学校なので優秀な平民は学費無料で学べるのでお金についても心配いりません。プリナさんは優秀なので奨学生になれば寮費も無料になりますよ」
「これはゼノンド領としても快挙です。資金面でも領として全力で支援させて頂きます」
村を出た事もないのに親元からそんなに離れてやっていけるのかな…。さすがにちょっと怖い。前世では妹が結婚して実家を出るタイミングで私も追い出されて独り暮らしを始めたけれど電車で20分で帰ろうと思えば直ぐに帰れる距離だったしな…。でも前世では寮生活なんて経験出来なかったから友達が出来たら楽しそうかも。とは言うものの心細い…。デモデモダッテ状態になってしまった。
けれど私が怖じ気付いているのに対して父は逆に目を輝かせて前のめりになって聞いていた。そして勢い良く立ち上がるとガシッと私に抱き付いてきた。
「ウチの娘が王立学校なんて誉れだ!!プリナ、行ってこい!!父さんはお前を応援するぞ!!」
父さん…。「無料」に飛び付いたんだね…。目の色変えたの見えてたよ。
でも王立学校に通えるなんてステキかも?何だか私の未来バラ色なんじゃない?きっと私が主人公の学園ドラマが始まるのよ!!とかだんだんその気になってきた。元々根が楽天的なモンで。
母や姉と女性陣は心配そうにしていたけれどテガーさんご家族や偉い人、何より父の説得もあって私は王立学校に進学する事に決めた。
うん。私の世界はもっとずっと大きい。きっと前世の記憶を持ってこの世界に生まれた事には意味がある。だったらチャンスは活かさないと!この村じゃ青春なんてものには縁が無さそうなので都会の、それも王都でエンジョイしたる!!
と、これから始まる新生活に胸を高鳴らせた。
一番反対したのは可愛い弟だった。しばらく会えなくなるのを小さいながらも感じ取ったようで赤ちゃん返りして大変だったけれど抱き合って一緒にワンワン泣いて、後ろ髪引かれる思いで領主様が用意してくれた馬車に乗って王都に向けて出発した。