表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
三幕 連邦
46/49

魔神の使徒

女神の勇者サイドです

 日向と時津、そして時津に引っ張られて半ば引きずられる形で輪島も加わった勇者3人が、リュパンの紹介したカニヴァルナの傭兵団にて早速傭兵の試験へと挑んでいった。

 本来の目的を忘れかけている様子の日向たちは置いておき、近衛はリュパンの方へ近づいた。



「リュパン殿、1ついいだろうか?」



「はい、なんでしょうか?」



 近衛に声をかけられたリュパンは、一瞬浮かんだ商人の打算的な笑みをすぐに隠し近衛の方を振り向いた。

 その時にはすでに営業マンの笑みを被っている。

 ……しかし、ウツボの亜人の表情など近衛には識別が難しいしするつもりもないので、あまり意味はない。


 近衛の目的は、邪神族に関する情報だけではない。

 リュパンが言った300年前にあったという邪神リュインゴスの襲来の際に、女神の勇者の他に魔族から出されたという魔族の切り札という存在に関することである。

 当時はまだ魔王ルシファードはいなかった。召喚された際に女神から聞いた話でも魔族の統括者である魔王はルシファードが初めてであり、300年前にそれに該当するような存在は魔族にはいなかったはずである。


 だが、1人その存在に該当する魔族に彼女は心当たりがあった。


 勇者たちにとって、魔王を仕留めこの世界で最後の戦いとなるはずだったシェオゴラス城の戦いで、女神に聖剣アルフレードを授かった最強無敗だった勇者たちのリーダー、天野 光聖を破り瀕死の重傷を負わせた謎の魔族。

 人間軍が誰1人としてその存在を知らないと言っていた、漆黒の甲冑に身をまとった属性魔法の効かない謎の魔族である。


 近衛自身は見たわけではないし、伝説に出てくるその魔族がいたのは300年前のことである。魔族が人間より長命でも、300年はさすがに生きられないはず。同一人物ではないだろう。

 しかし、伝説とはいえ別世界の存在である邪神と戦ったというそこ魔族ならば複数人の勇者と戦い光聖には重傷を負わせることもできるだろう。何らかの関連がある可能性は高い。



「リュインゴスと戦ったその伝承、そこに出てくる魔族を率いたという彼らの切り札というのは一体何者だ?」



 回りくどいことはせず、ストレートに近衛は尋ねた。



「……なるほど」



 それに対し、リュパンは何かを納得した様子。

 商人らしく広い情報網を持ち、光聖に瀕死の重傷を追わせた魔族の存在に関して耳に入れていたのかもしれない。



「私も伝承のみで実際のそれを見たことはありませんが……」



 そう前置きして、リュパンは邪神とも渡り合ったという伝説を持つ魔族の切り札の存在の通称を近衛たちに答えた。



「魔族が危機に瀕した時、彼らの崇める魔神クテルピウスが遣わす魔族の守護者。魔族たちにおいては【魔神の使徒】と呼称している存在とのことだそうです」



「魔神の使徒……?」



 それも初耳である。

 女神から魔王と三元帥、そして彼らの崇める神である魔神クテルピウスに関することは聞いていたが、魔族にそんな存在があるという話は初耳だった。

 しかも、魔族ではなく彼らの崇める神が遣わすという魔族の守護者。邪神族と違い、女神同様に魔神も魔族の滅びを阻止したいと考えている場合には確実に相対することになるだろう情報の必要な存在だった。



(女神め、これほどの重要な情報を何故……)



 近衛の中で、女神に対する疑惑と疑念がより深まる。


 近衛にとっては女神を疑うのも重要なことではあるが、差し迫っては魔神の使徒という存在に関する情報が必要だ。

 何しろ勇者たちは女神からそのような存在は一切聞いていない。

 三柱の神は己の子といえる各種族たちの動乱には直接的な介入をしないという取り決めをしているという。だから魔神は魔王を討たれそうになっても魔神の介入はないと、召喚された時に女神は説明していた。


 しかし、その魔神の使徒なる存在が出てくるとなれば話が違う。

 伝説においては、邪神と渡り合い女神の勇者を肩を並べた存在、つまり鵜呑みにすれば勇者たちと同格と言える強さを持つ存在である。

 それに、その魔族が初めて出現したのはシェオゴラス城の戦いであり、それまではどれだけ人間軍の優勢な戦況にも影も形も出てこなかった存在である。あれほどの強さを持ちながら存在も知られていなかったとなると、伝承のように魔族の滅亡の危機にのみ現れる守護者だとすればあの状況で唐突に出現したことなども伝説と符合する点が多い。



「魔神の使徒、とか言ったな。その魔族、どれほどの強さだと言われてる?」



「伝承によれば、女神の勇者に匹敵する存在だったと云われています。何しろ武器が効かない中で邪神リュインゴスと一騎討ちを演じたと伝えられるほどですので」



「……他には?」



「伝説によると、魔神クテルピウスの加護を直接賜る魔神の使徒は属性魔法を歯牙にも掛けない力を授かると言われているので、それが真実ならばそれを扱う人間にとっては天敵と言える存在ですね。また、魔神クテルピウスの有する無尽蔵の宝物を貸し与えられ、全身をその宝物の甲冑に纏い、無数の武器を自在に駆使した存在だったとも言われています」



「……そうか」



 女神の勇者を複数人相手にして渡り合える強さ。

 魔神の加護を有し、光聖の蒼炎の属性魔法をも無効化するほどの強力な耐性。

 数多の武装を有し、全身を甲冑に覆って無数の武器を取り扱う技量。

 玖内たちから聞いた光聖を倒した謎の魔族と合致する。


 伝承は脚色も加わるだろうが、真実から的外れな形で伝わるほど捻じ曲げられることはない。

 多少の差異はあれど、魔神の使徒の伝説の内容は謎の魔族に合致する点が多く見受けられる。


 魔王でも三元帥筆頭のハエ野郎でもなければ、光聖を倒した魔族はおそらくこの魔神の使徒だろうと近衛は推測した。

 そしてその強さは、光聖たちをまとめて相手取り圧倒したことから伝説が誇張でないことを示している。


 近衛は光聖を鬱陶しがっているが、その強さは認めている。玖内たちも個人的には仲が悪いが、その力量は認めている。

 だからこそ、彼らをまとめて相手取りなおかつそれを単身で圧倒したということが侮り所詮は伝説だからと一蹴できるような存在ではないことを証明していた。


 昔の伝承とはいえ、リュインゴスとの戦いには人間も女神の召喚した当時の勇者とともに参戦していた記録が残っているとリュパンは言っていた。

 ならば人間側にも魔神の使徒を記す記録があるはずである。

 アラニュート地方の要塞から戻ったら、向こうでも魔神の使徒に関することを調べることにした。



「リュパン、今の話最初から聞かせて」



 魔神の使徒の話を聞いていたのか、玖内が近づいてきた。

 玖内は傭兵には関心がなさげだが魔神の使徒の話に興味を抱いたらしく、リュパンに何の話をしていたのか尋ねる。


 彼女が魔神の使徒の伝説に関して関心を抱くのは、光聖が目の前で切られた瞬間を目撃していたからだろう。

 光聖は一命を取り留めたが、危うく命を落とすところだった。

 好きな相手を切った敵に対する恨みは、決して小さくはない。その正体不明の敵を示しているかもしれない存在の話題には、食いつきたくなるのだろう。


 近衛は光聖が切られたことに関して、彼に特別な感情があるわけではなくむしろ嫌っているほどだったのでその謎の魔族に対して憎悪のような感情を抱いているわけではない。

 ただ、女神が意図的か無意識かどちらにせよ隠していた勇者と渡り合える存在、魔神の使徒がその魔族なのかどうか。そして魔神の使徒だった場合どれほどの脅威として立ちふさがるか。

 彼女が魔神の使徒に向ける関心は、専らどれほどの脅威となりどれほどの敵として立ちふさがってくるかという程度でしかない。


 リュパンは近衛に説明した内容とほぼ同じ形で、邪神リュインゴスの伝説を含め一通りの魔神の使徒に関する伝承を玖内へと説明した。

 光聖の仇ともなれば熱の入る玖内はその詳細を聞き、近衛と同様にその謎の魔族こと魔神の使徒であるという推測につながった。



「魔神の使徒……そいつが、光聖をやったあのすかしたゲス鎧か!」



「勇者様……?」



「よくも……光聖を! 絶ェェェ対ッ、許さない!」



「……まだあの馬鹿は死んでいないぞ、たわけ」



 真っ赤な顔に怒りを露わにして光聖が既に死んだようなことを言う玖内に、近衛が呆れながら冷静なツッコミを入れる。


 その頃、日向たちは無事に傭兵団の試験官との模擬戦、一次試験の内容を合格した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ