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そこそこな幸せで十分です  作者: 蒼川りこ
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49)初めての悪意

「へぇー、それで食堂にシャルル様と一緒に現れたんだ」

「シャルル様と2人切りで演奏会なんて、ウラヤマシイー」

「エヘヘ!良いでしょ!?素敵だったぁ!」

「プリナが前世で美術部にいたなんて知らなかったよ」

「部と言うほど活動してないよ?先生が好きなようにやって良いって言ってくれたから、好きな時に好きなように描いてただけだもん」

「…それでダニエル様と2人で絵を描いていた、と」

「うん!楽しかった!」


私が夕食の時間に笑顔で今日の報告をすると皆は揃って溜め息を溢した。


「まさかプリナが選択肢イベントをやることになるなんて…」

「えっ」

「…これでダニエル様とシャルル様を同時に選択したことになるのかね~?」

「えっ?」

「ウィル様とロベルト様、セルゲイ様のはどうなるんだろうね~?」

「えぇっ?」

「…ここに何にも考えてない、ナチュラルに気付いてないヤツがいるぞ~」

「えぇぇっ!?」


「イベント!?あれが!?違うよ!!だって美術室に行ったのもエクレアに勧められてたまたまだし、音楽室に戻ったのもエクレア探しただけだし!2人に会ったのも偶然会っただけだよ!!」


メリザがチキンのソテーを切り分けて私に差し出しながら言った。


「5人同時にイベント発生するのかな?残りの人達についても様子を見た方が良いね」

「だな。ウィル様が庭園、ロベルト様が図書館、セルゲイ様が体育館だったよな?」

「もう対象キャラじゃなくてプリナの行動を監視した方が良いって」

「そうだね。プリナを見張っておけば良いね」

「プリナ、これからは移動する時は必ず事前に報告!」

「えぇ~」


私はメリザのチキンを食べながら皆の話を聞いていた。


「予め立ててた予定なら教えられるけど、その場で考えた行動まで伝えられないよ?」

「この世界にもGPSがあれば良いのに…」


イルクが私にセロリを食べさせながら物騒な事を言った。


「ずっと監視されるなんて嫌だよ」

「この世界にもスマホがあればなぁ…」


今度はポリーが私の口にロールパンを詰め込みながら言った。


「ところで今日はこの後プリナは何するの?」

「宿題やらないと。…あ、教科書を教室に置いて来ちゃった…取りに行かなきゃ」

「教科書なら見せるよ?」

「…ノートも置いて来ちゃったの」

「明日提出なのに?もうドジ!」


夕食を食べ終わってから皆で教室に行く。


「夜の学校は怖いね…」

「前世の肝試しを思い出すよ」

「ちょっと待っててね…あった!…あれ?」


手触りが不自然でパラパラ捲ると教科書もノートもボロボロに破かれていた。


「わぁ!どの世界の嫌がらせも同じなんだね!」

「言ってる場合か!!こんな悪どいこと誰がやったんだよ!?」

「カロ、落ち着いて。それよりこれからどうしよう…まだ入学したばっかりなのに」


私はボロボロになったノートと教科書を手にして溜め息をついた。


「また教科書は買い直せるかな?かりんとう先生に相談しないと。…でも先生に言うの嫌だなぁ」


大事にしたくない。


どうしよう…。

私よりも皆が静かに怒ってる。

私は大丈夫だから。

そんなに悲しい顔をしないで。


「…皆さん?こんな時間にどうしました?」


そこにロベルト様が現れた。


「ロベルト様!?ロベルト様こそこんな時間にどうしたんですか?」

「私は生徒会の仕事があって残っていたのです。先程終わりましたのでついでに校内の見回りをしていたんですよ。それより皆さんこそ何かあったのですか?険しい顔をされてますよ」


ロベルト様は教室に入って来ると私達の異変に気が付いた。そして私が持っていた教科書に目を止めると顔をしかめた。


「…これは一体誰にやられたのですか?」

「…分かりません」

「…」

「ロベルト様。教科書はどこで買えますか?」


ロベルト様は私の手から教科書を取り上げてパラパラ捲った。


「私の物で良ければ差し上げますよ。使い古しでよろしければ」

「本当ですか!?助かります!!」


私が笑顔を向けると一瞬悲しそうな顔をして、それから微笑を浮かべた。


「明日で間に合いますか?」

「はい!大丈夫です」

「では明日の朝お持ちします。明日の朝、図書館に来て頂けますか?図書館でお渡しします」

「分かりました」


教科書が何とかなりそうで一安心だ。

皆は未だ複雑そうな顔をしてるけれど。



皆で寮に帰る。

ロベルト様と別れて部屋に戻った。

皆は教科書とノートを取りに自室へと戻って私の部屋に来てくれる事になった。


破かれていたノートと教科書をとりあえず机の抽斗の奥に仕舞った。


こんなこと誰がやったのかな。

気にしない訳じゃないけれど、私のことはどうでもいい。

私よりも怒り悲しむ人を見るのが辛い。

私のことで傷付く優しい人達がいるんだ。

私の大切な人達を悲しませないで。


涙が零れた。

私が悲しむと皆はもっと悲しむ。

だから皆の前では元気に笑っていられるように、気を落ち着けて、皆のためにお茶の準備をして、笑顔で迎えよう。




私は大丈夫だよ。本当だよ。


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