121)想いの行方
私は部屋に戻るとソファーに沈んだ。
ラウンジに行かなきゃいけないのに……。
精霊達もボディーガード達も私自身も悪意に気付かなかった。
相手の思い付きでたまたまやってしまったんだろうか……。
偶然の事故かも知れない。
皆には黙っていようと思った。
ラウンジに入るとシャルル様とダニエル様がいた。
「プリナ!これから森へ行くんだろう?僕も行って良いかな?」
「オレも久々に森の様子を見たくてさ。しばらく修業してなかったし」
「はい………」
「……?何かあった?」
「!いいえ、何にも」
私は笑顔で答えたつもりだけれど、皆の顔が曇った。
「プリナ、トランペットは?」
「忘れた……」
「部屋に戻らなかったの?」
「ううん、戻ったよ」
「それで…忘れちゃったの?」
「………うん」
「……………」
「ガウ」
「!シロップ?いつの間に!」
ポケットの中にいつの間にかシロップがいた。
「ガウガウ!」
「キーキー」
「えっ!?」
「ちょっと!みんな黙ってて!」
私が止めるのを聞かずにみんながメリザやポリー、イルクにさっきの事を伝えてしまった。
「階段から落ちたの!?」
「……まあね。でも精霊達が守ってくれたから怪我してないよ?」
「……気を付けてね」
「うん。心配かけてごめんね」
「……誰かに突き落とされたの……?」
「ただの事故だよ」
「……………」
せっかく皆が自分のやりたいことを見付け出してるのに、また私最優先になんてさせたくない。
私はあくまで事故だと言い切った。
「待たせてごめん」
「カロ!…どうだった!?」
カロがスッキリした顔でラウンジに入って来た。
「うちのクラスの男爵令嬢が迷惑かけてるみたいだな。クラスの男子が相手にしないからって恥知らずも良いトコだな」
「ダニエル、言い過ぎ」
「じゃあシャルルがお相手してやれば~?」
「僕は……自分が好意を持った人としか仲良くしようとは思わない」
そう言うとシャルル様は私に笑顔を向けた。
「そうそう!カロ!今日プリナがね」
「!そうなの!今日トランペット持ってくるの忘れちゃったの!!ごめんね!!」
「プリナ?」
皆が怪訝な目をした。
「でね、シャルル様とダニエル様も森に一緒に行こうって!良いよね!?」
「………ああ、構わない……けど………」
「良かった!じゃあ行こう!」
私は立ち上がってポリーとメリザの背中を押した。
「ちょっとプリナ……」
「まだカロには言わないで」
「……事故なんでしょ?」
「そう、事故だから、わざわざ心配かける必要もないでしょ?」
「……………」
私達は森へ入り海の聖樹の元に行った。
いつものように聖樹の側には象がいた。
「象じゃんか!!」
「…象なんて動物園でしか見たことないよ!!」
海の聖樹が初めてだったシャルル様とダニエル様は象に感動していた。
私は象の背中に乗って散歩をした。
「プリナ…何があった?」
カロが心配そうに声を掛けてきた。
言っても言わなくても心配かけちゃうんだな…。
「さっき階段で転んで落ちたの」
「はぁ!?怪我は!?」
「大丈夫。精霊達が守ってくれたから」
「……………それで、何でそんなに暗いんだ?」
「…自分のドジ振りに自己嫌悪になってるだけ」
「……嘘つけ」
カロは私の腕を掴むと無理やり象から下ろしてお姫様抱っこをして聖樹まで連れていくと、樹に凭れかかった。
「何かあったらちゃんと言って」
「…ねぇ、サレーラ様とはちゃんと話せたの?」
「ああ……そっちは問題無い。オレは家業を継ぐから貴族に婿入りするつもりはないって伝えた」
「……それで諦めてくれたの?」
「ああ、大丈夫」
「そうなの……良かった」
「プリナ。…違うだろ?」
「え」
カロが聖樹から離れた木に移動して座り込んだ。私は膝の上に乗せられて逃げられないようにホールドされてしまった。
「……何があったの」
「…………」
ものすごく優しい声で聞かれた。
私が俯くと、両手で顔を持ち上げられて目を合わせられてしまう。
「ちゃんとオレの瞳を見て」
「…………」
「何があったのか教えて」
「…………」
ぼやける程の至近距離から見つめられる。
逃げられない。
「………怖かった……………」
「……………」
「誰かに……背中を押された…………」
「…!?」
「精霊達もネズミさん達も私も気付かなかった……」
「………誰かに突き落とされたんだな?」
「たぶん…………」
カロの目が険しくなった。
カロにはいつも笑顔でいて欲しいのに………。
「!泣くな」
「泣いてないもん……」
嘘。
涙が溢れてくる。でもこぼさない!
「悪意を持って近付いてきたのなら精霊達がきっと教えてくれたはずなの。…だから気にし過ぎなのかも」
「そんなことはどうでもいい」
カロが抱き締めて頭を撫でてくれる。
「プリナが怖い思いをしたことが問題なんだ。ごめん、1人にさせたオレが悪かった」
「何でカロが謝るの………」
カロに謝らせたくなんてない。
ミサキが居なくなって油断した私が悪いのに。
それに……偶然の事故なのかも。
「絶対に離れないって約束したのに……守れなくてごめん……」
「きっと事故だから……。ちょっと怖い思いをして、バルコニーから落ちた時の事を思い出しちゃっただけなの……」
「プリナ………」
カロが何かを言いかけた時に、修行中だったダニエル様がやって来た。
「プリナ!…おっと、邪魔したか?…え、もしかして2人って…そういう……?」
「?」
「!まだ違います!!」
カロは慌てて私を膝から降ろすとダニエル様と2人で離れてしまった。
これ以上追及されなくて済んで助かった…!
「プリナ!僕も1人で精霊の力を借りる事が出来たよ!」
「さすがシャルル様ですね!」
「久々だと疲れるね…。今日はありがとう。プリナ達と森に来れて楽しかった!」
「私もですよ!」
象と別れて皆でお喋りしながら寮に帰る。
こんな時にフルール様がいてくれたら……。
話を聞いて欲しかったな……。
私はフルール様からもらったペンダントを握り締めた。
そんな私をカロが心配そうに見つめていた事には気付かなかった。
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