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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
一幕 初戦
8/49

闇の剣士

勇者側視点その2

 魔族軍との最終決戦。

 中央の本隊を率いる光聖たちとは別行動を取り、右翼の戦場にも女神アンドロメダによって召喚された者たちがいる。

 戦場の最前線に立って、女神に与えられた闇の属性魔法を駆使し、時に影に潜み時に闇に飲み込み敵を次々と打ち倒して行く彼女、夜刀(やとの) 朱音(あかね)もその1人である。


 同じ師を仰ぎ、同じ道場で剣の腕を磨いてきた盟友(とも)、赤城 拓篤。


 そんな彼と、その幼馴染で夜刀の親友でもある日向が些細なことから喧嘩をして、その仲裁をして、仲直りという口実のデートの舞台を作ったその日、夜刀は2人がどんなデートをしているのか想像しながら赤城の道場に転がり込んで帰りを待ってきた時、前触れもなくいきなり起きた大地震に遭った。

 すぐに避難しようとしたが、揺れが大きく立つことさえできなかった中、道場の柱が折れ、壁に亀裂が走り、建物が崩壊した。


 迫り来る天井に、もう助からないと分かってしまった。そして、どうしてよりにもよって今日なのかと神を呪った。

 その時、不思議な光に包まれて……夜刀は異世界の女神によってこの世界に召喚された。


 最初こそ混乱していたが、自分以外にも召喚された人がおりその中に知り合いがいたことで少し落ち着くことができた。


 その中にいた親友の夏希と再会を果たしたことで、深く安心できた。異世界召喚で難を逃れた夜刀にとって、家族と同じくらいに安否を心配したのがこの親友だった。

 日向の話を聞いてトンネルの崩落に巻き込まれる寸前に召喚されたという。彼女と同じく、まさに間一髪だったそうだ。


 ……私たちはあのままでは地震によって死んでいた。


 女神には目的があり夜刀たちを召喚したが、彼女たちにとって女神は命を救ってくれた恩人であることに変わりはない。


 アンドロメダを名乗った女神は、異世界で人々を苦しめる存在「魔族」を率いる魔王ルシファードを倒して欲しいと言ってきた。

 倒すことができたら、安全に元の世界に戻してくれるとも約束して。


 同じく召喚された人たちの中で、夜刀の通う高校で生徒会を務めているメンバーたちのリーダー、生徒会長の天野 光聖は真っ先に女神の願いを承諾した。

 これにより、全員が巻き込まれる形となったのだが、本人には巻き込んでしまったという自覚はない。


 しかし女神は他の面々に取っても命の恩人である。彼女たちにも反対する理由はなかった。

 その上、どちらにせよ引き受けなければ元の世界には帰れなかったのが一番の理由も言える。


 こうして異世界人たちは、安全な帰還を女神に約束させて彼女の魔王を討伐してほしいという願いを引き受けることにした。

 生徒会メンバーの1人、副会長の近衛だけは戦争に参加するなど危険だと、異世界人の超人的な強さと女神アンドロメダの加護があり戦う力を得たことがわかってからも強く反対していたが、流れには逆らえず最終的には参加することになった。


 ……そして彼らは女神を信仰する人間の国に魔王を倒すべく女神アンドロメダが遣わした存在「勇者」としてに降り立ち、魔神を信仰する魔族との争いに参加したのである。



 ……それが、私が、「夜刀 朱音」がここまで戦ってきた経緯。

 剣の腕には自信があったけど、異形の容姿が多い魔族とはいえ生きている相手を剣で切り裂き、その命を奪うという行為に、最初は抵抗があった。

 それは当然の感情だったし、他のメンバーも同様だった。例外は最初から敵は敵だと、魔族は人々の敵だと割り切っていた光聖くらいだった。


 ……でも、元の世界に帰るという目標があった。

 それに、仲間もいた。異世界というこの何もかもが新鮮な舞台が、新しい発見がある冒険の日々があった。その中で立ちふさがる苦難を仲間も共に切り抜ける喜びもあったから。勝つたびに感謝してくれる人々の喝采があったから。今まで戦ってこられた。

 魔族を殺すのには忌避感があったのは確かだったけれど、それ以上に冒険の日々が楽しかった。平和だった日常を謳歌していた頃には味わえなかった高揚感に満たされる自分がいた。


 ……帰るんだ、みんなといっしょに。


 他の面々が様々な思いで戦っているとはいえ、この世界に召喚された面々の誰もが共通して持つ願いである、元の世界への帰還。

 それを為すために、ついでにこの世界も平和にするために、この最後となるだろう戦いに勝つ!



「はあ!」



 気迫を乗せた剣戟。

 刀が対峙する魔族の兵士を切り裂き、その身を骸に変える。








「はあ……はあ……」



 ようやく近場の敵を掃討できたところで、夜刀は息をついた。

 ……さすがに疲れがたまってきたらしい。


 先ほどからこの右翼軍は圧倒的な劣勢に立たされている。

 突然現れた魔族の大軍に襲われ、戦局が一気に向こうに傾いた。



「なんで、急に……?」



 これまでも、魔族軍との戦いに苦戦することはあった。

 けれど、これほどの劣勢は戦争に参加してから初めてだった。

 何より、魔族たちの本拠地であるフラウロス山脈目前まで追い込んだこの戦い、戦力的には人間軍の方が圧倒的に優勢だったはずだ。


 それでも懸命に流れに逆らおうと戦ってきたが、勇者といえど所詮剣士1人の奮戦では大局に影響は与えられない様子。

 混乱する右翼軍は立て直しが効かなくなってきていた。



(夏希は……?)



 親友のいる中央軍の安否が気になる。

 親友が気がかりとなり、せめて中央軍がどうなっているかだけでも確かめようと歩き出した時、新手の魔族が目の前に降り立った。



「見つけたぞ、異界より来たりし女神の尖兵よ! 我が名はゴエティア! 三元帥次席アポロア様の副将なり! 我が主君の仇、討たせてもらう!」



 それは、この右翼に投入された本来シェオゴラス城の守備を務める軍勢を率いている、先日の戦闘で異世界人たちに討ち取られた三元帥アポロアの副将を務めていた魔族だった。

 先日のアポロアとの戦いの最中、夜刀はその姿を見たことがある。

 日向と樋浦が一緒に戦い、さらに途中から夜刀も加わったことで押し返したが、あの時の相手は徒手空拳だったのにそれでも決定打を与えられなかった難敵だった。


 山羊のような頭部と、いかにも悪魔然とした風貌を持つその魔族は、5メートルはあるだろう巨大な身長。

 そして、その手には青白い光が閉じ込められている巨大な水晶のような玉を持っており、それらを名乗る間もジャグリングのように手元で投げ回している。

 夜刀はおそらくあれが本来の武器なのだろうと推測した。


 ジャグリング以外に武器らしい武器を携えてはいない様子だが、その巨体と名乗りだけでも披露した自分では手こずることになる相手だと直感する。



「1人じゃ流石に荷が重いか……でも、こいつを取れば少しは覆せるかもしれない……!」



 疲れがたまっている上に今回は1人という状況ながら、戦意をみなぎらせゴエティアに立ち向かうべく夜刀は刀を構えた。



「受けて立つ! 存分に来い!」



「いざ、行くぞ!」



 掛け声とともに、玉を一つ投げつけてくる。


 魔族は自然の秩序に逆らい、世界の不純物、つまり女神が作った自然にないものを創造する種族である。

 そのため自然の恩恵を受け付けず、属性魔法は一切操れないとともにその影響も受けにくい。


 また、中立を司る神である龍神の眷属である亜人たちのとも違い、気力と魔力を組み合わせて肉体を強化する強化魔法も使えない。


 そんな魔族が得意とするのが、創造の魔法と呼ばれる錬金魔法である。

 世界が定めた秩序からはみ出る存在、新たな創造を生み出す錬金魔法は、自由の魔法と呼ばれており、限りのない発想が無限の進化の可能性を与える魔法である。

 これにより作り出されるものは実に多種多様で、使用者によって全く性質が異なり、属性魔法と違い法則性が存在しない。


 なので、情報不足のまま魔族の攻撃を喰らえば何が出るかわからない。

 警戒して、夜刀はその水晶を躱してそのままゴエティアに肉薄しようと試みた。


 しかし、躱した瞬間に玉は割れ、中から強力な閃光と音が出てきた。



(これって、閃光弾(フラッシュバン)!?)



 思わぬ絡めての目くらましに、目と耳を一時的に使えなくされてしまう。


 その間にゴエティアは接近し、夜刀が闇魔法で影に逃げ込む前に、とっさに顔をかばったことでがら空きになったボディにその巨体を武器にした拳を叩き込んだ。



「この、卑怯な–––––––がハッ!?」



 大きな衝撃を受けて肺の空気が抜け、意識が遠のく。

 直後に腹から背中に突き抜ける衝撃が、激痛をもたらす。

 ゴエティアの身長の倍以上は高く持ち上げられた。



「くっ!」



 それでも、痛む体の悲鳴をねじ伏せて意識を保ち、空中で体制を立て直そうとする。

 なんとか地面に体を打ち付けるような落下は避けようとしたが、ゴエティアが追撃をしかけてくる。



「まだだ!」



 2発目の閃光弾が投げつけられる。

 次を喰らえば受け身も取れなくなるだろう。


 夜刀は投げ上げられてきた閃光弾もどきの水晶玉に向かって闇魔法を発動させ、割れる前に闇の中に閃光弾もどきを飲み込んだ。



「ぬっ!?」



 闇魔法が予想外だったのか、ゴエティアの表情が変わる。

 その顔めがけて、夜刀は刀剣の先端を向けて落下に身を任せた突きを繰り出す。



「ガァッ!?」



 なんとか頭は避けたものの、刀剣の刃はゴエティアの肩に深く突き刺さった。


 この巨体ならば、この程度の傷も致命傷には至らないだろう。

 だからこそ、痛みに呻くゴエティアの肩に降りた夜刀は、ゴエティアを倒すべく闇魔法により影の中から予備の剣を取り出してその喉元めがけて剣を突き立てるべく刃を向ける。


 だが、その直前にこちらを振り向いたゴエティアが、息を吸い込み、その口から火を噴いてきた。



「なっ!?」



 魔族は自然の属性魔法を扱えないはずである。

 その意表をついてきた火炎攻撃に、急いで飛び退く。

 すると自ら吹き出した火炎を突っ切り、閃光弾もどきを手にしているゴエティアが追いかけてきた。



「これでもくらえ、勇者ぁ!」



 閃光弾もどきが割れ、強烈な光と音が襲う。



「ッ!?」



 あまりの眩しさと音に、両腕で顔をかばう。

 しかしそれが再び最初に食らった時と同じ隙を生じ、ゴエティアの手が夜刀を掴み取った。



「捕まえたぞ、異世界人! もう逃がさん、死ね!」



「ぐあああぁぁぁ!?」



 強力な握力が、ゴエティアに比べればはるかにか細く小さな夜刀の体を握り潰さんとする。

 全身の骨が軋みをあげ、内臓が押しつぶされる。


 しかし、夜刀は諦めていなかった。



「こ、の……!」



 夜刀が最後の手、自身の属性魔法である闇魔法を発動させる。

 彼女の体とそれをつかむゴエティアの手が、闇に飲み込まれた。



「アギャアアああ!?」



 手首の先がいきなり飲み込まれて切り取られたゴエティアが、悲鳴をあげる。

 その手を飲み込んだ闇は形を変え、夜刀の体を覆う鎧となり武器となった。



「はあ……はあ……」



「おのレェ……異世界人!」



 ゴエティアが無事な方の手に閃光弾もどきを握り、地面に降り立った夜刀に豪腕を振り下ろそうとする。

 それに対し、夜刀は闇魔法をまとわせた剣をゴエティアめがけて横薙ぎに払った。



「このっ!」



「ゴアッ!?」



 直後、ゴエティアは何をされたのか理解できなかった。

 明らかに届いていないはずの斬撃が、自身の体を大きくえぐり取ったのである。


 それは、夜刀が扱う闇魔法による斬撃。

 間合いを無視したあらゆるもの飲み込む闇を、刃に乗せて飛ばし敵の体を抉り取るというかなりえげつない攻撃だった。



「ぐっ……!」



 その場に膝をつくゴエティア。

 そこに、闇をまとった夜刀が近づく。



「これで、止めだ……!」



「おのれェ……!」



 悔しそうに夜刀を見るゴエティアだが、この傷では立ち上がれないようである。

 止めに、夜刀が刀剣を振り上げる。

 悔しげに呻くゴエティアだが、それを避けることはできそうにない。

 うなだれた巨体の魔族に、夜刀が刃を振り下ろす。



「–––––––そこまでだ」



 だが、振り下ろした彼女の刃は、突如として空から舞い降りた、白と金色のきらびやかなローブ姿と大きな黒い翼を背に宿す1人の優男の持つ杖によって、止められていた。



「っ!?」



 その魔族の体格は夜刀たちと大差ない普通の人型で、身長も180センチ程度。同年代の男性にも見劣りしない長身の夜刀より背は高いが、ゴエティアと比べれば常識的な大きさであり、はるかに人間に近い外見をしている。


 だが、その身に纏う雰囲気が明らかにゴエティアよりも強いと物語っている。


 ゴエティアにとどめをさすために夜刀が両手で握り振り下ろした剣を、その魔族は片手で持つ杖で受け止めて見せた。さらに、夜刀も一度は力を込めたというのに、ゴエティアを守るその杖はまるで固定されたようにビクともしなかった。


 この世界においては、強化魔法を扱う亜人たちが相手でも力比べで圧倒できるほどの超人的な力を持つはずの召喚された異世界人である夜刀の力ですら、片手の相手に全く押し込めなかったのである。


 その魔族は、少なくとも超人的な強さを持つはずの夜刀に、純粋な力では勝っているということになる。

 明らかに普通の魔族ではない。

 夜刀は手負いのゴエティアにとどめをさすのを早々に諦め、後ろに飛びのいて距離をとった。



「……あんた、何者?」



 警戒しながら剣を構える夜刀。

 一方で、名を問われた魔族は視線を夜刀から外さずにゴエティアを背中にかばうように立ち、後ろでうずくまる魔族の将に命令する。



「退け。あの異世界人、お前には荷が重い相手だ」



「うぐ……面目次第もありませぬ……」



 ゴエティアが傷を庇いながら、ゆっくりと立ち上がり退いて行く。

 その歩みは遅いものだったが、夜刀は追撃できなかった。


 ゴエティアを討とうとすれば、あの黒い翼を持つ魔族が必ず立ちふさがる。

 一切隙を見せないその魔族から感じるプレッシャーは、ゴエティアの比ではない。



「何者なの? 人の戦いに割り込むなんで、無粋だと思うけど」



 ゴエティアの口調から、三元帥の副将であるゴエティアよりも高い地位にいることがうかがえる。

 ただ、最後の三元帥であるベルゼビュートは、人と蝿を融合させたような異形の外見をしている魔族だった。少なくとも、こんな人間らしい外見をしている魔族ではない。

 夜刀の問いに、その魔族は黒い翼をなびかせて答えを返した。



「我が名はルシファード。君たちの敵対者、魔族を率いる王さ」



 それは、ここにいるはずのない魔族のことを指す名前だった。



「……魔王!? なんで……シェオゴラス城にいるんじゃなかったの!?」



 確かにその魔族は魔王ルシファードと名乗った。魔王ならば夜刀を上回る腕力も頷けるし、ゴエティアの対応も分かる。

 だが、魔王はシェオゴラス城にいるはず。

 それが何故前線、それも光聖のいる人間軍の本隊ではなくこの右翼にいるのか?


 疑問が浮かぶが、ルシファードはその問いには返事をする気はないらしい。

 杖を夜刀の方に向け、格好つけているのか背中の翼をなびかせる。



「私がここにいる理由を知る必要はない。異世界人よ、この場で貴様は私に討たれる。それだけだ」



「……ッ!」



 ルシファードの言葉に、夜刀は歯を噛み締める。


 確かに、ルシファードがここにいる理由を知るなんで余裕はない。

 生きるか死ぬかの瀬戸際。さっきの戦いでもう魔力も限界に近く、属性魔法もあまり使えない。

 でも、これはチャンスでもある。ラスボスが、本来城の一番奥に控えている相手が単騎でここにいるのだ。



「負けないんだから……!討たれるのはお前の方だ、魔王!」



「いかに異世界人と言えど、単騎で魔王に勝てると思わぬことだ!」



 剣を振り上げ、ルシファードに向かっていく。

 杖を構え、夜刀を迎え撃つ。

 右翼の戦場に突如として現れた魔王との戦いが始まった。

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