120)忘れたり思い出したり
ふと目を覚ますと、私は自分のベッドの中にいた。
横を見るとカロがうつ伏せで寝てる。
「カロ」
「………ん?」
カロがゆっくり起き上がった。
そして手を引っ張られる。
「!?私またカロの手を掴んで寝ちゃったの!?」
「ああ……うん、まぁ……」
「ごめんね!!また迷惑かけちゃった!」
私が慌てて手を離そうとすると、カロがちょっと不機嫌そうな顔になった。
「で?…どこまで覚えてる?」
「え?…えーと…隣のクラスの女の子が婚活に励んでるって話を聞いて……」
「……うん」
「皆でムカついてて…………」
「……うん」
「それで……………………何だっけ」
「やっぱり…………」
カロが項垂れた。
「その後何か大事な話をしたんだっけ?」
「………………したよ」
「本当!?…うわぁ~ごめんなさい!!」
私は飛び上がって起きて、カロに謝った。
「いいよ、覚悟してたから」
「覚悟?」
「………もしまた同じ事言ったら今度はするから」
「?何を?」
「オレの理性を褒めて欲しいよ……」
「理性?って何?」
カロが言ってる事が分からない。
カロがゆっくり顔を上げた。
「……何でもない」
「私…何かカロに酷いこと言っちゃったの…?ごめん、きっとそれ本心じゃないから!!」
「それはもっと嫌だ!!」
「えぇ………」
どうしよう、カロを怒らせた?
何かしでかしちゃったんだろうか……。
えーと、えーと………
………………。
「!あ!思い出した!!」
「!!何を!?」
カロの表情がパッと明るくなった。
「えっとね……「今はがまん…」」
「!?」
「…何をがまんしたんだっけ?」
何故かカロの顔が真っ赤になった。
「私は何をがまんしたんだっけ………」
「……………」
カロが私の腕を引っ張ってギュウと抱き締めた。
「我慢したのはオレだ」
「そうだっけ?……で、何を?」
「それは…………」
「それは?」
カロの顔を覗きこもうとしたけれど、私の頭を肩に押し付けてきてカロの顔が見えない。
「……今度から大事な話をする時はプリナは絶対に禁酒な」
「ああ!お酒をがまんしたのかぁ!…そう言えばもっと飲みたかった気がするよ」
「……………」
カロが大きな溜め息を吐いた。
「カロ……?」
「フルール様はズルいよなぁ……」
何でいきなりフルール様が出てきたんだろう。
「オレは…プリナが大事で傷付けるような事はしない」
「うん」
「プリナを大切にしたい」
「うん」
すごく大切にしてもらってるの、知ってるよ?
「長期戦の覚悟はしてるけど……プリナもお酒の力を借りないで本音を言って欲しい」
「?……うん」
カロが私の背中を優しく撫でてくれる。
「……ヤキモチ焼いてくれた?」
「……………うん」
カロがパッと身体を離して私の顔を覗きこんできた。
きっと今、私の顔が赤くなってると思う。
カロがすごく嬉しそうに笑った。
「……良い感じ」
「!もう!!何それ!?」
カロが立ち上がって、寝室を出ていく。
「さっきエクレアがウイスキーのボトルを持って帰ったよ。プリナも一緒に片付けしよう」
「うん!」
居間に行くと既に片付けは終わっていて、メリザ、ポリー、イルクがお茶を飲んでいた。
「お帰り~」
「片付け任せちゃってごめんね」
「いいのいいの!カロへのご褒美だから」
「そうそう!私達の思いやりだから!」
「?」
「カロも最近ストレス溜まってたからさ、たまには幸せを感じてもらおうと思ってさ!」
「幸せ?」
「………カロ、頑張れ」
「うるさい」
皆の言う幸せって言うのがよく分からないけれど、カロの表情は飲み会前よりずっと明るくなったので良かったんだろうな。
サレーラ様はその後も相変わらず私達のクラスにやって来ては一方的にお喋りして行った。
めげないね!
「カロト様ぁ、今日こそご一緒にお茶しませんかぁ?」
「……分かりました。お付き合いいたします」
「えっ!?」
「カロ!?」
「まぁ!嬉しい!!では談話室の予約を入れて参りますわぁ!談話室は貴族にしか利用出来ませんのよ~!?ウフフ!」
「………恐れ入ります」
サレーラ様は浮き足だって教室を出ていった。
「カロ……」
私はカロの袖口を摘まんだ。
カロは私の頭を撫でて微笑んだ。
「カタを着けてくるよ。…いい加減ウンザリしてんだ」
「………1人で大丈夫?」
「終わったらまたトランペットの練習しに森に行こうか。ラウンジで待ってて」
「…うん」
その日の授業が終わると、カロはサレーラ様と2人で談話室に行ってしまった。
私は部屋に置いてあったトランペットを取りに、ラウンジへ行く前に1人部屋に向かっていた。
階段を降りていると、突然何かが背中にぶつかった。
「!?」
私はバランスを崩して階段から落ちた。
「きゃあああ!!!」
咄嗟に精霊達が庇ってくれたお陰で怪我をしなくて済んだ。
階段を見上げたけれど、誰も居なかった。
今のは……背中を押されたんだ。
「…………」
久々に感じた、誰かに向けられる悪意。
ミサキが居なくなって、もう終わった事だと思ってた。
……でも。
よく考えてみたら、私が監禁された件や教科書をボロボロにされた件、制服を汚された件は、誰が犯人かは分かっていない。
ずっと穏やかだったので忘れていた。
何処かにまだ私を憎んでいる人がいる。
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