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そこそこな幸せで十分です  作者: 蒼川りこ
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1)田舎娘の日常

異世界作品を沢山読ませて頂き、ハイソな身分ではなく庶民に生まれ変わったらどうやって生き抜いて行けば良いんだろう…と思い付きで創作してみました。着地点は定まってませんがタイトル通りの「そこそこな幸せ」に辿り着けるように完結を目指します。

私プリナ・リンカはヒルド村の農民の子として生まれた。家族は農業を営む両親と兄2人、姉1人、弟が1人の7人家族で家族皆が食べ物に困る事もないそれなりに安定した生活を送っている。一番上の兄は既に結婚して近所にお嫁さんと暮らしており、二番目の兄は都会で一旗揚げると公言して出ていった。姉は同じヒルド村の幼なじみと婚約中だがお相手が商会の跡取りで領都にある大商会で修行中なので向こうでの生活が落ち着いたら引っ越す予定だけれど今は実家で家事を担当してくれている。いずれはこの村に夫婦で戻って来るそうだ。弟はまだ5歳で家族全員に可愛がられている。私は家畜のお世話係でこのままのどかな村で一生過ごすんだろうと思っている。


「ねえちゃ、おにわでたまご見つけたよ!」


弟のアリルが小さな両手に卵を持ってニコニコしながら駆けてきた。


「わぁ、アリルお手伝いありがとう!でも転んだら危ないから走っちゃダメだよ」


素直な弟は頷くと慎重に歩いて私の下にやって来た。卵を受け取りアリルの頭を撫でるとニコニコしながら私の足に抱き付いて来た。私の弟マジ天使!!羽が生えててもおかしくないぞ、とか思いつつ小屋に山羊を帰らせてアリルと手を繋いで家の戸を開けた。


「モーラお姉ちゃーん!アリルが卵を見付けて取ってきてくれたよ~」

「まぁアリルはおりこうさんね。プリナ、悪いけどクートンさんのところへ家のチーズを届けてきてくれる?」


モーラ姉ちゃんは夕飯の仕度中でエプロンで手を拭いてからチーズの入った篭を持ってきた。クートンさんとは我が家のお隣さんで我が家は山羊を、クートンさん家は牛を飼っているので時々チーズやミルクを物々交換するのだ。


「わかった~」


篭を受け取ってそのままま出掛けようとすると可愛い弟が付いてこようとする。ヒヨコみたいで可愛い。


「アリルはダメよ。お家で待ってようね」


姉ちゃんが止めるとアリルはイヤイヤする。もう少し早い時間ならお散歩がてら一緒に連れて行けるけど今から小さなアリルと行けば日が暮れちゃうもんね。私はしゃがんでアリルと目線を合わせて頭をイイコイイコした。


「アリルは私の代わりにテムのお世話をしてくれるかな?」


テムとは我が家の牧羊犬だ。雑種だけれど大人しくとても利口で小さな弟の言う事も聞く。


「うん!ぼくねえちゃのお手伝いできるよ!」


目をキラキラさせてアリルは頷いた。お留守番と言われるよりもお手伝いと言う方が可愛い弟は喜ぶのだ。私はアリルをギュッと抱き締めてから立ち上がり姉ちゃんにも聞こえるように大きな声で「行ってきま~す」と言ってからクートンさん宅に向かった。


道の左側は豊かな牧草地、右側には広大な麦畑。更に奥には森があり私の世界はそこまで。田舎のおばあちゃんの家の周りもこんな風景だったな。畑じゃなくて一面田んぼだったけれど。可愛い弟も七五三の歳か~、としみじみ思ってからプッと吹き出した。この世界には七五三なんて行事は無いのに。たまにこの世界にはないプリナとは違う思い出が蘇るのだ。



そう。私には日本で生まれ育ったという前世の記憶がある。 ハッキリ思い出したのは姉の結婚が決まった時だった。


「奉公から帰るの待ってたらモーラは20歳を過ぎてしまうじゃないか!!ウチの娘が行き遅れと周囲から笑い者にされたらどうしてくれるんだ!!!」


両家の顔合わせで父が真っ赤な顔で立ち上がり相手家族に怒鳴っているのを聞いて(二十歳で行き遅れって…。アラサーで独身の私はどうすんのよ)と笑いがこみ上げたのだ。俯いていたから周りには気付かれなかった。(私なんて人生初カレが出来たのが23歳だからね!それもたった1ヶ月で終わったんだから!!)と自虐的な笑みを深めたところで違和感に気が付いた。


「アラサーって何だっけ?」


幸い両家の話し合いが盛り上がっていて私の呟きは誰にも聞こえていなかった。顔を上げて家族を見回した。その時ボンヤリと前世の家族の記憶が蘇った。共働きの両親と可愛くて要領の良い3つ年下の妹。私は地味でモテない人生街道まっしぐらなのに妹は初カレ?が幼稚園のお友達で年中年長とカレが変わり小学校に入学してからも学年が変わる毎に変わり、中学では全校生徒の憧れだった生徒会長と付き合ってた。周りからやっかまれたりしないかと心配したもんだが全校集会で生徒会長から公開告白されたため校内周知の事実となったこと、持ち前の要領の良さと人懐こさで苛められたりはしなかったようだ。

幼稚園で「大きくなったらかいとくんのおよめさんになるの~」と手を繋いで仲良く遊ぶ姿に小学生の私は(おませさんね☆)と微笑ましく思ったものだが、下校中にラブレター貰ったり自宅まで告白しに来る男の子が後をたたず妹のモテモテ振りに若干の嫉妬とひがみが生まれたのも事実。生徒会長は私の在学中から学校で大人気でモテるのに彼女はいないと有名だったから、その彼がまさか入学式で妹に一目惚れして全校生徒の前で公開告白したと聞かされた時は本当にビックリした。3つ違うと在学期間が被らないから良かった…と思ったものだ。

生徒会長とは妹が高校生になってから別れたらしくその後大学生の彼氏が出来て、それから社会人の彼氏が出来て、短大卒業しても付き合っていたのでこのままこの彼氏と結婚するのかもな…と思っていたのだが社会人1年目にして職場の同期と結婚した。周りはまだ二十歳で早いのではないかと心配したが、所謂「出来ちゃった婚」だったのであっという間に式を挙げて一児の母となった。

その頃未だ彼氏いない歴イコール人生だった私には妹の結婚が衝撃的過ぎて超焦ったのだ。それで飲み会で愚痴った友達に紹介されたのが人生初カレでありたった1ヶ月で別れた人でもあった。


彼は友達の職場の同僚で同い年だった。初対面は友達も含めた飲み会で会話はあまり盛り上がらなかったけれど真面目そうだし友達が薦めてくれた人なんだから、と連絡先を交換した。

初デートはピクニックと言われたので、張り切っていつもより3時間も早起きしてお弁当を作った。頑張ったけれどどうしても三角おにぎりにならなかったので諦めて俵型にした。玉子焼を作っていたら寿退社し実家で結婚準備していた妹が起きてきて、私のお弁当作りを手伝ってくれた。海苔を巻いたのかと思うほど黒焦げの玉子焼を見てため息をつかれた。


「お姉ちゃん…お姉ちゃんももう23歳なんだよ?私が実家にいる間は料理を教えるから女子力上げようよ」


妹は中学生から彼氏に毎日お弁当を作っていたので手慣れたもので冷凍もので済ます予定だった唐揚げを手作りにしたりとほぼ作ってくれた。私が作ったのはおにぎりだけになってしまったが妹は俵型のおにぎりを見て「食べやすくて良いね!」と褒めてくれた。三角に握れなかっただけなのは内緒にした。それ以降わたしの作るおにぎりは俵型だった。向上心が無いと言われたらそれまでだけれど。


お弁当を作り終わって出掛けようとしたところでまた妹に見付かり服装をダメ出しされて妹が全身コーディネートをしてメイクまでやってくれた。


「お姉ちゃん、頑張って!」


と火打ち石で切り火して笑顔で送り出してもらった。そんなものいつ用意したんだろうね…。

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