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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
二幕 外敵
30/49

襲撃

魔神の使徒サイドです

 大剣を構えた状態で、魔神の宝物庫より兜に暗視の機能などが付いている夜戦に適した「夜陰の甲冑」を選択、群青の甲冑と交換する。

 魔神の宝物庫から直接装備した状態で取り出してくるため、基本的に魔神の宝物の甲冑には本来鎧に絶対的に必要な装備の取り外しのための機能が必要なく、いずれの甲冑も普通の鎧と比べて高い防護・防御性を得られている。

 それでも装着している装備者の動きを制限させないために関節部など、どうしても硬質な鎧で覆いきれない箇所というのは存在するのだが。


 大剣で防いで判明した。

 あの触手による遠距離攻撃ならば、一方的な殺戮と頑強な鎧を無視して貫通させられる威力、そして関所内に足跡も凶器も残さずに済むという現場の事態も頷ける。

 大剣で防いだ際に被害者の血が付いていないので絶対とはいえないが、犯人は十中八九この触手と見て間違えないだろう。


 破壊された関所の壁の穴の先に目をこらす。

 群青の甲冑にはない暗視の機能がある夜陰の甲冑は、森の中からこちらを狙うタコかヒトデのような亜人には見えない不気味な容貌をした生物の姿を見せた。


 体長は目測だが10メートル、体高は4メートル程度。形状はタコのようだが胴体に当たる箇所はなく、その実ヒトデに近いようだがそれともやはり違う。

 ただし、あの生物と関所の距離は少なくとも30メートルはある。包囲している他の生物も同様の距離ならば、あの触手は自らの体で隠しているということだろうか。もしくは触手がそれだけ伸びるということも考えられる。形態を考えれば触手を収納するスペースも確保できていそうである。地面に忍ばせている線もあり得るだろう。

 触手の数は推定8本。そのうち2本の先端部付近に血痕らしい赤いものが付着しているのが見える。被害者の亜人たちの血であれば、殺人事件の犯人である証拠になり得る。

 包囲している敵意の正体が全て同様の個体ならば、群れを作る習性がある生物の可能性が高い。包囲網が効率的に作られている。そうなれば何らかの意思疎通手段があると見えるが、遠距離の相手を狙うのに触手を使ってきたことを考慮するに、触手に何らかの感知だけでなく発信の器官があるとすれば触手を用いた意思の疎通を推測するが妥当だろう。

 現在の時刻より周囲が暗いこと、日中は街道の行き来があるためその巨体を隠さなければ騒ぎになるだろう、夜陰の暗い中を移動・活動すること。推測するに、生態は夜行性だろう。

 種別はおそらく軟体動物が近いが、魔法という未知の力があるこの異世界の生物にはこちらの生物学が通用しない可能性も十分にある。

 夜陰でこちらに正確な攻撃を仕掛けてくるなら、こちらを感知している情報は温度か音か……壁を通して来るならば視覚の可能性は低いと思われるが、仲間同士で情報をカバーし合っているとすればその可能性もある。


 どのみち、暗闇の中かがり火を焚いている此方の位置を正確に把握しているのは確かだろう。壁越しに攻撃してくることができる程度には。

 対してこちらはまだ相手の全容を把握していない。

 夜行性の生物にとっての土俵に立つのはあまり好ましいことではないが、夜陰の甲冑があれば暗闇の視界は確保できるし現状を考えればむしろ包囲網のただなかの関所の方が危険である。石造りの壁など、防壁にもならずむしろこちらの視界を遮る邪魔物だ。


 跳躍で壁を超え、夜の帳に覆われた関所の外へと降り立つ。

 同時に、前方三方向から直線的に触手が複数伸ばされてきた。


 夜陰の甲冑の暗視機能で謎の生物の位置を確認し、触手の攻撃を跳躍でかわすとともにその生物の一体との距離を詰める。

 対して生物は空中に身を乗り出した俺へと正確に複数の触手を伸ばしてきた。


 伸ばすというより飛んできたと言われた方がしっくりくるような速さだが、対応できないほどではない。

 魔神の宝物庫より馬上槍(ランス)刺突剣(フルーレ)鉄杭(パイル)を取り出してそれぞれの触手の主に向かって発射する。

 魔神の宝物というだけあり、触手の攻撃もろとも三体の生物を穿ち破壊した。

 まともに食らった生物たちは沈黙し、向けられる敵意も消えた。事切れたらしい。

 魔神の宝物を食らって生きているようならば手こずる事になっただろうが、力押しによる対応が可能な相手である事が判明した。


 絶命の確認後に宝物を即座に回収し、大剣を振り下ろしてもう一体を仕留める。

 馬上槍の投擲も防げなかった表皮ならば、大剣の一撃もまた防げない。

 生物は2つに割かれ、紫色の液体を撒き散らして絶命した。


 謎の生物の紫色の体液が鎧や大剣にかかるが、少なくとも金属に対して何らかの悪影響を速攻で及ぼすような類ではないらしい。

 多少空気を吸い込みもしているが、喉がただれるような様子もない。

 無害とは限らないが、強力な毒というわけでもなさそうだ。


 ひとまず一角を切り崩し、包囲網を破壊することには成功した。

 連携は取れているようだが仲間がこの短時間で討たれたことに混乱しているのか、謎の生物たちの動きは鈍い。

 関所を挟んだ対角線上の一番遠い距離にいる2体の生物は関所を強行突破して迫ってきているが、残る生物たちは攻撃に加わるべきか迷っているのか動きが中途半端となっている。


 問答無用な上に対話ができる様子がなかった、こちらを明らかに殺そうとしていた敵意に反応して倒してしまったが、俺にはこの生物たちが何者であるか分からない。

 亜人を殺したとはいえ、俺を敵視しているとはいえ、魔族の敵とは限らないからだ。

 ……最も、向こうにはこちらと対話をするような意思は感じられないが。


 それでもこれらの生物を全滅させた場合の影響もわからない。

 この生物たちが何であるか、何らかの役目を持っているのか、絶滅危惧種なのか、何も情報がない。駆除した際これらを天敵とする生物が害獣の類いだった場合など、亜人の国に大きな被害が出るという事態が起こるかもしれないのである。人を襲う事もあるからと、狼や鮫を乱獲した結果生態系に被害を与えむしろ人間が不利益を被る事になった事例は俺の知る人類の歴史でも存在している。


 それに、俺の目的はグラヴノトプスの救出であり、奴隷商館とのつながりもなさそうな亜人殺しのタコと戯れることではない。

 自衛と包囲網突破のためにこの一角の謎の生物は殺してしまったが、逆に言えば包囲網を崩せれば無理に相手をする必要はないのである。


 不要な戦闘に時間を割くのは得策ではないし、騒ぎの元凶になるつもりもない。

 追撃してくる生物の伸ばしてきた触手を大剣で斬り払う。

 叩き斬られた触手の先端は地面に落ち、断面から紫色の液体が吹き出てくる。

 痛覚はあるのか、触手はその場でこちらへの攻撃を中止してのたうち回り始めた。


 そこまでで、謎生物の相手は終わりにする。

 背中へと突き刺さる猛烈な殺意を無視し、虎人の領邦の方面へと駆け出した。


 しかし、謎の生物はその地上を走るに不向きな外見と裏腹に猛烈なスピードで追ってくる。だが、 足の速さは異世界人の超人的な身体能力を得ているこちらの方が上のようで距離は引き離されていく。

 足の速さも相成り見てくれはホラー映画に出てくる化け物だが、引き離せるようならば無理に相手にせず逃げの選択をする。

 この生物が亜人を殺す可能性もあるが、それこそ亜人の衛士の仕事だろう。

 俺は所詮一介の傭兵に過ぎず、この案件に出しゃばる資格はない。


 謎の生物を引き離し、走り続けること1時間ほど。

 生物はまだしつこく俺を追ってきているが、その距離はだいぶ離された。


 ……だが、いずれは追いつく。

 常識外れの索敵能力である。いったいあの見てくれで何の器官を使いこちらの位置を正確に把握しているのか。

 それを物語るように、俺の背中に届く殺意は片時たりとも方向を見失っておらずこちらを常に示している。


 もう少し進むと、奴隷商館の一帯とオークション会場が存在するという目的地の虎人の領邦の都市の1つ「フレイキュスト」に到着する。

 どうやって見失わずに追ってきているのか不明だが、このままでは確実にあの生物を引き連れてこの街に入ってしまうだろう。

 あのような生物を街にたどり着かせた暁には、確実にフレイキュストは混乱に陥りオークションも中止となるし商人も逃げ出しかねない。そうなればグラヴノトプスの捜索どころではなくなる。


 あまり不用意な介入は避けたいが、相手は話し合いの余地もないほどの強烈な敵意を向け問答無用で攻撃ししつこく追い回す生物である。

 さすがにこれ以上は看過できない。


 魔神の宝物から、長弓を取り出す。

 放つ矢を透過させ、目標の狙った急所に当たるまで何にも遮られずに直進させることのできる弓である。

 魔神の宝物らしい常識はずれな性能を持つ逸品である。


 矢をつがえる。

 大砲や銃ならば簡単だが、フレイキュストとの距離を考えるとそれは目立ちすぎる。

 目撃でもされれば人間の傭兵が錬金魔法の産物を駆使するというこの世界ではありえない事態に直面させてしまうということもあるので、長弓を使用することにした。


 矢は錬金魔法を使用することで矢筒に生成することができる。

 俺の技量では複雑なものはまだ作れないが、ベルゼビュートに資料を借りて少しだけ、矢のような単純な作りのものならば練金魔法で生成できるようになっていた。


 弓を引きしぼる。

 距離はおよそ8kmといったところだ。

 巨体といえど夜の帳もあり普通ならば目視できる距離ではないが、夜陰の甲冑と異世界人の身体能力はその姿を捉えることを容易に成す。


 追撃してくる生物の数は6体。

 全てが森も街道も無視して愚直に直進を続けている。

 ただしその速度は巨体に似合わず俊敏であり、その巨体を生かした突進で何もかもを強行突破している。


 だが、単調な動きはむしろ狙撃手にとっては良い標的となる。

 弦を引き絞り、生物の触手の基点となっている中心部に標的を定めて、矢を射った。


 ライフルどころかレールガン並みの速さで打ち出された矢は、瞬時に生物の身体へと到達し反応を許す間もなく木っ端微塵にその巨体を打ち砕き背後の地面に吸い込まれていった。

 ……生物は討ち取ったが、加減を間違えたらしい。矢が透過してくれるので標的以外に当たることはなかったから良かったものの、おそらく背後の地面に大穴を作る爆発を起こしていただろう。これでは大砲を使った場合と同じである。


 2本目の矢をつがえる。

 幸い魔神の宝物の弓は標的とした相手の標的とした部位以外は全てを透過する。

 生物の触手の基点を吹き飛ばすことを目的として放てば、触手で防ごうが確実に急所を一撃で撃ち抜くことができる。地面をすり抜けていくので、爆発の心配も他の生き物を殺傷する危険もない。


 弦を引き絞り、矢を射る。

 音速を軽く超える速度で放たれる矢は、標的となった生物の肉体を打ち砕きその先の地面の奥へと消えていった。

 向けられる敵意が再度消える。残り4体。


 だが距離も引き離してきた半分は詰められた。

 悠長に矢を放っていては、2体は残して接近戦に持ち込まれるだろう。

 さすがにそれはフレイキュストにも気付かれる可能性が高い。


 銃を使いたいが、それこそフレイキュストに即座に気付かれる可能性が高いため却下。

 やはり弓で仕留めるべきだろう。


 射撃の間隔を狭めるため、弦を引きながら直接手に錬金魔法で矢を生成する。

 限界まで弦をひきしぼって放った矢は、さすがに威力が過剰だろう。もう少し弱くても、あの生物を屠る程度なれば十分かもしれない。


 詰められる前に殲滅するため、速射に切り替える。

 直接弓に生成した矢を7割ほど弦を引き絞ったところで射った。


 生物に直撃する。

 木っ端微塵とはいかなかったが、基点を中心に触手をバラバラにするくらいはできた。

 敵意がさらに1つ消える。この程度の威力でも絶命してくれるようだ。


 謎の生物は味方が次々にやられているというのに、退く様子が見られない。

 やはり追い払うのは無理らしい。

 新たな矢を弦を引きながら生成し、射る。

 直撃。敵意の消失、生物の絶命を確認。残り2体、距離は約1km。



「……2射では無理か」



 間に合わない、一体は確実に接近戦に持ち込まれる。

 ならばと、その場に横になって矢を2本生成して番えて弦を限界まで引き絞る。

 狙いを定めるのが非常に難しい上に威力も乏しくなり、矢筒の中身にも手を伸ばしにくく踏ん張りが効かないなど、欠点だらけの弓使いとしては邪道なやり方ではあるが。

 威力は過剰なのでおそらく大丈夫。一撃に限り当てられるならば、この方が早い。



「……ッ」



 引きしぼった弦を離す。

 2方向に飛んでいった矢は、それぞれの生物の胴体を切り裂いて絶命へと追い込んだ。


 敵意が全て消えたことを確認し、立ち上がる。

 ……いったい何だったのだろうか。

 結局あの生物を全て始末してしまう結果となったが、疑問が多く生じる出来事だった。


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