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そこそこな幸せで十分です  作者: 蒼川りこ
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5)前世の貯金で立身出世?

姉はホットミルクを持って部屋にやって来た。蜂蜜を入れたホットミルクは家族も気に入ったらしかった。私のベッドに並んで座る。


「これはまだお父さん達にも話していないのだけれど…テガーのご両親から話があってね」


姉の婚約者の家族と直接話したのは結婚が決まった時の顔合わせだけだし買い物やチーズを卸しに行く時とかたまに商会へは父や兄と一緒に連れて行ってもらう事はあるけれど基本は外で用事が終わるのを待ってるだけで店内に入った事もないので、私に話があるとは思わなかった。あ、ひょっとして今日クートンさんが言ってた事かな?


「もしかして書類の話?」


私が聞いてみると姉は少しビックリしたみたいだったが小さく頷いた。


「クートンさん家の書類も作っているのね。プリナが作った書類は計算は正確だし字も見やすくて丁寧だって彼のご両親も褒めてたわ」

「良かった~計算間違いでもあったのかと思ったよ」


私がほっとすると姉は真面目な顔をした。


「それで、彼のご両親が成人したら商会で働かないかって。そのために学校へ行くのはどうかと勧められたの」

「学校?」


村の学校には通っていたよ?領主様は教育にも力を入れていて村人は午前中だけの学校に通う事になっていた。子どもとは言え貴重な労働力なので授業は午前中のみ。前世で言う寺子屋みたいなものか。読み書き算盤…算盤はこの世界にはないけれど読み書きと計算が出来れば村での生活には十分だから午前中だけで事足りた。ほとんどの村の子はそのまま家の農家を継ぐし。たまには都会に憧れて15歳を過ぎて街へ出る子もいる。ウチの次兄みたいに。


「テガーがプリナの能力なら村の商会で終わるのは勿体ない、都会の学校で学ばせたらどうかと言うの」

「都会の学校って?」

「領都には商家の子どもが通う学校があるのですって。私もこの村育ちだから詳しくは知らないのだけれど、領都の学校で学べばそのまま街の大商会で働く事もあるそうよ」

「へぇー」


村で生まれ育った私にはピンと来ない。でもこの世界の事はもっと知りたい!広い世界があるなら見てみたいと思う。前世は一応大学まで行ったし勉強が好きという訳でもなかったけれど村の学校では物足りなかったのも本音だった。このヒルド村は大好きだしここで一生終えるものだと思ってきたしそれに不満も無いけれど、やっぱりこの世界の都会は興味があった。自分でも目がキラキラ(ギラギラかも)してるのが分かる。頬も熱い。私の表情を見て姉は笑顔になった。


「それでね、プリナさえ良かったら私の結婚式の後で一緒に領都へ行って向こうで学校に通いながら暮らしてみない?」

「えぇ!?さすがに新婚家庭に居候するのは気が引けるよ!!」

「大丈夫よ。テガーの提案なんだから。私も知らない街で住むのにプリナが一緒に居てくれたら心強いもの」

「でも…生活費とか…学校の授業料とかお金がかかるでしょ?」

「それは心配ないわ。元々学校へ行く事を勧めてきたのは彼のご両親だもの。コレッタ商会としてバックアップするって話よ」

「…でもでも…父さん達が許すかなぁ。兄さん達だって村の学校にしか行ってないのに」


村人として生きてきた私には難しい事にも思えた。都会の学校に行った村娘を貰ってくれる家があるかも疑問だし。私もここの村人達のように18歳で成人を迎えたらどこかの農家に嫁ぐものだと思ってた。前世で行けなかった嫁に行けるんだよ!?前世ではアラサーでも「行き遅れ」なんて言われなかったけれど、それでも友人の半数は結婚していた。妹も含めて子持ちになった人も多かった。それが十代で結婚出来るんだよ。生まれ変わってもまた独身のままなんて悲しい。一度は嫁に行ってみたい。


「父さんは反対するかも知れないけどね。家の事なら安心して。兄さん夫婦が同居してくれると言ってるから」

「クリム兄ちゃんも知ってるの!?」


クリム兄ちゃんとは我が家の長男で近所で夫婦で住んでいる我が家の長男の事だ。


「私がテガーのご両親と話していた時に兄さんもたまたま商会に来ていたのよ。それでプリナは俺ら兄弟で一番賢い、家の事なら嫁がいるから心配するな、って」


兄のお嫁さんはこの村出身だけれど実家は医者だから農家の手伝いはまだ不馴れのようだった。そう言えばお嫁さんは領都の学校を卒業していたかも。周りを固めてくれるならちょっと安心だ。お嫁さんみたく学校へ行ってもちゃんと結婚出来るんだったら大丈夫かも。正直な気持ちを姉に伝える。


「父さん達も賛成してくれるなら学校へ行きたい!」

「良かった!では彼のご両親も交えて話し合った方が良いわね。テガーに伝えるわ」

「えぇ、先に家族会議しないの!?」

「それだと頭ごなしに反対されるかも知れないじゃない。コレッタ商会からの提案だと言われたら父さん達も無下には出来ないでしょう?」


姉は強かだった。


姉が部屋を出て行き私はベッドに倒れこんだ。言わば中卒と諦めていたのが高校へ行けるようになったような感じだ!ヒルド村から私の世界は拡がるんだ!


これはいよいよ私の壮大な物語の始まりか!?


グフフという私の笑い声が部屋に響いた。





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