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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
三幕 連邦
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歯車

女神の勇者サイドです

 邪神族というこの世界で初めて聞いた存在。

 ウツボの亜人であるモンクリフスト・リュパンからその概要を説明された勇者たちだが、初めて聞く存在なのでいまいち納得できていない様子である。

 それを見たウツボの亜人の商人は、邪神族に関する話を続けた。



「異世界より来る侵略者とその配下である眷属たちを総称して、我々亜人は邪神族と呼称しています。とは言え、女神アンドロメダの扱う召喚魔法ではなく自らの力と意思によって世界を渡り侵略を目的として飛来した存在全ての総称なので、単に邪神族と言ってもその分類は多岐に渡ります」



 ここは人間領の北部、中立勢力である亜人たちの国である連邦との国境に近い地方都市の1つ、カニヴァルナ。

 海魔とエルダースライムが勇者たちのあずかり知らぬところで連邦の1都市であるフレイキュストを襲撃した事件があった日、魔神の使徒がウサギの亜人に邪神族という存在について話を聞いたときとほぼ同じ日時にカニヴァルナを訪れていた勇者たちもまたウツボの亜人から邪神族の話を聞いていた。


 彼女たちがウツボの亜人であるモンクリフスト・リュパンに邪神族のことを聞くことになった経緯を説明するには、この日の昼ごろまで時間を遡る必要がある。

 シェオゴラス城の戦いの後、魔族と人間がお互いに継戦能力の限界に達したことで一時的な休戦期間となったこの日。最前線であるアラニュート地方要塞に駐屯する夜刀と羽風の2人の勇者の元を訪ねるために、日向・近衛・輪島・時津・玖内の5人の勇者は護衛という名目の案内を務める人間軍の一個中隊の部隊とともに要塞への道を歩いていた。

 カニヴァルナはその行軍ルートの道中にある都市であり、中立勢力である亜人の連邦の窓口の役目を果たしている2つの国の交易の拠点として機能している都市である。

 そのため多くの人々が行き交うこの都市には宿泊施設や物流も充実しており、この日は一度カニヴァルナにて夜を明かす予定だった。


 日が傾いてきた頃にカニヴァルナに到着した勇者一行は、カニヴァルナを中心に観光客や旅商向けのホテル事業を展開しているリュパン商会の宿泊施設を使用することにした。

 そこに女神の召喚した勇者たちの来訪を聞きつけたリュパン商会の会長、モンクリフスト・リュパンが是非挨拶したいと日向たちの元を訪ねてきたのである。


 最初はこの外見だけはかなり不気味なウツボの亜人と他愛のない世間話をしていた。

 リュパンは商人というだけあり口達者で、外見こそ人間から見れば滑り気のある表皮や人とかけ離れた異形の姿とマダラ模様の不気味な外皮に生理的嫌悪感から苦手意識を抱いていた勇者たちであるが、リュパンの提供する様々な話題などに聞きいるうちに徐々に警戒心は薄れていった。

 またリュパンは聞き上手でもあり、その上手い会話に乗せられるうちに彼女たちはシェオゴラス城の戦いの後に抱くようになった様々な葛藤や後悔を愚痴としてこぼすようになった。


 嫌な顔1つせずに真剣に聞き対応してくれるリュパン。

 日向もまた、シェオゴラス城の戦いを経て光聖が謎の魔族との戦いで死にかけた事、親友が消耗したところで魔王と戦うことになり怪我をしたこと、その場に居合わせることができなかったことなどを後悔し、魔族に勝つために一層強くなりたいと思うようになった胸の内を吐露した。


 それを聞いたリュパンが、しばらくは魔族と人間は戦争をせずに次の戦いに備えて国力の回復を図る休戦期に入るからその間に亜人の連邦にて傭兵の身分を手に入れ依頼を通して修行に励んでみてはどうかと提案してきた。


 その話に興味を抱いた日向たちが傭兵の仕事に関して詳しく聞いた中で、強くなることを目的とするなら邪神族の討伐依頼などがあることをリュパンが説明してくれた。

 初めて聞く邪神族という存在。

 それが何であるかを日向が尋ねたところ、リュパンは時同じくして魔神の使徒に対して同じことを説明したフレイキュストの傭兵団の受付嬢のウサギの亜人と偶然ながらほとんど同じセリフで邪神族のことを勇者たちに説明したのであった。


 邪神族。

 それは彼女たち女神に召喚された勇者と違い、異界より他者をこの世界に召喚する女神アンドロメダの召喚魔法ではなく自らの意思と力に基づいて世界の境界線を飛び越えて異世界から降り立った、侵略を目的とする異邦の存在である。


 女神の勇者と邪神族はともに異世界から来た異邦人ではあるが、その目的や存在は全く違う。

 女神が己の種族を守るために加護を与えて召喚する勇者と違い、邪神族はそもそもの目的がこの世界の侵略である。

 つまり、人間・魔族・亜人とこの世界に生きる全ての生命にとっての敵対者である。


 邪神族たちの親玉と言える最初に世界を渡ってくる存在は邪神と呼ばれており、その邪神が召喚したり増殖したりして様々な形でこの世界において数を増やす眷属たちは邪神族と呼称されているという。厳密には邪神とその眷属たちすべての侵略者が邪神族という括りにまとめられているのだが、邪神とその配下となる輩の区別を明確にするため通常は邪神族は眷属たちを指し、邪神は邪神として呼称している。


 この世界という獲物を取り合う形となるライバル同士のため邪神族同士が手を結ぶことは殆どない。


 とはいえ勇者たちが証明している、行為の世界の住人がこの世界で超人的な力を持つことができる異世界人の力。別の世界から来る存在はこの世界において常人をはるかに上回る力を手にすることができるという法則は加護の類いではなく住まう世界が関係しているらしく、世界を自力で渡れるほどの存在である邪神たたも、当然ながらこの世界の種族にとっては太刀打ちできない強大な力を保有している。

 そのため強大な存在である邪神が出た時には、全ての種族が一丸となって立ち向かうこともあり、さらには女神アンドロメダによって邪神族に対抗するために勇者が召喚されたこともあったという。彼女たちの先代の勇者の多くは、魔王の出現により人間が滅亡の危機に瀕したことで召喚された彼女たちと違い広義的には同じことなる世界から飛来した異邦人である邪神の侵略から世界を守る為に召喚される存在だったという。


 勇者は邪神を打ち倒したのちには、この世界に残ることを選択したと言われているため、帰ったという記録はない。


 一方、過去の邪神の眷属たちの中に主君を亡くした後も生き残った個体があり、この世界で増殖し種族として確立するようになったという。

 現在の亜人の傭兵が相手にすることが多い邪神族は主にその残党と化している邪神族たちであるとの事。


 時には、邪神族に対抗する為に人間と魔族と亜人が手を取り合い共に戦ったこともあり、亜人の連邦には300年前に襲来したという邪神にも対抗する為に3つの種族と女神の勇者、そして魔族の切り札もいえる存在も参戦して共闘したと伝わっている。



「邪神との戦争においては、魔族と人間さえも種族の垣根を越えて同盟を結び我ら亜人とともに立ち向かったという記録も存在しています。とはいえそれは魔王の出現よりはるかに昔、300年以上前の出来事ですが。当時の邪神、エルダースライム【リュインゴス】は種族の垣根を越えて一丸となった連合軍に敗北し封印されたという実際に戦場の跡地も残る逸話です」



 アンドロメダに召喚される時には邪神族の存在を聞いていなかった日向たちにとって、自分たち以外の異世界からやってきた存在というのは初めて聞く話だった。

 人間と魔族は不倶戴天の敵同士であり、手を組むことなどありえないと思っていたので、実際に共闘したという話を聞いても真実味がわかない。


 一方で、種族が違う弊害や偏見に関して別世界の人間である彼女たちはそういう意識が殆どない。

 この世界の人間は魔族を異なる文明を持つ不倶戴天の敵として認識しているのに対し、彼女たちは魔族を群れる害獣や悪の侵略者という認識で戦っていた。

 そのため、2つの種族が説明をしてくれているリュパンたち亜人も交えて共闘したという逸話は新鮮に感じられた。


 そして、そんな彼らが手を組んで戦ったというこの世界にとって本当の意味の侵略者たちである邪神族の話にもまた、興味を抱いた。


 輪島と玖内は自分たちが女神に召喚された理由とは関係ない敵であり、現状は亜人たちの連邦が防波堤のように戦っているため人間にとってはさしたる脅威にはならならだろうと邪神族に対してさしたる関心はよせなかったが、女神に対して懐疑的な立場を取っている近衛はこの初耳となる外敵の存在に大いに関心を示している。

 いくら命の恩人でも、実質的に誘拐のような手段を取り駒となる異世界人を集めたことといい、魔族を倒さなければ元の世界に帰れないという半ば脅しのような形で魔族と争わなければいけないよう誘導したことといい、近衛は女神を信用していない。


 女神アンドロメダが勇者たちに邪神族という場合によっては魔族以上の脅威となる存在を黙っていたことも、理由がなんであれ近衛にとってはより一層女神に対する警戒感を募らせる材料の1つとなった。



「邪神族の話は女神からも聞いたことがない。その話、詳しく聞かせて貰えないだろうか」



「はい」



 近衛はリュパンに詰め寄らんばかりの勢いで、もっと詳しい邪神族の話を聞かせるよう迫った。

 本人は無意識だというが、近衛の目は平時でも相手を責めるようなきつい印象を与えるという。

 そんな彼女に対しても、リュパンは嫌な顔1つせずに邪神族について説明してくれた。



「勇者様がご存知ないのは、人間に差し迫った脅威が邪神族ではなく魔王の誕生により勢力を急速に拡大させた魔族の側にあったからでしょう。邪神族はその殆どが連邦領に生息圏を有しており、ここ100年以上は人間や魔族に対する被害は殆どないからです」



 リュパンが言うには、現在はエルダースライム以降邪神の出現は最近まで確認されていないという。残る邪神族も連邦領が生息域であり、被害を受け対抗しているのは連邦であり魔族や人間には殆ど被害が出ていない。

 魔王の出現とほぼ同時期に新種の邪神族である海魔たちが多数確認されるようになり新たな邪神の襲来が警戒されているが、現状は邪神が出てこなければ亜人の連邦のみで十分に対応が可能だった。


 しかし、邪神の眷属というだけあり邪神族たちも決して侮れない存在である。

 身体能力などは極めて優れており、龍神の加護により扱える【気】を用いた強化魔法を扱える亜人たちですら手練れの傭兵が複数人からなるチームを組んでようやく対抗できるほどの力を持つという。

 勇者でも群れが相手となれば苦戦するだろう存在であり、勇者ほどの存在がさらなる強さを手にするための修行相手としてふさわしい危険な存在である。


 人間たちが相手では異世界人の力が強大すぎるゆえに歴戦の勇士でさえまともな稽古にもならないので、より強くなるために修行相手を求めている日向たちにとっては邪神族を相手取る連邦の傭兵という身分はある意味うってつけの修行と言えるものだった。



「……リュパンさん、どうすれば傭兵になれますか!?」



「ウチにも教えてほしいっす!」



 魔族との再戦に向けてより強くなりたいと思っている日向と時津が、リュパンに詰め寄った。

 近衛の方は、リュバンの推測する女神が邪神族に関する情報を一切勇者たちに教えなかった理由に関して考えを巡らせているらしく、1人黙っている。



「分かりました。カニヴァルナの傭兵団を紹介しましょう」



 邪神族の脅威は、彼ら商人に取っても大きな悩みの種である。

 それの討伐に女神の勇者という強大な戦力が加わってくれるならば申し分ない。

 リュパンの方も打算があってこの提案をしたのである。

 とはいえ、その本心は営業マンの笑顔の下に隠し、勇者たちをカニヴァルナの傭兵団へ案内した。



「……魔族の切り札、か。それが光聖(あのバカ)を倒した魔族か?」



 そして、近衛はもう1つのリュパンが何気なくもたらした情報も聞き逃さなかった。

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