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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
一幕 初戦
17/49

聖剣の勇者VS魔神の使徒

光聖と赤城サイドです。

 主観的な立場を取れば、感情に流され冷静さを失い物事の本質を見極められなくなる。

 そのため、物事を冷静に、公正に判断できるよう客観的な視点で事象を見ることを心がけてきた。


 だがその物事の本質にどちらが正しい、どちらが間違っているという二極性で判別することは出来なくなるほど複雑なものも多々ある。戦争ともなればなおのことだ。


 魔神に命を救われ、それを対価に魔神の使徒となり魔王と魔族のために戦う。彼らに協力する。

 それは、主観的な判断だ。本来取るべきではない一方の主張のみに従い、己の目的のために動いている。利己的であり、独善的な行動だろう。

 魔族に味方するということは、人間の敵に立つということだ。それが正義と言えるのかといえば、言えないだろう。


 だが、それを言うならば女神に与する勇者は正義と言えるのか?

 ……答えは否だと、俺は考える。

 勇者たちもまた、女神と人間側に立ち魔族側を考慮せず、知性を持ち文化を持ち国を持つ彼らを「異形であるから」という理由で一方的に悪として、人間を一方的に善として行動している。

 この行いは俺が魔神に協力しているのと同じこと。

 人間のためという大義を掲げようと、公正さを欠いた利己的な判断に基づく行動であり、本質的には変わらない。


 故に、正義と呼べる立場はこの戦争にはない。

 魔族の側に立てば人間を、人間の側に立てば魔族を。

 敵対勢力を悪として一方的に決めつけ、これを駆逐することを目的とする憎しみしか生まない戦争に発展している。


 寛容に相手を受け入れるという選択もあるが、それはお互いが許さないだろう。

 思想が違う。文化が違う。種族が違う。

 ……それは、俺たちでいう国が違うことと同じであり、考え方そのものが揃わないもの同士では歩み寄ろうとも軋轢は必ず生まれてしまうのだ。


 魔族に与することは正義とは言えないが、悪とは言える。

 同時に、人間に与することもまた正義とはいえないが、悪とは言える。


 俺は今の自分を正義とは思っていない。

 魔神と取引をして、同郷の勇者たちや人間たちの敵としてたった。自分の目的のために手段を選ばずという行為を悪とするならば、俺は間違えなく悪だろう。


 悪には悪を糾弾する権利はあっても、資格はない。

 勇者もまた魔族を一方的に滅ぼさんとする悪ではあるが、俺はその行為を非難する資格がない。


 故に、俺が刃を持って勇者たちに敵対するのは独善的な行いである。

 彼らに非難されるいわれはなくとも、恨みを買う正当性はあるということ。


 日向を助けるために、俺は彼らに女神との約定を破るか死を選ぶかの二択を突きつける。

 俺の手には竹刀でも木刀でもない、人の命を容易に奪える武器が握られている。

 勇者たちの敵として異世界に召喚されることになった時、俺は彼らの命を奪うことになるかもしれないことに対し、覚悟は決めていた。


 ……殺人鬼となった俺に、あいつのそばにいる資格はなくなる。元の世界に戻れても、関係はきっと戻せない。

 だが、あいつには親友がいる。

 2人が足並みを揃えれば、きっとどんな困難にも打ち勝っていけるだろう。


 全てに対する覚悟を、俺はもう決めた。

 あいつを助けるために、魔神に協力し魔族を守ることを承諾し、その結果血に濡れようとも構わないという覚悟は決めた。


 薙刀を握る手に力を込める。


 ……今度はこちらから仕掛けるぞ、勇者たち。


 警戒しながら様子を伺う勇者たちに向けて、今度はこちらから飛び出した。


 光聖たち同様、俺にも異世界人としての身体能力が与えられている。

 それは光聖たちのとっていた距離を一息にゼロにするほどの跳躍となった。



「ッ!?」



 とっさに光聖が前に出て、アルフレードで薙刀を止めにかかる。

 その聖剣に、命を奪うことになろうとも構わないと力を込めた薙刀を剣諸共に両断するつもりで叩きつけた。



「ギリッ……!」



 渾身の一撃を受け止め、踏ん張る光聖。

 その食いしばる歯軋りの音が地面の我ら轟音にもかき消されずに聞こえてくるほどだった。


 力を押し込めようとするが、動かない。

 ……膂力は互角か。異世界人の力は僅差こそあれほぼ同格と見るべきか。


 そして、光聖が薙刀を受け止めた隙にすかさず玖内とエイラは動いた。

 フルーレとナイフが両側から迫る。


 すかさず、薙刀の角度を変えてアルフレードを滑るように動かして、エイラのフルーレには薙刀を、玖内のナイフには籠手で対応した。

 フルーレはかち合いには向いていない武器であり、ナイフはその短さからよりかち合いに向かない武器だ。



「えっ!?」

「わっ!?」

「うおっ!?」



 2人の攻撃は容易く弾かれ、聖剣に込める力の行き場を失った光聖は大きく体勢を崩してしまう。

 その隙をつき、エイラの鳩尾を薙刀の石突で、光聖のがら空きとなった胴体を右膝で突き飛ばした。



「がっ!?」

「うぐっ!?」



 大きく飛ばされる2人。

 それに気を取られた隙をつき、玖内に向けて薙刀を振り上げる。



「やばっ–––––––!?」



「沙羅ちゃん!」



「!?」



 だが、薙刀は振り下ろせなかった。

 市原がとっさに土の属性魔法を使ってまた足元を崩したせいでバランスを崩してしまったからである。


 薙刀を無理やり振り下ろすが、その瞬間に玖内の姿が消え、先ほどまでいた場所より数メートルほど後退した場所に瞬間移動をした。

 ……空間の属性魔法もかなり厄介な様子である。


 そのまま薙刀を地面に振り下ろし、市原の属性魔法を打ち消す。

 玖内には逃げられたが、まだ薙刀の範囲にもう1人勇者が残っている。

 市原の方を向き、腰を抜かしてしまっている無防備な勇者へと薙刀を振り上げた。



「あっ–––––」



「美冬!」



 涙が目元に浮かび、自分の命を刈り取ろうとする凶器を見上げる市原。

 その無防備な体に、薙刀を振り下ろす。


 光聖も、エイラも間に合わないだろう。

 まずは1人目–––––––



「ヒッ……」



 ……薙刀は、振り下ろせなかった。

 覚悟をしていたつもりだったが、この無抵抗な相手を殺すことが本当にやるべき事なのか?と。

 命がけで助ける義理がある相手ではない。

 ……だが、同時に殺すほどの感情はない。


 理由はある。理性で考えるならば、客観的視点を取るならば、俺は魔神の使徒であり彼女は女神の勇者だ。殺す理由はある。

 だが……躊躇ってしまった。


 何が覚悟か。どうやら、中途半端だったのは俺の方だったらしい。


 だが、俺は薙刀を止めてしまったけど勇者たちは止まらない。



「な、なんで……?」



「てめええエェェェ!」



 殺されるかと思ったのに目の前の敵がためらった事に困惑する市原。

 だが、彼女の溢れたセリフをかき消すように、光聖の叫び声が響く。

 直後、光聖が聖剣アルフレードを振り上げ切りかかってきた。


 下らない情に流され好機を逸した。

 その感情を引きずる余裕をかき消す光聖の殺意の乗った攻撃。

 それは先程までと違い、怒りが乗った重く……技の伴わない拙い一撃だった。


 それを、薙刀の刃を使っていなす。

 力を曲線的に受け流し、その軌道を斜めにそらしてずらす。

 いくら力が強くても、拙い攻撃ではそのいなしには逆らえない。


 光聖のアルフレードは軌道をそれて地面に向かって振り下ろされ、隙ができた。


 そして、それを……俺は思わず考えるよりも早く動いた腕で、薙刀を振り下ろし切り裂いてしまった。



「……え?」



 光聖がそんな間抜けな表情を浮かべた瞬間。

 ……肩から腰まで斜めに切り裂かれた大きな傷より血が噴き出した。



「光聖!」

「光聖ッ!?」

「光聖くん!」



 その光景に、3人の勇者の悲鳴が重なる。

 だが、光聖はそれに返事を出来ず、そのまま背中から地面に倒れ伏した。


 薙刀を通じて伝わってきた、肉を切り裂く……人を切った感触。

 それは初めての感触で、命をこの手が奪ったという証で……俺は一瞬目の前が真っ白になった。


 多分、初めて人を切った事で自分のした事を直視できなくなったんだと思う。

 思わず動きが止まってしまった。


 そして、直後に明確な殺意を向けられて意識を引き戻された。



「お前ええエェェェ!」



 血相を変えて背中の方から飛びかかってきた玖内。

 それが生存本能を刺激して意識を戻し、真っ白になった思考を現実に引きずり戻した。



「……!」



 薙刀で玖内を弾き飛ばす。

 入れ替わるように、今度はエイラがフルーレを突き出してきた。



「よくもよくもよくもよくもッ!」



 急所を容赦無く狙う刺突。

 その連撃を薙刀でしのぎ、5度目の刺突を弾いたところでフルーレを大きく弾きあげて、体勢が崩れた場所に蹴りを叩き込んだ。



「クッ……!」



 エイラが吹き飛ばされる。

 その中で、市原は光聖に駆け寄っていた。



「沙羅ちゃん、光聖くん生きてる!急いで運ばなきゃ!」



「ッ!?」

「えっ……!」



 そして、冷静さをなくしていた2人を鎮める事実を叫んだ。


 ……あの怪我で、まだ生きているのか?

 2人と同様に、俺も動きが止まってしまう。


 そして光聖が生きている事を知った2人はすぐに動いた。

 玖内は離脱のために市原と光聖のもとに駆け寄り、追いかけようとした俺の前にはエイラが立ちふさがる。



「これでも喰らいなさい!」



 そして、特大の鉄砲水を魔法で形成して叩きつけてきた。

 それを反射的に薙刀で切り裂くと属性魔法でしかない鉄砲水は消えたが、その先にいた勇者たちはすでに離脱していた。



「…………」



 勝った、のだろうか?

 それまでの命をかけた殺し合いを演じていた事で昂ぶっていた感情が急速に冷えていく感覚に陥り、俺はしばらくその場を動けなかった。





 ……その後、後方軍まで撤退した玖内たちは、光聖の負傷に冷静さをなくしていたのだろう。彼の傷を治せる術師を探すために、聖剣の勇者が瀕死の重傷を負い敗北したという事実を人間軍にばらまいてしまった。

 それがかろうじて維持されていた人間軍の士気を打ち砕いてしまい、一般兵から次々に逃亡が始まって、それが敗走の流れを生み出し、人間軍は大混乱に陥って潰走をする事になる。

 その逃げる背中に魔族軍の将ゴエティアは徹底的な追撃戦を仕掛け、人間軍の被害は甚大なものとなった。

 こうして、シェオゴラス城の戦いはそれまで無敗を誇っていた聖剣の勇者コウセイが負傷するという衝撃を人間側に与え、魔族軍の大勝利で幕を下ろしたのだった。

これにて一幕は終了します。

二幕は7月から掲載していく予定です。


読者の皆様、お付き合いいただきありがとうございました。

今後も拙作をお願い致します。

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