113)生命の始まりと終わり
ここが王城…!!
私達平民組は生まれて初めてお城にやって来た。
学園も広いと思っていたけれど、お城は比べ物にならない位に立派だった。
夜だったので全体像は見えなかったけれど、ライトアップされた部分だけ見ても物凄く大きいのが分かる。
「殿下!よくぞご無事で…!」
「直ぐに湯浴みを!」
「先ずは聖樹が先だ。…皆を案内する」
「…畏まりました」
私達はウィル様達に着いていき、聖樹に出会った。
「…!!?」
「これが……生命の聖樹……」
「あぁ、なんてことだ……!!」
それは私達10人でも周りを囲めない程の幹に、下から見上げても推し量れない程の高さの、それはそれは見事な大樹だった。
元気な状態で出会いたかった……。
今は雷に打たれて幹が真ん中で引き裂かれ黒く焦げていた。
「フルール様……」
私はまだ焦げた匂いのする聖樹に抱き着いた。
この温かな気持ちはフルール様そのものだ……!
「フルール様……フルール様……!」
後は言葉にならなかった。
胸が熱くて、後から後から涙が溢れる。
この樹はもう助からないだろう……。
そう絶望的な気持ちになる。
「泣かないで……」
フルール様がフラフラと私に近付いて来て、優しく頭を撫でてくれる。
フルール様の方が苦しくて辛いのに、こんな時にも私を心配してくれる…。
「フルール様……!お願い……死なないで……!!」
私はフルール様にしがみ着いた。
フルール様は何も言わずに優しく抱き締めてくれる。
その優しさにまた胸が苦しくなって、涙が止まらなくなった。
「フルール様…!私、あなたを助けるためなら何でもします!!だから……お願い……死なないで………」
「…………先程も言いましたが、元々私の寿命は尽きかけているのです」
「…!!」
「最後に……この手で森を救えて私は満足しています」
「……!!」
最後なんて言わないで!!
「私が消えても…また新たな聖樹が生まれます。どうかその子をよろしくお願いします」
「……!?」
私はフルール様をギュッと抱き締めて、イヤイヤと首を振った。
「フルール様……死なないで………お願い………」
精霊達の嘆きが聞こえる。
みんなも泣いていた。
フルール様を助ける方法は無いの……!?
「フルール様…。あなたが……我が国の聖樹が枯れてしまったら……我が国はどうなるのでしょうか?」
ロベルト様が静かに尋ねた。
「……新しい生命の聖樹が育つまでは国が荒れるかも知れません」
「…………」
「この国には私の子達がたくさんいます。どうか子ども達を守って下さい」
「………………畏まりました」
フルール様が……この世界をずっと見守ってくれていた聖樹が消えてしまう……!!
「プリナさん」
「…………」
「あなたに出会えて私は幸せでした。あなたに希望を託します」
「………!!」
嫌です!!
お願いだから、私を置いていかないで!!
「……プリナ。このままでは風邪を引いてしまう。部屋を用意するから一度身体を温めてくれ」
「プリナ、行こう。フルール様も……」
皆がお城の中に案内されて行く。
この場を離れたくない。
聖樹様の側を離れるのが怖い…!
誰に願えば良いの!?
神様!?
どうか…フルール様を……この生命の聖樹をお助け下さい……!!
私なんか消えても構いません!!
私の命と引き換えで良いから…私なんかどうなっても良いから…フルール様を助けて下さい!!
お願い…お願い…お願い……!!!
「!?」
カロが強引に私を抱き上げた。
「やだ!!離して!!」
「いいから身体を温めろ。…そしてフルール様の側に付いててやれ」
「……!?」
私は無理矢理部屋に連れて行かれ、お城のメイド達に湯浴みをされた。
私はまだ髪を乾ききらないままメイド達の制止を振り切ってフルール様の元へ走った。
「フルール様…!!」
フルール様は用意されたベッドで静かに眠っていた。
専従医師が治療をしていたが、手の施しようが無いと首を振った。
私はフルール様の手を両手で握り締めた。
いつも温かなフルール様の手が冷たい。
「フルール様……いかないで………」
私の命をあげるから。
『いけません!』
「…!?」
頭の中に声が響いた。
『いけません!…そんな願い事をしては』
「私はどうなっても良いんです。フルール様が助かるなら何だってします!死んだって構いません!」
『プリナ!!』
「お願い………生きて……………」
神様!!
私がフルール様にもらったものを全てフルール様にお返しします!!
私の命と引き換えで良いです!!
フルール様の命を奪わないで!!
「!?」
私の両手の中のフルール様の手がかすかに動いた。
「フルール様………」
震える手で私の頬の涙を拭ってくれた。
「泣かないで………愛しい人」
「……!!」
そんな真っ青な顔で微笑まないで。
こんな時まで私の心配なんてしないで。
私を置いていかないで。
私はフルール様にありったけの想いを込めてキスをした。
初めてのキスは、涙の味がした。
フルール様の手が強張ったけれど、構わずに私の全てを注ぎ込む。
フルール様の手にほんの少しだけ温もりが帰ってきた。
「フルール様……いかないで………」
フルール様は初めて辛そうな表情を見せた。
「フルール様……私を……森のみんなを……この国を……これからもずっと見守って下さい………」
「プリナ………」
フルール様が私の名前を呼んだ。
私はもう一度、全てを込めてフルール様にキスした。
必死だった。
どうか…どうか…フルール様を助けて下さい!!
冷たかったフルール様の唇に赤みが差した。
「フルール様……大好きです………」
「プリナ………」
もう少しだと思った。
私はもう一度フルール様にキスをした。
今までは私が一方的にフルール様に命を注ぎ込んでいたけれど、今度はフルール様からも温かな気が流れ込んで来た。
生きることを諦めないで。
フルール様の手が私の頬に触れる。
私はフルール様の両頬を持って、全てを注ぎ込む。
「プリナ………」
フルール様が私の両頬に触れた。
「あなたは泣き虫ですね………」
フルール様の顔色がずっと良くなった。
柔らかな笑顔は変わらない。
「泣き虫なあなたが心配で……1人置いていけませんね」
「フルール様……!!」
私はフルール様にしがみ着いた。
フルール様はそっと抱き締め返してくれる。
私は涙を拭いて、立ち上がった。
「今から生命の聖樹を助けに行ってきます!」
直ぐに戻って来ますからね!!
私は王宮を駆け抜けて、瀕死の聖樹の元へ向かった。




