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そこそこな幸せで十分です  作者: 蒼川りこ
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45)王子様の苦悩

嫌な予感はあった。

教室でのエクレアからの注意喚起もあったし。


放課後皆でラウンジでお茶しているとカロとイルクが明日の授業で使用する教材を運ぶようにと呼び出しを受けた。

その後メリザは他のクラスメートからノートを見せて欲しいと頼まれて一緒に部屋に向かい、ポリーは王都出身者で集まりたいと誘いがあって断れずに連れて行かれてしまった。


「少しよろしいかしら?」


1人残ってチーズケーキを頬張っているところに声が掛かった。ガブリエラと取り巻きだ。


「あなたが最近殿下の周りを彷徨いているネズミですの?」


わぁ!見事な縦ロールですね!セットにどのくらい時間かかるんですか?テニスラケットが似合いそうですね!


「…あなた聞いてるの!?」

「何なの、その態度!!」


私がガブリエラの見事な髪に見惚れていると前に出てきた女の子に詰め寄られた。


モグモグ。


「私はシルバードレット公爵の娘、ガブリエラ・シルバードレット。ウィリアム殿下の婚約者ですわ」


私はペコリ、とお辞儀した。


「だから!さっきから何なのよ、その態度は!?貴族である私達に失礼だとは思わないの!?これだから平民は!!」

「ガブリエラ様にお声を掛けて頂けるなんて、平民ではあり得ない名誉なことなのよ!?」

「こんな礼儀知らずの者と同じ学舎で過ごすなんてああ嫌だ!吐き気が致しますわ!!」

「………」


ガブリエラが扇子を口元に当てて睨んで来る。


「殿下にお声を掛けられて良い気になった薄汚いドブネズミが殿下の周りをウロチョロと這いずり回っていると噂になっておりますの」

「…………」

「あなたのような下賎の者が近くにいては殿下のお名前が傷付けられてしまいますわ。いくら殿下がお優しい方だからと言って安易に近付かれては困ります!身の程を知りなさい!!」

「……………」

「私は殿下の婚約者として忠告申し上げました。あなたのような平民には相応しい人間がいるでしょう。くれぐれも殿下にご迷惑をおかけしないように。あなたのような卑しい平民が殿下のお側にいては殿下が汚れてしまいますわ」


ガブリエラは言いたい事を言って満足したのか、本当にネズミを見るような顔で私を一瞥すると優雅に去っていった。


「…本当であればガブリエラ様はあなたみたいな平民ではお姿を見ることすら叶わない大変高貴な方なのよ!それをわざわざ平民に忠告されるなんて有り難く思いなさい!」

「私達でも平民と接するのは苦痛ですのに、ガブリエラ様の気高さは私達の憧れですわ」


取り巻き達も言いたい事を言うとガブリエラを追い掛けて行った。


ゴクン。


はぁ~やっと飲み込めたよ。貴族の前でお茶を飲んで良いか分からないからキツかった!


口いっぱいにケーキを頬張っていて話せなかっただけなのに。コッテリしたチーズケーキは口の中に残って大変!口の中に食べ物がある状態でお喋りしたらいけません。飲み込むまで待っててくれたら良いのに。


「プリナ!!」


シャルル様とウィル様、セルゲイ様が私のところへ駆けてきた。


「ごめんプリナ、遅くなって!…その大丈夫だったか?」


シャルル様は息を切らしながら聞いてきた。


「クラスの連中からシルバードレット嬢がプリナを探してるって聞いて…。でも家はシルバードレット家より家格が低いから僕じゃ彼女を止めることが出来なくて…急いでウィル様とセルゲイ様を探してここにお連れしたんだ…」


そんなにゼーゼー息が切れる程に必死で動いてくれたんだね。シャルル様はとっても優しいね。


「私は大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。シャルル様」

「プリナ…。嫌な思いをしたんだろう?間に合わなくてごめん」

「謝らないで下さい!私みたいな平民がウィル様達と仲良くしていたら面白くないのは当たり前ですよ!!婚約者なら尚更不愉快だと思います!」


ウィル様は私が「婚約者」と言葉に出すと顔を歪めた。


「ガブリエラ嬢が迷惑をかけた。…すまない」

「ウィル様まで!謝らないで下さいってば!!私だって婚約者の立場ならきっと同じ事をしますよ!気に食わなくて当然です!」

「婚約者、か…」


ラウンジではウィル様達が目立ち過ぎるので談話室へ移動する事になった。メリザ達には給仕さんに伝言をお願いした。




談話室に移動して執事さんがお茶を出してくれて退出すると、ウィル様が静かに話し出した。


「…ガブリエラ嬢は兄である第一王子の婚約者だったんだ」

「お兄さんの?」

「…ああ。シルバードレット家は我が国の筆頭公爵家だ。彼女は生まれた時から将来の王妃候補として期待されて来たんだ」

「なのにウィル様と婚約したんですか?」

「兄が学園に入学する時に「自分が王位を継ぐなら結婚相手は自分で選びたい」と婚約をごねたんだ。でなければ王にはならない、と」

「…」

「シルバードレット家は当然不満だっただろうが。仕方なく弟である私と婚約を結んだんだ」


ウィル様がため息をついた。


「ガブリエラ嬢も不満だっただろうな。未来の王妃としてずっと教育を受けてきたのだから」

「…ウィル様は婚約についてどう思っているんですか?」

「私には選択肢がない」


ウィル様は苦悶の表情を浮かべた。


好きな人と結婚したいというお兄さんの気持ちも分かる。でもお兄さんの尻拭いで無理矢理婚約させられたウィル様も可哀想だ。


まぁ自分の意思など関係なく婚約者を変えられたガブリエラも気の毒と言えなくもない。


「ガブリエラ嬢はプライドの高い人間だ。私のような王子と結婚せざるを得なくなった事は腸が煮えくり返る思いだろうな」


そうかな…?さっきの忠告もウィル様への敬意とか信頼とか感じられたけどな。


「王子になんて生まれるものじゃないな」

「ウィル様…」


ウィル様は自虐的な笑みを浮かべた。

私もシャルル様もセルゲイ様も何も言えなくて。


「私も兄のように生きられたら良いのにな」


お兄さんの思い。

ウィル様の思い。

ガブリエラの思い。


何だか切ないね。




メリザ達が来るまで言葉少なく過ごした。










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