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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
三幕 連邦
42/49

タボラス商会

魔神の使徒サイドです

 タボラス商会前の通りは最初に攻撃を受けたこともあり、被害が大きい区画となっていた。

 そのため、大きい建物であるタボラス商会の商館は避難場所および仮設病院として提供されており、内部には怪我人が多数運び込まれていた。


 幸運だったのは、大手の商会であるタボラス商会の商館があったことだろうか。

 連邦内において規模の大きいタボラス商会は、医薬品などの品物も充実しており、さらには商会専属の雇われ医師達がいたおかげで仮設病院としての機能が備わっていたことで迅速な対応ができていた。


 シェオゴラス城の戦いの後、魔族軍の負傷兵が運び込まれたシェオゴラス城における戦争の後の戦場に似ている。

 絶え間なく運び込まれる怪我人、身内を思うあまり治療の妨害をしてしまう民間人、飛び交う怒号と悲鳴、間に合わず今生の別れを強要される者達、そして回復して希望を見出した時に溢れる安堵の笑顔。


 その中を歩いていく。

 衛士達が多くいる場所に向かい、衛士長を引き渡した。


 幸い、俺のことを知っている衛士が対応してくれたことで円滑に引き渡しができた。

 いくら衛士長が目立った外傷もなく気を失っていただけとはいえ、事情を知らない者から見れば俺が襲ったとみられたとしてもおかしくはなかっただろう。余計な諍いが起きずに済んだこともそうだが、俺が今回の騒動の収束に一役買った存在であることを承知してくれる衛士と出会えたことも幸運だった。


 商人は情報を扱うこともあり、噂などには敏感である。

 小耳に挟んだだけでも興味持つこともあるのだろう。

 衛士長を引き渡したところに、偶然を装ったタボラス商会の所属と思われる商人然とした風貌の中年の虎の亜人を中心とした数名の亜人達が近づいてきた。



「オルソン衛士長殿はご無事でしたか。いやはや、良かった良かった」



 戦場には似合わない仕立ての良い服に身を包んだ中年の虎の亜人は、一見人当たりの良さそうな笑みながらその奥底に見る者すべての価値を見定めようとする光を帯びた営業マンのような目をしている。

 衛士の右、俺から見れば左の方から近づいてきたその人物に、衛士と同時に視線を向ける。


 中年の虎の亜人は、2人の視線がこちらに向いたところであたかもうっかりしていましたというような表情を浮かべてから、営業マンの笑みに戻って慇懃に礼をした。



「おや、これは失礼を。名乗りもせずに申し訳ない。私は当商会の会長を務めているウスデン・タボラスという者です。以後、お見知り置きを」



 ウスデン・タボラス。

 この商館を含めたタボラス商会を取り仕切る商会長。


 タボラス商会は亜人の連邦の中においても上位に位置する大規模な商会と聞く。

 連邦において商人の財力は司法機関さえ操るほどの力を持つ。

 その商会長というだけあり連邦では有名らしく、ウスデンの名を聞いた衛士が慌ててその場で敬礼をした。



「タボラス商会長!? し、失礼いたしました! 私はフレイキュスト衛士、ショナン・タコーズと申します! オルソン衛士長に代わりこの場の指揮をしている者です!」



「ホッホッホ、衛士の皆さんにはいつも商会を贔屓にしていただいている身、そうかしこまらずとも結構ですよ」



 俺たちの世界において警察に当たる衛士の地位にある彼の態度と、それに対するウスデンの対応から、口調こそこの中年の亜人は穏やかな者だが暗に衛士に対して上に立つ対応を見せていた。

 表面上は一介の商人風情とウスデンの方が謙っているように見えるが、実際の立場はウスデンの方がはるかに格上なのだろう。


 ウスデンの周囲を固めるのは彼の私兵なのだろう。屈強な体格に全身を高価な金属製の鎧に身を包んだ傭兵達である。衛士よりも待遇がよさそうに見える。


 そんな男達に取り囲まれていたウスデンの視線が、俺から先ほど渡され衛士達の負傷者達のいる場所へと運ばれた衛士長の方に向く。

 衛士が衛士長が指揮をとれないことを口にしたことで気付いたのだろう。

 さも心配していますよという口調で、その割りに事前に知っていたかのようにさほど驚いていない様子でウスデンが衛士に尋ねた。



「衛士長殿はお怪我をされたのですかな?」



「い、いえ……気を失っているだけで負傷は……」



 実際の容態を詳しく知っているわけではないので、衛士は俺の方にしきりに視線を向けながら歯切れの悪い回答をする。

 しかし盗み聞きでもしてやはり事前に把握していたのだろうウスデンは、その説明だけで納得した様子で特に困惑することもなく頷いた。



「ホッホッホ。大事なくて何よりですな。衛士長殿とは懇意にさせていただいているので、彼のような方はなくすには惜しい」



 そして、衛士から俺の方に視線が向く。

 衛士が俺の方をしきりに見ていたので、衛士長の容体について俺が何かを知っている存在だと感づいたのかもしれない。



「ところで、そちらの方は?」



「あ、か、彼は……傭兵でして、その……」



 しかし顔も見せない俺にいきなり声をかけることは躊躇したらしく、衛士の方に紹介を求めた。

 とはいえ、衛士の方も俺に関しては海魔の襲来に居合わせて協力することとなった腕は立つが顔を知らない傭兵という意外に認識はなく、名前も名乗っていなかったので紹介しようにもできず困ってしまったようである。

 視線で俺の方に助け舟を求めてきた。


 ウスデンが出てきてからの衛士の態度は全く違う。

 役人業務はそういうものなのかもしれない。


 とはいえ話が進まないということもあるし、俺自身タボラス商会には用があった。ここで会長であるウスデンと出会えたのは幸運と言える。この機会を逃す手はないだろう。

 俺は所詮よそ者の傭兵に過ぎないので、多少の不躾は黙認してもらうことを期待しつつ、一礼をし嘘はついていない偽名を名乗った。



「私はレッドキャッスル、しがない旅の傭兵です。この度の騒動に居合わせ、衛士長に雇われともに海魔の鎮圧に当たりました」



「おお、そうでしたか」



 ウスデンは流石に俺の名を聞いたことはなかったのだろうが、海魔の鎮圧に当たったことから実力は相応のものがあると見たらしい。

 俺に対して興味を抱いたようである。


 海魔に関して、情報に通ずる商人のウスデンも何らかの形で知っているかもしれない。


 ウスデンは俺に対しても人ありの良さそうな営業マンの微笑みを浮かべながら、感謝の言葉を述べた。



「ならば貴方もまた我が商会の恩人の1人でもありますな、ホッホッホ。商会を代表し感謝を申し上げます」



「…………」



 微笑みの仮面を貼り付け、相手を探りにかかる目を見せているウスデン。

 彼の職業病のようなものかもしれないが、どうにも腹の底が読めない相手に言葉を返すことは気が進まず、つい無言を返事とした。



「……ほう」



 かなり無礼な対応だが、ウスデンは不機嫌になる様子は欠片も見せず、一瞬だけ目の色を変えたがすぐに元の微笑みに戻った。

 その視線は、俺に対して興味を抱いたような感じに見受けられた。


 できれば、衛士長が目を覚ました状況でこの商人とは交渉をしたい。

 タボラス商会の保有する鬼の魔族というのが、グラヴノトプスであるか否かの確認。

 そして、グラヴノトプスであった場合はこれを取り返すこと。

 今回の活躍を盾に交渉すれば、オークションの出品を考えている商品でも交渉に応じてくれるかもしれない。


 しかし、今はそれどころではない。

 ここで自分の目的だけに貪欲に向かうのは心証が悪くなる恐れがある。


 急いては事を仕損じるもの。

 相手は亜人の連邦においても屈指の大商会の長だ。交渉ごとの経験は圧倒的に上。

 焦って機会を誤れば、この好機を棒に振ることになるだろう。


 まずは自分にできることをして、彼からの心証を少しでも好印象にすることから始めることにする。

 オークションまではあと2日。この事件のおかげで延期や中止の可能性もある。

 猶予はある。今は拙速よりも巧遅を選択するべき時。



「……私はこれにて」



 衛士長を引き渡したいま、この場で俺がするべきことは一先ずない。

 証人であるウスデンの目をごまかし続けられるほど役者でもないので、相手のペースに乗せられる前に一度離れることにする。

 ウスデンたちと衛士たちに一礼をしてから、この場から一度離れて、別の目的を先に済ませるために移動した。



「ホッホッホ。さてさて、あの傭兵聞かぬ名前ですが一体何者なのか……」



 喧騒の中ではすぐに搔き消えるだろうウスデンの小さな独り言。

 それが背中を向けた俺の耳に届いてきた。

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