115)新たな旅立ち
「ふんふんふ~ん♪」
私は鼻唄を歌いながら生命の聖樹に肥料と水遣りをしていた。
「ご機嫌ですね」
「!」
フルール様が笑顔で歩いてきた。
「フルール様!見て下さい!ほら、また新しい芽が出ました!」
「とても可愛らしいですね」
「はい!ちっちゃな葉っぱが本当に可愛いんですよ!」
「ふふ」
私が満面の笑顔で枝を指差すと、フルール様は微笑みながら私の頭を撫でてくれた。
「プリナさん、まだ見に行けずにいる森の聖樹に会いに行こうと思っているのですが」
「お身体は大丈夫なんですか…?」
「お陰様で良くなりました。愛情込めてお世話して下さる方がいますので」
「!!」
私の顔が真っ赤になった。
フルール様はそんな私を見て笑みを深めた。
フルール様は私の反応を絶対に面白がってる!!
「皆さんがプリナさんを探していましたよ。食事に行きましょう」
「…はい」
フルール様が差し出した手を取って、手を繋いで食堂に向かった。
「森の火事は騎士団員の火の不始末が原因だったらしい。休憩中に焚き火をして消し損ねたようだ」
「全く…騎士団には厳しく注意せねば」
「火は昨夜の雨で鎮火出来たようだ」
「良かった……」
ウィル様の報告に一安心する。
生命の聖樹を助けられた安心感で、私達はその後お昼過ぎまで爆睡した。
なので今はブランチになるのかな?
「僕達も寮に帰ろうか」
「その…森の捜索はどうなるんですか?」
「中止になったよ」
「本当ですか!?」
「ああ。昨日の火事とその後の嵐に多くの民から怒りの声が高まってな。偉大なる聖地に踏み込んだから精霊達の怒りを買ったんだ、とな」
それなら森は安全かも。
国民の反発を受けながら無理に捜索はしないだろう。
「私は一度神殿に戻ります。森へは3日後に向かいたいと考えています」
フルール様が言った。皆もそれを了承した。
私達は食事の後に寮に帰り、フルール様とは王城で別れた。
学園に戻ると既に捜索隊も居なくなって落ち着いていた。
翌日には私は復学して慌ただしく過ごしていた。
王城から戻って3日後、フルール様との約束の日。
授業が終わると私とメリザ、ポリー、カロ、イルクは急いで大地の聖樹に向かった。
「フルール様!お待たせしました!」
「私も今来たところですよ」
フルール様は神官衣装ではないシンプルな服装だった。
今日は神官のお仕事じゃないのかな?
いつも通り、私はフルール様と手を繋いで森を歩いた。
焼け焦げてしまった木々を見るのは胸が痛い。
それでも聖樹様達と精霊達の力で、森はちゃんと生きていた。
海の聖樹に辿り着いた。
側には象が寝そべっていた。
「遅くなってごめんなさい。そして私が死にかけた時と火事の時も助けに来てくれてありがとうございました!生命の聖樹様もこうして助かりました!本当にありがとうございました…!」
私は聖樹に抱き着いて心から感謝を伝えた。
「私を救ってくれてありがとうございました。これからも森と…プリナさん達を見守っていて下さいね」
フルール様は聖樹に語りかけながら、いとおしそうに樹を撫でていた。フルール様の手は光らなかった。
象が私達を空の聖樹まで運んでくれた。
「私が捨てられた時も、火事の時も駆け付けてくれて本当にありがとうございました!」
空の聖樹に抱き着いて、心からのお礼を伝えた。
「あなたも私を救うために力を貸して下さりありがとうございました。これからも森と私の大切なもの達の力になってあげて下さいね」
フルール様は聖樹に語りかけて、同じように幹を撫でていた。やっぱり手は光らなかった。
「プリナさん」
「はい」
フルール様が私に向き直った。笑顔だけれど真剣な瞳をしていたので少し緊張して返事をする。
「私はこれからこの国の子ども達…聖樹に会いに旅に出ます」
「えっ!?」
「今回の件で私の正体が一部にバレてしまいましたので神官長の職を辞めてきました」
「…………………」
「それに…私は力を使い果たしましたので、こうして人の姿を保つ事が難しくなりました」
「…………………」
「次は…………いつ会えますか………………?」
私は震える声でフルール様に尋ねた。
「国中の聖樹に会いに行く予定ですので何年…何十年かかるでしょうか」
「……………また会えますか………………?」
フルール様は微笑んで頷いた。
「ですが…この姿でお会い出来るのは最後かも知れませんね」
「……………」
「あなたの生まれ育った村の聖樹にも会いに行きますよ。プリナさんのお話で語り明かせそうです」
私はフルール様に抱き着いた。
「いつか…あなたに会いに行く時は歳相応のお爺さんかも知れません。犬や小鳥、トンボかも知れませんね」
「…どんな姿でもきっと絶対にフルール様だと気付きます」
フルール様は優しく抱き締め返してくれる。
涙が止まらなくてフルール様の胸がどんどん濡れていく。
「どんな姿でも良いので……絶対に会いに来て下さい………」
「ええ、必ず」
私はフルール様を忘れないように、ギュッと抱き着いてフルール様の温もりを覚えておこうと必死だった。
「フルール様…大好きです……」
「泣かないで………愛しい人。私はプリナさんの笑顔を覚えていたいのです」
フルール様が私の顔をそっと持ち上げた。
笑おうと頑張ったけれど、涙を止める事が出来なかった。
「フルール様……大好き………」
行かないで。
ずっと側にいさせて。
言葉に出来ない気持ちが溢れてくる。
「プリナさん、以前に渡したものを返して頂けますか?」
「!?イヤ!!!嫌です!!!これを失くしたら……!!!」
私は胸のネックレスを握り締める。
「私はもう神官ではないので神官としての加護は出来ません」
「それでも…っ!!」
フルール様は胸から木で出来たペンダントを取り出すとそっと私の手に載せた。
「代わりにこれを。…私が生命の聖樹で作りました」
「……………これで…フルール様とお話し出来ますか………?」
「…残念ながら私にはもう答える力はありません」
「…………」
私はネックレスを外してフルール様に返すと木のペンダントを着けた。
そしてまたフルール様にしがみつく。
「プリナさんが私の命を繋いで下さったから、私はこうして行き長らえたのです。…いつかプリナさんに愛する人が出来て子どもが生まれたら、生命の聖樹に会いに来て下さいね」
「…………!」
「きっとプリナさんによく似てとても可愛らしいでしょうね。プリナさんのお陰で私にも未来の楽しみが出来ました」
「………………」
フルール様は私の頭を優しく撫でてくれていた。
胸が押し潰されそうだ。
「そして……いつかプリナさんの子どもに子どもが生まれて……そうして命が繋がっていく。それを見届けられるのが今からとても楽しみです」
「………………そんな日が来るでしょうか……………」
前世でも生涯独身だったのに。
前は村の習わし通り漠然とお嫁に行くと思っていたけれど、今は結婚の想像もつかないのに。
「私の愛しい人。……あなたの未来の子ども達に会うためにこれから数百年を楽しみに生きて行けます」
「………フルール様…………大好きです…………」
私は同じ言葉をひたすら繰り返した。
「数千年生きてきましたが、こんなに幸せなことはありませんでした。プリナさんと出会えて私は本当に幸せです」
「…フルール様…………大好き…………」
「あなたは私達の希望の光。どうかあなたらしく生きて下さい」
「…………大好きです……………」
フルール様は抱き締める力を籠めた。
「私はいつでもあなたの側にいますよ。…どうか幸せに」
「フルール様………私はフルール様が大好きです………」
これからもずっと。きっと死ぬまで。
「私を愛して下さってありがとうございます。…私もプリナさんを心から愛してますよ」
「……!!」
後から後から涙が溢れてくる。
フルール様の姿がだんだん霞んで来た。
「!?」
「これでお別れです。…プリナさん、あなたの幸せを心から願っています」
「フルール様…!!!」
フルール様はとても優しい笑顔で私も見つめていた。
私はフルール様が消えてしまう前にキスした。
「フルール様………愛してます………心からあなたが大好きです……」
だから、いつか会いに来て下さい。
私もいつかフルール様に子どもを見せられるように、ちゃんと恋愛して、結婚して、幸せな姿を見せられるように、頑張って生きて行きます。
「プリナ…………私の愛しい人」
フルール様が最後にキスをくれて、笑顔を残して霧となって消えた。
そのまま私はその場で泣き崩れた。
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