17)ようやく分かったこの世界のこと
『正式タイトルは「愛しのダーリンとときめき☆学園生活~麗しの王子様とドキドキラブレッスン~」って言うの…』
エクレア様は恥ずかしそうに真っ赤になりながら小声でタイトルを言った。
『何その恥ずかしいネーミングは…』
『そう。あまりのネーミングの痛さに口に出すのが憚られて誰もがお店で買えず売れなかったと言われてる伝説の乙女ゲームよ…』
『すごーく分かる。私だって店員さんにタイトル言えと言われたら恥ずかしくて死ねる…』
『あぁぁぁぁぁ、思い出した~!!!』
イルクが突然大きな声を出した。
『イルク!?どうしたの!?』
『あぁそうだよ!!その死ぬほど恥ずかしい思いをしながら店で買ったのはオレだよ!!!』
買ったんだ…。現代日本の勇者だね。
『そうだ…オレも飲み会の罰ゲームでその辱しめを受けたんだった…』
カロも買ったんだ?前世から罰ゲーム好きだったんだね。
『私も友達に薦められて「何そのダサいタイトル」って言った覚えがあるような…』
ポリーが遠い目をして言う。ポリーはお店で恥ずかしい思いをすることなく手にしたんだね。
『そうだわ…。私は確か同室に入院していた子に「暇潰しになるよ」って薦められたんだった』
メリザも手を顎に当てて記憶を辿りながら言う。メリザもポリーと同じか。ちなみに2人はダウンロードで入手したんだそうな。
『私は全く記憶にないんだけど?そもそもゲームやらないし。…で、どんなゲームなの?』
私が尋ねるとエクレア様がノートに書き出しながら教えてくれた。
『ゲームの舞台はここ「王立アメジストル学園」で平民育ちの男爵令嬢の主人公が入学するところから始まるの』
『平民育ちなのに男爵令嬢??』
『男爵の私生児で、ある日街で男爵が主人公を見掛けて珍しい髪色だから自分の子どもだと気付いて引き取ったという設定よ』
『設定…』
『ゲームだもの』
人の生い立ちを設定とか。でもゲームなら確かに「設定」なんだろう。
『それである日主人公が精霊を従える事が出来る「精霊の御遣い」に覚醒して、ライバルに苛められたりしながら御遣いの修行をして攻略対象と共にこの世界で起こる大災害を精霊の力を集めて食い止めるっていう物語なんだ』
『へぇー』
『攻略対象は5人。第二王子のウィリアム王子、公爵子息のセルゲイ・サファイアニス、伯爵子息のダニエル・エメラルドレアン、侯爵子息のシャルル・ルビード、2年生で伯爵子息のロベルト・オニキスール。イケメン揃いよ!』
まぁゲームの攻略キャラならそうでしょうね~。
『…その攻略対象の人達は前世でもある名前だし分かりやすく宝石が名前に入ってるんだね』
『主要キャラだからね』
何それ。分かるようで分からない理屈。
『王子様と言えば昨日寮に入ってたね』
『そうそう!王子は金色の髪でいかにも王子様って外見よ!そして青い髪のセルゲイ様、緑色の髪のダニエル様、赤い髪のシャルル様、黒髪のオニキス様。髪色で分かるわ』
『あっ、見た見た!!食堂で人としてあり得ない髪色した人がいる!!って思ってたんだ!!』
『ゲーム上で見分けるためのキャラ設定なんじゃないの?』
『なるほど~。だからあの人達だけ奇抜な髪色してるんだ!どこのイカれたパンク少年達だ、と思ってたよ』
エクレア様が皆を見回す。
『ねぇ。プリナってこういう子?』
『うん。そういう子』
どういう子!?皆して何か失礼じゃない!?
『ん?青い髪や緑の髪の王子様…?何かどこかで見たような…』
『だから昨日食堂で見たんだろ?』
『じゃなくて。えーと、どこだっけ…』
一生懸命記憶を探す。カラフルな髪色の人達とどこかで会話した気がする…。
『あぁっっ!!思い出したぁ!!職場の同期の子に「友達紹介させてくれ」って頼まれて仕方なくやらされたヤツだ!!!』
そうだよ!タイトルも何も覚えてないけど皆奇妙な髪のキャラだったので覚えてたんだ!だって普段ゲームをやらないからね!
『なんだ、結局プリナだってゲームやってたんじゃん』
『そうだよ。なのに何で全然思い出せないのよ?』
皆から突っ込まれる。しょうがないじゃん。
『だって同期に「チュートリアルまでだけで良いから!」って頼まれたんだもん。だから言われた通りチュートリアルまで見ただけ。ゲームはやってないよ』
『………あ~それじゃ覚えてないのもムリないか』
そして気になっていた事を聞いてみる。
『皆はどこまでゲームをやってたの?』
メリザから
『私はさっき言ったけど入院中に同室の子に薦められて彼女の好きなウィル様だけ攻略したよ。他はやってない』
イルクは
『オレは彼女に頼まれて代わりにやらされたんだよ。彼女がどうしてもロベルトだけ攻略出来ないって言うから。だからロベルトだけ』
ふーん。彼女ねぇ。
ポリーは
『私も友達に薦められて見た目が好みだったツンデレのダニエルとオレ様のシャルルだけ』
ダニエルはツンデレ、シャルルはオレ様なのか。メモメモ。
カロは
『オレは罰ゲームで買わされてそのまま皆で連れの家に行ってゲーム始めて。ウィルの恥ずかしい台詞を言わされて…。それでゲームにハマった女の子が欲しいって言うんでその子が持って帰ってたからウィルの途中までしかやってない』
女の子がいる飲み会ねぇ。それを合コンと言うんじゃないの?
『エクレア様は何で?ゲームやりそうなタイプに見えないけど』
エクレア様は
『私はバイトで声優やったのよ。チョイ役だけどね』
なるほど!さっき女優って言ってたもんね。
『これでこの世界について判ったね。でも私達はゲームの脇役ですらないから別に関係なさそうじゃない?』
『うん。無理矢理ゲームに参加しなくて良いよな』
『そうだね。キャラ達には勝手にストーリーを進めてくれとしか』
どうやらゲームの世界に転生したらしいけれど私達は関係性も無さそうだしストーリー外で好き勝手に生きて行けば良さそうだ。
『そんなこと言わないで助けてよ!!』
突然エクレア様が叫び声をあげた。
『え、何?エクレアなんてゲームに出てきた?名前も覚えてないんだけど』
『オレも無視すれば良いと思う』
『そういう訳にもいかないんだって!!』
エクレア様が突っ伏してしまった。
『昨日ガブリエラと会ったでしょ!?あの人が主人公のライバルで悪役令嬢なのよ!!』
『あぁ…あの性格悪そうな高慢ちきの人か』
『あ~そういやゲームに出てきた。毎回嫌がらせしてくる性悪女』
『いたいた!』
『まんまじゃん』
『悪役令嬢って?チュートリアルに出てきたっけ?覚えてないんだけど』
引き続きエクレア様が説明してくれる。
『ガブリエラは公爵令嬢でウィル王子の婚約者なの。で庶民出のくせに王子達に気に入られる主人公が気に食わなくて散々嫌がらせするのよ。それで最後は悪事がバレて弾劾されて国外追放されるの』
『それが分かってるなら距離置けば良いじゃん』
『そうだよ!友達やめればいーじゃん』
『それが出来たら苦労しないわよ!!言ったでしょ、相手は公爵令嬢だって!家が伯爵の私は命令されたら拒否出来ないのよ!!』
エクレアは子どもの頃にお茶会でガブリエラと出会いゲームの世界だと気付いたんだそう。それで今まで何とか軌道修正が出来ないかと彼女を諌めたり宥めたりしてきたけれど性格は悪化するばかりだったとか。
『別に主人公が誰と恋愛しても構わない。ガブリエラが国外追放になっても自業自得だから良いんだけど、取巻きの私もガブリエラの追放と一緒に修道院送りにされちゃうの!!そんなの嫌!!お願いだから私を助けて!!』
そう言われてもなぁ。平民の私達はゲームに登場しないし、これからもキャラ達との接点なんて生まれないだろう。ガブリエラと関り合いたくないし!
でも泣きそうなエクレアを見ると何とか力になってあげたいと思う。
『ねぇ。私達と友達になれば平民と仲良くするエクレアを嫌って向こうから切ってくれるんじゃない?』
『それだ!!』
『貴族連中に嫌われる覚悟が必要だけど。どうする?』
エクレアは暫く考え込む。私達と違い貴族に生まれた彼女が貴族社会でハブられるのは相当な覚悟がいるだろう。
『そうね…。良い考えだと思う。私も苛められる事になるだろうけど、ガブリエラの道連れにされるより何万倍もマシよ!!』
それから私達の顔を1人ずつ見てから真剣な顔で言った。
『打算的な経緯で申し訳ないけど、良かったら私と友達になって下さい。下心があるのは本当だけど昨日出会った時から友達になりたいと思ったのは本心なの。前世の話も出来るこの世界で誰より心を開ける仲間だもの』
もちろん全員喜んで了承した。
もっと話したかったけれどエクレアはガブリエラのお茶会に誘われているからと退出した。
『主人公ってどんな人なんだろうね?』
『えっとね、貴族になったばっかの女の子でピンクの髪の「可愛くて優しくて頑張り屋さんでちょっぴりドジな子」だよ。』
『ピンクの髪!?今朝入寮してきた子だ!!階段登ってく後ろ姿を見掛けたよ!』
やっぱり奇抜な髪色はゲーム主要キャラだったからなんだ!!
そして従者にキツく当たってる姿を思い出す。「優しくて」ねぇ。性格悪そうな気がするぞ。
それから皆が手伝ってくれて居間やキッチンの片付けをする。鍋は使い終わったら返すと言ったらずっと使ってなかった物だから返さなくて良いと言ってくれたんだ。なので作ったおにぎりをお礼に渡そうとラウンジに持っていく。他にも寮母さんにも渡した。皆さん驚いていたけれど笑顔で受け取ってくれた。もちろんカラスにもあげたよ!
その後はおにぎり食べて満腹なので夕食までお腹を空かせたかったのと、ずっと部屋に籠っていたから外の空気を吸いたくなったので皆で外の庭園に行くことにした。風が気持ちいい!
「何か色んな事が分かったね」
「そうね。これからどうなるんだろうね」
皆言葉少なに暮れていく空を眺めた。
やっと世界の説明まで出来ました!




