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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
一幕 初戦
5/49

魔神の取引

 


『異世界人。お前を召喚したのは、我が子供達である魔族の王、魔王を女神の手駒より守ってもらうためだ』



 クテルピウスは、召喚した理由の結論を真っ先に述べた。

 つまり、クテルピウスのいう魔族の王というものを、女神という呼称から察するに異世界を想像したという三柱の神のもう1人である女神が差し向ける刺客から守る護衛、ということだろうか。



「……すまない。結論から言うのは構わないが端折りすぎだ。なんとなく女神という存在と貴方が争っているということは察することはできたが、どうして俺に? できれば争いの経緯や異世界人に頼むことになった経緯を知りたい」



 ある程度の推測はできるが、結論だけ言って黙り込まれては半分も理解できない。

 何をするのかという点についても、魔王の護衛をする以外に何も言わないのであれば分からない点が多すぎる。


 まずは順を追って説明して欲しい旨を伝えると、クテルピウスはその経緯について話し始めた。



『さすがに短すぎたか。では、我らが作り上げた世界と三柱の神から説明しよう。

 女神に関してはお前の察する通り、我の他にいる世界を想像したる三柱の神の一柱だ。もともと、この世界は秩序・中立・混沌をそれぞれ司る三柱の神によって生み出されたのが始まりだ。秩序を司る女神アンドロメダが国造りの聖剣アルフレードの蒼炎を用いて世界を生み出し、中立を司る龍神ケツァルコアトルが世界に命を吹き込み、そして混沌を司る魔神である我が世界に進化を与える試練を作り上げた。女神は作られた世界に自然を芽吹かせ秩序を作り、自然とともに秩序を形作り生きていく人間を生み出した。我は世界に芽吹く様々な者たちが逞しく歩みを進み進化の芽を常に咲かせるように欲望と混沌をもたらし、自然を開拓する術を与え、自然ではなく想像を持って生きる種族である魔族を生み出した。

 秩序を司り自然の循環を尊ぶ女神と、混沌を司り生命の進化を尊ぶ我は、もとより互いに理解し合えぬ存在であり、争いを起こした。この決着はついていないが、今は我も女神も世界には直接手を出せなくなっている。

 神々の争いは作り上げた世界の均衡を揺るがすものであり、この世界が滅びかねないものであった。そこで中立を司る龍神が、神と神の争いに世界を巻き込まないように三柱の神の世界に対する直接的な干渉を禁じた。

 我と女神は同意したが、我らの思想の影響を色濃く受けた子供らは魔族と人間による戦乱を起こしたのだ』



 なるほど、思想の対立からくる戦争が、それぞれの生み出した魔族と人間にまで波及し、世界を舞台にした戦争に発展したと。

 女神の手駒というのは人間ということだろうか。


 すると、ここで魔神の話が俺たちに関係ある話題に入った。



『争いは均衡を保っていたが、魔族に同胞を率いる魔王が出現したことで魔族側(我が子ら)に戦況が傾いた。

 それを覆すために、女神はこの争いに神ではなく異なる世界のものを巻き込んだのだ。

 もともと女神は異世界の者を召喚することが、我はこの世界の者を他の世界に送還することができる。女神はこの世界よりもはるかに強大な世界の異世界人を手駒とし、加護を与えてこの世界に召喚したのだ。

 その異世界人()()はより高位の世界の住人であり、この世界においては超人としてはるかに強大な力を振るうことができる。

 女神が送り込んできた異世界人たちにより、魔族は一気に戦況を覆されてしまっている。このまま魔王が討たれれば、魔族は確実に滅びるだろう。

 女神の加護を受け聖剣アルフレードを授かった異世界人、それが勇者だ。すなわち、お前に魔王を守る際に戦って欲しい存在だ』



「召喚……勇者……」



 クテルピウスの話を聞いていた俺は、徐々に話の筋が見えてきた。


 俺を召喚したのは、おそらく俺がその勇者という輩に拮抗できる存在、クテルピウスのいう勇者と同じ高位の世界の住人だからだろう。

 それは逆説的に考えて、俺と同じ世界の住人ということになる。


 そして、あのトンネル崩落に巻き込まれる寸前に起きた不思議な現象が、原理はまだ俺には理解できていないが状況から察するにこの話に結びつく。



「つまり……」



 クテルピウスが何故日向が生きていることを知っているのか。

 魔王を守るために俺を召喚したのは、その勇者と戦える世界の住人だから。

 そして、異世界に召喚されてもその正義感から無茶な選択をする人物が、あの不思議な現象と合わせて心当たりがある人物が、1人いる。



「その、勇者の中に……」



『女神が召喚した勇者の1人はお前が安否を心配していた女だ。我が子らにとっては嬉しく無い知らせではあるが、その女は五体満足で活躍してくれておる』



 話が繋がった。

 元気に魔族と戦っているなら、確かに無事だろう。

 俺にやってもらいたいことと、日向が生きていることを知っている理由、あの時日向に起きた不思議な現象の正体。


 だが、状況とやるべきことは理解したが、ここでさきほどの説明に対して疑問が発生する。


 女神が召喚を使い、魔神が送還を使う。

 1つは何故俺が魔神に()()されたのか。

 そして、なぜ送還を使わない女神に日向は協力しているのか。


 思考を読み取ったクテルピウスが、声に出す前にその疑問に答えた。



『ふむ、鋭いな。お前を召喚できたことだが、お前は女神の召喚した異世界人の1人のすぐそばにいた。我は召喚はできないが、女神の召喚の1つに介入して近場の者を引きずり込むことはできる。お前を召喚できたのはそれが理由だ。

 次に女神に異世界人が協力している理由だが、詳しくはわからないが恐らく女神は送還できないことを黙って従わせている可能性が高い。我が子供達の噂を聞いたところでは、加護を与えられた勇者が安請けあいをし扇動して、他の異世界人を巻き込んだと聞く』



「……は?」



 1つ目の回答は納得した。

 2つ目も騙されたという線が濃厚だろう。それで納得できる。

 だが、最後にクテルピウスが付け加えた噂というのが、俺の思考から冷静さを剥ぎ取った。


 異世界人は1人じゃない。なるほど、他にも召喚された者がいるというわけか。

 だが、その扇動したというのが引っかかった。


 つまり、異世界人たちの誰かが周囲を扇動して日向をこの争いに巻き込んだということ。


 日向はバカじゃない。死にかけた直後に異世界に召喚され、訳も分からぬままに周囲に流されそうになったりするかもしれないが、同じように召喚されれ人たちがいるならその人たちの安全を気にするはず。

 それが戦いに足を踏み入れているということは、その勇者が巻き込んだということか?



「……危険だな」



 異世界人を説得し、クテルピウスの送還魔法で一緒に帰り、異世界人の脅威を取り除く。

 そんな最適プランが思い浮かんだが、その扇動者は日向そばにいるだけで争いを呼び込み、争いに巻き込んでいく危険因子である。


 日向の安全を考えれば、なるべく早く説得しなければならない。

 そうなると、話し合いに耳を貸さない輩は排除する必要がある。



『お前は元の世界に残っていれば確実に死んだだろう。魔王を守り抜いた暁には、お前の同郷の者たちをふくめ、元の世界の安全な場所に送還してやる。勇者と戦うために、魔神の加護と我が宝物を自由に借りる許可も与える。悪い取引ではないだろう』



 そして、俺の思考を見透かしているクテルピウスが、ここぞとばかりに対価を提示してきた。


 日向は助けたい。確かに、あのままでは俺も日向も死んでいた。その点に関しては、クテルピウスと女神に感謝するべきところだろう。

 そして、日向を戦争に巻き込んでいる扇動者を始末する機会と力を貸すと言っている。


 なるほど。受ける理由は多々あるが、断る理由はない。確かに、悪くない取引である。

 言い出したのは俺だが、伝承にある悪魔との取引というのを当てはめると確かにクテルピウスは悪魔と称するのがふさわしい。



「お前は俺の命を拾って安全な帰還を提供し、俺はその拾われた命を使って異世界人から魔王を守る。確かに、正当な取引だ」



 もとより、引き受けなければ俺も日向も帰ることはできない。

 選択の余地はないが、内容は決して悪くない取引である。



「承知した。あなたの取引に応じよう」



『クハハハハ! よくぞ言った! ではこの時よりそなたは我が使徒となる! その命、我に捧げよ!』



 俺の答えに、クテルピウスは満足げな笑いを浮かべた。

 そして、何も見えない闇の中から何かが伸びてきて、俺の体に入り込んでいく。

 それは決して不愉快なものではなく、それどころか言葉では言い表せないような爆発的な力が身体中に満ちてきた。



『我が加護を授けた。それは女神に与する者たちの武器である自然の魔法、属性魔法を無効化するものだ。それと、武器として我が宝物の中身を取り出し振るう権利を魔神クテルピウスの名において承認する』



 俺の頭の中に、数多くの様々な武器や鎧の数々、まさに宝物庫と呼ぶにふさわしい大量の情報が流れ込んでくる。

 扱い方も元から知っていたようにすんなりと頭の中に入り込んできた。

 その中から、試しに全身を覆い隠す漆黒の甲冑を思い浮かべると、想像した通りの鎧が俺の全身を覆った。


 宝物庫を開いた瞬間から、全身に満ちる力が溢れるように、暗い空間に風が吹き荒れる。

 さらにもう1つ、宝物庫の中にあった薙刀を選択すると、自身の手にその武器が出現した。

 握った柄からは、あまり重さを感じない。見るからに重そうな武器と鎧なのに、ほとんど重さを感じることがない。これならば、十分に動けるだろうと確信できる。



『異世界人の情報については魔王が知っている。我が話を通してあるゆえ、そこで詳細を聞くといい。では、頼んだぞ!』



 クテルピウスは最後にそんな言葉を残して、気配が消えていく。

 そして周囲を覆っていた暗闇が割れるように晴れていき–––––––




 –––––––俺は、異世界に降り立った。

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