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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
一幕 初戦
15/49

不屈の鬼

輪島&時津サイドです

 一方、勇者たちの活躍と後方の予備軍が加わったことによる戦力の補填で数の優勢も取り戻した人間軍は、戦況を五分まで立て直し逆に魔族軍を押し返そうとしていた。


 その立役者となった右翼に配属された勇者たちのうち、毒の属性魔法を駆使する輪島と風の属性魔法を駆使するチビ–––––もとい時津は、右翼軍と対峙していた魔族軍の指揮官であり先日の戦いで勇者たちに討たれた三元帥次席アポロアの副将を務めていた鬼の魔族グラヴノトプスと対峙していた。


 グラヴノトプスはアポロアの副将として活躍していただけでなく、三元帥筆頭にして単体の戦闘能力ならば魔王さえも上回ると言われる最強の魔族ベルゼビュートに錬金魔法を教わった弟子でもある。


 右翼の人間軍を足止めし遅滞戦闘を指揮してルシファード率いる援軍が駆けつけるまで戦線をもたせた将軍としての巧みな指揮能力。

 ベルゼビュートに教えを受け身につけた錬金魔法を駆使し作り上げた砲筒。弾も直接錬金魔法で作り上げ、実質無限の弾丸を有する。その愛用の武器を用い獅子奮迅の働きをする武人としての戦闘能力。


 2つの力を持つこの魔族は、師であるベルゼビュートだけでなく既に亡き主君アポロアに副将の地位に収まらない器の持ち主と言わしめ、魔王ルシファードにも一目置かれる現在の魔族軍において最も大きな戦力となる存在の1人であった。


 そんな魔族屈指の実力者であるグラヴノトプスだが、その存在をもってしても戦場の指揮が行えないほどに苦戦を強いられていた。


 その理由は、対峙する2人の勇者である。


 グラヴノトプスが指揮をとれなくなった代わりに、合わせてアポロアの双剣と言われたもう1人の副将ゴエティアが魔族軍の指揮に入ったものの、ゴエティアは負傷している身でありグラヴノトプスと比べその指揮は精彩さを欠いている。


 右翼の戦場に来ている魔王ルシファードのことも気がかりとなっているグラヴノトプスとしてはすぐに勇者達を追い払って軍の指揮に戻りたいところであったが、2人の勇者がそれを許さなかった。



「この!」



「何かした?」



 砲筒を放つが、勇者は持ち前の属性魔法を駆使することでなんらダメージを与えられない。

 それは殴りかかろうと同じ。

 グラヴノトプスの扱う錬金魔法を主体とした戦闘は、属性魔法を駆使する勇者とは極めて相性が悪かった。


 その上勇者の身体能力は高く、2対1という数の不利も相成りグラヴノトプスの方が押されていた。



「ほら、すきだらけ」



「がぁ!?」



 毒の勇者が腕を変形させ、鋭く尖った杭の形にし突き刺した。

 すでに風の魔法を駆使する勇者に甲冑を多く剥がされたため、素肌があらわになってしまっている。

 杭は遮られることなくグラヴノトプスの腹に突き刺さった。



「ぐっ………うぐっ!?」



 その上、この勇者の属性魔法は毒。

 毒霧の攻撃は魔族としての属性魔法への耐性で凌げるが、直接的に流し込まれる毒はその比ではない強力で集中的なものであり、グラヴノトプスの持つ耐性を突破して体を蝕んできた。



「離れろてめえ!」



「ヒョイっと」



 霞む視界の中で、砲筒を振り回すが、勇者は簡単にかわす。

 だが回った毒は抜けず、グラヴノトプスは片膝をついた。



「ハア……ハア……ウッ!」



 血の塊を吐き出す。

 その際、頭の動いた拍子にすでに引っかかるだけとなっていた兜も落ちた。


 その兜の下から現れたのは、肩まで伸びている鮮やかな緋色の髪と、薄紫色に輝く瞳、そして彫像のような白く滑らかな肌を持つ、額に伸びた2つのツノ以外は人間に見える端整な女の顔だった。


 荒々しい言動と、砲筒を鈍器にも躊躇なく使い暴れる姿から豪傑のような男を想像していた2人の勇者は、思わずその素顔に驚いた。



「ふぅん……お腹見えた時からなんとなく思ってたけど、やっぱり女の子だ」



「まじスカ……?いや、ウチは驚きしかないんすけど……」



 戦場だというのに緊張感がない2人。

 その上グラヴノトプスが女であることが判明してから、どこか哀れなものを見るような目線を向けている。


 その目を向けられて、毒で膝をついていたグラヴノトプスは、歯を食いしばった。


 女だから……師匠であるベルゼビュート以外、どいつもこいつも女だとわかるなり見下してきた。

 男尊女卑のその評価が耐えきれず、兜をかぶり素顔を隠し鎧をまとって体を隠した。

 口調も荒くし、男を演じてきた。


 それからアポロアに認められ、手のひらを返したような正当な評価を周囲に受けてきた。


 高い地位も得られたし、自分の能力に見合う地位も実力で勝ち取ってきた。

 ……そのはずなのに。

 グラヴノトプスの中では、顔を隠した時からどこかで一番自分自身が女であることを見下している感情が、卑屈な感情があった。


 そして兜を落とされ、同じ女であるはずなのにそれを隠そうともせず、しかしなんの苦労も見せず強い力をふるい勇者として人間達の中で認められてきた勇者達に、哀れみの視線を向けられた。


 それが、グラヴノトプスの毒で消え掛かっていた感情に油を注いだ。



「てめえら……!」



 砲筒を杖代わりに、口から、鼻から、傷から、耳から、目から血を流しながらも、それでも立ち上がった。


 グラヴノトプスにとって、性別という本人にはどうしようもないことを突かれるのは最大の逆鱗である。

 その怒りが、毒という搦め手を使うこと、そして尊敬する主君を殺した勇者達であることに対する怒りと合わさり、感情が肉体の限界を超えて動いた。



「絶対ェ………コロス!」



 そんなグラヴノトプスのむき出しの殺意を向けられた勇者達の方は、2者でそれぞれのものを示していた。



「ちょちょちょっと!? 輪島先輩、なんで毒受けて立てるんすかあの魔族!?」



 今まで直接毒を食らえば必ず倒れてきたはずの魔族が立ち上がったという事態に慌てる時津。



「ん〜? フラフラだし、別に大して違いなくない?」



 一方で、さして興味も示さない様子の輪島。



「ぶっ殺して、やる………! ぐあああぁぁぁ!」



 だが、そんなこと知るかとグラヴノトプスは傷口に自分の手を突っ込むという凶行をした。

 今までの敵とは違う、異形ではない人の形をしその表情もわかりやすい魔族が見せた突然の凶行にら時津は思わず耳を塞いで目をそらし、輪島は気だるげにその様子を見ている。


 そして、グラヴノトプスは自身の血を砲筒に塗りつけた。



「ひいいいイィィィ!? あの魔族イカれてるっすよ! 何考えてんすか!? 外見がどうでも中身やっぱりそのままじゃないっすか!」



「………へえ。そういうこと」



 時津は目も耳もふさいでいるのでグラヴノトプスの様子など分からない。

 だが、興味なさげな目に見えてしっかりと冷静に相手の目的を見定めている輪島は、グラヴノトプスの行動の意味に当たりをつけていた。


 魔族の肉体は、強力な属性魔法に対する耐性がある。

 それは、触れれば属性魔法で自身の体を変えている状態も解除し、傷を与えられるようになるということ。

 おそらく、それを利用して砲筒に自分の血をつけ、それで戦おうという魂胆なのだろうと。



「殺してやる…………コロスコロスコロスコロス……!」



 窮鼠が牙を出してきた。

 相手は死に体だけど、こっちに傷をつけられる手段を得た以上ここからはどう転がるかわからない。


 それを察した輪島は、すぐに撤退の選択をした。



「メイちゃん、退がるよ」



「ちょっ!? 先輩、何でッすか!?」



「ちょっと静かにしてね〜」



「なんて–––––––うヒャヒャヒャ!」



 砲筒を振り上げふらつく足取りで近づいてくるグラヴノトプス。

 そんな面倒そうな奴の相手はごめんこうむる。


 時津を抱え上げてこちょこちょで大人しくさせてから、輪島はさっさと退却をしようとした。

 もともとこの戦いの勝利にこだわる理由を持っていなかったので、ためらいはない。


 だが、鬼の魔族はそれを許さなかった。



「逃がすカァ!」



 突然走り出して、背中を向けた輪島の肩に砲筒を振り下ろしてきた。


 そして、輪島の予想通り。

 時津をかばった彼女の肩に、砲筒は毒となって交わすことを許さずに直撃した。



「先輩!」



「いったいなあ……マジ、キショいっての!」



 それは骨をも壊す一撃だったというのに。

 食らった直後は足がふらついたが、まるで大したことないように輪島は踏ん張り、今度は脚を毒の杭に変えてグラヴノトプスの胸に突き刺して蹴り倒した。



「あがっ–––––––!?」



 もともと死にかけていたグラヴノトプスに、その一撃は決定打となる。

 杭に胸を貫かれた鬼は、不屈の闘志を見せながらも勇者に及ばず。

 2人の勇者を退けることには成功したものの、勝利とはとても言えない決着でその地に倒れ伏すことになった。



「……っ」



 一方で、輪島の方も到底無事とは言えない。

 強がったものの、グラヴノトプスの与えた一撃は確かに彼女の肩を壊すことに成功していた。


 さすがにこの状態で戦場をかけることはできない。

 かといって、ドジでそそっかしい時津を1人にするのは危険だし、夜刀は自分の持ち場で手いっぱいの様子だ。


 輪島もまた、撤退するしか選択肢がなく、グラヴノトプスを倒したものの到底勝利とは言えない決着とするしかなかった。

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