29)聖樹と王子様と
学園内の聖樹の下で。
私達は前と同じように皆で手を繋いで聖樹を囲んでいた。やっぱり暖かくて気持ちいい…。
「この樹から遠赤外線が出てるのかなぁ。今なら石焼き芋の気持ちが分かるよ…」
「さすがに芋とか」
「生き物ですらないよ」
さっきの主人公とのやり取りを思い出す。
「…何かさ…ガブリエラも主人公のミサキも正直どっちもくたばりやがれ!!って思う」
「同感」
「でもミサキには精霊の御遣いになってもらわないと困るんでしょう?」
「要は災害を食い止めれば良いんじゃないの?」
「精霊を纏める力が無いと無理なんじゃない?」
これからどうするべきか皆で会議中。
「プリナ・リンカ嬢」
名前を呼ばれた。顔を向けるとウィル様とお付きの人達。
皆は慌てて聖樹から離れた。私はそのまま樹に張り付いている。
「君は今何をしているの?」
「充電中です」
「は?」
「樹からパワーを貰ってます」
「聖樹からパワーを?」
「そうです」
「…ふふ。君はやっぱり面白いね」
ふん。
無視しているとウィル様が私と同じように聖樹に抱き付いた。
「殿下!?」
お付きの人の狼狽えてる声がする。
「…ああ、確かにこうしていると力が湧いてくる気がするよ」
ウィル様は私に微笑んだ。やっぱり美少年だ。
「君と話がしたい」
「…このままで良ければ」
「お前…」
「構わない」
たぶん物凄く失礼なんだろうけれど、お付きの人を制してウィル様は続ける。
「君が体調を崩していると聞いていたが、もう大丈夫なのか?」
「はい、お陰様で」
「そうか。…良かった」
「先ず君に確認したいのだが」
「何ですか?」
「その…君は私が怖いのか?私は君を怯えさせてしまうような人間だろうか」
そう言えば思いっきり逃げ出したね。気にしてたんだ。あれは私が悪かったよね。正直に言おう。
「ちょっと違います」
「…何が違うのだろうか」
「確かに怖いんですけど。自分とは無縁の世界にいる人と遭遇してしまった事が怖かったんです。今までも、これから先も、ずっと絶対に関り合うことがないはずの別世界の人と関わってしまった事が恐ろしかったんです。…上手く言えないんですけど」
「…君は私をそんな風に感じているのか?」
ウィル様はとても悲しそうな顔をした。
「確かに私は王族だが同じ国に生まれた同じ人間だ。ましてや同じ学園で学ぶ同級生だ。別世界の人間などと言わないで欲しい」
私はゲーム世界のゲームキャラとゲームに無関係の私達との事を言ったんだけどな。でもそれは言えないので誤解を解けない…。
「別にウィル様…じゃなかったウィリアム殿下が嫌いだったり怖い訳じゃないですよ」
「…君は初めて会った時もウィルと呼んでくれたね」
「す、すみません!!失礼しました!!」
つい前世の人間のクセで…とは言えない!これって不敬罪って言うの!?
私は前屈姿勢で深々と頭を下げて謝った。
「本当に申し訳ありません!!」
「良いんだ。頭を上げてくれ。良ければこれならもそう呼んで欲しい」
「殿下!?相手は平民ですよ!?」
「関係ない。私はこの娘と親しくなりたいのだ。私が許可する。良いな?」
「…はっ」
私が顔を上げると笑顔のウィル様と目が合った。本当に綺麗な人だ。きっと心も。
「じゃあ…お言葉に甘えてウィル様と呼ぶ事にします」
「ああ」
「ウィル様に聞いても良いですか?」
「私が知っている事で話せる事ならな」
「森にある聖樹について知ってる事を教えてくれますか?」
「君は赤い聖樹を見たと言っていたね。文献には森に聖樹があると記載があるが色彩については一切触れられていない。恐らく他の木々と同じ見た目なのだろう。…そう考えられていたのだが」
「普通の木と同じ!?」
「ああ、そうだ。この聖樹のように他の木々と色合いが違う聖樹の方が珍しいんだ。本来聖樹は他の木々と変わらない」
「お城に生えてるっていう聖樹もですか?」
「あぁ。この聖樹の数倍はあるとても大きな樹だが、幹が太くとても背が高い普通の樹だ。もちろんとても大きいのでひと目で聖樹と判るが」
「………」
「恐らくだが。このようにひと目で他の木々と違うと判ると狙われてしまうから、他の木々と変わらない姿をしているのではないか、と言われている」
「狙われる?」
「聖樹はその土地を守っているからね。聖樹が失われればその土地が荒れ果ててしまう。他国から狙われる可能性があるんだ」
「なるほど…」
確かにヒルド村の聖樹は森の木々と同じだった。大人に「この樹が聖樹だ」と教わらなければ気付けなかっただろう。
「…なので森の聖樹も他の木々に紛れて見付けられないのだと、そう思われていたのだ」
なるほど!確かに「これが聖樹です」って立札があるわけじゃないし、聖樹が普通の木と同じ見た目だとしたら、知ってる人がいないから見付けられないのも仕方ないって思われてたんだろうな。
「…でも私は聖樹を見ました」
「だから不思議で不可解なのだ。今までだって森には何度も探しに行ったはずだ。それが入学して数日の娘が見付けるなどと。ましてやそれが赤い聖樹であると言われても俄には信じがたい」
うーん。ウィル様の言ってる事は分かるよ。
「…だったら樹が見付かりたくないのかも。わざと姿を隠しているのかも知れませんね」
「何?」
「理由は判らないけれど聖樹は見付けて欲しくないんですよ。だから、どんな方法か分からないけれど人目につかないように隠れてるんだと思います」
「…」
ウィル様も、お付きの人も、メリザ達も皆驚いた表情だ。皆言葉を失くしてる。
「ウィル様…?」
「荒唐無稽な話だと言いたいところだが、君の話には信憑性がある気がする」
ウィル様は顎に手を当ててしばらく考え込んだ後、私を見て花が咲いたような笑顔で私の手を取って両手で握った。
「やはり君はとても興味深い。良ければ私の友人になって欲しい」
…これはもう逃げられませんな。




