2)姉妹それぞれの恋愛事情
初デートで連れて行ってくれたのは芝生のある競馬場だった。芝生にレジャーシートを敷いてお弁当を広げた。私は賭け事なんてしたことなかったからレース観賞だけした。初めて近くで見たサラブレッドはとても大きくて綺麗だった。勝負に興味はないけれど馬の走る姿は本当に美しかったのでお馬の駆けっこは単純に楽しめた。彼はどうやら負けたらしく帰りは不機嫌で共通の路線の駅で別れた。
次のデート先はボートレース場だった。やっぱりギャンブルはよく分からなかったのでレース観賞と隣の興奮して叫んでる彼の観察だけした。レース自体は迫力があってそこそこ楽しかった。今回は彼はどうやら儲かったらしく帰りに彼のオススメのラーメン屋さんでご馳走してくれた。ラーメンはとても美味しかったけれど丼が目の前に置かれて手を合わせてからラーメンをフウフウしていたら「普通は先ずはスープからでしょ」と注意されてしまった。その後も大好きなトッピングのゆで玉子を食べようとすると「それだとスープが濁っちゃうでしょ」とまたも注意されてしまった。ご馳走してくれたので素直に言われた通りに食べたが二度と一緒にラーメン屋に行くまいと思った。
3度目は初めて仕事終わりの夜デートだった。映画を観に行く事にしたが上映までかなり時間があると分かると彼は近くのパチンコ屋さんに入って「ここで時間潰していこう」と言った。あまりの騒音と淀んだ空気に堪えられず彼が着席するのを確認してから回れ右してそのまま帰った。帰り道に「ごめんなさい。貴方に付き合うのはもう無理です。もう二度と会いません」とラインを送ってからブロックした。その後紹介してくれた友人に報告したところ直ぐに返信が来たので居酒屋で会うことにして今までのデート内容を伝えた。「マジか」「無いわ」と爆笑された。まぁ私は割りと何でも楽しめる性格なので競馬場もボートレース場もある意味ではそれなりに楽しかったんだけどね。映画が始まるまで別々に時間潰しても良かったのかも知れないけれど、たぶん本質はそこじゃないよね…。初めて会った飲み会からそこまで1ヶ月、会った回数は飲み会含めてたった4回で付き合った事になるのかとは思ったけれど彼氏いない歴をいったん区切れたと見栄を張りたかったので「初カレ」に認定したのだった。
「なんでよりによって最初に思い出したのがどうでもいい初カレかなぁ!?」
とウンザリして顔を上げて家族を見回したらどうやら話し合いは落ち着いていて婚約者が休暇を取って一度村に戻って結婚式を挙げたら一緒に領都に移り住む事に決まったらしかった。雰囲気も和やかに食事の流れとなったので姉の側に行って声をかけた。
「お姉ちゃん良かったね。おめでとう」
「ありがとう。私がお嫁に行ったら皆をお願いね」
「任せて!って言いたいけど料理だけはお姉ちゃんの味にならないんだよね…お姉ちゃんと同じに作ってるのになんでだろ?」
「私がいる間は一緒に作って覚えたら良いじゃない。大丈夫、最悪パンとチーズがあれば何とかなるわ」
前世では自分が食べるための料理だったけれど今は食べてくれる家族がいるんだから美味しいゴハンが作れるように頑張ろう。可愛い弟にも美味しいモノ食べさせたいもんね!
「ふふ、田舎者の私は村を出るのは不安もあるけど都会暮らしなんて楽しみだわ!」
笑顔で姉が言った。
そう言えば今までこの世界の事を何も知らなかった…。
前世も今世でも料理スキルは残念な主人公でした。