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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
二幕 外敵
39/49

幕間

魔神の使徒サイドです

 

「バカが!」



 薙刀はスライムの身体に弾かれた。

 ここにきて、スライムは自らの体の性質を変化させてきた。

 わかったのは、硬くなることが可能であるということ。薙刀の刃は通じないということ。

 そして、わざわざ防いだということは魔法陣を傷つけられたくないということなのだろうという推測が成り立つ。


 一旦後退した俺に対し、スライムはすかさず杭状に変化させた自身の体の一部を飛ばしてきた。



「ッ!」



 咄嗟にそれを横にそれて交わす。

 だが、通過したスライムはそこで軌道を変え、こちらの体を縛り上げてきた。



「雑魚な上に頭も悪いのかよ、お前は」



「台詞の後半は貴様に当てはまるものだろう」



 そのスライムの体を沸騰させ、気体に強制的に変えて拘束を解く。

 さすがに自分にもダメージが来るので、今回は爆発するほどの瞬間的なものではない多少の時間をかけたものだが。


 しかし、カラクリもわからないままに同じような手を使ってくるとは。やはり、スライムはまだこちらを見下し慢心しているようである。

 魔神の宝物では傷つける手段がないと高をくくっているのだろう。こちらとしてはいつまでも慢心していてほしいところであるが。



「クソッタレ……さっきからなんなんだよ、てめえは!」



 苛立ちを露わにしながら、スライムがさらに触手状にしたスライムを伸ばしてくる。

 それに対し、俺は冷静に地面に手をついて錬金魔法を行使。スライムの足場としている建物の立つ地盤を変形させ、その足場を崩した。



「なぁ!?」



 驚くエルダースライムがバランスを崩し、触手があらぬ方向に惑う。

 いかに素早く数が多かろうが、こうも乱れた状態ならばくぐり抜けて肉薄することは難しくない。

 エルダースライムに接近し、その魔法陣を守る肉体に触れて形を強制的に変形させていく。

 硬質化されたはずの自身の肉体が勝手に動かされて筒状の穴が開く状況も、末端の損失など傷にするならないエルダースライムは気付くのが遅れてしまった。



「はぁ!?」



 驚くエルダースライムに立て直しの暇など与えるつもりはない。

 ガラ空きとなった魔法陣に、薙刀を投げつけた。


 魔法陣を薙刀がかすめる。

 するとそれを起点にするように、おそらく完成する手前だった魔法瓶に亀裂が走りガラス細工のように砕けてしまった。



「な!? な、何なんだよてめえは!?」



 身に起こる数々の現象に、エルダースライムが混乱している。


 ……頃合いか。

 慢心してこちらを見下していたスライムの声は、得体の知れない相手を敵にしていることに対する不安の色を帯びつつある。

 確かに、手の内を完全に網羅している格下がいきなり得体の知れない手段を行使された時、誰しも混乱に陥るものだろう。自身の認識と情報に基づく対象に対する印象というものは、実際にそれを相手が超えたからといってたやすく崩せるものではない。


 だからこそ、今ならば交渉が通る見込みがある。

 ハッタリだが、この出会いは相手の嘘を見抜くのが下手だ。ポーカーフェイス……兜があるから意味がないな。声の調子にかすかでも動揺を見せなければ、おそらく届くと思う。


 俺は薙刀を回収し、混乱治らないエルダースライムに刃を向けて再度撤退するように告げた。



「凶行を止めて街から立ち去れ。そちらが退くならばこちらに戦う理由はない」



「テメエ……!」



 エルダースライムが、怒りをかみしめるような声を上げる。

 向けられている殺気も、虫けらから害虫に向けるようなものへと変わっていた。例えるならばハエと思っていた相手を攻撃したらハチであり、毒針で反撃を受けたことに腹が立ったという感じだろうか。


 何れにせよ圧倒的強者の立場は揺るがないが、万に1つの確率で致命的な攻撃を受けてしまうかもしれない。エルダースライムの放っている殺気は、そんな相手に向ける感じのものである。


 ……せめて傲慢な面が相手にする労力に対する価値を見出せないと考えてくれるならば願ったりなのだが。

 その思惑を悟られないように、努めて冷徹な口調を演じる。

 感情の読み取れない声ならば、得意な事柄である。逆は難しいので、役者には向かないが。


 忌々しいという殺気を向けながらも手を出すのをためらう様子のエルダースライム。

 しかし、やがて忌々しいと吐き捨て、殺気を緩めた。



「やってられるか、クソッタレ! 覚えていろよ魔神の使徒、てめえは俺様手ずから殺してやるからな!」



 捨て台詞を残し、エルダースライムが飛び上がる。

 まるで泡のように空に浮かび上がったエルダースライムは、そのままプレイキュストの上空から去っていった。


 そして、司令塔を失ったためか。

 かいまたちもそれまでの暴れぶりなど嘘だったかのように、一斉にフレイキュストの外へと逃げ出していった。


 ……どうやら、撃退に成功したらしい。

 エルダースライムの気配はすでにない。

 ただ、目をつけられてしまったのは確かだろう。奴の目的が何であれ、いずれ必ず対立する日が来る。そんな予感がある。

 それまでに何とか奴を倒す術を得ておきたいところである。


 それはともかく。

 ひとまずフレイキュストの防衛には成功した。

 街の危機ははこれにて終結しただろうが、俺の目的はまだ終わっていない。


 薙刀を宝物庫にしまい、深緑の甲冑の代わりに漆黒の甲冑を纏う。

 まずは事態の収束に貢献したことをアピールしてくれる証人となる衛士長を拾うために、彼を投げ飛ばしてしまった方向へと歩みを進めた。


 エルダースライムとの戦闘……勇者たちとの戦闘とは違う、強者に見下されながらしがみつくような戦いだった。一歩間違えれば、俺は死んでいただろう。

 徹夜は平気だと思っていたが、さすがに無害ではなかったらしい。それも併せ、今回は疲れた。

 やるべきことをやったら、少し休みを取りたいところである。


 ……そういえば、兎耳の受付嬢と今しがた見つけた衛士長が海魔について何かを知っていた様子である。

 彼らの話を聞けば、エルダースライムに対する有効な対策が得られるかもしれない。

 それに、俺は何も知らない身の上だ。情報収集は必要だろう。


 衛士長は気絶しているのみで、息はある。目立った怪我も見られないので、おそらく大丈夫だろう。

 虎人の屈強な巨体を担ぎ上げ、海魔の撤退により喧騒が静まりつつあるフレイキュストの街中へと向かう。


これにて第二幕は終幕となります。

拙作を読んで頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました。

今後もよろしくお願いいたします。

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