12)棚からトモダチ
王都で買い物した翌日。朝から何だか寮全体がざわめいている気がする。今日はメリザ達と学園探検の予定だけれど夕食前まで全員寮から外出しておくようにと学園側から通達があった。食事の時間だけ食堂だけは開放するけど他の時間は建物に立入禁止だって。
「おはようプリナ。それ昨日買ったワンピースだよね!似合ってるよ」
「ホント?ありがとー!でもこれを普段着扱いなんてヒヤヒヤするよ~」
「今日は誰とすれ違うか分からないから普段よりオシャレしておいた方が良いよ」
メリザと話しながら食堂に着くとカロとイルクは既に朝食のトレイを持ってテーブルに座っていた。私達も朝食を受け取って彼らのテーブルに着いた。
「おはよう!今朝は何だか騒々しいけど全員外出なんて一体何なんだろうね~?」
すると全員に呆れた顔をされた。
「プリナって本当に世間知らずだよね」
「私もまさか知らないとは思わなかった」
「うるさいよ。って言うか、いきなり失礼じゃない!?」
「…今日は王子様が入寮されるんだよ。それで引っ越し作業の間は全員立入禁止なの」
カロが説明してくれた。学園中の人が知っていることだったらしい。
「王子様がいたんだ~。へぇ~。じゃ同級生ってこと?もしかしたら「ご学友」になれたりする?」
「平民がそうそう知り合えるか。きっと周りの貴族達に近寄らせてももらえないよ」
「同級生なのに?」
「相手はこの国の王族だよ?」
そんなものなのかぁ。領主様とすらお会いした事がない私は王族とか王子様と言われてもピンと来ない。そりゃ「王国」なんだから王様がいるんだろうとは理解していたけれど。
「王子様ってどんな人かな?」
「ご入学されるのは第二王子のウィリアム様で輝くような金色の髪に宝石のような空色の瞳の見目麗しい方だって聞いたことがあるよ。ちなみに3年生に第一王女様が在学中なのよ」
「へぇ~!王子様とお姫様かぁ!!」
今度はメリザが教えてくれた。
王子様が引っ越ししてくるからって全校生徒に外出してろって言うのも何だかな~。セキュリティとかの問題があるのかも知れないけれど王子様なんて好きになれそうもないわー。きっと下々の者なんて視界にも入れたくないんだわー。
私はたった今まで存在すら知らなかった王子様に対して軽く偏見と嫌悪感を持ってしまった。どうせ3年間の学園生活で接点もなく終わるだろうけども。
「私達は元々今日は探検する予定だったけど他の人達はどうするんだろうね?」
「さあねぇ。貴族様はどっかでお茶会でも開くんじゃないの?街に出ても良いんだし」
食事を終えて一旦部屋に戻ってカラスに食堂から持ってきたホットサンドを食べさせた。夕食前まで戻れないから更にホットドッグとマドレーヌを置いてコップ代わりに洗面器に水を入れた。これでもお腹空いたらごめんね、と謝ってから集合場所の寮の玄関に向かった。
探検スタートは学園入り口の門にしてそこから時計回りにぐるっと回る計画だ。校門近くに行くと馬車が大行列になっていた。今朝メリザが言ってたように校外で過ごすのね。今日に限っては学園都合だから馬車を迎えに来させる許可が降りているのだろう。私以外の人は今日王子様が入寮してくることは知ってたみたいだし。午前中から夕食前までなんて予定もなく時間潰すのは大変だもんね。私なら部屋に1日中引き込もってダラダラ寝てられるけれど。
授業が行われる講義棟は何棟もあって入学式後にオリエンテーションで案内されるそうだから敷地内の配置を覚える事をメインにする。少し歩くとガーデニングされた庭園があった。ここでお茶会したりも出来るらしい。庭園には色鮮やかな花が咲いていてとても美しい。これは水仙だろうか、これはガーベラだろうか。前世でも花の名前なんてろくに知らなかったので目の前に咲く花も分からない。あ、知ってる花があった!
「菜の花!!これは食べられるよ。村でも食べてたよ!」
「学園の花を食べちゃダメよ、プリナ」
「さすが田舎娘」
都会育ちの2人はともかくイルクだって漁師の息子じゃん!何で私だけ田舎者扱いするのよ!
庭園を過ぎると温室がいくつもあった。貴重な薬草があったりするから許可がないと入れないのだそう。
それから騎士の鍛練場があり外で剣の素振をしている男の子達がいた。休み中なのに偉いね!
それから馬場。馬術の練習中の人達が見える。その奥には広い牧場と大きな厩舎の屋根が見えた。
ここまでの探検でお昼時になった。直接食堂へ4人揃って行くと外出した生徒が多いからガラガラだった。4人でランチを食べているとカイリーが声をかけてきた。
「プリナ!良かった、ここで会えて」
「カイリーは午前中何して過ごしてたの?」
「学園に残ってた子達とラウンジでずっとお喋りしてたよ。お茶の飲み過ぎでお腹いっぱいなの」
カイリーは他にも王都出身の子がいて仲良くしていた。王都出身者同士で話が合うみたい。今も隣にいる子は王都出身なんだろう。
「前にプリナが王都で何か探してるって言ってたでしょ?」
「あ~うん」
お米について情報が欲しくてカイリーにも話したんだっけ。
「この子の実家は王都にある商会なんだって。相談してみたら良いかと思ってプリナに紹介しようと探してたの」
私以外にもメリザ、カロも歓声をあげたので彼女はビクッとした。怯えさせちゃったかな?お米入手は前世組の悲願なのよ…。
カイリーに促されて一歩前に出た彼女は瞳は緑色で赤みがかった金髪が緩やかにウェーブしている可愛らしい子だった。
「初めまして、ポリー・ヘレスよ。カイリーが言ったように実家は王都でヘレス商会という店をやってるの。実家の伝手で何かの力になれるかも」
私は希望の光かも知れない出会いに浮かれて立ち上がってポリーの手を取ってブンブン振った。
「初めまして!!プリナ・リンカです!!お米を探してます!!!」
「プリナ、自己紹介って知ってる?」
メリザ達の冷たい視線をスルーして他のメンバーも紹介する。カイリーは「ごゆっくり」と言ってその場を去っていった。ポリーは空いている席に座った。
「それで、お米を探してるそうだけど、見付けてどうするの?」
「白米が食べたいの!」
ポリーは驚いていた。ポリーが見回すとカロやメリザも同じように目をキラキラさせてポリーを見詰めていた。イルクは状況がよく分かっていなさそうだ。
「…白米を知ってるのね。どこで得た知識?」
ポリーが今までより低い声で聞いてきた。
答えられなかった。
「お米を白米で食べるなんて今まで聞いたことがないわ。何処かで食べた事があるの?」
「えぇ、前世で」と言ったらどう反応されるだろうか。チラッとメリザやカロを見ると彼らもどう説明しようかと迷っていた。
「お米を入手出来たら自分で作るつもりなの?」
「…作ってみたら何とかなるかなぁ…って」
私はそれだけ言うとまた黙った。しばらく沈黙が続くとポリーは長いため息を吐いた。
「ウチもさほど大きな商会じゃないから大量には仕入れられないけど頼んでみる」
「ほ、本当!?」
私達が身を乗り出すように聞くとポリーは身体を引きながらも頷いた。
「その代わり条件があるの」
「何?」
「ご飯作る時は私も呼んで」
「良いけど、最初から上手く作れるか分かんないよ?」
するとポリーはニヤリと笑った。
「大丈夫。私は作った事があるから」
これには全員驚いた。イルクは(以下略)。
「白米で食べる文化はないって言ったよ!?」
「えぇ。…この世界では、ね」
「ポリーは白米を食べたんだよね?ポリーはどうして知ったの?」
ポリーは今度は作り笑顔と分かる顔で言った。
「前世の記憶と言ったら信じてくれる?」
『えぇぇぇぇぇぇ!!』
『ポリーも前世が日本人かぁぁぁぁぁぁ!!!』
『信じらんなーい!!一体この学園内に何人いるのよ~!?』
『よっしゃあ!!これで白飯が食える!!!』
私達の反応は予想外だったらしくポリーは目が真ん丸になっていた。
『何?みんな前世が日本人だったって言うの?嘘でしょ!?』
『私は前世で会社員でした~』
『私は前世は一応大学生でしたっ』
『オレは前世は営業マンでした~』
ポリーは呆気に取られていたようでしばし無言になった後、今度は本当の笑顔を見せてくれた。
『私は前世は高校生でした。皆さんよろしくお願いします!』
仲間が増えた上にお米入手出来そうなパイプをゲットした!!




