11)初めてのお買い物
寮生活3日目。
そろそろ入学式が間近に迫って来たので引っ越し作業で寮が慌ただしい。ほとんど貴族様の入寮で荷物も半端ない。私のようにトランク1つと言う訳にはいかないのだ。貴族様は3階以上の部屋なので私達の2階は静かなものだったが階段を荷物運びの従者さんらしき人が絶えず行き来している。貴族の部屋は見たことないが家具は備え付けだし何をそんなに運び込むのか疑問だったがカーテンや寝具、カトラリー等は自分好みで揃えたいらしいしドレスやアクセサリーなんかも数が必要なんだとか。これはお隣さんのカイリーが教えてくれた。実家が王都の高級レストランなので貴族の常連客がいて話を聞いたらしい。
私は街での生活に慣れているメリザとカロと朝食後に城下町に買い物に出掛けることにした。お小遣いは領主様から支度金として私の口座をわざわざ作って用意してくれたものだ。領主様のご子息様やお嬢様もこの学園に通っていたそうで同額の費用を準備してくれているとの事。私は平民だし貴族様ほど必要ないと思うけれど必要以上に散財しなければ良い事だしご厚意は有り難く受け取っておこう。
…と言うか。村生活で買い物をしたことが一度もない。ヒルド村は買い物と言えばコレッタ商会しかお店がなかったが歩いて行くには遠いのでいつも父や兄が牛車で出掛けていた。子どもの私は滅多に連れて行かれる事はなくたまに同行する時は店の外で牛車の荷物の見張り番だったから。なので支給されたお金がどれ程価値があるのかもピンと来ないしこの世界の物価も全く知らないのだった。
「これくらいあれば足りるかな?」
とメリザに実家から持ってきた革袋いっぱいに詰め込んだ金貨を見せたらギョッとされて
「そんなに持ち歩いたら強盗に遭っちゃうよ!!それか盗んだと疑われて捕まっちゃう!!」
「そうなの?」
「そうなの!!」
メリザもカロも優秀な平民枠で入学してきているのだが領都をあげて全面支援されている私は異例らしい。田舎の「期待の星」なんだろう。…そんなに期待されてもマジで困る。成果あげなきゃ国に帰れないじゃないか!!
学園の許可をもらいに行くと事前に申請すれば学園所有の馬車を貸し出してくれると言うので3人で借りる事にした。城下町は学園に初めて来た時にも通ったがやはり活気がある!
「うわぁ~すごい!!」
「さすがに王都は街並も綺麗ね!地元もそこそこ都会だと思ってたけど、やっぱり違うわ!」
「だなぁ。すれ違う馬車も豪華だし歩く人の靴もウチじゃ滅多に売れない高級品ばっかだよ」
「うわぁ~うわぁ~!!」
「見て!あのドレス素敵!私も着てみたい!」
「ドレスなんて何処に来ていくの?」
「これから着るチャンスを作れば良いじゃない」
「うわぁ~すごーい!!」
「プリナ、さっきからそればっか。オノボリさんだってバレバレで並んでて恥ずかしいから黙っとけ」
「…スミマセン。」
2人だって王都は初めてなのに、何さ。
2人は私を真ん中にして手を繋ぐ。これじゃ小さな子どもみたいじゃんか!確かに田舎者だけど迷子になったりしないよ!?と抗議したけれど迷子の心配の他にも防犯のためだと言われた。金貨はメリザに言われて小さなポーチに入るだけにしたのに。それでも庶民の所持金としては多いそうだ。
メリザは事前に私のクローゼットを見て「在学中はマトモな格好しなさい」と叱って先ずは服のお店に連れて行く。ワンピース数着とブラウスにスカート、カーディガン数着、他小物を購入。たっくさん買ったけれど金貨5枚。メリザも何着か購入。カロはその間に近くの紳士服のお店で自分の物を購入。
次は靴屋でオシャレな靴を2足、学園で履くローファーを2足購入。長持ちさせるために交互に履けと言う店員のアドバイス。履き心地の良いルームシューズも買って金貨2枚。メリザはハイヒールを衝動買い、カロは目を輝かせて陳列品を1足1足手に取って見ていた。
お腹が空いたので荷物を馬車で預かってもらって御者さんオススメのカフェでランチ。
「おおっパスタだ!!懐かしい!!」
「小麦があるんだから麺だってあるよね。パンしかない方がおかしいよ」
「小麦があるならラーメンとかうどんだって探せばあるんじゃない?」
「醤油があるのか分かんないじゃん」
「塩ラーメンなら作れるかも?でも醤油は欲しいね。あと味噌も」
「味噌ラーメン美味しいよね!!」
「ラーメンだけじゃなくてね」
前世は朝はトースト、昼と夜はパスタかうどん、ラーメン、とせっかく田舎からお米を送ってもらっているのにお米はあまり食べない生活をしていた。今考えると勿体ない事をしていた。だからこそ生まれ変わって主食がパンだけでもストレス溜めずに生きてこれたのだけれど。カロ達と出会って前世の話をしてから和食が物凄く懐かしい。
ランチを終えるとカフェでお土産にマドレーヌを購入してから店を出た。その後はノートや文房具などをそれぞれ購入。綺麗な万年筆があったのでそれも買った。さすが王都、万年筆は開発されてたんだね。
後は何が必要かなぁ、生活必需品を見てみるか…と行き先について話していると道端にカラスが蹲っているのを見付けた。街の人に「不吉だ!」と言って石を投げつけられてケガをしたらしい。そう言えば前世でもカラスは不吉だとか忌み嫌われたりもしてたんだっけ?
「カラスは利口なのに可哀相だよね」
私はカラスに近付いて抱き上げようとした。途端に大きなクチバシでつつかれた。
「いたっ!!待って待って!!痛い痛い!!大丈夫、怖い事しないから!!」
これ以上クチバシで攻撃されないようにカフェで買ったマドレーヌをあげてみた。最初は警戒していたけれどモグモグ食べたら大人しくなった。抱き上げて身体を見ると羽根が折れているようだった。
「連れ帰っちゃマズイ?この国にも鳥獣保護法はあるのかな?」
「とりあえず学園に相談しないと」
今日はこれで買い物を終えて寮に帰ることにした。街の人はカラスを抱く私を不審そうにチラチラ見ていたけれど前世の記憶を持つ2人はカラスへの偏見はなく私の要望を聞き入れてくれた。さすがに御者さんは馬車にカラスを持ち込む事に嫌悪感を露にしていたがここでも馬は私に好意的でカラスを拒否しようとした御者さんを頭で殴った。
「私、馬にモテるのよ!!」
「へぇ~」
「カラスにも懐かれたし動物に好かれやすいんじゃない?」
「あれは餌付けに成功しただけじゃね?」
初めての、それも王都での買い物は超楽しかったなぁ!屋台もあるそうなので今度は食べ歩きしてみよう。
学園に着いて早速カラスの事を相談すると「怪我が治るまでなら」と許可してもらえた。部屋に戻りバスルームでカラスを洗ってあげると暴れて私もビショビショになった。カラスは水浴びが好きだと思ってたのに。怪我が濡れるのが嫌だったのかも。タオルで身体を拭いてあげて部屋の隅にタオルで寝床を作ってあげたらカラスは疲れたのか眠ってしまった。羽根はケガしているけれどツヤツヤと黒光りしてキレイなコなのにね。
それから室内着に着替えてカイリーの部屋へ行きお土産のマドレーヌを渡すと喜んでくれた。王都出身の彼女はカフェを知っていたらしく他にオススメのカフェなんかを教えてくれた。
部屋に戻ると今日買い物してきた荷物が運び込まれていたので収納作業に追われているとメリザが夕食の迎えに来てくれた。
「せっかく服を買ったのに何で着なかったの?」
「まだ整理途中だし何もないのに新しい服を下ろすのが勿体なくて」
「明日は新しい服着て来てね」
「はぁーい…」
食堂に着くと初日より混んでいた。貴族様の塊と平民の塊となんとなく別れている。貴族様は装いも華やかだし従者が控えているので直ぐに分かる。
「おう!今日は新入り連れてきた。こっちがプリナ、隣がメリザ」
後ろからカロが声をかけてきた。隣には赤茶色の短髪で小麦色の肌の黒目で体格の良い男の子が立っていた。ってか雑な紹介だな!
「初めまして。今日入寮してきたイルク・ダナールです。実家はオーレア領で漁師やってます」
「初めまして、プリナ・リンカです。ゼノンド領ヒルド村の農家出身、前世は会社員でした!」
「は?前世…?」
しまった!!カロ達と同じ自己紹介をしてしまった!!!
「初めまして、私はメリザ・シルグア。カランテ領都の洋品店の娘よ。オーレア領には海があるのね!貴方も漁に出るの?」
「親父達の手伝いレベルだけどね」
すかさずメリザが自然に話を逸らしてくれた。助かった…。イルクも海の話を嬉しそうにメリザ達に話してる。
カロにも同性の友達が出来たようで良かった!
イルクがいるので前世の話題は出来なかったけれど4人で楽しく食事した。明日は4人で学園内を探検しようという事になった。貴族の人達には何だか睨まれたけれど。騒がしかったのかな?
部屋に戻るとカラスがトコトコ歩いて寄ってきた。可愛い!食堂から持ってきたサンドイッチをあげると喜んで食べてくれた。食欲もあるし元気そうで良かった。
換気しようと窓を開けるとまた窓の前の木にフクロウが止まっていた。その木が好きなのかな?変なの。
1日歩き回って疲れたけれど明日おニューの服を下ろすなら綺麗になっておかないと!とお風呂に入る事にする。毎日お風呂に入れるなんて本当に贅沢!!庶民にこんなリッチな生活させるなんて庶民の生活に戻れなくなったらどうする!!
入寮3日目にして早くも将来の不安を感じた…。




