37)プリナの初恋
入学2日目。
今日は午前中はオリエンテーションで各教科の先生方の挨拶、構内紹介でツアーみたいに学園内を案内された。広いので学園巡りで午前中が終わり今はお昼休み。
私達はランチを終えて裏庭で日向ぼっこをしていた。
「午後から座学なんて絶対眠くなるな…」
「このままお昼寝したーい…」
「プリナ、膝枕してあげる」
「今お昼寝したら起きられない自信があるよ」
ノンビリ過ごしていると猫の鳴き声が聞こえてきた。
「この声は猫じゃない?」
「またホワイトタイガー!?」
「猫だと思ったらトラだったと言うオチはもう御免だよ…」
鳴き声を頼りに周辺を探すと木の枝の上に三毛猫がいた。
「降りられないんだな」
「どこの世界の猫もすることは同じだね」
「えっプリナ?何してんの?」
「私が猫を助けるよ。大丈夫、木登りは得意だから!」
「カロかイルクに任せなよ!危ないよ!」
「大丈夫大丈夫!皆、スカートの中が見えるから木から半径3メートル以内は立ち入り禁止!」
私がうんしょ、と登り出すと皆は諦めて後ろに下がってくれる。皆が離れたのを確認して枝を登っていく。
「よっと…ホラ猫ちゃん!もう大丈夫だよ!おいで!」
猫のいる高さまで登って手を伸ばすと猫は警戒して後退りしてしまった。もう少し…と更に手を伸ばしているところで。
「君達、こんなところで何してるの?」
「ヨーカン先生…!」
げっ!!よりによって担任が来たらしい!
足音が近付いてくるのが分かる。
「どうした?この木を見てるの?何かあるの?」
皆が木の側から離れていたのが災いして先生は木の真下まで来てしまった!お願い、上を見ないで!!
「…わあっ!」
動揺した私はバランスを崩してしまった。
すると私の声に驚いて猫は私の腕から背中を走って地面に飛び降りると、そのままダッシュで走り去って行った。
「自力で降りられるんじゃん…」
「君は僕のクラスの…」
無念。
先生に気付かれてしまった。
「…はい。プリナ・リンカです…。猫を助けようと思ったんですけど…」
「あぁ、今走っていった猫だね。…降りられる?」
「大丈夫で…わわっ!!」
「!危ないっ!!」
「プリナ!!!」
足が滑った!ヤバい!落ちる!!
ドスン、と言う衝撃が走った。
いた……くない。あれ?
「…いたた。…君は怪我してない?」
「あ…」
私はまるで先生を押し倒したかのように先生の体の上に乗っていた。イヤ、「ように」じゃなくて押し倒したんだ、きっと。
「大丈夫?動ける?」
先生にドアップで声を掛けられて、慌てて飛び起きて離れた。
何この少女マンガのようなシチュエーション!!!
先生が私の頭を撫でて手櫛で髪をとかしてくれる。
「良かった、どこも怪我はなさそうだね。僕が真下に居て良かったよ」
「あ、ありがとうございました…」
自分が少女マンガのヒロインになったようでドキドキする…!
先生が頭から頬に触れた。
「君は女の子なんだから。この可愛い顔に傷が付いちゃったらどうするの?」
先生の大きな手が私の頬を優しく撫でる。
ボンッ!!と音がした気がする。今顔から火を吹いたに違いない!!うわぁ、顔が熱い!!!
「立てそう?」
「はい」
先生が両手で私の両腕を持って一緒に立ち上がった。
「いたッ!!」
その瞬間足を捻った!
「おっと」
よろけた私を先生が抱き止めてくれた。
「!!」
ボンッ!!また顔から火を吹いたはず!!
「木から落ちた時に足を挫いてしまったのかな?今の時間は…学園内の医務室が近いな」
先生は私の膝を持ち上げた!
これは世に言う「お姫様抱っこ」だ!!!!
「せ、先生…!自分で歩けます…」
「良いから、落ちないように僕につかまって!このまま医務室まで行くよ、お姫様」
ボボンッ!!と更に火を吹いた!!!
「…はい、ありがとうございます…」
間近に先生の顔があって、先生の体温と香りを感じて、私の精神はもう限界レベルを超えた。
クタッと体の力が抜けてしまった私を先生が落ちないようにギュッと力強く抱え直した。
「お姫様を助けられて男冥利に尽きるよ」
私はとうとうオーバーヒートを起こして意識を手離した…。
気が付いた時は白い天井の医務室のベッドの上にいた。
「プリナ、気が付いた?気分はどう?」
「メリザ…?ポリーも、居てくれたんだ…」
ムクッと上半身を起こす。
「足は軽い捻挫で2~3日で治るって。良かったね」
「今日はもうこのまま放課後まで寝てて良いよ。ヨーカン先生の許可もあるし」
「先生!!?」
また顔が燃えた。
「…プリナはああいう人が好みなの?」
「えっ?」
「王子様とかイケメンが周りにいくらでもいるのに…何でよりによってヨーカン先生なの…!」
わぁっ!
また顔の熱が上昇したよ!
「…だって。前世も含めて生まれて初めてお姫様抱っこされたの…!」
「生まれて初めて、ねぇ…」
「カロ達可哀想に………」
何でここでカロ達の名前が出るの!?
「だって…前世で読んできたマンガそっくりのシチュエーションだったんだもん…」
「確かに。本当に昔からよくある古臭いシチュエーションだったよね」
古臭い言うな!!
「それに私のことを可愛い女の子だって。お姫様って言ってくれた…」
「聞こえた。あの顔でよくもまぁキザな台詞が言えるなぁ、って思ってたよ」
メリザさん、先生への悪意を感じますよ?
「聞きたいんだけど。何で王子様達とかイケメンが周りにいっぱいいて美形にも散々見慣れてるのに、何で、何であんな普通の男にときめくのっっ!?」
ときめくって!
ポリーに指摘されてまた顔に熱が集中する。鏡を見なくても真っ赤になってるのが分かる。
「私はアラサーの記憶が残ってるんだよ?ウィル様達なんて私から見たらガキんちょだよ」
「………」
「…それで大人の先生にときめいた訳か」
「……これは由々しき問題だね…」
「前途多難だね……」
コンコンコン、とノックの音がしてかりんとう先生が入ってきた。
「あ、気が付いたんだね、良かった。具合はどうかな?」
「!だ、大丈夫です…。あの…助けて頂いてありがとうございました…!」
先生がまた大きな手のひらで私の頬に触れる。
「!!!」
「顔が赤いね。熱が出たのかも知れない。今日はもう部屋に戻って休みなさい。1人で寮まで帰れそう?送って行こうか?」
「だ、大丈夫です!1人で帰れます!これ以上は私の心臓が持ちません…!」
「心臓?」
「先生!私達がプリナを部屋まで連れて行きます!良いですよね!?」
「…あぁ分かった。それなら安心だね。じゃ君達、プリナちゃんを頼むね。プリナちゃん、お大事に」
「はい…!」
先生は私の頭を撫でてから出ていった。
「プリナちゃんだって…!」
「生徒の名前を覚えてないだけでしょ!私達がプリナと何度も呼んでたから記憶に残ってただけ!!」
「どうしよう…先生カッコいい…」
「あれが!?」
「プリナ~!お願いだから目を覚まして!!」
ずっとドキドキし過ぎてフラフラだ。
部屋に戻って体温を測ると本当に熱が出ていた。
「プリナ寝た?」
「うん。薬が効いたみたい」
「…ホント何であんな普通の、何処にでもいるような、本当に普通の男に惚れちゃうかなぁ」
「でも前世で大人の記憶があるなら15歳なんて恋愛対象外だって言うのも分かるよ…」
「…そうだねぇ。私達は学生だったけどプリナは社会人やってた大人だもんね」
「でも前世含めてもプリナの恋愛レベルと言うか恋愛偏差値が私達より低そう」
「だね。プリナには失礼だけど、私達の方が恋愛経験積んできてるよね、絶対」
「お子ちゃまだもんねぇ」
「でもあのまんまで居て欲しいなぁ」
「プリナが誰を好きになっても良いけど、ヨーカン先生だけは絶対にイヤ」
「それな」
「先生位ならダニエル様でも良いよ…!」
「…ポリーはダニエル様にとことん辛辣だよね」
私が目を覚ますまでメリザとポリーは2人で私の初恋の行く末を心配していた…らしい。




