133)友達の恋愛事情
それは精霊祭も間近に迫った日のこと。
私達は村の広場のお祭り会場の設営をしていた。
「ん?」
鶴が手紙を運んで来てくれた。
「ありがとう!…あれ?ポリーからだ」
「ポリー?何だって?」
やぐらを作っていたカロとイルクが手元の手紙を覗き込んできた。
「…今からヒルド村に来るって」
「は?公爵子息の領地にいるんじゃないの?」
「ね?…何かあったのかな?」
私達は村の人達に断って自宅に戻ることにした。
少しして、遠くの空からドラゴンが凄い速さで飛んで来るのが見えた。
トパーズ山のイワオさんの仲間のロックドラゴンだった。
彼らは私達のタクシーになってくれたのだ。
馬車より速いからね。
クロールの仲間は何処にでもいて、手紙を運んでくれる。精霊達も手伝ってくれるのだ。
「プリナ~!!」
「ポリー!!ようこそ、ヒルド村…うわぁ!!」
ポリーはドラゴンが着地する前に飛び降りて来た。
私は受け止めきれなくて尻餅を着いた。
ポリーは私にしがみついて泣き出した。
「何があったの?」
「……プリナ~!!」
とりあえずポリーを抱えるようにして自宅の私の部屋に連れていった。
家にいたモーラ姉さんが私達にお茶を淹れてくれて静かに部屋を出ていってくれた。
「……落ち着いた?」
「うん………」
ポリーは泣き止んだけれど、まだ目が真っ赤だった。
「何があったのか聞いても良い?」
「……公爵子息の家で嫌な目に遭ったのか?」
ポリーの目にまた涙が浮かんだ。
涙を拭けるようにタオルを渡したけれど既にグシャグシャで2枚目を使っている。
「公爵子息様は……とても良くしてくれたの」
「うん。…じゃあご家族に苛められた?」
ポリーは横に首を振った。
「歓迎してくれたよ。…妾なら良いって」
「………は?」
「彼は公爵子息だから……結婚は出来ないけれど、愛人として囲ってくれるって」
「はぁ!!?」
「愛人宅として家も用意してくれるって」
「何それ!?それで彼は何て言ったの!?」
「彼はニコニコして頷いてた。愛人として大事にするって」
「!!?」
まだ16歳の女の子に「愛人」だなんて!!
私は手に持ってた木のスプーンをポキッと折った。
カロは手に持ってたタオルを引き裂いた。
イルクは掴んでいたおやつのリンゴを握り潰した。
「……一瞬だけど、私も打算したよ?あの婚約者と結婚するより公爵家で愛人として囲われた方がよっぽど幸せかも、って」
「……………」
「でもさ…最初から愛人なんて…それ前提でのお付き合いなんて……辛すぎる」
「ポリー……」
「別に彼と結婚したかった訳じゃないよ?学生時代の恋愛なんて一生モノじゃないじゃない?」
「まぁ前世ならそうだよね…」
「…そうなの。この世界の学生時代の恋愛は将来に直結するんだよね…。私は深く考えてなかったの」
「…………それで。どうしたの?」
「彼の家の夜会で愛人候補としてお披露目されたよ。婚約者さんにも紹介された。仲良くして欲しいって」
「!!?」
「……その婚約者さんはどんな態度だったの?」
「笑顔で受け入れてた。政略結婚だから愛人は認めるって。ただし子どもは作るなって」
「………」
「ただ普通の彼氏彼女になれたら…期間限定の恋人でそれで良かったのに…」
「……うん」
貴族の考え方はとても理解出来そうにない。
ポリーも同じだろう。
「だから、丁重にお断りして出てきたの」
「そっか……」
私はポリーをギュッと抱き締めた。
この国は王族のみ重婚が許されているから、貴族は「愛人」にしかなれない。
それでも安定した生活は保証されるのかも知れないけれど。
前世で言えば私達はまだ高校生だ。
そんなの受け入れられる訳がない。
「まだ卒業まで2年以上あるんだし、ゆっくり考えよ?…今から愛人の将来に決めることないもの」
「そうだよ。ポリーにはちゃんと愛ある結婚して幸せになる権利がある!」
「そうだ、オレらは平民だから貴族には出来ない恋愛結婚する事が出来る!!諦めるな!!」
「…私もカロみたく同じ平民を好きになれたら良かった」
「えっ?カロ、好きな人がいるの!?」
カロに好きな人がいるなんて知らなかった!!
その人と両想いになっちゃったら離れていっちゃうのかな……。
私がショックを受けて青ざめているのにカロもイルクも、さっきまで泣いてたポリーまで呆れるような瞳を私に向けてきた。
「メリザじゃないけど……カロ、頑張れ」
「オレからも言うよ。カロ、頑張れ」
「………うるさい」
何だかさっきまでと空気が違うんだけど。
って言うか、皆はカロの好きな人のことを知ってるのかな……。
私だけ除け者にされてたとしたら…悲しい。
私はカロの袖を摘まんだ。
「カロ……好きな人がいたんだ……」
「………いるよ」
本人から聞くのはすごくショックだった。
ずっと側にいたのに。
もしかしたら私から離れていっちゃうかも知れないと思うと胸が苦しくなった。
目が熱くなる。
でもここで泣いたらダメだ!!
大切な友達の幸せを願えなくてどうする!!
「……もしその人と上手くいったら教えてね」
「……プリナに一番に言うよ」
「うん……」
姉さんや兄さんの結婚が決まった時も寂しかった。それこそ一晩中泣いた。
…でも今は新しい家族を受け入れられた。
カロもきっと同じ。
ちゃんとカロが選んだ人を受け入れて仲良くなろう。
私は胸の痛みを受け入れた。
明日はメリザもヒルド村に来てくれる。
皆でポリーを慰めて、新しい年を迎えよう。
精霊祭までもうすぐ。




