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そこそこな幸せで十分です  作者: 蒼川りこ
116/137

116)気付かなかった心の穴

目覚めたら私は自分の部屋のベッドの中だった。


「…プリナ、起きた?」

「メリザ……?」


頭がボーッとする。

泣き過ぎたのかも…。


「何で私はベッドに寝てるの…?」


メリザから、私がフルール様とお別れした後その場で泣き続けて、駆け寄ってくれたメリザに抱き着いてワンワン泣いて、そのまま泣き疲れて眠ってしまったと教えてくれた。部屋にはカロが運んでくれたらしい。


「喉が渇いたでしょ?何飲みたい?」

「……あったかいお茶」

「分かった!…居間に皆いるよ?呼んで良い?」

「…………ごめん」

「…………ううん、いいよ」


今何時頃なんだろう…。

フルール様は今頃何処にいるのかな……。


私はフルール様にもらった木のペンダントを握り締める。生命の聖樹で手作りしてくれたと言ってた。これはフルール様そのもの。


あんなに泣いたのに、また涙が零れた。


「プリナ、夕食も摂らずに寝ちゃったからお腹空いたでしょ?」


メリザとポリーがお茶とサンドイッチを持って寝室に来てくれた。


「男子はこんな時は役立たずだから今夜は帰ってもらったよ!」

「…役立たずって……。ポリーってばひどい………ふふっ」


私は泣き笑いした。


メリザが淹れてくれた温かい紅茶を一口飲んだ。


『とても良い香りですね』


「!」


これはフルール様と一緒に飲んだお茶だ。

一瞬でフルール様の笑顔が甦った。

また一気に涙が溢れた。


「プリナ………」


ポリーが私を抱き締めてくれる。

メリザは一緒にもらい泣きしていた。


「ごめんね……。直ぐに元気になるから……」

「無理しなくて良いよ」

「ううん……。今はまだ苦しいけど、フルール様と一緒に居られたことは幸せな記憶だから。ちゃんと幸せな思い出にするから……」

「うん……うん………そうだね…………」


フルール様に出逢えなければ、私はミサキへの嫉妬に押し潰されていた。

フルール様に出逢えたから、自分の醜い心も受け入れてちゃんと「私」になれたんだ。


フルール様に出逢えただけで、十分幸せ。

フルール様と過ごせた時間は全て私の宝物。


「何年後か、何十年後か……いつになるか分からないけど…いつフルール様が来てくれても良いように、ちゃんと私は幸せですって報告出来るように……頑張る………」

「うん………うん…………」


3人で抱き合って泣いた。



翌日の朝は泣きすぎてまた顔が凄いことになっていたけれど、ちゃんと学校に行った。

ウィル様にお願いして、休みの日には王宮の生命の聖樹に会いに行く許可を取ってもらった。


みんなが凄く心配そうに、まるで腫れ物に触るように私に接してくれているのには気付いてた。

私は大丈夫なのに。


フルール様に恥ずかしくない生き方をしないと!

私は幸せだって胸を張って言えるように生きて行かないと!!



もう返事はないけれど、朝起きた時と眠る前には必ずペンダントを握ってフルール様に心で呼び掛ける。

その日にあったことをペンダントに向かって報告するのが日課になった。


休みの日には王城まで行って生命の聖樹に肥料や水遣りをして、小さな芽をそっと撫でて枯れた幹に抱き着いてフルール様の無事を祈る。


ちゃんと眠れてるし、ちゃんとご飯も食べてるし、ちゃんと授業も休まず通ってるし、ちゃんと毎日を過ごしてる。


大丈夫。

だってフルール様が幸せを願ってくれたから。

私は幸せなんだ。幸せでいなくちゃいけない。


大丈夫。




私は美術室で1人無心で絵を描いていた。


「プリナ」

「!カロ、どうしたの?」


オブジェは既に完成してカロが美術室に来ることは無くなったのに珍しい。


「…………大丈夫か?」

「何が?」


カロに唐突に聞かれて首を傾げた。


「………ちゃんと笑えよ」

「?」


ちゃんと笑ってるよ?

フルール様が私の笑顔が見たいと言ってくれたもの。


カロは何だか泣き出しそうな表情で私を見てる。

私が微笑んだら、カロは更に顔を歪めて私をギュッと抱き締めた。


「カロ……?」

「見てられない…。もう無理して笑わなくて良いから」

「無理してないよ…?」

「泣きたいなら泣いて良い、辛いなら辛い顔をすれば良いから……無理して笑うな」

「……………」


何を言われてるのか分からない。

私は毎日幸せで、楽しくて。


「プリナ……あれから一度も森に行ってない事に気付いてる?」

「………え?」

「森どころか…学園の…大地の聖樹にだって行ってないよな?」

「………………」


森…………?

最後に森に行ったのは、いつ………?


私の身体が震え出した事に気付いてカロは私を抱き締める力を強めた。


「ちゃんと乗り越えろ。森のみんなもプリナのこと心配して…ずっと待ってる」

「……!!」

「フルール様が大切にした森を、仲間を、ちゃんと大切に出来なくてどうする…!」

「ごめんなさい……………」


涙腺が壊れた。


カロに言われるまで気付かなかった。

森に行けなかった。

森のみんなに会えなかった。

会いに行こうとも思わなかった。


「今のプリナの作り笑顔を見てるのが皆辛いんだ……。ちゃんと笑えるまで付き合うから……無理して笑うなよ」

「……ごめんなさい…………」


誰に何を謝っているのかも分からなかったけれど、カロにしがみついて泣きながらずっと「ごめんなさい」を繰り返した。




落ち着いてからカロに手を引かれて森へ向かった。

森の入り口にはメリザ、ポリー、イルクが待っていてくれた。


私は足が向くまま森の中を進んで行った。

皆は何も言わずに黙って着いてきてくれた。


何処もフルール様との思い出がいっぱいだ…。



私は癒しの聖樹に辿り着いていた。


「フルール様は……旅に出てしまいました……。私は……フルール様にちゃんと幸せだって報告出来るように…頑張らないとダメなのに………」


癒しの聖樹はとても優しかった。

トランポリンとトラックが寄り添ってくれていた。


「フルール様が幸せな気持ちを教えてくれました。だから……私は今も幸せです………」


胸が軋む。


精霊達が私達を柔らかな光で包んでくれる。

精霊達だって寂しいよね………。

自分の気持ちだけでいっぱいいっぱいになってごめんね…。



「プリナ……。今は苦しくても…ちゃんと笑えるようになるよ」

「うん………」

「フルール様のためにも私達のためにも……ちゃんと笑顔を見せて」

「うん………」

「オレらも…森の仲間達も…精霊達も…フルール様も……みんなプリナには幸せでいて欲しいんだ。そんな無理矢理幸せだって思い込んで頑張るなよ?」

「うん………」


フルール様が何処かで生きていてくれる。

それだけでも、とても幸せなことだ。

フルール様は、未来に楽しみが出来たと言ってくれた。

……生きることを諦めかけていた人が。



「フルール様………私の愛しい人………」


フルール様が私に言ってくれた言葉を言ってみる。


こんなに幸せな事を言われたことは前世だって一度もなかった。

初めて心から愛した。

初めて心から愛した人に愛を返してもらった。


胸はまだ苦しくても、フルール様にもらったたくさんの宝物を私は忘れずに生きていこう。




「……プリナ。フルール様にキスされてたよね?」

「ブッ!!」


部屋に戻って皆でお茶を飲んでいると突然ポリーに言われた。


「見てたの…!?」

「みんなあの場に居たじゃん」

「………2人が何を話しているかは分からなかったけど……ずっと見てたよ」

「プリナが突然フルール様にキスした時はビックリしたけど……フルール様もプリナに最後にキスしてたでしょ?」

「……あれはキスじゃなかったよ」

「…え?」


私はテーブルの上で手の指をクルクル回した。

するとテーブルに置いてあったティーカップの中のお茶が渦巻いた。


「!?」


皆が驚く。


「フルール様は……私に精霊達の加護を与えてくれたの」

「……じゃあ……あのキスは………?」

「そう……。フルール様の力を私に分けてくれただけなの」

「……………」


フルール様はどこまでも優しくて、どこまでも残酷だった。

愛情でキスしてくれた訳じゃなかったのだ。


「それでも………やっぱりフルール様はちゃんとプリナを愛してくれてたと思うよ…?」

「………ありがとう」


私は今度はゆっくり手を挙げて円を描いた。

部屋に風が起こり、机の上の本や鉢植えの小さな草、カーテンが揺れる。


「プリナも精霊の御遣いになったの…?」

「……私は精霊達を支配したりしないよ」


私はペンダントを握り締める。


「これは…あくまでもフルール様の加護なの。私に何か特別な能力が芽生えた訳じゃないよ」

「………」


精霊は私のお願いを聞いてくれただけ。

でも無茶なお願いをするつもりは無いし、側にいてくれるだけで心強い。


「みんな心配かけて本当にごめんなさい。確かに無理してたのかも。教えてくれて、ありがとう」

「プリナ…」


両側のメリザとポリーが私の手を握ってくれた。

イルクは手を伸ばして私の頭を撫でてくれた。


そしてカロが突然私の前に来て、私を抱き締めてた。


「カロ?」

「……痩せたな」

「そう?ちゃんとご飯食べてるのに」

「…頑張ろうとしなくて良い。プリナはちゃんと頑張れる子だって知ってる。だから頑張ろうなんて思う必要は無いんだ」

「…………」


カロはいつでも温かい。


「……カロ、フルール様みたい」

「……えっ?」


カロは何故か驚いて至近距離で私を見つめてきた。


「フルール様……?」

「うん。温かくて優しくて……フルール様みたい」


私が微笑んで言ったら、カロは一瞬顔を歪めて、赤くなって、それから凄く柔らかな笑顔を見せた。


「プリナ………」

「うん?」


カロは私の頭を両手でガシガシ撫でて、ギュッと抱き締めた。


よく分からないけれど、とりあえず私はカロの背中をポンポンした。



「カロの気持ちが手に取るように分かるね」

「うん。フルール様に似てると言われて一瞬複雑な気持ちになったけど、でもプリナが大好きな人に似てると言われてやっぱり嬉しくなって」

「……良かったな。お父さんから出世したぞ」

「……みんな、うるさい」



フルール様。

私はこれからもちゃんと生きてゆけます。


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