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そこそこな幸せで十分です  作者: 蒼川りこ
103/137

103)届かない想い

今日は家族がヒルド村に帰る日。

家族は毎日昼間にお見舞いに来ては王都観光を楽しんで過ごしていた。


私は家族の見送りという事で病院に外出許可をもらって、王都のレストランで家族で久々に食事を囲んでいた。


「王都の食事は何食べてもウマイな!滞在中に太った気がするよ!ハハハ!」

「うん…お父さん、お腹スゴいよ?」

「なぁに、村に帰れば直ぐに戻るさ!」

「プリナは収穫祭は帰って来れるの?」

「難しいかな…。精霊祭には帰りたいと思ってるけど」

「確かに実際に来てみたら遠かったもんね…」

「ぼくね、ばしゃでいいこにしてたの!」

「ウンウン、アリルはお利口さんだね!」


父も母も兄も姉も、村へのお土産をたくさん抱えていた。天使のアリルは両手で馬のぬいぐるみを抱えていた。


「…それじゃ、そろそろ出発するか」

「…うん。みんな元気でね」

「プリナもな。…未だ怪我治ってないんだから無理するんじゃないぞ」

「はぁい」

「学生生活が楽しそうで良かったよ。たくさん友達も出来たんだな」

「うん!とっても楽しいよ」

「…王子様にくれぐれもよろしく伝えておいてくれ」

「分かった」

「ねえちゃ、ぼく字の練習してるんだよ!おうちに帰ったらおてがみ書くね!」

「ホント?楽しみにしてるね!」

「もしも辛くなったらいつでも村に帰っておいで」

「…うん。ありがとう、お母さん」


家族全員と抱き合ってお別れの挨拶をした。

家族との別れはやっぱり寂しい。


私は馬車が見えなくなるまで大きく手を振って家族を見送った。




そして、私は辻馬車を使って1人で神殿に向かった。

皆が授業を終えてお見舞いに来てくれる夕方までに帰れば大丈夫。誰にもバレないはず。



神殿はとても厳かで静かな場所だった。

時折ケルルート様と同じような衣服を纏った神官が歩く姿を見掛ける位。

私は木の陰に隠れながら神殿の入り口をずっと遠目で見詰めていた。



「…!!」


ミサキが巫女の衣装を纏いケルルート様を従えて建物から出てきた。2人は笑顔で何か会話しているようだった。


ミサキは入り口側のトーチに手を翳して次々と炎を灯していった。ケルルート様はその様子を微笑んで見詰めている。

火を点け終わるとミサキがケルルート様に笑顔で何かを言ってた。ケルルート様は一瞬困った表情を浮かべたけれど、ミサキの頭を撫でた。


「!!」


ミサキは笑顔いっぱいになってケルルート様の腕に絡んで、そのまま2人はそのまま建物の中に戻って行った。


「……………」


ミサキはすごく幸せそうだった。

寮で見掛けた姿とは全然違って…心からの笑顔だった。


愛されてるんだね…。


ケルルート様もミサキを見る目がとても優しかった。2人はとても幸せそうに見えた。


「…………!!」



胸が苦しい。

私はこの想いを終わらせるためにここに来たんだ。満足出来たでしょう?

もうケルルート様の側にいることは出来ないんだって、一緒に居られる未来は無いんだって思い知らされたでしょう?

これで未練を断ち切れるでしょう?



…違う!!


本当は一目で良いからケルルート様に会いたかった。

ケルルート様の笑顔が見られたらそれだけで良かった。


…ただ会いたかっただけ。



私はその場で踞って声にならない叫び声をあげた。

喉が焼けそう!


苦しい!苦しい!苦しい!


これが嫉妬なの…!!?



私は初めてミサキに嫉妬した。

羨ましくて、恨んで、妬んで、胸が張り裂けそうだった。


…こんな思いは初めてだ。

もう二度と嫉妬なんてしたくなかったのに!!



…二度と?


…私は前にも同じ気持ちになった事がある…?



分からない。



こんな自分が嫌だ!

私をとても大事に思ってくれてる友達もいっぱい居てくれてるのに!


こんな醜い姿は誰にも知られたくない!


こんな自分、消えてしまいたい!!




どのくらい泣き続けたんだろうか。

立つ気力も無くて、体育座りでその場を離れられなかった。


「…どうしました?体調が優れませんか?」


ふいに優しい声が掛かった。


私は黙って首を横に振った。


「ここで休んでいかれますか?」


私はまた黙って首を振る。


その人はその後は何も言わずにただ静かに私の側に居てくれた。


たまに鳥の鳴き声が聴こえる位、とても静かな時間が流れていった。




ようやく気持ちが落ち着いてきて涙も止まった。


「…良かったらお茶でも飲んでいかれますか?ユックリ休んでいって下さい」


その人はそっと私の前に手を差し出した。


「…………」


私は今度は頷いてその手を取って立ち上がった。


初めてその人の顔を見た。


ケルルート様より少し年上だろうか。

とても穏やかな瞳をしていた。

いつもケルルート様が身に纏っている衣装よりも簡素な服装だけれど神官だと直ぐに分かる。



「さぁ、行きましょうか」


私はその人に促されるまま神殿とは別の建物の一室に案内された。





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