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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
三幕 連邦
41/49

事後

魔神の使徒サイドです

 フレイキュストの海魔による襲撃事件は、エルダースライムを名乗る謎の存在の撃退に成功したことにより海魔たちも撤退、ひとまずの収束を見た。

 フレイキュストの受けた被害は決して小さいものではなく、3桁に登る死者を出し、その十倍以上の負傷者が出た。建造物などにも多数の損害が発生、街はまるで大規模な天災に見舞われたような惨状と化した。昼の喧騒に町が賑わう時間帯ということもあり人の往来が多かったことが、悲劇を増やす大きな要因となっていた。


 しかし、白昼の街中に突如として起きたまさに災害のような前兆もなく防ぐ段階もなかった襲撃だった。

 誰も予測できなかった異形たちの襲来。犠牲者の数が()()()()となったではなく()()()()で済んだと、むしろ最善の結果であったという見方も多かった。

 実際、フレイキュストの衛兵や傭兵たちはこの急襲に対して各々が最善の対応をした。唐突すぎる襲撃は防ぎようがなく、被害を受けた人々には申し訳ない表現ではあるが避けられない犠牲だったとしか言いようがないかもしれない。


 結果論だが、俺が海魔のことをフレイキュストに伝えておけばもう少し対応がうまくできたのかもしれない。

 傭兵としての身分を手に入れたとはいえ余所者に過ぎない俺の言をフレイキュストが信用したかどうかという問題もあっただろうが。


 ……だが、結果は出た。

 部外者の俺には数字でしか認識できない、今回の襲撃の犠牲者が。


 後悔したところで彼らは帰ってこない。

 遺された者の務めは、悲しみや悔しさに潰されてその場で立ち止まることではなく、その犠牲に報いることができるように歩みを進めること。

 命の価値が軽く、いつ死んでもおかしくないような戦乱が隣り合わせにある異世界の人たちは、それを重く承知している。


 俺も凄惨な現場に居合わせたが、今回は動けなくなるような無様を晒すことはなかった。

 シェオゴラス城の戦いを経てから少しは戦場というものに慣れたことと、犠牲者がなんら親愛の感情を持っていない亜人たちだったこと。この2点の要因によるものだろう。


 それに、フレイキュストに来たのは目的がある。

 グラヴノトプスを誘拐した輩の同族だからざまあ見ろ、と思えるほどの差別的な思想は持っていないので犠牲者たちを悼む気持ちはあるものの、魔族につくと決めた時から魔神の使徒として魔族を優位に扱う立場となった。

 俺にとってはグラヴノトプスの救出が優先事項であり、関係性が不明瞭である海魔やエルダースライムに関しての対応はグラヴノトプス救出の障害として立たない限り亜人にどれほどの犠牲が出ようと無視するつもりでいる。

 魔神の使徒としてはたとえ無辜の民であろうと、見知らぬ他種族・他国の者たち幾百人よりも、庇護すべき魔族1人の方を優先する。

 グラヴノトプスが無事ならば、余計な諍いに関わることは避けたい。エルダースライムの目的に関係ないならば、亜人よりも魔族を優先するのが魔神の使徒としての義務である。

 無論、それはたとえ人間相手であろうと変わらない。この立場にいる以上、中立国ではなく敵対国となる人間たちよりも魔族を優先させる。


 とはいえ、エルダースライムには完全に敵視された。執着された場合は、自衛のため戦うことになるかもしれない。


 海魔に関しては、兎人の受付嬢や虎人の衛士長が正体に関して何らかの情報を知っていたようである。

 エルダースライムの方は不明だが、魔神の使徒と魔神クテルピウスに関して詳しく知っている様子だった。クテルピウスに関わりのある存在ならば、魔族にエルダースライムに関する情報があるかもしれない。

 グラヴノトプスを救出して帰国したら、ルシファードたちに尋ねてみることにする。


 海魔の件については亜人たちに、エルダースライムの件については魔族たちに尋ねることにして一度置いておく。

 俺としては海魔とエルダースライムを退けた今、それより優先するべき本来の目的があるので、そちらを進めたいと考えている。


 麻酔の誤射により気を失った衛士長を抱え、タボラス商会前の通りへと向かった。

 目的はグラヴノトプスの救出。

 そのために、フレイキュストの傭兵団の受付嬢から聞いたタボラス商会の保有する鬼の魔族の奴隷がグラヴノトプスであるかを確かめたい。

 もしもグラヴノトプスだった場合は、今は気絶してしまっている衛士長に証人になってもらいフレイキュストを襲撃した海魔たちを撃退した功績を持って合法的に差し出すように要求してみる。

 それが叶わなかったら、力ずくだ。フレイキュストの衛士たちは疲弊しているし、商会もまた襲撃を受けた際に私兵を動員しており万全ではなくなっている。強奪––––こちらの立場にしてみれば奪還だが––––は可能だろう。


 別人だった場合は、どうするつもりもない。

 その奴隷がどう仕入れられたのか、どういう待遇となるのか、それらを把握していない部外者でしかない俺がその場の感情に任せて強奪を試みるなど論外である。それでは単なる賊徒だ。

 グラヴノトプスでない場合は、連合の法に従う。

 その商品には不干渉とし、他の鬼の魔族に関する情報を聞いてみて、得られようと得られまいと再度探すための旅に戻るだけだ。情報の如何によってどのような旅となるか分かれるが。


 強奪した場合は、そのまま魔族領へ向かえば良い。魔族領に戻れば彼女の身分が保証され、奴隷商人は商品であることを主張できなくなる。

 更家や司法機関とのつながり、癒着などにより黙認されている亜人の連合領はともかく、さすがに表立って犯罪行為を認めるような主張はできないはずだ。


 買い取る形で奪還した場合は、再度同じような事態を防ぐための亜人たちに対する警告として攫い手たちに対する報復を行う。

 ストレスが溜まる日々を過ごしただろうし、グラヴノトプスにも憂さ晴らしの舞台として提供する。

 攫い手たちには悪いが、恨むのならば大人しく連合の司法の裁判を受けて真っ当な刑に服するよりも一時の保身のために癒着に走った自らを恨んでもらおう。

 いずれにせよ、奴らに容赦をするつもりはない。人殺しに慣れるための贄として利用させてもらう。


 強奪した場合はともかく、穏便に話が片付くようならばフレイキュストを出る前に海魔たちに関する情報を受付嬢や衛士長から聞きたいところである。


 方針は決まった。

 まずはタボラス商会への交渉から始めるとしよう。

 俺は破壊された商館の扉をくぐり、内部へと足を踏み入れた。

単なるつなぎです。本格的な3幕は次の話からです。

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