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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
一幕 初戦
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主亡き双剣

右翼の戦場の魔族軍視点

 右翼に襲来した軍勢は、ゴエティアの指揮するシェオゴラス城を守る守備軍の全軍、魔族軍の最後の戦力と言えるものである。

 彼らが本来守る対象である魔王もまた、右翼の戦場にいる。


 そして、その戦場の別の地点では、また別の異世界人と魔族の将が対峙していた。


 魔族がシェオゴラス城の残っていた全軍を用いて仕掛けた攻撃により、右翼の戦況は数で勝るようになった魔族軍が優勢となる。

 そして増援が来るまでこの戦場を担いながらも押し込まれつつあった魔族軍も、それまではまるでこの時を狙い力を温存していたように一気に士気が跳ね上がり、攻勢に転じた。



「オラオラオラァ!」



 中でも増援が来るまでは後方からの軍の指揮に専念していた、赤と白を基調とするさながら武士のような武者甲冑姿に身を包む鬼の魔族は、増援の到来とともに先頭に立ち人の身の丈ほどある砲筒を鈍器のように振り回し、時には大砲として砲弾を放ち、人間軍の兵士を蹴散らしながら大立ち回りをしていた。



「ヒイィ!?」



「雑兵如きが俺様の前に立ちふさがってんじゃねえぞ!」



「ギャアァァ!?」



 巧みな指揮で戦力の消耗を抑えつつ遅滞戦闘を行う将でありながら、一度前線に武人として立てばその砲筒を持って獅子奮迅の活躍を見せる。

 その姿はまさに猛将。

 この鬼が全力で戦い始めたことで、増援に混乱する人間軍は戦線がもはや立て直せないほどに崩壊していた。

 頼みの綱の異世界人も突然の増援に理解が追いついておらず、それでも単騎で活躍を見せていた夜刀の前には増援の軍勢の指揮官であるゴエティアが、それを切り倒した直後にシェオゴラス城にいるはずの魔王ルシファードが立ちふさがった。


 統率のかいた弱兵の軍勢を、反撃に出た魔族軍が飲み込んでいく。

 その先頭で猛威を振るう鬼の魔族の将の活躍により、人間軍の被害は拡大し魔族軍の士気はさらに上がっていく。


 その鬼の魔族を、我先に逃げては敵に向けてしまった背中を狙い撃ちにされて倒れていく人間軍の後方から見ている、2人の少女の姿があった。



「あいつを倒さなきゃ、逆転は無理っすね……」



「でも、逆を言えばあの魔族を倒せれば向こうの軍勢も士気を挫かれるってことっしょ?」



 中学生どころか小学生と言われても納得できそうな小柄で幼さの色濃く残る顔立ちをしている、戦場にはとても似合わない外見の少女は時津ときつ めい。女神によって召喚された異世界人の1人であり、光聖の一つ下の幼馴染である。


 もう1人の麻色のウエーブがかかった髪と小麦色の肌が特徴の気だるそうな目をした少女は、輪島わじま みお。彼女もまた女神に召喚された異世界人の1人であり、向こうの世界では光聖たちと同学年に在籍している高校生である。


 2人は夜刀とともに光聖の率いる本隊とは別行動をとり、右翼の戦線に参加していた。


 今や立て直しができなくなっているこの戦況だが、魔族軍でも将を討ち取ることができればその勢いを削ぐことができるかもしれない。



「あいつ、狙うしかないっすね」



「同感」



 短いやり取りで鬼の魔族に対する攻撃を決めた2人の勇者は、逃げ惑う人間軍を追い散らして進撃する鬼の率いる魔族軍の前に降り立った。


 時津の扱う属性魔法は風。そして輪島の扱う属性魔法は毒。


 突如として進撃する魔族軍の前に、旋風と紫色の毒々しいスライムのような液体の塊が降り立ち、それぞれが人の形となって、本来の人間の姿となる。



「てめえら、女神の召喚した異世界人(コマ)か?」



 突然の登場に驚き足が止まる魔族軍の中で、先頭を走っていた右翼の魔族軍の指揮官である鬼の魔族は冷静に2人の人間の正体を判断していた。


 あの猛獣のように大暴れしていた割に、増援が来るまでは巧みな統率で被害を抑えつつ遅滞戦闘を指揮していた将としての面も持つだけあり、頭の回転はやはり早い。

 派手に登場したというのにまるで動じる様子がない鬼の魔族に、もう少し面白い反応を期待していた輪島はつまらない反応に落胆していた。



「うわー、つまらない反応。だる」



「そんなこと言ってないで、ほらさっさとやるっすよ。このままジリ貧だと、ウチら負けちゃいますって」



「あいつ、なんかめんどくさそー」



「ウチにとっては現状、輪島先輩が1番めんどくさいっすよ!」



 味方である人間軍の戦線は崩壊し、もはや潰走状態にある。

 追撃する魔族軍の士気は高い。

 勝敗は決したと言っても過言ではないというのに、2人の勇者は敵を前にしてのんきに内輪で言い争いを始めた。



「帰っていい?」



「出てきて早々帰るとか言わないで欲しいっす!」



「明日から頑張るし」



「それ昨日も聞きました! 永遠にこない明日はやめるっす!」



 内輪揉めというよりはボケとツッコミだが、魔族には全く受けない。

 それに、いくら超人的な力を持つ異世界人とはいえ、この戦況でノコノコと敵軍の前に出てきてのんきにしているような輩に時間をかけてなどいられない。



「……死んどけ、ボケ」



 さっさと倒して人間軍の追撃を再開する。

 鬼の魔族は今だに誰に見せているわけでもないしょうもないコントを繰り広げている2人の異世界人に向け、肩に担ぐ砲筒を向けてその引き金を引いた。


 その砲弾は魔族軍の警戒などそっちのけとなり避けようともしない2人の異世界人に直撃して、爆発する。


 –––––––はずだった。



「マジかよ……」



 2人の異世界人のはるか後方の地面に着弾し、砲弾は爆発を起こす。

 だが、直撃したはずの異世界人2人は無傷だった。


 砲弾を躱されたわけではない。確かに砲弾は2人の異世界人の体に直撃したはずだ。

 だが、回避しようともしなかった2人の異世界人に当たった砲弾は、2人の体をすり抜けていってしまった。


 砲弾がかすったことで、2人はしょうもないコントをやめて魔族軍の方を向いている。

 そして、砲弾が確かに当たった2人の異世界人の体は、かすった箇所が人の形ではなくそれぞれ風と毒の液体となっていた。


 それらは何事もなかったかのようにかすった箇所に集まり、再び元の体を形成する。



「あーあ、こりゃめんどくせえ奴だぜ……確かにバケモンだな、異世界人ってのは」



 この時点で、鬼の魔族は女神の加護を受けた勇者というのがどういう存在かというのを、初めて正面から対峙したにもかかわらず冷静に認識していた。


 自然の属性魔法。

 人間たちが得意とし、魔族が決して扱えない秩序の魔法。

 この魔法は1人につき必ず1つの属性しか顕れない。


 そして、属性魔法を極めたものは、自在に自らの体さえもその属性に変化させ扱うことができるようになるという。

 女神の加護を与えられた勇者ならば、属性魔法を極めし者になるわけだ。


 自然の秩序に反するから属性魔法に拒まれる魔族は、属性魔法に対する耐性が高い。上位の魔族ともなれば、触れた属性魔法を弱め、中には消し飛ばすことも可能とする者もいる。


 だが、属性魔法を極めた者、自然のそれと一体となった者が相手となれば、砲弾なんぞ何の役にも立たない。

 女神の加護を得た勇者ともなれば、その属性と一体となることなど容易いこと。

 人間は魔法で、魔族は自分たちが作り上げた武器で戦う種族だが、あの砲弾がかすっても傷1つ付けられないバケモノ相手では魔族は属性魔法に対抗できる自身の肉体を用いた殴り合いくらいでしかまともに戦えない。

 この世界においては超人的な身体能力を持つ相手に殴り合いを挑めば、ボコボコにされて負けるに決まっている。



「クソ……!」



 先日の戦闘で戦死した、かつての上官である三元帥次席のことを思い、そんな悪態が漏れる。


 そして、彼女たちにとっては結構真面目……かどうかは疑問を呈したくなる内容だったが、会話を邪魔されたことで2人は機嫌を損ねていた。



「ウチらの話を遮るとは……」

「……いい度胸してんじゃん」



「チッ! 退がれてめえら!」



 2人の勇者が手のひらを魔族軍に向けてくる。

 脅威になりかねない攻撃が来ると直感した鬼の魔族は、すぐに後ろの配下に距離を取るように命じる。


 だが、その直後にそんな命令が何の意味もなかったことを思い知る。


 輪島と毒の属性魔法と、時津の風の属性魔法は、大軍を相手取る時に非常に相性のいい属性である。

 輪島が生み出した大量の毒の霧。

 それを時津が起こす風の魔法が魔族の軍に飛ばし、一息に軍勢を飲み込んだ。



「ギャアァァ!?」「グエェェェ!?」

「ぐ、ぐるじい……!?」「息が……!?」



「クソが……!」



 属性魔法に対する耐性が強い魔族でも、異世界人にとっては雑兵の耐えられるそれは高が知れている。

 鬼の魔族は耐え切ったが、右翼の人間軍の侵攻を押されながらも耐え抜いてきて、ここを好機と反撃に出ていた魔族の軍勢は、その勇者たちの一度の魔法の攻撃により指揮官である鬼の魔族を除いた大半が、毒により苦しみとともに地に伏すこととなった。


 何とか耐え抜いた鬼の魔族は、たった一度の魔法で趨勢が決していた戦場を覆して見せた、女神アンドロメダの召喚した異世界人に戦慄していた。



「あらら、やっぱしあの魔族は別格だったすね。1人だけピンピンしてるっすよ」



「やっぱめんどいやつだったし。寝てくれれば楽できたのに」



 2人で軍勢を圧倒し、覆しようのない戦況をひっくり返した勇者たちは、それでも大したことがないというような表情で鬼の魔族を見ながら言う。

 そこにはこの戦果を誇る感情などない。

 異形の相手は同じ命としてみていない、無垢で冷酷な瞳。


 一対一でも己が勝てるかどうかの相手が、2人。しかも両方、砲弾が効かない。

 配下も一瞬で壊滅させられた。勝算はない。



「はっ……上等!」



 だが、だから何だ。

 そう言わんばかりに笑い飛ばした鬼の魔族は、錬金魔法を駆使して砲筒の形状を変える。

 籠手の上に降りたそれは、筒状のガントレット。砲と鈍器を拳と一体化した武装である。



「アポロア様は決して退かずに戦死なされた。なら、俺も最後まで戦わなきゃ顔向けできねえんだよ! 勝負はまだついてねえぞ、異世界人ども!」



「うげ、なんか火ぃ点いちゃったし」



「めんどくさがってないで構えるっす! 迎え撃つっすよ!」



 鬼の魔族に対し、輪島は心底面倒臭そうに、時津はそんな輪島をたしなめながらも毒の霧を耐え抜いても平然としている魔族を警戒しながら、迎撃の準備に入る。


 右翼の戦場で、互いの軍勢の指揮官たちが激闘を繰り広げる。

 しかし2人の勇者の活躍で右翼の戦線にいた魔族の軍勢が壊滅したとはいえ、それでもシェオゴラス城からきた魔族の軍勢が逃げ惑う人間側を圧倒しており、この広い戦況全体を覆すまでには至っていない。


 だが、2人の勇者が魔族の戦力を大量に削ったのは、少なからず戦況を動かしていく。

 後方に控えていた人間の軍勢が、増援として右翼の戦場に駆けつけたことで兵力の差が再び人間側へと傾きだしたのだ。

 この一部の軍勢の壊滅は、総戦力で劣る魔族軍にとっては大きな痛手であった。


 さらに、ベルゼビュートが向かわせていた魔族軍も、中央の戦場から右翼に向かうべく進撃していた人間軍との遭遇戦で足止めを食らうことになる。

 勇者がいれば、この戦いは早々に決着がついただろう。




 ……だが、1人の異世界人の思惑により動かされている戦場は、右翼の戦況を互角の戦況に持ち込ませた時点で止めてしまった。

 光聖たち本隊の勇者たちは、とある策により魔王ルシファードがいないシェオゴラス城に勇者たちのみで向かっていたのである。

右翼には勇者が3人います。


夜刀VSゴエティア(ジャグリング山羊)&ルシファード(魔王)

時津&輪島VS鬼の魔族



左翼には勇者がいませんが、3名急行しています。


日向&橘&樋浦VSベルゼビュート(蠅男)


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