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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
二幕 外敵
28/49

傭兵試験

魔神の使徒サイドです

 傭兵団の試験は、腕っ節と能力を見る。

 まずは腕の方。

 そのために使用されるのが、鶏の亜人に案内された傭兵団の地下にある円形闘技場である。

 普段は訓練などに使用されるが、傭兵同士の模擬試合の舞台となったり、今回のように傭兵を志願する者の試験を執り行う舞台にもなる。


 闘技場は直径20メートルほどの円形で、高さは10メートル近い広さがある。

 かなり高い掘削技術があるようだ。


 異世界人としての身体能力を考慮しても、試合をするには申し分無い広さとなっている。

 観客用らしき席に囲まれており、円形の舞台の中央には刀身だけで2メートルはあろうかという巨大な剣を肩に担いでいる屈強な体格をした全身を簡素な革鎧と鱗で覆うおそらくトカゲの亜人が1人立っていた。


 どうやら、試験の相手をしてくれる傭兵のようである。



「では、説明させていただきます!」



 張り切った様子で、鶏の亜人が闘技場によく響く声を上げて説明を始めた。

 やはりというべきか、トカゲの亜人は傭兵団側が用意した試験官を務める傭兵とのことである。

 この傭兵ともに試合を行い、傭兵として活躍できる腕っ節があることを傭兵団に認めさせればそれでこの試験はクリアとなる。

 その後2次試験として傭兵団側が選んだ実際にある依頼を一件解決させる。

 それに成功すれば、晴れて傭兵として認められるとのこと。


 傭兵団に腕っ節を認めさせるための条件だが、シンプルにとりあえず試験官の傭兵と戦え、判断はそれを見て行うだけだ、とのことだった。

 つまり認めさせれば何でもOKということだろうか。

 ……なんというか、雑に思える。



「今回の試験官をしていただくのは、蜥蜴人のガルドス氏です! 我が傭兵団の中でも屈指の実力者なので、どうぞ遠慮なくその力を発揮してください!」



 鶏の亜人が、試験官の傭兵を紹介した。

 蜥蜴の亜人ことガルドスは、毛並みの代わりに鱗に覆われている体を自慢するように胸を張り、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 睥睨している、わけで無いらしい。おそらく、外見から実力を探ってきている。


 現在の俺の外見は、兜により口元は見えるがほとんど素顔を隠している人間軍の伝令の鎧となっている。

 体格も鎧に隠れているため分かりにくいが、少なくともガルドスほどの屈強ながたいは持っていない。それなりに鍛えているつもりだが、ガルドスと比べると劣る。


 ただ、外見からは分かりにくいが異世界人としての超人的な身体能力がある。

 見てくれからは、こちらの世界の住人にとっては超人となる力のほどは読み取りにくいだろう。


 とはいえ、立ち姿や振る舞いなどより相手の技量をある程度目測することは出来る。

 武芸を嗜んでいるか、なんの武芸を嗜んでいるか、どの程度の腕前なのか。そういうのはしぐさの1つ1つに見え隠れするものだ。


 俺の方もまたガルドスを観察してみたが、かなりの使い手と見える。

 屈指の実力者というのは本当なのだろう。

 それに亜人の得意とする強化魔法もある。

 皮算用で相手の力量を決めつけるのは愚かな所業。力におごり油断するようなことはせず、真剣に挑むべきだろう。

 さすがに殺気を込めるつもりはないが。


 相手は大剣。

 こちらの力量を見てくれると言うならば、力を誇示しやすい獲物で挑めば傭兵団も判断しやすくなると思う。

 模造品だが斬馬刀の扱いにも挑戦したことはあるので、大剣の扱いにも心得はある。



「武器ですが、傭兵団の方で–––––––」



「いや、こちらを使わせてもらう」



 鶏の亜人の勧めを断り、魔神の宝物庫から鞘に納められた状態で一振りの巨大な刀身を持つ非常に重い大剣を取り出した。

 刀身を盾として、そして武器として扱えるこの大剣は、薙刀同様に強力な魔神の加護を備えた代物で、その重さは同じ大きさの鉄塊の10倍に及ぶ、人というよりも兵器や城塞を壊すための武器だという。

 魔神の宝物の中でも、攻城兵器の剣という高価な割に使い手を厳しく選びそうな武器だ。



「でかぁ!?」

「ほう……」



 突如として何も無い空間からガルドスの大剣とほど同じ大きさの剣が出てきたことに2人は目を見張る。

 ただし鶏の亜人は驚きで、ガルドスの方は関心でと言った感じだが。


 さて。

 大剣を両手で振り回し感覚をつかんでから、脇構えをとる。

 異世界人の腕力があるので振り回す分には問題無いが、刀身が巨大すぎるためこの構えでなければ扱いにくい。


 対してガルドスの方は、大剣を肩に担いだままである。

 その重量はかなりのものだろうが、芯は全くと言っていいほどずれている様子が無い。彼も扱い慣れているのか振り回す分には問題なさそうだ。



「面白いじゃねえか。奴さんもやる気みたいだし、手っ取り早く始めようぜ」



「は、ハイであります!」



 ガルドスの言葉に、鶏の亜人が闘技場の外側の観覧席の方に移動する。



「えー! それでは、レッドキャッスル氏の試験を執り行います! ルールは力を見せればそれでよし、以上! でも相手を殺すのはやめてくださいね。特にガルドスさん!」



「分かっとるわ! そもそもわしが挑戦者を殺したことがあるか!?」



「無いですね! では、始めてください!」



「…………」




 乗りが軽い気もするが、これが彼らのやり方なのだろう。

 俺は大剣を握る手に一度力を込めてその柄を握りしめてから、改めてガルドスに向き直った。



「構えは様になっているが、大剣勝負でわしに挑むとは–––––––」



 先手必勝。

 時間がない。可能な限り急げることろは急ぐべきである。

 というわけで、異世界人の身体能力に頼り一息にその場を飛び出した。


 相手はまだ反応しきれていない。

 素早く間合いを詰め、軸足をしっかりとその場に縫い付けて大剣を横薙ぎに振り回す。



「うおっ!?」



 バルドレイはすんでのところで反応し、肩に担いでいた大剣でこちらの大剣を防いだ。

 こちらは刀身を鞘に納めたままだが、バルドレイの大剣の方はどうやら刃を潰してあるらしい。

 本物の得物ではないようだ。


 所詮は試験だ。相手の武装の真偽に関して、さほど関心はない。

 目的は傭兵団に力を認めさせること。

 そして得た傭兵の身分を使い、グラヴノトプスを救出することである。



「……ッ」



 歯を食いしばり、さらに力を込める。

 この異世界人としての力を利用して、力技で押し通す。巨大で重厚な武器の真髄は、小手先の技も手数の優勢もまとめて力で叩き伏せることにある。

 もはや剣というより鈍器の類の扱いだが、総じて重さを攻撃に使う武器など比重は力に寄っている。そういうものだろう。



「こやつ馬鹿力にもほどというものが……グオォォ!」



 そのまま押し切ろうとしたが、ガルドスの方もより力を込めてきた。

 その上、腕に魔力と何らかの力が流れ込み、それがより力を増幅させこちらの力と渡り合っている。


 おそらく、龍神の加護を得られる亜人のみが使える気力という力を用いた強化魔法だろう。

 その力は想像をはるかに超える。

 しかし、強化魔法を行使してもやはり光聖にも及ばない。


 最初から最後まで力任せで押し通す。

 支えとしている足にも力を込め体重を前に動かし、さらに力を込めて押し込んだ。



「……ッ!? うおっ!?」



 さすがに強化魔法を用いろうとも異世界人の力には一歩及ばずといったところである。

 ガルドスは傭兵団でも屈指の実力者だと聞いているし、こうして力比べをすると異世界人としての力がいかほどにこの世界で強大なものかというのを示されているようだった。

 だからこそ、うまく制御しなければならないとも思う。



「グ……ググッ………!」



「ギリッ……!」



「のわぁ!?」



 そして、せめぎ合いの拮抗は崩れた。

 ガルドスの大剣が克ち上げられ、握っている力も残せなかったのかその大剣が鱗に覆われた両手を離れて上に舞う。


 そしてがら空きとなったガルドスに鞘に入った大剣を片手で持ったまま突きつけ、降ってきたガルドスの大剣を左手でつかみ取った。

 そこまで来て、ガルドスは腰を抜かしたのか尻餅をつき、やがて両手を挙げた。



「……いかんわ。力量を測るどころか、わしが競り負けた。こりゃ腕っ節は文句なしじゃな」



「…………」



 ガルドスの降参を聞いた俺は、左手でつかみ取った大剣を片手で回してその場に突き立てる。

 そして鞘に収まったままの魔神の宝物の方の大剣を宝物庫に戻した。

 ガルドスには悪いが、刀身は同じくらいでも魔神の宝物の大剣が倍以上に重い。



「合格か?」



 手すりに身を乗り出して呆然としている鶏の亜人の方を見て尋ねる。

 鶏の亜人は今までのハツラツな雰囲気はどこに置いてきたのか、唖然とした表情のまま短くつぶやいた。



「合格、デス……」



 一次試験は無事にクリアできたようである。

 その後先を急ぐ俺はガルドスに手を貸して立たせてから、鶏の亜人を急かして依頼の遂行の試験に挑み、これをクリアした。

 そもそも内容が薬草採取なので、必要事項を聞いて頭に叩き込み、生息地にて特徴と合致する植物を異世界人の恩恵で得られた優れた感覚器官を利用して探せば、容易に発見ができた。

 結果、俺は無事に傭兵団に認められ、傭兵「レッドキャッスル」の身分を取得することができた。



「こちらが傭兵の証となる傭兵証です」



 シロクマの亜人から受け取ったのは、傭兵の証しであるという傭兵証である。

 こちらもまた偽装防止の魔法が施されたマジックアイテムの一種であり、錬金魔法を駆使して作られている代物だという。

 形は星型のバッジのようなものだ。傭兵の身分を明かすものなので、領邦間の行き来なども容易になるという。


 ガルドスにはしばらくここの傭兵団を拠点に活動してみないかと誘われたが、グラヴノトプスの救出を急ぎたい。

 この領邦ならば奴隷制度が禁じられており当然攫い手たちに対する規制と認識にも厳しいものがある。

 ならば隠し立てするほどでもないと、情報を得るためにも攫い手に誘拐された知り合いを助けるために来たことを伝え、心当たりがないかを聞いてみた。



「攫い手に誘拐された仲間を探しに来ている。魔族なんだが……知らないだろうか?」



「攫い手に!? 何てことだよ……」



 話を聞いたガルドスは、驚きの声を上げてから悔しそうな表情になる。

 殆ど初対面の相手だというのに、こちらの事情を慮って怒ってくれているようだ。

 気持ちは嬉しいが、今の俺が欲しているのは同情よりも情報である。



「知っていることはないか? 攫い手じゃなくても、商人の心当たりでも魔族を出品するというオークションの情報でもいい」



 俺の問いに、ガルドスは首を横に振る。



「……悪い。ここは奴隷を認めていねえ領邦だからな、奴隷に関する情報はほとんど入ってこねえんだよ」



「そうか。了解した」



 どうやら有益な情報を得るには、別の領邦に移る必要がありそうである。

 傭兵の身分を手に入れた以上、ここに長居する理由はモフモフ以外にはない。

 そう判断して傭兵団を後にしようとしたところ、ガルドスが呼び止めた。



「待て待て! だが、らしい情報ならある!」



「らしい情報?」



 ガルドスの言葉に尋ね返すと、トカゲの亜人は頷いた。



「ああ。ここより南の街道の方で、魔族の国の方から走ってきた見知らぬ変な集団を見たっていう目撃情報があった。この町を避けるように街道を走って、東の方角へ向かって行ったそうだ。そして、その東の方角には奴隷制度が存在する虎人の領邦が存在する」



 ガルドスが聞かせてくれたのは、有益な情報だった。

 魔族の国は人間の国と交戦状態にあった。休戦期に入ったからといって、そんな危険な国に好き好んで足を踏み入れるような輩は少ないだろう。

 そして、奴隷制度を禁止している国境の領邦をすり抜けるように通って行ったとも。


 真偽を確かめるために、虎人たちの領邦に向かったほうがいいだろう。

 そうなれば、次の行き先は東となる。



「……感謝する」



「構いやしねえよ、行ってこい!」



 ガルドスに頷きを返し、傭兵団を後にする。

 亜人の連邦に入った目的は、あくまでグラヴノトプスの救出にある。今はそれを最優先事項として行動を急ぐ。





 一方、出て行った背中を眺めていたガルドスは、ふと呟いていた。



「人間が魔族を助けに、か……事情は知らねえけど、あいつらもどこかに分かり合える余地があるってものなのか……」

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