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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
二幕 外敵
27/49

傭兵団

魔神の使徒サイドです

 犬耳の亜人は衛士ながら決して居丈高に構えることなく、異種族である俺に対してフランクで親切な対応をしてくれた。

 入国手続きも済ませたが、情報収集などの調査のためには情報屋に当たることもあれば、商人から話を聞くこともある。オークション会場に入るには参加費も必要となる。

 亜人の国における身分と金銭の入手、2つを手っ取り早く得られる方法がないか尋ねたところ、犬耳の亜人は「傭兵」という職があることを教えてくれた。


 読んで字のごとく金で雇われる兵士のことだろうか。

 だとすれば疑問がある。休戦中とはいえ戦時である人間や魔族の国ならばともかく、中立国である亜人の国に傭兵の需要があるのか?

 そもそもシェオゴラス城の戦いでは双方の軍勢において亜人の兵士の姿などなかった。


 ひょっとして、部族間における紛争がありそれに動員される兵士のことを指すのではないか。

 もしくは俺が誤解をしており、亜人たちの言う「傭兵」はもっと違う意味があるのではないか。


 そういった推測も想像できたので、ここは無学の恥を偲び犬耳の亜人の好意に甘えさせてもらうことにした。



「世間知らずの身で失礼。傭兵とは?」



「ああ、なるほど。あんた人間の本国の方から来たのか。なら知らなくても仕方ないよな」



 犬耳の亜人は嫌そうなそぶりは見せず、亜人の国における傭兵について説明してくれた。



「傭兵ってのは、簡単に言えば金で雇われる便利屋みたいなものさ。農作物を荒らす獣を狩ったり、山とか海とかに分け入って薬草や鉱石を採ったり、隊商の護衛をしたり、盗賊や海賊の討伐をしたり、引越しの手伝いで重い荷物運んだりすることもある。腕っ節と仕事をこなす能力さえあれば基本誰でもなれる職業だぜ。傭兵団で腕っ節を証明できればすぐにでも認められるさ」



 犬耳の亜人曰く。

 彼らのような領邦に直接雇われている衛士、公務員と違い傭兵は個人でも領邦でも金さえ受け取れば雇われるものたちだという。

 用途は様々だが、隊商の護衛や盗賊の討伐など衛士たちの手が回らない業務を金銭を引き換えに商人や領邦などから請け負うのを生業としているという。

 それが転じて危険な薬草や鉱石の採取、害獣駆除なども請け負うようになり、やがて金さえ受け取れば仕事をこなす便利屋になった、それが傭兵だという。

 領邦としても衛士の増員よりも安上がりで済むし、商人たちにとっては手早く雇える存在で、便利屋というだけあり需要はあるという。


 傭兵は「傭兵団」と呼ばれる領邦から傭兵の運営を認可されたギルドのような場所で能力を示せれば身分や種族を問われずに誰でもなれるという。

 傭兵団は仕事の斡旋などを執り行う組織で、領邦から正式に傭兵運用の機関として認可された存在であり、傭兵団にて得られる傭兵の身分は連邦において入手が容易な割に確固なものである。

 それはまさに俺が望む亜人の連邦における身分と金銭の入手が手っ取り早くできるものであった。



「傭兵団ならこの街にもあるぜ。行ってみるといいさ」



「感謝する」



 犬耳の亜人は場所も教えてくれた。

 礼を言い関所を後にする。


 傭兵の身分は領邦を跨いでも通用する存在だという。

 となれば、奴隷商人との接触も図りやすくなるだろう。情報の入手もしやすくなるかもしれない。

 行動の指針は固まった。ひとまず傭兵団に向かい、傭兵の身分を手に入れ、そこから奴隷制度を採用している領邦に向かいつつ商人を中心に聞き込みなどをしてグラヴノトプスの目撃情報などを探していく。


 念のため犬耳の亜人を始め、街で出会った亜人たち数人に声をかけて攫い手に関する目撃情報を集めようと試みたが、この領邦は奴隷制度を禁じているだけあり攫い手も入り辛かったのだろう。全くの空振りだった。


 そして犬耳の亜人が教えてくれた傭兵団の建物へと到着した。


 勝手に西部劇に出てくるような酒場のような場所というイメージをしていたのだが、煉瓦造りの立派な三階建ての建物だった。

 木製の扉が開けられている入り口が複数あるが、中は広いホールとなっており入った行き先は同じ場所となっている。

 適当な扉をくぐり、建物の中に入る。


 中は高校の友人がよくやっていたRPGに出てくるような場所だった。

 壁際には複数のボードが並び、傭兵への依頼書らしきものが張り出され、それを眺めている武器や鎧を身につけた亜人達がいる。

 ホールの先にはカウンターらしき窓口が並んでおり、そこには傭兵団の職員の亜人達が受付を担当しているようで、依頼の持ち込みをしている亜人やボードから依頼書を引っ張ってきた亜人、依頼が完了したらしい亜人などを相手に業務をこなしている。


 ホールには食堂だろうか、傭兵らしき亜人達が卓を囲んでジョッキを仰ぎ料理を口にし談笑していた。

 仕事終わりの一杯というやつだろう。


 さて、受付は基本的に指定がないらしく、亜人の傭兵らしき者たちも依頼を持ち込んでいるらしき者たちも関係なく列を作っている。

 女性職員の受付に人気があるのはそういうことだろう。

 内容に応じた専門の窓口は設けられておらず、どうやらどこに並んでも要件を問わずに対応してくれるらしい。


 ならばと比較的列の短い受付へと並んだ。

 担当職員は全身を白い毛で覆っているシロクマの亜人である。

 ガタイがよく見た目はいかつい印象を受けるのだろうが、個人的にはここがいい。

 この受付よりもさらに列の短い場所はあるが、担当のシロクマの亜人の仕事が早く列の流れがスムーズだし、なによりモフモフだからだ。


 モフれる可能性は皆無だが、せめてできる限り彼は近くで見てみたい。

 なぜなら、モフモフだからだ。

 正真正銘、耳だけではなく全身がモフモフだからだ。

 ……このカウンター以外選択肢はないな。グラヴノトプスを救出したら、必ずモフるとしよう。


 しばらくして、俺の前に並ぶ人がいなくなった。

 順番が来て、カウンターの前に立つ。



「ようそこ傭兵団へ。ご用件をお伺いします」



 シロクマの亜人は、外見は完全にシロクマである。

 だがシロクマの口で流暢な言葉を話し、傭兵団の他の職員同様の服に身を包む姿は、生きた着ぐるみという表現があっているのかもしれない。

 しかし見ればわかる。モフモフである。


 しかし今回の目的は毛並みモフモフではない。いずれはモフることが目的となるが、今回は違う。



「傭兵としての身分が欲しい。こちらの傭兵団に入れてもらいたい」



「就職ですね。了解しました、少々お待ちください」



 用件を伝えると、シロクマの亜人は一度受付を離れ、書類を持って来た。

 それをカウンターの上に出す。



「氏名と部族……あなたの場合は種族の記入をお願いします。その後犯罪歴の有無を確認したのち、試験となります」



「了解した」



 シロクマの亜人が出した紙の項目に、名前と種族を記入する。

 偽造防止の魔法が施されているため、嘘は書けない。

 犯罪歴の方は、書類に記入された名前と指名手配犯の一覧を照合する仕組みとなっているらしい。魔法により偽名を書けない以上、異世界では確実な手法なのだろう。

 亜人は魔力や気力の流れを利用する魔法、特に強化魔法に精通して異種族である。魔族とは異なる独特の魔法に興味を抱きつつも、2つの項目を記入する。


 名前は「レッドキャッスル」と記入する。事実上偽名だが、一応嘘は書いていないので偽装防止の魔法といえど誤魔化すことができた。

 部族、俺の場合は種族になるが、別にハーフでもなんでもないので「人間」と記入した。

 これで亜人の国にて問題を起こしたとしても、鬼の魔族の奴隷を強奪したのは「人間」の傭兵「レッドキャッスル」となる。魔族の国にいる魔神の使徒「赤城」にたどり着くことはできなくなり、犯人が魔族の国だという言いがかりをつけることはできなくなるはずである。


 紙を受け取ったシロクマの亜人は内容を確認し手配犯の照合にも該当が無いことを確認して、頷いた。



「確認しました。犯罪歴も無いですね。受験資格を認めます。担当の者を呼びますので、少々お待ちください」



 シロクマの亜人が一旦カウンターを離れる。

 そしてすぐに別の職員を連れてきた。



「こちらの者に案内させます」



 シロクマの亜人が、試験の担当者だという職員を示す。

 こちらは制服に身を包んだ頭だけが鶏の亜人だった。

 絵面は衝撃的かもしれないが、外見だけで判断する思考は魔族たちのところですでに捨てているので特に嫌悪感などは無い。

 強いて言うなら、モフモフが顔にしか無いのが残念だという落胆が少しある程度だ。



「ご案内します、こちらへどうぞ!」



 新人なのだろうか。

 鶏の亜人はどこか初々しさも感じるが、はつらつとした印象を受ける。

 鶏の亜人について行き、カウンターの奥へ続く通路へ向かう。

 そして建物の二階……ではなく地下に続く階段を降りて行った。

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