135)精霊祭
大晦日から元旦にかけての聖樹での精霊祭の厳かな前夜祭を終えて、真夜中に帰宅すると皆でお昼近くまで爆睡した。
この世界にはお節料理は無いけれど、皆で普段より豪華な食事を食べてノンビリ過ごして、明日からの精霊祭の最終準備をする。我が家は自家製チーズと麦藁を編んだコースターやら小物を販売する。冬の貴重な収入だ。
「あ、ウィル様達とエクレアから年賀状が届いたよ~」
「年賀状って言うのか?」
クロールネットワークで届けられたお手紙を皆に見せる。
「ウィル様は…新年早々パーティーでお疲れみたいだね」
「エクレアは……新年会で飲み過ぎて寝込んでるって。エクレアらしいよ」
メリザは麦藁でかごバッグを器用に作っていた。私達もメリザに教わりながら作っているのだけれどとても売り物になりそうにない。姉さんは手先が器用なので既にバッグ作成をマスターしていた。
「モーラさんの婚約者さんはいつ村に帰って来るんですか?」
「今夜領都を出発予定だから…明日中には着くと思うわ」
「いよいよ結婚式ですね!楽しみです!」
「うふふ、ありがとう」
もうすぐ姉さんはテガーさんと結婚式を挙げて領都に行ってしまう。
こうして家族の形が変わっていくんだね。
「私はそろそろ寝るわね。皆も早目に寝てね」
「はーい!お姉さん、お休みなさ~い」
「お休みなさい」
姉さんが部屋に戻って行った。
「病院で会った時より綺麗ね!やっぱり花嫁エステとかしてるの?」
「田舎にそんなの無いから!あれは内面から幸せオーラが出てるのよ!」
「そっか。…やっぱり恋愛が女を美しくするのね……」
「ポリーはいつでも綺麗だよ?」
「プリナったら!プリナはいつでもどこでも可愛いんだから!やっぱり私はプリナに全力の愛を注ぐわ!」
「いやいや、ちゃんと新しい恋を見付けなよ…」
「いいの!リア充爆発しろ!!」
「ポリーが一番リア充だったのに…」
ポリーのテンションの高さは失恋の痛みの裏返しかもね。
私のベッドは3人で眠るには狭いけれど、ポリーの気が済むまでお付き合いしよう!
翌日。
朝から出店準備に出掛けた両親を見送って、ウィル様とエクレアに皆でお手紙を書いてクロールのお友達に渡して、お祭り開始頃に広場へ向かった。
小さな村の住民達のお祭りなので小規模だし、出店しても物々交換みたいなものだけれど、やぐらでは大太鼓が鳴って、皆も輪になって踊っていて、とても盛り上がっていた。
特に数日後には村唯一のコレッタ商会の子息と姉さんの結婚式を控えているのでとても賑やかだ。
私達も輪に入って村の人達と踊って、イルクが飛び入りで太鼓とサックス演奏して会場は更に盛り上がって、屋台で飲み食いしてお祭りを堪能した。
「お、プリナじゃねーか!よっ、村の出世頭!」
「よぉプリナ!ヒルド村の期待の星!」
「おや、プリナ!ここは出世払いで良いよ~!」
村の皆はとても温かい。
変わらぬ村人達にホッとする。
「プリナ、久しぶり~」
「王都ってどんなところ?私も行ってみたいなぁ」
ヒルド村の人間にとっては王都は海外位に遠い場所だ。
会う人会う人に声をかけられる。
「プリナは人気者だな」
「小さな村だからね。村人全員が家族みたいなモンなの」
「そういうの、ちょっと羨ましい」
「オレんところも漁師全員が親父みたいなモンだからちょっと分かる」
「メリザもポリーもカロも都会っ子だもんね~」
私はホットワインを飲みながら答えた。
「…プリナはそうやって子どもの頃からお酒飲んでたんだね…」
「ああ、これ?寒いから」
「それじゃ学園来る前にも酔って迷惑かけたりしてなかった?」
「うーん、どうだろう?あ、でもお酒飲むと何だか周りに男の人が集まって来てたかも」
「!?」
カロが私の手からワインのコップを奪い取った。
「何するの!!まだ半分残ってるのに!!」
「プリナは外で飲酒禁止!!」
「どうして!?」
「どうしても!!」
「ブーブー!」
「絶対ダメ!!」
そんなに迷惑かけてたのかな?
でも皆はいつも私がお酒を飲むとニコニコしてくれてるし、そんなに嫌がられてはいないと思うんだけど。
「プリナちゃん!こっちに領都で流行っている美味しいワインがあるよ!たくさーん飲みな!」
「本当?飲みたい!」
「!?ダメ!!」
私の腕をカロがムリヤリ掴んで行かせてくれない。
「オジサンがせっかく勧めてくれてるのに」
「人前で飲んだらダメ!!」
「えぇ~!!?お祭りの楽しみなのに!!カロの意地悪!!大っ嫌い!!!」
カロの手が緩んだので、その隙に私はカロから逃げた。
「プリナ!?待って!!」
「イヤ!!ここから自由行動!!!」
私はダッシュして皆から離れた。
「…何でムキになっちゃったんだろう……」
私は片手にホットワイン、反対の手にフルーツワインを持って1人トボトボと歩いていた。
せっかく皆にお祭り楽しんで欲しかったのにな…。
「プリナじゃん!こっちにオススメの果実酒があるぞ!飲んで行きな!」
「うん…」
私は両手のワインを飲み干して、果実酒を受け取る。
美味しい。
「お代わりあるぞ!ホラ、もっとジャンジャン飲みな!」
「ありがとう」
走った体に冷えた果実酒は飲みやすくて勧められるままにどんどん飲んでしまう。
「こっちはそれより少し強いけどオススメだよ。飲んでごらんよ」
「うん……」
うっ。本当に強い。
喉が焼けそうだ。
何だか頭がボンヤリしてきたかも……。
「プリナ、こっちのお酒も強くてオススメだよ。…顔赤いね?酔ってきた?」
「そうかも…」
「おいで、こっちで休んでいきなよ」
肩を抱かれて奥のベンチに座るように勧められる。
厚意に甘えて少し休んで行こうかな……。
「プリナ!!!」
「!!」
カロに呼ばれたと思ったら腕を後ろにグイグイ引っ張られた。
そしてギュッと抱き締められた。
「カロ……?」
「心配したんだぞ……。もう今日は帰ろう」
「………」
カロの身体がすごく熱い。
顔も汗だくだし、一生懸命探してくれたんだと分かる。
「みんなは…?」
「別れてプリナを探してたんだよ。ホラ、行くぞ」
「………うん」
カロが手を繋いで帰ろうとする。
足元がふらつくけれど、大人しく着いていく。
「…プリナ、酔ってるな?」
「そうでもないよ?ちょっとフワフワしてるだけだもん」
「……しょうがないな。文句言うなよ?」
「!?」
カロにお姫さま抱っこされてしまった。
村の皆の前で恥ずかしい!!
「ちょっと、カロ!!止めて!!恥ずかしい!!」
「言うこと聞かなかった罰だから」
「ごめんなさい!!謝るから!!お願い、降ろして!!」
「家まで絶対に降ろさない」
「そんなぁ………」
「ほら、シッカリ掴まって」
「うぅ………」
私は仕方なくカロの首にしがみついた。
「………怒ってる?」
「怒ってるよ」
「……………ごめんなさい」
「……今度から人前で飲まないって約束出来る?」
「………………」
それはイヤだ。
無言の抵抗をすると、カロが長い溜め息を吐いた。
「……………これはお仕置きだから」
「?……!!?」
カロは私にキスをした。
ビックリして動けない。
驚き過ぎて思わず身体の力が抜けて腕を離してしまうと、カロは器用に私の頭を支えて鼻と鼻がくっつく位の近さに顔を寄せた。
「…………今度のは本気のだから」
そして、今度はもっと長くキスをされた。
頭を固定されて動けない。
唇が離れて、涙目でカロを見るとすごく優しい笑顔だった。
顔にジワジワ熱が集まってくる。
「もう我慢しないから」
もう一度唇が重なる。
今度は私もカロの首に腕を回して、目を閉じて受け入れた。
カロの私を抱き締める力が強まる。
「カロ………」
「後で忘れたとは言わせないから」
そして、帰宅するまで何度もキスを繰り返した。
「カロ、ついにやったじゃん!!」
「おぉ~!!ついに行動に移ったか!!やるなぁ!!」
「ようやく………2人に春が……!」
「カロ、頑張れ!お酒に負けるなよ!」
「あれまぁ…プリナはお婿さんを見付けて来たんだね…」
「カロト君だったのね…!何よ、やっぱりお婿さん候補だったんじゃない…!」
「お父さんが見てなくて良かったわ~」
「村人全員見てるから直ぐに耳に入ると思うわよ、お母さん」
「現場を見てないだけマシでしょ」
「それもそうね……お父さんが見てたらショックで寝込んじゃうわね」
私達は自宅に帰って、カロに水を飲ませられる。
「…………………」
「…………………」
恥ずかしくてカロの顔が見られない。
すごくビックリしたけれど……嫌じゃなかった。
うん、全然嫌じゃなかった。
でも……好きな人がいるって言ってたのに………
「プリナ」
「!」
カロが私の身体を持ち上げてカロの膝の上に乗せられた。
恥ずかしくて顔を上げられない。
「プリナ」
「!………………はい」
恥ずかしくて照れ臭くてドキドキする。
「あ………」
そっとカロの胸に触れると私と同じ位にドキドキしてた。
カロも一緒なの?
「好きだよ」
「!」
「ずっと前から………多分食堂で初めて会った時から、プリナのことが好きだよ」
「えっ!?」
思わずカロの顔を見上げた。
そこにはいつもと同じ優しい笑顔があった。
「プリナが好きだよ」
「………!!」
ずっと前から守ってくれていた。
いつも大切にしてくれていた。
私が一番安心出来る場所。
私もずっとカロが大切だったのに……。
「カロ………」
「やっと言えた」
カロは眩しい笑顔を見せた。
胸がギュッと苦しくなる。
「カロ…………大好き」
「…………うん。…………知ってた」
「!?何で!!?」
私も今気付いたのに!!!
「プリナ、大好きだよ」
「カロ………私も大好き」
胸がいっぱいで涙が溢れる。
カロは大きな手で私の涙を拭ってくれる。
「…新年の目標、アッサリ叶っちまったよ」
「ふふ……」
またキスをする。
「ちゃんと覚えておいてくれよ?」
「忘れないよ………」
そして、メリザ達が帰ってくるまで何度もキスをした。




