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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
一幕 初戦
12/49

対峙

魔神の使徒目線に戻ります。

 複数の勇者がいること、魔族軍が確認しているその勇者の中に日向と外見的特徴が一致する少女がいること、勇者たちの中で聖剣アルフレードを女神より授かりこの戦争を先導している存在、そして彼らの扱う属性魔法やこれまでの魔族軍との戦闘で判明してきた戦力などの情報。

 人間軍の戦力や陣形、勇者を含めたそれらの配置。

 そして、魔族側に残された戦力。


 作戦を建てるにあたりルシファードとベルゼビュートからこれらの情報を収集した俺は、それらを考慮しこのいずれすり潰されることになるシェオゴラス城の攻防戦における魔族側の劣勢となっている戦況を覆すとともに勇者たちをこの一戦で可能な限り潰す逆転のための作戦を考案した。


 作戦内容は、3倍に上る兵力を持つ人間軍を効率良く倒すためのものである。

 この場合、戦力が集中しやすいシェオゴラス城の籠城は援軍のあても無いため論外、勇者という強力な戦力がいる中でフラウロス山脈のゲリラ戦を仕掛けるというのは数で勝る人間軍側に突破を許す可能性が高くそうなれば避難した魔族たちを殺される可能性が高いためこれも却下となる。


 そうなれば、選ぶべき戦場はフラウロス山脈前の荒野しかない。


 本来なら、大軍相手に野戦を挑むは愚行である。

 しかし、魔族たちが収集してくれた人間軍側の戦力と配置を見た時、俺は逆にこの戦況を挽回するどころか勇者も人間軍もともに倒せる逆転勝利の可能性が野戦にこそあると気づいた。


 人間軍は、魔族軍の3倍に上る戦力を大きく4つに分けている。


 正面からシェオゴラス城を目指す主力の中央軍。日向を含め多くの勇者がここに配置されており、人間軍の主力もまたこの部隊に集結している。数は11,000。


 2つ目は右翼軍。おそらく本隊の中央軍の進軍を支援する役割を担う第二の攻撃部隊といえる存在であり、勇者も3人配置されている。中央軍ほどではないが、相当な戦力がこの部隊に集中しており無視できない存在として立ちふさがっている。数は9,000。


 3つ目は後方支援の役目を担う後衛軍。こちらは負傷兵が多く、前線へは兵の補充などを行う後方支援用の部隊であり実際の戦闘にはほとんど参加しないだろうと推測される。補給も担う重要な部隊だが、ここにも勇者が1人配置されており襲撃が容易ではない。数は6,000。


 そして4つ目が、険しい断崖絶壁という進軍には不向きな場所を目指している左翼軍4,000。ここには勇者もいないし戦力もかなり少ない。おそらく牽制目的、こちらの気を散らし戦力の散漫を誘うための部隊と推測される。数こそ少ないが当初から戦闘を避けているこの部隊はほぼ無傷で全快だという。


 逆転の目は、この都合30,000に登る大軍の配置にある。

 4つに分かれているこの軍勢は、1つ1つはこちらの総戦力に対し劣っている。

 そこをつき1つのまとまりとなった魔族の軍で強襲、各個撃破する。それが、逆転の可能性を持つ一手だった。


 問題は勇者たちだが、それは魔神の使徒である俺が受け持つ。勇者たちを人間軍から引き離し連携が途切れた中に置き、魔族たちの中でまだ勇者と戦える強者たち–––––ルシファードとベルゼビュート–––––で抑える。

 そして、彼らでも対応しきれない勇者を策を持って釣り出し魔神の使徒である俺が受け持つ、というものだ。


 作戦内容は、まず第一段階として攻撃の土台として人間軍が用いている中央軍に対し、あえて正面から当たる防衛用の戦力を()にする。

 この主力部隊と最初からまともなぶつかり合いをすれば右翼軍の挟撃を許し、簡単に負けてしまうだろう。そのため、最初に狙いをつけべき存在は勇者の数が少なめであり戦力も中央に比べれば薄い右翼軍だ。

 中央軍は逆に主攻となるはずの自分たちの進撃を妨害する敵がないことに警戒を抱き、足を止める可能性が高い。ただしそのまま城まで進撃する可能性もあるので、ルシファードにも出てもらいシェオゴラス城は空として攻め落とされようと被害が出ないようにする。


 第二段階は、左翼軍への襲撃である。

 魔族において最強の戦力であるベルゼビュートと彼の率いる精鋭の別働隊を用い、無傷といえど戦力も少なく勇者もいない左翼軍に対し襲撃を仕掛ける。これはベルゼビュートたちの力があれば容易にこなせるだろう。

 左翼軍はあえて蹴散らして、中央軍の方に救援を求める者を生かす。勇者たちの中でも特に正義感の強い日向がこれを聞きつければ、真っ先に左翼の救援に向かうだろう。


 日向が光の属性魔法を扱い最速での移動ができる勇者であると知った俺は、正義を追求する彼女が絶対に味方を見捨てず可能な限り助けようとする性格を利用し、主戦場から遠ざけて安全に確保する作戦をこう立てた。

 付き合いだけは長いのだ。あいつの事ならば、俺は夜刀以上に知っている。


 戦場の中でも主戦場から距離があり、味方との連携に向かない。さらにフラウロス山脈の中でも険しくそしてシェオゴラス城に遠い位置にあることから両軍ともに戦力をあまり置いていない人間軍の左翼の戦場に、彼女をおびき出す。

 勇者と互角以上に戦えて、なおかつ彼女を確実に生け捕りにできるだけの実力を持つ魔族は、単体の戦闘能力ならば魔王をも凌駕する魔族軍最強最後の三元帥であるベルゼビュートしかいない。

 聖剣を振り回す扇動者は俺が相手をするので、日向の相手はベルゼビュートに頼むことにした。


 魔神クテルピウスがあらかじめ俺が命を賭しても守ろうとしている存在が女神の勇者の中にいることを伝えていたことで、日向に関するこちらの条件の提示は比較的スムーズに行うことができた。

 魔族軍としてもすでにベルゼビュートを除く三元帥2名が討ち取られており、勇者の1人を必ず生かすことに同意することで魔神の加護を受けた異世界人が味方になるならば、むしろ願ってもいないとのことであった。


 日向の確保をベルゼビュートは二つ返事で承諾した。

 中央の戦場を空にするのには驚いている様子だったが、総兵力で勝る人間軍でも大きく4つに分割されている個々の戦力は決して多くはない。

 そこにつけ込む奇襲と各個撃破の戦術の有用性には、その作戦が思いつかなかったとはいえ魔族を統率してきたものたち、ルシファードとベルゼビュートはすぐに気づいてくれた。


 最大戦力である人間軍の本隊は、できれば勇者と分断するまでは当たるのを避けたい。

 中央軍だけで突出してシェオゴラス城に殺到する可能性もあるが、勇者の性格を考えれば両翼の戦況が崩れれば中央軍の進撃も止まらざるおえなくなり、戦力を分散するだろう。


 そこで、次は右翼の戦場である。

 第三段階として、ここはルシファードに動いてもらう。

 第三段階はルシファード率いるシェオゴラス城の守備隊も総動員した魔族の全戦力を持って、人間軍の右翼に襲撃を仕掛けるというもの。

 左翼と違い右翼の戦力は勇者もおり兵も多いというように充実しているが、それでも魔族の総戦力と比べれば劣ってしまう。

 仮に後方や中央に救援を要請しようとも、この世界の連絡手段は基本伝令や狼煙。それに軍も徒歩がほとんどであり、援軍が来るまでに時間がかかる。

 シェオゴラス城には俺が勇者を待ち構えるとして、人間軍の戦力は可能な限りこちらの戦場に釘付けにしたい。

 右翼の軍勢にも勇者が数名いるが、その戦力は本隊には劣る。

 後方や中央との連携ができる近い位置にある戦場だが、その距離はゼロではない。


 そこで、この右翼に魔王ルシファードと残る魔族軍の全戦力を投入し、数において上回る状況を作り上げ、人間軍の右翼を撃破する。

 勇者にはルシファードが対応し、人間軍にとっては想定されていないだろう数に勝る魔族軍の増援を当てれば、奇襲により混乱に陥った人間軍は戦線を早々に崩壊させることになる。

 個々の能力では、雑兵でも魔族が人間を上回っているので、数で優勢となれば魔族軍が確実に撃破できるだろう。


 当然中央や後方の戦力も援軍に向かうだろうが。

 右翼が壊滅する前に援軍に向かわなければと全力疾走して駆けつけたとしても、この2つの軍勢もまた、一対一では右翼に投入される魔族軍に対して数で劣る。

 通信手段が伝令の世界なので、連携をとることは難しい。

 待ち構える魔族軍は、走ってきたことで少なからず疲労しているだろう人間軍の増援を随時飲み込んで行けばいいという寸法だ。


 これにより、人間軍は総兵力で勝りながら、その数の優位を活かしきれずに分割していた軍勢の隙を突かれることとなり、各部隊は各個撃破され撤退せざるおえなくなる。


 正義の追求を続ける幼馴染が歴史好きになったことで得られた、先人の編み出した数の劣勢を覆す戦術だ。



「これは………まさかこのような戦い方があるとは! さすがはアカギ殿!」



「あれだけ苦戦していたのが嘘のようですね。盤上の空論だというのに、こうして言われてみれば試す前から魔族軍の勝利がこの目に見えてきます」



「まだ勇者の存在がある。敵の対応が早ければこの戦い方は崩壊しかねない上に、城から王を含めた全軍を投入しなければならない。右翼の戦場が上手くいかなければ、終わりだ」



 目を輝かせていた2人の魔族は、俺の言葉に気を引き締めた。

 この戦術は賭けの要素が強い。うまくいく確率も高いが、足を止められて仕舞えば、または大きな戦力として合流されれば一気に不利に傾く。

 それに、勇者の存在もある。まともに勇者と戦える将をあてているが、それでも中央の勇者たちの戦力は計り知れない。

 それを魔王のいないシェオゴラス城におびき寄せる算段が必要だ。



「勇者という一騎当千の戦力を軍勢から引き離し、シェオゴラス城にて迎え撃つためにもう一計を案じる。俺の外見だけならば人間そのものだから、人間軍の伝令に偽装して勇者にシェオゴラス城がカラである情報を伝え、勇者だけを城におびき出し俺が迎撃する」



「偽伝、ということですか?」



 ルシファードの言葉に頷く。

 この世界は種族が違う者同士で争っているため、敵軍に偽物として紛れ込むのが容易ではなく、偽伝の概念は薄い。

 当然ながらそれを使われた事のない勇者ならば簡単に騙せそうだし、多少の矛盾があるのも混乱する戦場の中であれば信じこませやすくなる。

 このために魔王をシェオゴラス城から出撃させるわけだが、右翼からの伝令が魔王の存在を伝える前に勇者にこの偽伝を流せるかというのが大きなカギとなる。


 一度勇者を信じ込ませれば、彼らの超人的な速さについてこれる者は人間軍にはいない。罠と気づかれた時には、もう勇者は釣れた後ということだ。



「俺としては日向の命が保証されるなら、いくらでも協力を惜しむつもりはない。この作戦ならば、勝機はあるはずだろう」



「はっ! 必ずや、勝利してみせましょう!」



「使徒殿の婚約者殿は、私が必ず確保します。決して傷つけないようにいたしますので、お任せください」



 2人の魔族のトップの了承も得た。

 ベルゼビュートがどこかの親友のような勘違いをしているが、この際その解釈をしてもらって結構である。いちいち訂正するのも面倒だ。

 その日のうちに中央の魔族軍を撤退させ、明日の決戦に備えて動き出す。

 俺もまた人間軍の伝令の装備に身を包み、明日の決戦に備えた。




 ………そして、開幕した。


 伝令に扮して勇者を誘導し、俺自身は魔神の宝物の1つである疾駆の甲冑を使ってシェオゴラス城に先回りする。


 左翼の戦場ではベルゼビュートが予定通り日向を迎え撃ち、右翼の戦場では先日の戦闘にて戦死したという三元帥次席の副将たちの獅子奮迅の働きもあり、勇者から想定以上の打撃を受けながらも戦況を五分にまで持ち込んだ。


 左翼は壊滅。右翼も軍としての機能を失い潰走。中央の本隊はベルゼビュートの配下と遭遇戦に発展し、勇者不在もあって数で勝りながらも足止めされることになり、後方の予備軍だけが右翼の戦場に駆けつけてなんとか戦線を支えている。

 このままいけば、人間軍は撤退に追い込まれるだろう。


 そして、その戦局を覆せる最強戦力は、俺の偽伝によりここまで来たことで足止めを食らうことになる。


 伝令の姿から、漆黒の甲冑姿に変わる。

 魔神の宝物であるこの鎧は、なんでも女神の加護を受ける者を威圧し、弱い者に関しては戦意をくじく効果があるという。


 その効果と思われるが、シェオゴラス城にたどり着いた勇者たちは甲冑姿を見た直後、1人が戦意をくじかれへたり込んだ。

 仲間に支えれ折れる前に踏みとどまったが、一度生まれた恐怖心は拭い去れていない様子。半ば脱落したと言える。


 一方、仲間をかばった勇者たちの中で唯一の男が剣を抜いて対峙した。

 赤と白の軽鎧に身を包み、赤地に金の獅子の刺繍が入ったマントをなびかせ、蒼い炎を剣の刃に纏う、まさに勇者と呼ぶにふさわしい出で立ちをしている。

 黒い瞳は剣を抜いた瞬間から宝石のように青白く輝く瞳に変わり、決して決意したことを捻じ曲げない、そんな感情を表すような力強い目つきをしている。


 聖剣アルフレードは蒼き炎を持つという。

 おそらく、対峙するこの男が女神から聖剣アルフレードを授けられた勇者たちの扇動者なのだろう。


 ……だが、女神アンドロメダとの間に何があったのか、どうしてこの異世界の人間に自分たちの命をかけてまで味方することになったのか。俺はその詳細を知らない。

 勇者の扇動者が女神の要求を安請け合いし、仲間たちを扇動して戦場に駆り立てたというのも、あくまで魔族軍に伝わっている噂でしかない。


 異世界の勇者たちを戦いから下ろせば、それで魔神クテルピウスの条件である魔王ルシファードを異世界の勇者から守ってほしいという内容は完遂する。


 俺は日向さえ無事なら他の勇者を助ける義理も理由もなく、死んでしまってもそれは戦争に自ら首を突っ込んだそちらの自業自得であり恨むのは結構だが非難される筋合いは無いと、情は切り捨てているつもりだ。

 だが同時に、彼らを絶対に殺す理由も無い。


 戦争に足を突っ込んだ分際で綺麗事を抜かすつもりはない。

 それでも、彼らは同郷だ。

 非常に徹しきれていないと言えばそれまでだが、女神に騙されているかもしれない可能性があるとすれば彼らも被害者。

 同胞を多く亡くした魔族たちには殺す権利があるだろうが、恨みがあるわけでも無い俺がいきなり問答無用で彼らを殺すのは筋違いだと思う。


 だから、まずは説得を試みる。

 そう思ったのだが……



「長い。先手必勝、これでもくらえ!」



 相手は問答無用で攻撃してきた。

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